3月10日

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Jリーグディビジョン1 1stステージ第1節
横浜F・マリノス×ヴィッセル神戸
天候:晴れ、気温:10.0度、湿度:42%
観衆:25,341人、16時05分キックオフ
(横浜国際総合競技場)

横浜FM 神戸
0 前半 0 前半 0 1
後半 0 後半 0
延長前半 0 延長前半 1
  布部陽功:93分

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 三浦知良、サントスらベテランを獲得して上位進出を目指すヴィッセル神戸は序盤、開幕戦しかもアウェイというプレッシャーからか動きが堅く何度かピンチを招く。横浜F・マリノスのカウンターを狙った形にはまってしまい、ボールを展開できず前半は0−0で終わる。しかし後半、横浜がシステムを変え、城彰二のワントップから外池大亮を入れた2トップへ。これが、逆に神戸の攻撃に吉と出る結果になった。中盤のサントス、望月重良らが動くスペースできたためにボールが回り、また、競技場内を強く舞っていた強風も若干の追い風となって優位に立った。さらに三浦が中央に張ることによって、マリノス側の守備がそちらに引きつけられ、チャンスもできていた。

 試合は延長に入り、延長前半8分、横浜の波戸がドリブルで切り込んで行こうとしたボールを望月が奪ってそのままゴールへ突破、右を走ってきた布部にパスを出して、布部陽功がこれを落ち着いて持ち込んでシュート。神戸が決勝ゴールを奪って1-0の延長Vゴール勝ちを収めた。

 移籍した三浦はイエローカードを受けるなど気持ちを全面に出してチームをリード。前日まで風邪で発熱しており、まだ鼻声での会見となったが、新天地での初勝利に表情は明るかった。 
 ロッカーには試合を観戦に来ていた日本代表のトルシエ監督も訪れ、「内容について今はいえない」(三浦)と親密な会話を交わしたようだった。

神戸・川勝良一監督「25分くらいまで相当動きが固かった。しかしハーフタイムにロッカーで引き上げてきたら、選手が冷静だったことと、相手が飛ばしている、と話していたので後半いけると感じた。横浜が3-5-2にしてくれたのはうちにとってラッキーだった。カズは、チーム全体のためにいいプレーをしてくれたと思うし、前に張ってもらっていいポジショニングをし、チームを生かす仕事をしたのではないか」

横浜マリノス・アルディレス「これがうちのベストメンバーです。うちのレベルはホームに神戸に勝てないということ。完全に中村に頼り過ぎ。怒っていたサポーターもいたけれど、私のせいでも選手のせいでもない(フロントのせいという意味)。23歳以下が平均年齢で、まるでユースのようだ。主力が抜けて、休みの間にめちゃくちゃなことをしてしまった。どうしてこうなったのか理解できない。代表が5人いるが、これが何人残るか。若い選手を使わざるを得ない展開はよくない。選手や我々を怒らないで欲しい。今は強化が必要だ。フロントへの要望を出しても理解してもらえない。チームが変りすぎて自分のポジションもわからない。すみませんが、思ったこと以上の話を(フロント批判のこと)言ってしまいました」

Vゴールをアシストした望月「波戸は、ボールを出して、オレを抜こうと思ったんじゃないかな。それがわかったんで足を出してボールを取ろうと思った。今日は勝つという意識がものすごく皆強かったし、だからこそ流れを引き寄せてこられたのだと思う。負けてしまったらいい試合をしても何もならないのが開幕戦。0点で抑えたし、これで、ホーム初戦も勝って勢いをつけたい」

Vゴールを決めた布部「重良(望月)のボールはすばらしかった。延長になっても負ける気はしなかったし、チームがひとつになった気持ちが勝利につながった。風はベンチに向かって吹いていて非常にやりにくかった。まだまだ始まったばかり、次も勝ちたい」

試合データ
横浜FM   神戸
10 シュート 7
10 GK 7
7 CK 4
19 直接FK 14
5 間接FK 0
0 PK 0
中村俊輔
「今日は神戸のほうも決して出来がよかったわけではないと思うが、そこに勝てなかったのが一番の問題だった。攻撃的な布陣で臨んでいるのに、攻撃が全然できていない。敗因は決定力がなかったこともそうだが、それ以前にシュートを打つに至る場面までもいっていないこと。サイドからもくずすことができなかったし、自分らしいプレーも出すことができなかった」

城 彰二「3-6-1の1トップで臨んだ前半の形をもっと試したかった。後半から2トップに変えたが、1トップのままでいけばもっともっとスペースがあったし、チャンスも作ることができたと思う。前半の20分から30分くらいまではうちのペースでいい感じでできていたけれど、前半の終わりくらいから歯車がくるってきた。その流れをまたうちに戻そうとして監督は後半から2トップにしたのだと思う。その意図も半分くらいはわかるけれど、選手の間でも3-6-1の方がやりやすいというのはあったし、自分自身も1トップでもっとやりたかった。俊輔はボールがなかなかもらえなくて、どんどん後ろの方に下がってしまったが、みんながもっと押し上げて、俊輔が前でボールをもらえていれば、チャンスもより多く作れたと思う。
 今日はシュートを打つ形までももっていけなかった。サイドから入ったボールで1本、決めなければいけないシュートがあったけど……。今日のような試合だとボールがなかなか来なくて、下がってもらったり、サイドに流れたりしたくなるが、自分はストライカーとしてなるべくゴールに近いところでプレーしたいので、我慢して待っていなければならない。とにかくじれったいけど、待たなきゃいけないし、我慢しなければいけない。それもFWの仕事だと思っている」

試合を観戦したトルシエ監督「今日は非常にいいゲームだった。誰がいい動きというのではなくて、みな良かったし、ここに来たのはエキサイティングなゲームであろうと予想したから。お陰で、トトカルチョは当たらなかったわけだが(笑)。試合は前半よりも後半のほうが良かった。カズはとてもいいプレーをしていたと思う」

■出場メンバー
横浜FM   神戸
掛川 誠 GK 川口能活
鈴木健仁
シジクレイ
土屋征夫
DF 小村徳男
松田直樹
波戸康広
サントス
望月重良
吉村光示
松尾直人
ダニエル
MF 石川直宏
田中隼磨
上野良治
遠藤彰弘
木島良輔
中村俊輔
布部陽功
三浦知良
FW 城 彰二
(吉村光示)茂原岳人:79分 交代 45分:外池大亮(石川直宏)
80分:金子勇樹(木島良輔)
85分:田原 豊(城 彰二)


「“ベテラン”と書いて、“試合巧者”と読む」

 Vゴールを決めた布部は試合後、しみじみと口にした。
「去年まではなかった声がピッチにずっと聞こえていました。驚くのは、その声の言う通りに試合が展開したことです」
 声の主は、三浦でありサントスであった。平均年齢は、神戸の28歳に対して横浜は23歳。どうみても不利なのは神戸のはずだが、平均年齢はキャリアまで計算してくれるわけではない。
 この日は、コーナーフラッグ4本がすべて違う方向を向いてはためくなど、強風と向きの定まらない風が選手のプレーを妨げていた。必要なのは、試合の流れを読みながら、チャンスを待ち続けるといういわば「忍耐」だけを要求されるような展開である。

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 後半、延長に入る前にも、三浦は2トップのパートナーである布部に「耐えよう。絶対にチャンスはこちらに来るはずだから」とアドバイスを繰り返したという。三浦自身は、自分のポジションを守り続けることで耐えた。試合が膠着して、しかも自分の足元にボールが来なくなればおのずと後ろに下がってボールを持ちたくもなる。

「でも、監督も、真ん中に(前で)張っててくれ、と言っていたのでその約束を守った。どうしても、相手の守備が動くから、(Vゴールの場面も)こちらに引きつけられていたと思う」と、ゴール前のスペースを演出した場面をそう説明した。事実、マリノスの松田直樹、小村徳男が三浦の側でマークをしてしまい、GK川口能活も三浦を気にしてポジショニングを取っていた。その結果、布部が完全に1対1でボールを受けシュートに持ち込めたことになる。

 サントスがチームに合流したのは2月28日、まだ数試合のみの手合わせで試合に挑んだ。しかし、鹿島、清水と上位チームをリードしてきた40歳の現役には、この試合をどうすればものにできるかを考えることなど、たやすいことだった。
「マリノスは試合をコントロールできていなかった。前半から波があったから、それをうまく見極めれば勝てる。ポイントは、前半の30分までと、後半のラスト15分。勝てると確信していた」

 サントスのこの言葉通り、流れがそのたびに引き寄せられて行くことに、布部だけではなくほかの若手も不思議な気持ちがしたという。後半ラスト15分の流れをそのまま持ち込んだ神戸と、2トップにしてから悪い流れをひきずったマリノスでは、延長の結果もすでにわかっていたことなのだろう。
「我慢とはいろいろな意味での我慢。行く時間帯なのか引く時間帯なのか、そういう見極めのポイントを今日は学びました」

 布部にとっては、Vゴール以上の収穫があったのかもしれない。
 若手とベテランが融合するのは案外難しい。年齢以上に経験の差がギャップを生むケースも多いからだ。しかし神戸がこの日見せた、融合は可能性を印象つけるものだった。
 三浦は、ロッカーでトルシエ監督と今後、日本代表の強化策をどう考えていくなど突っ込んだ話し合いをしたという。監督が「電話1本で呼べる選手があと15人いる」と話していたその中の一人でもあるだけに、「携帯のアンテナを立てて、いつでも電話に出られるようにしておかなきゃね」とジョークを飛ばしていた。
 しかし、自分が2002年のピッチに立っていないことなど、このストライカーが考えるはずもないのである。

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