チパシリ夢十夜のアニメです

幻氷

虚星

春霧

芝桜

水族

湿夏

珊瑚

秋震

空葬

冬冥


1.幻氷


 汽車が駅に着くと、月は街を照らし始めた。駅の扉を開けると、乾いた寒気が群がり、熱い記憶を奪い去っていく。駅前の見慣れぬ古本屋で足を止めた。氷紋が入り口のガラスを厚く覆っている。車のライトに照らされ、氷紋は雲母のように舞う。私は、古本屋の空気が好きで、見つけるとつい足を向けてしまう。

 開けようとした戸は、半分まで開いたまま動かなくなった。すき間から身をすべらせ、慎重に閉めたつもりだったが、戸は大きな音を立てた。室内の空気が緊張し、奥に座っていた女性が、少し顔を上げた。白いセーターがまぶしい。並べてある本は、どれも汚れ、歪んでいた。しかし、書名を読むうちに身体が熱くなった。今まで探していた本が並んでいた。一人の人が集めたものに違いない。有機的な宇宙が息づいている。どれもごく少部数しか印刷されず、今では散逸している本だ。

 「この本はいくらですか。今持ち合わせがないので、予約できないでしょうか」。カタリと音がして、女性が立ち上がった。「その本はお売りできません」「えっ」「恐れ入りますが、すみません」「是非とも買いたいのです」。彼女は、じっとこちらを見つめた後、「どうぞ」と奥の椅子を示した。私はためらいつつも、その椅子に座った。ベニヤの床が少し沈んだ。

 彼女は、古本屋開店までの経過を話した。友人が急死し蔵書が残ったこと。親が本を持て余し彼女が譲り受けたこと。「3日前なんです、開店したのは。あなたがほしいと言った本は、彼が特に大切にしていた本だったものですから」。彼女は視線を外に向けた。「でも、売るつもりだったのでしょう。なのに・・・」。私は彼女の手首の傷を見つけ、言葉を飲み込んだ。

 「奥へ」。突然彼女は立ち上がり、薄暗い部屋の奥に歩き始めた。急に足元から冷気が伝わってきた。さっきまで柔らかかった床は、すでに凍結している。私も彼女を追って進んだ。彼女はどこまでも歩き続ける。何分経っただろう。私たちは流氷の上を歩いていた。流氷原はどこまでも広がっている。私は急に悪寒に襲われ、氷の上に座り込んだ。忘れていた疲れが全身からどっと湧き出してきた。歯ががちがちと鳴る。やがて悪寒が治まると、今度は睡魔が全身を包む。横になると氷は柔らかく暖かかった。

 「あなたも同じだわ」。彼女の声が響いた。眼を開けると、流氷原に幻氷が次々と積み重なり、天上まで続いている。彼女は幻氷の上から悲しげに見つめていた。白いセーターが、氷紋のモザイクに変わっている。眼が合うと、彼女の顔は氷が張ったように無表情になった。そして、静かに身をひるがえすと階段を一段ずつ上り始めた。幻氷はかすかに揺れながら彼女の歩調に合わせて七色に変化した。

 閃光が一瞬私を包んだ。そして、痛んだ眼を開けた時には、青白い流氷だけが、牛のように軋んでいた。


2.虚星


すい星の画像です

 我に返ると、丸い氷柱に腰掛けていた。遠い記憶を幾度も反すうしていたようだが、思い出せない。かすかに悪寒が残っている。いつの間にか、夜になっていた。雪は膝近くまで積もっている。雪明りの中に動物の死骸が浮かび上がる。鹿と熊だ。雪に半分埋った死骸は、腐敗した様子もなく、夜光貝のように安らかに光っている。

雪はいつまで降り続けるのだろう。肌に触れても溶けない雪片に気付き、ハッとした。白い胞子だ。菌類の胞子。シリエトク岳の雪はいつの間にか胞子に変わっている。私は無意識に山頂に向かっていた。胞子は次第に深くなった。踏みしめた足跡は、波に洗われたように消えていく。名付けようのない不安とともに、足のしびれが増してきた。山頂は近い。前に進むことだけを考えた。一歩、また一歩。ほとんど足の感覚はない。幻肢痛のような虚ろな痛みがある。

「こちらよ」。山頂から声がする。必死に前に進んだ。「早く、ここへ」。私は声に励まされて、やっと山頂に着いた。山頂の氷鏡にはまばゆい星々が写っている。星を見上げる私の横に女性が立った。

  何処かで会ったことがあるのだろう。氷紋のセーターを観ていると、懐かしい気持ちになった。「還っていく」。彼女は空を指差してつぶやいた。「貴方の友人が還ってしまう」「僕の友人?」。私は彼女の指の先に眼を移した。

 ハリーだ。何時来ていたのだろう。「ハリー!」。私は大声で叫んだ。彼女も「ハレー」と呼びかけた。私は六角形の鏡を取り出し、天に向けた。鏡の底から十二匹の蛍が飛び立ち、うれしそうに昇っていく。安住の場所を見つけたのだろう。

 ハリーは昔と変わらなかった。漆黒の身を、青いマントで包み込んでいる。しかし、良く観ると少しやせて、苦しそうだ。苦しそうに還っていく。私は泣いた。涙は深い泉から止めどもなく湧き上がってくる。彼女も泣いているようだ。

 二人の涙が枯れた時、空が白み始めた。山々が虚ろに光り出す。金星が、疲れた顔をこちらに向けた。


3.春霧


 陽が傾くと、霧が濃さを増した。霧の中に山も川も街も、すべてが包まれていく。ひどく苦い霧だが、芯にかすかな甘さを含んでいる。私もいつしか、春の霧に溶け始める。

  深い霧の奥に、釈迦が横たわっている。どこからともなく、鹿や熊や狐が集まってくる。私も釈迦のそばに近づいた。動物たちは、悲しい眼でじっとしている。やがて釈迦は、微笑みながら静かに息をひきとった。入滅したのだ。集まった動物たちは、遺体の内臓と肉を食べ始めた。どの動物も、おだやかな表情をしている。釈迦を食べる音だけが聞こえ、血の匂いはしない。

 霧は釈迦の周りを渦巻くように、ゆっくりと流れていく。私も近づいて肉を食べた。驚くほど柔らかい。肉の味がまったりと舌に残る。動物たちになめられた釈迦は、きれいな骨になった。霧が深くなってきた。醗酵乳の匂いが立ちこめる。釈迦の骨は、ふいに粒子になって浮遊し始める。私は、すべての骨が霧に溶けるまで、じっと待ち続けた。恐ろしく長い年月が過ぎた。

 やがて霧の渦が私を厚く包み込もうとする。私は後ずさった。足元の砂が、キュキュと鳴った。自分の内臓が鳴っているようだ。キュッ、キュッ、キュッ。キュッ、キュッ、キュッ。

 「子宮が鳴っている」。いつのまにか私の後ろに、桜の細長を着た少女がうずくまっていた。「間にあったわ」。彼女の周囲の砂は、骨を砕いたように白い。ただ足元の砂だけが着物に染まったのか桜色に見える。少女は、砂を握り締めようとしていた。そのたびに、砂は キュキュと鳴った。

 彼女は、幾度も同じ動作を繰り返している。私は彼女の細い手に触れた。その瞬間、私の身は数億の粒子になって舞い上がった。醗酵乳の匂いがした。


4.芝桜


 サロマベツ湖の漂砂のような想念に身をまかせて、私はひたすら歩いた。芝桜の甘い香りがただよい始める。あたりは、芝桜が満開。香りにむせ返りそうだ。一面の芝桜。芝桜以外の植物は自由に生きていくことはできない。軽やかな羽虫までが、香りに包まれて動けない。

 あまりの匂いに負けて、私は口を押さえながら桜の上に座り込んだ。花びらに触れた手が、見る間に桜色に変わっていく。足腰もすっかり花びらに染め上げられた。桜の海に胸まで沈んでいるようだ。下半身は、水に浮いているように心地よい。桜色がゆっくりと首を上がってくる。刷毛ではかれるようにくすぐったい。ピンクの波は、一気に髪まで染めた。私は魂までも染め上げられてうっとりした。

 桜の園には、たくさんの人が横たわっている。どの人も桜に溶け込み見分けがつき にくい。一番近くにいる人が、かすかにうめいた。中年の男性らしい。広い額に濃い口髭、丸く小さな眼鏡をかけている。親指を内側にした大きな手で、口を覆っている。親指をしゃぶっているのかもしれない。眼鏡の奥の眼は暗く沈んでいるが、耳は何かを待っているように緊張していた。言葉をかけようとしたが、声がでない。芝桜が内臓に染み通り、すべての感覚をマヒさせているのだろう。

 神経や血管は皮膚を破り、芝桜の根と親しげに絡み合う。地下の多彩な金属を含んだ芝桜の体液が、身体をかけめぐる。金属はなめらかな声でそれぞれの歴史を話す。桜の根が、私の心臓に達した。根は優しくなでながら、毛細管を張り巡らせる。

 鉱物も植物も動物も、融け合って、ぺっとりとした健やかな物質になるのだ。うれしさに桜色の心が震える。徐々に意識が薄れていく。身体の中で別の鼓動が始まる。砂をつぶすようなざらついた音がする。


5.水族


 水族館は、ひんやりとしている。外の暑さが嘘のようだ。魚たちの祈りが、空気を清明にしている。巨大な水槽では、三葉虫とアンモナイトが優雅に遊ぶ。緑青色のイソギンチャクと純白のオオカミ魚が口づけを交している。水槽の底には魚たちの死骸が堆積し、厚い死の地層をつくっていた。

 ハッカの甘い香りがする。館内は、少しずつ暗くなっていく。もう、水槽も魚も見えない。空気がやけに粘りつく。息をすると苦しい。空気が水のようにまとわりついてくる。その流れは官能的だ。

 急に真っ暗闇になった。わずかな明りもない。声が地を這うように響いてきた。「驚かれましたか。ここでは、光ることが最も恥ずかしいことなのです。御不自由でしょうが、声の方に進んでください」。始めは老人のようなしゃがれ声だったが、最後は少女のように可憐に聞こえた。「こちらです」。声を頼りに歩いた。息苦しい。

 「着きました」「何も見えない」「あなたの世界の表現では、海底1万5千メートル。皆、豊かな暮らしをしています」。何かが私の周りに集まってくる気配がする。「食べ物はどうしているのですか」「私たちが分かち合って食べるのは、闇です」「やみ?、暗闇の闇のことですか」「そうです。闇は肉よりも香ばしいものです。ここよりも上の世界では、まだ食物連鎖が続いていますが、じきに闇を分かち合うようになります」「よく分からない」

 「あなた方、どうもうな光の世界の生き物には、すぐには理解できないかもしれませんね。少しここにとどまってみませんか」「いえ、私は光の世界で、耐えていくつもりです」「幾重にも肉に縛られた世界にですか」「そうです。しかし、帰らなければなりません」「残念です。あなたなら、もう少しここに居ればきっと」。

 気がつくと、水族館の出口に立っていた。夏の日差しは相変わらず強い。濡れた肩に、羽虫が留まった。  


6.湿夏


 風が止まった。汗がどっと噴き出してくる。青空は、見る間に暗雲に消された。山の天候はうつろいやすい。世界が灰色に沈む。大気は獣めいた臭気を放つ。雲の中を雷光が走る。身体中の電解質が、立ち騒ぐ。強い雨が身体を叩く。私は近くの洞窟に走り込んだ。

 大地が揺れる。激しい雷鳴と閃光が、波のように続く。閃光は洞窟の奥まで私の影を焼き付ける。眼が痛い。私は奥に入った。思ったよりも狭い。岩肌はつるつると滑らかだ。夜光貝のように光る岩肌に顔を押し当てる。波立った気持ちが岩に染み込んでいく。

 頬の下の岩がかすかに光った。黄緑色の淡い光。岩の中で何かが動いた。蛍だ。次第に動きが活発になる。蛍の模様は人の顔に見える。どの表情も苦悶している。私はズボンのポケットから六角形の鏡を取りだし、ほこりを払った。岩肌に近づけると、蛍は飛び立ち次々に鏡の中に消えた。

 最後の蛍が鏡に入った時、ひときわ強い閃光が起こった。雷ではない。私は入り口を振り返った。すぐに熱風が吹き込んできた。私は岩に叩きつけられ、肉がはがれ脂肪が沸いた。眼球液は蒸発したが、私の眼は遠くの街並みを見つめた。街は焼けただれている。おびただしい骨と肉と皮が、風に揺れている。

 私は座骨だけが残った。頭蓋のように丸くなっている。中空の座骨は、軋みながら吠え続ける。湿った風が、吹き始めた。新たな雷神が、そこまで近づいている。 


7.珊瑚


 湿った独房に幽閉されて、何か月が過ぎただろう。今の楽しみは味のきつい三度の食事だけ。機械的な味にもすっかり慣れてしまった。そして、心を癒してくれるのは窓からの景色。どこまでも湿地帯が続いている。もうすぐ陽が沈む。ただれた夕日を見つめすぎたので、眼を閉じても赤い色がいつまでも残った。

 いつのまにか、眠っていた。巨大な森の中の一輪の花が、悲しく笑っている夢ばかりを見る。いつになく身体がだるい。耳がぬるぬるする。服を脱いでみると、全身にさまざまな色の菌子が芽をふいていた。皮膚はかつての弾力を失い、押すと指はどこまでも入った。

 外を見て驚いた。一夜で湿地帯が赤く染まっていた。まるで珊瑚草のようだ。私はノトロ湖畔の珊瑚草を思った。秋口の珊瑚草は、少し疲れた煽情的な赤さだった。ここの色もくすんでいる。褐色に近い。どうやら植物ではないらしい。

 歯車。おびただしい数の錆びた歯車が、湿地帯を覆っている。錆が溶けて、一面の血の池地獄だ。歯車の下には産死した女性たちが沈んでいる。彼女たちの腐肉を栄養に、歯車が増殖している。歯車は肉に入り込み、肉の中で交接し繁茂する。見つめすぎたので赤錆色が眼の奥に住みついた。

 また、眠っていた。陽の光りに照らされて目覚めた。あたりが赤く見える。何を見ても赤い。山も空も赤を隠し持っている。身体がだるい。痛む肩を見ると、肉が破れ小さな歯車がひとつ芽を出していた。すでに錆びかけている。私の全身に歯車が生えるのだろうか。錆びた歯車と菌子に包まれて新しい珊瑚草の苗床になる。私はだるい身体を、とりあえずその夢にゆだねた。


8.秋震


 電話が鳴り続けている。生まれた時から、ずっとだ。夢の中でも鳴り止まない。

 今晩は満月。時折、木目模様の悲しげな雲がかかる。 外に出た。秋風が肌を刺す。ポケットに手を入れたまま、前かがみで歩いた。 街は人で溢れていた。近付くとどの人も私に似てくる。 電話の音が激しくなった。私はすぐに白いセーターの彼女を見つけた。じっと立って、こちらを見つめている。身体が震えた。私は駆け寄り、頭を下げた。 「草原にいきましょう。月が観たいわ」。彼女は、そう言って微笑んだ。

 草原では、年老いた芝生が群舞している。早すぎた落ち葉が歌っている。 彼女は草の上に座り、空を見上げた。「月が欠けていく」。確かに月は中心から欠け始めた。恥ずかしげな月面に懐かしい虹がかかる。 彼女は白い林檎を膝に乗せていた。そして、ためらいがちに差し出した。林檎は月明りに赤く輝き、彼女の手の中にするりと吸い込まれた。

 切なくなった私は、彼女を抱きしめた。彼女の胸から電話の音が聞こえてくる。私は胸に耳を当てた。いつも私を呼んでいた音だ。私は、彼女の胸肉に手を入れて、受話器の形をした心臓を握り出した。桜色をしている。彼女は激しく震えた。

 闇が深くなった。月は見えない。私は受話器を耳に当てたまま、癒しようもない傷口に深く身を沈めた。肌は夜光貝のように光っている。波が近づき、受話器が痙攣した。私の体液が、つかのま燃えた。


9.空葬


 棺の中の彼女は、軽々と浮いているように見えた。ワッカの滝に入水し、漬かっていたのが嘘のようだ。死顔は肉がしびれるほど美しい。私は嫉妬した。そして、棺を百合で満たした。

 最後の花を入れようとした時、彼女は水を吐き始めた。棺はコバルト色の水に満たされていく。磯の香りが広がった。水は棺いっぱいになり、彼女は沈み始めた。私はあわてて手を差し入れたが、彼女は深く沈み、手が届かない。私は棺の底に潜り、彼女を探した。

 やっと抱き上げた時には、さまざまな貝で覆われていた。頭には大きなシャコ貝が張り付いている。貝を一つひとつ剥がすと、洗ったような白い骨が現われた。彼女は、とても凛々しく見えた。口元が笑っている。儀式は終わったのだ。

 遺体は火葬場に運ばれ、荼毘にふされた。工場のような火葬場で、人々は劇場のように振る舞っている。私はじっと待ち続けた。火葬は異様なほど時間がかかった。焼却炉から出てきた骨は、ほとんどが灰になっていた。頭蓋も座骨もない。背骨だけが奇麗に並んで残っていた。私は骨片をつまみ、飲み込んだ。まだ温かかった。

 外は雪が降っていた。火葬場の煙突から、幾人もの記憶が細い煙とともに昇っていく。私達の墓は遠い空だ。果てしない、遥かな空。

 雪が激しさを増してきた。煙はもう見えない。私は、発熱した身体を小さく丸めて家路を急いだ。宇宙のように虚ろな胃の中では、桜色に染まった骨片が、胃液の海をゆるゆると泳ぎ続けている。


10.冬冥


 私は背骨をさすりながら、星空を見上げていた。10日前から背骨が痛い。氷紋で覆われ始めた窓から見える夜空は、冴えわたっている。オオイヌ座のシリウスが、青白く輝いている。オリオン座のベテルギウスとリゲル。遠い星が、最も近しく感じる。

 背骨に官能が走った。座骨に眠る2匹の蛇が水銀の身をくねらせて這い上がってくる。ふいに骨が柔らかくなる。きしみながら後ろに曲がり始めた。窓を見ていた眼は、天井のしみを見つめている。後ろのテレビに映る「ストリート・オブ・クロコダイル」の人形たちの開かれた頭蓋が見える。

 視界はほとんど逆さまになった。床が見える。髪の毛が落ちている。しもやけで赤いかかとが見えてきた。大腿部が近付く。貧相な尻が迫る。頭が肛門にめり込み始める。激しい痛みが襲った。

 気がつくと、眼の前は暗かった。痛みは消えていた。顔に風が当たる。星が瞬いている。青白く燃えるシリウス。窓から見た冬の夜空だ。下の方は海らしい。蓮の葉状の流氷が、いくつも浮かんでいる。

 小さな氷の上に、私がいる。身体が裏返り、生まれたばかりの内臓をさらしている。どの臓器も高笑いするように震えている。遠くで汽笛が鳴った。

(1996.09.09第1原稿完成  1998.07.05加筆訂正)

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