水の統合管理に関するCRESTシンポジウム−質の利用を中心にすえた新しい都市水代謝システムの構築−構造的な活水と水質汚濁からの脱却−
- 日時 平成14年01月31日
- 場所 日本科学未来館
- 主催 科学技術振興財団
- 共催 水道技術研究センター
CREST=戦略的基礎研究推進事業の1分野として,北大が中心になって進められた研究分野。上下水道など都市環境を中心とした水循環の構築に向けての基礎的技術開発が,工学や理学の壁を超えて進められており,非常に興味深い発表が多かったです。
もちろん,ここで詳細を解説するような真似はできませんが,聴講して興味深かったポイントを書きとめ,なにかに生かしたいと思います。また,ところどころ抜けていると見えるのであれば,それは睡魔の仕業です...
【参考】
水の統合管理に関するCRESTシンポジウム
(1)セッション1 膜ろ過・浄水
全体に,膜ろ過法と各種の高度処理を組み合わせた場合の運営に関する基礎実験集という印象。水源水質のフミン質やマンガン,ヒ素,冬期の低水温など,水質的にはハンデの多い札幌での研究なので,適用性は広いと考えられます。
生物膜付着型回転平膜装置による浄水処理 (北大
木村氏)
- 膜表面に生物が付着することを前提とした膜処理の実験事例。原水条件が膜処理にとっては最悪に近いのを逆手にとった研究と思われます。洗浄にスポンジを使用したり,低水温時の生物処理にりん添加を行ったり,といろいろな手法を試しているのが興味深く思えました。
- ファウリングの原因物質を付着物より判断したところ,成分はマンガンが50%以上,アルミニウムも検出されたとのことで,高負荷膜処理時のファウリングの制御には,マンガンと凝集のコントロールが重要とのこと。
オゾン耐性MF膜による浄水処理 (北大
張氏)
- オゾンの影響が残る状態と飛ばした状態での膜処理装置への影響の比較実験。E260の処理性が向上した反面,TOCでは悪化したということで,TOCの悪化は膜口径以下に有機物が分解されるためと推定。オゾンにより有機物の除去率が特徴的な変化をするとのことは印象的でした。
膜のファウリング発現機構と前凝集の効果 (三菱レイヨン
べん氏)
- 有機成分がフミン質が多い原水のケースにおける,前凝集の効果と効果的な運用についての論理的考察で非常に参考になりました。
- まず,膜のファウリングに影響するのが主として中分子フミン質以上(低分子は除去不能)による「負荷逆ケーキ層」であるとし,懸濁成分はあまり影響せず,高分子フミン質濃度が大きくかかわっていることを証明。次に,ファウリングの評価を「ケーキろ過式」によって説明されました。おおまかに言って,ケーキ層は水圧により圧密されやすく,フラックスがろ過抵抗係数に大きく影響することが把握されたそうです。
- 定圧クロスフロー方式では初期は初期上昇(蓄積)しますが,その後安定(剥離との平衡)します。適正な前凝集によりフラックスを維持できますが,その注入率は1mg/L程度と低いことが必要で,高い凝集剤注入ではかえってファウリングは早くなります。
- デッドエンド方式では,最終的にケーキが圧密して抵抗を増します。そして,前処理を行っても,ファウリングの抑制にはほとんど効果はないとのことです。
- 経験的にいわれていることが数字および実験結果によって理論付けされた点が非常に参考になりました。
UFろ過膜のファウリングモデル (東レ
峯岸氏)
- 引き続いてファウリングの機構解明研究。ファウリングの原因物質を探るため,モデル原水を通す実験を行った結果,フミン質とカルシウムイオン(Ca2+)が共存する場合にファウリング様現象が確認されたとのことです。この原因として,現実の表流水などとの比較も併せて考えると,カルシウムの存在によりぜータ電位が低下してくっつきやすくなるため,と説明されていました。
- また,ファウリングを形成する物質について,膜内に蓄積する低分子フミン質,膜表面に蓄積する高分子フミン質,膜表面に引っかかる大きな懸濁質,の3種類の混在で説明するモデル式を提案されました。
【備考】
(2)水処理関連
浄水過程におけるAOCの挙動 (大工大 笠原氏)
- 水の多元・高次利用を行うためには管内再増殖が大きなネックとして浮上してくる。そこで,管内微生物再増殖の抑制を目的とし,AOCを指標として,その低減を浄水処理でどのように行えるかを研究した報告事例。ちなみに,米国での研究例では,AOCを10mg/L以下とすることで再増殖を抑制できるとのこと。
- 研究はスライムの分析,管路内水質変化,管路と膜,管路と水質の関係などで構成されている様子。
- オゾン,活性炭程度の処理では,消毒剤抜きでは管内使用はできないのではないか,消毒剤を使用しないのであれば相当な処理(米国での地下水涵養のNF膜レベル)が必要ではないか,とのことであった。
メゾ構造体とヒ素吸着剤とメゾ多孔体農薬吸着剤の開発 (東工大
岸本氏)
- 砒素除去特性に優れた,活性炭に代替する新しい吸着剤を材料工学的な手法で設計する研究で,非常に興味深い内容。ジルコニウム−硫酸系メゾ構造体(ZS)を利用し,多孔体の孔径を工夫することで,ヒ素や農薬等の吸着特性を設計できるものができたとのこと。
- 吸着剤の昨日は,吸着量,吸着速度,低濃度でも吸着すること,の3点。そこで,金属イオン担体メゾ多孔体で製作したが失敗。ジルコニア系多孔体で製作したが,これもなぜか吸着しない...と試行錯誤を経て,工程を工夫したらうまくいったとのこと。
- 吸着剤の吸着原理は,多孔体の穴を形作る硫酸根と砒酸が交換するというもので,硫酸根との構造が似ている方が吸着性がよいため,りん酸根のほうが吸着性が高いが,ヒ素の吸着性も十分非常に良好であった。ただし,再生処理により吸着能は回復するものの,新品の70%程度であったとのこと。
- また,同様の技術を用いて農薬の吸着剤を製作。logPOWが大きくて硫黄が入っているものについて,活性炭と同等の除去性を得た。この吸着剤の特徴は選択性があることであり,細孔の設計による選択性のある吸着剤が製作できるため,フミン質が共存しているような条件下でも良好な農薬の吸着特性が得られる,とのこと。
高感度水質計測システムの開発 (日立
平林氏)
- 日立の技術である高性能霧吹きを応用し,観測精度を高めた事例。音速のガス流により供試水をイオン化,イオントラップ質量分析計にてイオンを測定する。続けて,半導体セルレベルで残塩を測定するチップの開発報告も。
【備考】
(3)講評等
セッションの統括時や最終講評などで,世界的重鎮のお話をお伺いすることができました。走り書きのメモから起こしたので正確ではないと思いますが,少しでもメモしたものを記録しておきます。
- 膜は100年ぶりの新しい技術であり,最近の技術開発によって使用できるレベルになってきた。しかし,潜在的なポテンシャルを引き出しているとは到底いえない状況にある。(ポルシェで日本の道路を走っているようなものとたとえ)
- 水道の水を飲んでもらうためにカルキ臭のない処理を導入する,といった動きもある(フランス)。水道システムの果たす役割についても,パラダイムシフトが起きつつある。これからできる浄水場のかなりの部分は膜処理になるとの見通しもあるようであり,これまでのような「おっかなびっくり」「消極的な」取り組みでは遅れを取るのではないか。
- 「膜」に科学になりうるのか,という印象があったが,今日は確信をもてた。環境関連技術は,ますます生態系技術,エントロピーマネジメントのレベルへのアプローチを強めつつある。
- 実際に使っている浄水場での話。既にちゃんとした浄水場であったが,事情により浄水処理後の水に膜処理を追加した。1年に1回薬品消毒する予定で入れたが,9年くらい薬品洗浄しなくてよかった。もっと小さくでき,フラックスを大きくとれたということであろうが,これは初期でノウハウが少なかった時期の話で,仕方ないと考えるべきであろう。当時から比べると,膜に対する理解は格段に上がってきている。
- 膜の表面では溶存物質の反応の場として有利になっていて,オゾン処理など他の処理の触媒的な役割を果たせる可能性があると考えている。ノウハウの積み上げによって,さまざまな可能性が出てきている。
- 水環境技術は,現象論(パターン認識)から機能制御の段階に進みつつある。今後の展開を考えると興奮を覚える。
- これまでの半世紀,都市工学としての水循環に片よっていたのではないかとの反省がある。農業分野との連携について視野にいれた研究があったが,今後はもっとこの方向を発展させなければならない。
【備考】
筆者の理解できるレベルを少々超えているので,全般に表現は正確ではありません。ご容赦ください。
HOME> |
 |
TOP> |
|