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3月3日

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2001ゼロックススーパーカップ
鹿島アントラーズ×清水エスパルス
天候:曇、気温:11.6度、湿度:28%
観衆:25,095人、14時30分キックオフ
(東京・国立霞ヶ丘競技場)

鹿島 清水
0 前半 0 前半 1 3
後半 0 後半 2

澤登正朗:17分
アレックス:58分
バロン:60分

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 2か月前、元日の天皇杯では、戸田和幸の退場、市川大祐の負傷中の失点など、清水には「因縁」ともいえる両者の戦いは、前半から明らかに動きの鈍かった鹿島に対して、清水が終始優位に試合を展開した。
前半17分、アレックスのスローインから安永聡太郎が左コーナーで踏ん張り、再びアレックスに返したボールをゴール中央にセンタリング。これに澤登正朗が頭で合わせて先制した。
 動きの悪い前半から、本山雅志を後半に投入した鹿島に対し、清水はこの試合で起用した戸田のボランチが見事にあたり、伊東輝悦とのコンビで中盤を完全に支配してしまう。13分には、DFの金古聖司がカウンターの際にゴール前でプッシングのファールで警告、PKをもらう。これをアレックスが冷静に決めて2−0、試合は完全に清水のものとなった。25分には、またもアレックスからのセンタリングに新加入のバロンがヘディングゴールを奪って3−0とし、そのまま3−0の意外な大差で、94年に始まったスーパーカップを清水が初制覇した。
 DFの要のひとつであるファビアーノ、中盤の熊谷浩二を欠いた鹿島にとっては、メンタル、フィジカル両方の点に置いて、開幕に向けての課題が明らかになるゲームとなった。

先発メンバー
交代出場
鹿島

58分:本山雅志(中村祥朗)
63分:青木剛(本田泰人)
68分:池内友彦(金古聖司)
清水

45分:平松康平(澤登正朗)
78分:横山貴之(安永聡太郎)
清水・ゼムノヴィッチ監督「今日は予想通り難しい試合だった。選手のモチベーションが非常に高く、躍動感があるすばらしいプレーをしてくれたことがうれしい。これまでのエスパルスを引き継いだ形から、バロンが加入するなど私自身の計画が反映されはじめたチームで最初に勝てたことも非常にうれしいと思う。戸田は非常に良かった。(抜けた)サントスの穴を補うに十分であるし、あれだけ質の高いパスプレーをするとは……。今後も私に手応えを与えてくれるはずだ。

鹿島・トニーニョ・セレーゾ監督「清水は3−0のスコアにふさわしいサッカーをしたと思う。今日の試合はフィジカルでもメンタルでも気持ちが戦っていない試合だった。何よりもパスミスの多さで、余計な体力を使ってしまったのではないか。PKが決定的だった。あのあと落ち込んでしまい、どうにも打開できなったことが(チャンピオンとして)一番の問題だろう。今日の敗戦は、我々が油断をすれば足元をすくわれるぞ、という教訓だと思い、収穫にしたい」

完封の清水DF・斉藤俊秀「なんだか試合前には大差で負けるような予感がしてしまった。このところ練習でもまったくうまく機能していなかったし、何か手探りのようなところがあったので。試合はわからないものですね。それと3点を取ったこと以上に、コミニケーションやポジションごとの役割の徹底など、見えてきた収穫も大きかった。今年は納得のいく結果を出したい」

2人でシュートわずか2本の鹿島2トップ・柳沢 敦「新しい選手が入っていろいろと課題がわかる試合だった。戦術の理解とか、ケガ人が出たときにどういう風にメンバーがチャンスを生かしていくか、いろいろな意味でJリーグを戦い続けるにはまだまだだということ。今日は、いい形もできなかったし、僕自身もチャンスにいけないところがあった。フィジカルはまだ良いとは言えないし、もっともっと動きの質も量も増やしていこうと思う」

3失点に憮然として引き上げたGK高桑大二朗「後ろから見ていてこんなはがゆい試合はなかった。もう最後は自分が行きたいくらいでした。みんな、今日はまったく気持ちが入っていないパス、気持ちの乗らないプレーばかりで、それが一番の反省点だと思う。ケガ人は確かにいますが、チームをしっかりと、王者としての自信やプライドを持って機能させるのは、故障者の人数と関係ないはずです。それを理由にしないで、開幕を見据えなければならない」

日本代表・トルシエ監督「理解できないのは、(本来なら心身ともフレッシュなはずの)シーズン前に選手があんなに疲れているのかということだ。ちょっと動くと太ももの痛みが、肉離れが、と、一体彼らは富士山にでも登ったのだろうか。それとも、クラブでダンスを踊り過ぎたとでも? シーズン中のほうが(本来は疲れがあってもいいのに)動いて、今日がこれではあまりに違いがあり過ぎると思った。(※注:監督は福島での合宿でケガ人が多く離脱したことについて、クラブにぜひ質問してほしい、と練習過多と休養のバランスが取れていない点を指摘していた流れがある)
(アレックスを帰化させて代表に? との質問に)グッド・クェスチョン、グッド・クェスチョンだ。今日のアレックスは素晴らしかった。私は彼のプレーをとても気に入っている」

Jリーグ・川淵三郎チェアマン「前評判の報道などでは清水を優勝候補には挙げていないんだが、今日のゲームを見て気が変った! 球離れが良くて、スピードがある。何より、オフ・ザ・ボール(ボールのない場所)での動きが素晴らしかった。鹿島は、(FWの)鈴木(隆行)の動きが象徴するように、余裕綽々で受けて立ったように思った。今日からトトが始まり、私としては番狂わせを大いに期待したいと思っている」

試合データ
鹿島   清水
7 シュート 15
12 GK 9
2 CK 5
19 直接FK 19
4 間接FK 6
0 PK 1


「三寒四温」

 暖かさと寒さを繰り返して春が近づいてくるものなのであれば、この日の両者のサッカーもまさにこの状態に尽きるのではないだろうか。左・アレックス、右・市川の両サイドがこれほど完璧だった今日の清水と、この清水を圧倒していた天皇杯での鹿島。わずか2か月の時間で、寒さと暖かさが入れ替わってしまっていた。
 この日試合を決めたのは、得点ではなく、清水の両サイドが鹿島に与えた「脅威」だったはずである。前半開始直後、清水の左サイド・アレックスが、見事なまでの突破を果たしてボールを上げた。ゴールには結びつかなかったものの、この突破とスピード、正確さ、技術による見えない痛烈な「先制パンチ」が鹿島の4バック右サイドをDFラインに釘づけにすることになった。名良橋 晃の小気味良いサイド突破が最後まで見ることができなかったことで、いかに守備に気を取られたかがわかる。
 セレーゾ監督も「清水の両サイドは本当に素晴らしかった。特に、うちの左(この日は金古、中村祥朗と緊急の布陣だったた)を徹底して狙うと思ったが、右(秋田 豊、名良橋のサイド)に来たのは意外だった。非常にいい攻めだった」と試合後脱帽していたが、アレックスを気にして攻撃に参加できないだけでなく、逆サイドの市川もシュートに結びつくセンタリングを鋭く蹴り込み、これでもか、これでもかというほど、鹿島DF陣を翻弄した。攻撃に出たくとも両翼をもがれた格好となった鹿島相手に3点を奪うことは、もしかするとそれ以上の得点を奪うことさえ、可能だったかもしれない。


「本当に、本当にうれしいっす。うれしい、うれしい、最高です」
 冷静な市川が珍しくはしゃいでいた。いつも横目で恨めしそうに見上げていた高い表彰台に、初めて上りスポットライトを浴びた感激はひとしおだったという。無理もないだろう。試合前には「引きずりたくない」と話していたが、天皇杯では後頭部を強打してゴール前に転倒している最中に失点をしている。悔しさは、この日まで一度も消えなかったという。一方ではチームも暗中模索の中、「4−0とか3−0とか、大差でやられるかなと、なぜか緊張感があった」ともいう。

 結果的には、鹿島には持ち得なかった類の緊張感が味方したのかもしれない。
 代表の合宿に呼ばれたことも、心身のいい緊張感を維持するのに十分な効果を発揮したといえる。昨年よりも体も大きくなり、それによってスピード感が増した。しかも細かった筋肉が太くなり、プレーに幅と重みが加わっている。
「いいイメージを、とにかく取り戻したかったんです。センタリングを上げるとき、相手とサイドを競り合うとき……、今日は本当に頭に描いたイメージをすべてピッチで絵にできました。それがうれしい。今年は勝負の年と決めています」

 98年のフランスW杯ではとてつもない緊張と責任感の中で、17歳の高校生がそれにじっと耐えていたはずだ。選手としてではなく、オフィシャルのパスをつけてチームに残ったフランスを経験し、帰国したあと、責任感ばかりが先立って重度のオーバートレーニング症候群で階段さえ上がれなくなったこともある。
 この日、晴らした無念さは単に天皇杯の話ではないし、抜けたトンネルもただ故障や不調というものではなかった。
 市川はこの日、体格、フィジカル、メンタル、技術、プレースタイル、すべてにおける長いトンネルを抜けたのではないか。岡田武史監督があのとき周囲に反対されながらも高校生を帯同させたことに、本当の意味で市川が応えるのは、これからである。

 鹿島にしても、まだ「三寒四温」に過ぎないわけで、本物の「春」まではじっくりと腰を据えてくるはずだ。それができるチームだからこその三冠である。「足元をすくわれる」と監督が言うチームに、本当の意味での油断や慢心などは芽生え難い。
 つい1週間前までは自信を喪失していたチームが宿敵に快勝し、三冠を取ったチームが何度も退けたはずの相手に3失点する。何もかもが、今は計算できない。サッカーにも春を待つ、三寒四温の季節がある。


「アレックスの帰化は」

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 トルシエ監督も、やはり清水の両サイドには唸っていたのかもしれない。福島での合宿では目立った躍進のあった選手の一人に「市川」を上げ「彼は正しい道を力強く歩もうとしている。どうか油断せずにこのまま堂々と歩いてほしい」と、エキスパートがいないという点で日本代表の泣き所でもある「アウトサイド」でのプレーに大きな期待を示していた。一方、アレックスはといえば、日本代表に呼ぶことはできない。今のところは……。
 そのことを聞かれると、「非常にいい質問だ、非常にいい」と言ったまま押し黙った。無論、これまでも何度も話には上がっているブラジルからの「帰化」についてである。

 独身のアレックスの場合は、既婚者だったラモス、呂比須とは手続きの詳細も違うそうで、時間もかかる可能性がある。2002年に間に合わせるには、無論「政治力」をも駆使しなければならないだろう。本人はこれまで「代表に入るために帰化した、と思われるのは嫌」と話してきたが、一方では準備は着々と進めているともいう。

 この件に関して、川淵チェアマン(日本サッカー協会副会長)は、まずアレックスのプレーを「もう少し工夫をするとさらにいい」と評価し、「現時点では何も聞いてない」と、こう説明した。
「協会は、これまでも選手の帰化についてはできるだけのサポートをしてきた。今回は、トルシエ監督次第だ。監督がもしもアレックスをどうしても代表に、と話し、かねてからの話もあるようにアレックスも、ということになれば、それは全面的にバックアップをしたいと思う。この話を本格的に進めるには、まずはトルシエ監督の意向や構想をじっくりと聞いてみたいと思う。そういうデリケートな問題であることは間違いない」
 アレックスの身の振り方も、スピード感溢れるサイドプレー同様、どんな展開を見せるだろうか。

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