作成者 | BON |
更新日 | 2009/01/25 |
水質検査体制を新しく立ち上げる場合の注意事項や考え方について,体制の整備,検査室の設置などにわけてとりまとめました。水質管理基本計画の策定に係わった時に調べたり教わったりした情報がベースになっています。
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水質試験体制の整備 職員確保,機器の維持管理,段階的整備,維持管理費項目などについて整理。 |
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水質試験室の設計 水質試験室を設計する場合の注意事項について。 |
【参考】
010503 鍵付きページより移行。
090125 規制を追記。
水道法において、「水道の管理の適正・合理化」に関する事項は、水質基準(法第4条)、水道技術管理者(法第19条)、水質検査(法第20条)、衛生上の措置(法第22条)等に規定されています。 ここでは、道事業者は、厚生労働省令の定める分析方法により、定期及び臨時の水質検査を行い、その記録を5年間保存することとされています。また、水質検査を行うために、必要な検査施設を設けるか、検査を委託することができます。
検査回数は、1日1回以上、色及び濁り並びに消毒の残留効果に関する検査を曜日、祝祭日に関係なく行うこととされ、水質基準に示された51項目については、水質項目ごとに検査回数が定められています。この辺の細目は水質基準のほうに掲載しましたのでそちらを参照してください。
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水道水質基準 水質基準の詳細を掲載。 |
【備考】
水質検査設備や室はあくまでも道具にすぎません。水質検査体制についてまず確保しなければならないのは優秀な検査担当職員であるといえます。分析機器を操作できる職員を確保すれば,日常の検査それ自体はある程度行えますが,水質検査の意図するところを見極め,検査によって得られた結果値が工学的にどのような意味をもつのかを検討するためには,高度な専門知識を必要とします。このような検査担当者を育成するためには,その修習について配慮することが必要です。
1)検査機器の修得に必要な期間
機器の使用に必要な技能の修得は,担当職員が技術系か事務系かによって大きく左右されますが,通常の機器であれば,パソコン程度の機器が使用できれば1〜3日間の指導によって修得可能です。専門職でない担当者の場合は,試料の前処理などの必要性や原理について修習しなければならないために,多少手間取ることが考えらますが,これらの前処理(公定法)は,化学系など専門系技術職が1名いれば十分教習可能ですので,準備日数もそれほど要しません。従って,技術系の職員が確保し,事前講習によって機器の操作について一定の経験を積んでおけば,1〜2ヶ月程度の研鑽で一応の対応が可能でしょう。
ただし,手分析の経験や試験の意味するところの理解度によって試験結果の信頼性が大きく左右されます。特に自動的に試験する機器については,試験に対する十分な理解が必要です。機器を運用するための研修は,各地の検査機関や衛試,日本水道協会,メーカーなどで実施されており,これらを利用することができます。例えば,日本水道協会では,「水質試験方法実技講習会」(平成7年度)として,GC−MS,HPLC,ICP,原子吸光光度計,イオンクロマトグラフの研修会を,一人50,000円程度で行っています。
日立製作所の講習メニューを紹介します。
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計装システム・計測機器@【株式会社日立製作所】 日立計測器トレーニングセンタの案内とメニュー。 |
2)資格者の配置とその支援
通常の事業者(私企業や財団法人など)が公的に水質などの検査を第3者に対して有償で行う場合,環境計量士の資格者が監督することが必要です。また,GC−MSなど一部の検査では,放射性同位元素Ni63(ニッケル63)を使う検出器を使用する場合があります(特にトリハロメタン類の検出感度に優れる)が,もしこれを使用するなら,放射性同位元素の使用に関する資格者をおくべきでしょう。
ただ,水道事業者として日常の管理を行う場合など,公共の用途に限っては,水道協会の講習を受講し特別認定をうけることで,資格者の配置を免除されます。このため,特に資格者の配置を要求されることはないのが現在の制度です。(これは近いうちに変更されるかもしれまぜん。要調査)
これらの資格は非常に高度な専門知識及び技能を要求されるため,取得は容易ではありません。しかし,検査の意味を考慮し,汚染の生起や拡大の可能性,検査結果の定性的な判断などを行うことは,測定機器の習熟とはまた別の観点からも非常に重要です。資格者の配置もしくは担当職員が資格を取得できるような援助を行うことを前向きに検討すべきと考えられます。
水道GLPとは水道水質検査の実施体制の認証制度です。詳しくは別ページに移転しましたのでご参考ください。
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水道GLP 移転しました。 |
【備考】
1)メンテナンス契約
当初装置の運転に慣れない間はミスによる機器の損傷などが特に頻発するものと考えてよいでしょう。(私の学生時代はひどいもんだったですし...)その間のメンテナンス契約及びコストには十分注意します。また,分析機器は概して非常にデリケートで,検査体制の立上げ当初は,分離カラムの故障や濃度調整の失敗などを覚悟せねばなりません。しかし,水質検査体制は,問題が発生した時に迅速に対応できるものである必要があるので,故障状態を放置しておくことは許されません。よって,機器の納入の際,機器のサポートサービスについて十分に調査し,維持管理契約の内容について確認しておく必要があります。トータルリスクを抑える方法の一つとして,リースも積極的に活用しましょう。
2)廃液処理
通常,水道水質の試験は浄水場やその近辺で行われます。このため,試験の廃液が浄水場や水源に影響しないための廃液対策が特に重要になります。一部の項目に使用する薬品は毒性の強いものもありますし,検量線を作成するために標準物質を作る場合などが考えられます。廃液回収体制とその費用について充分に確認することです。
【備考】
現在の体制が全面委託であって,ここから移行するのであれば,水質試験機器の導入は段階的に行う方がよいのではないかと考えます。まず人員の育成が先で,機器の導入は人がそろう目途がついたときでいいのではないでしょうか。使用頻度が高くない精密機器の寿命は概して短く,故障しやすく,ランニングコストも大きくなる傾向があります。検査頻度が低いのであれば,GC−MSやICPなどの機器を自前でもつことは推奨すべきではないと考えます。ただし,当初段階で導入しない場合の会計上の困難が考えられるので,この点については充分に見当することが必要になるでしょう。
各種試験設備の概要は以下に示します。
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水質検査機器 ここで取り上げた各種の検査機器について掲載しました。 |
また,段階的導入を行う場合の一例を示します。
第1段階:一般器機装備 | 通常機器を導入します。(GC−MS,ICPなどは先送り。) 毎月検査を行っている項目については水質試験室にて自己検査を行えるようにすべきです。この場合,各種のクロマトグラフや原子吸光光度計などの高度な機器を除く,吸光光度計,原子吸光高度計,生物試験などに使用する各種機器が必要になります。 |
第2段階:GC−MS装備 | GC−MSを導入することで,チウラム以外の46項目は一応検査可能になります。(全項目試験の試行期間) これによって,水質基準の健康,性状関連の46項目に関して,一応の検査が可能な機器を整備します。前処理装置や分離カラムを交換することによって複数種類の検査が可能な機器に関しては,その最低限の機器導入を想定します。ただし,これらのアタッチメントの交換には,手間がかかるうえ,精度の低下や故障の原因になりうるため,検体数が多い場合はこの体制では不十分と考えられます。本格稼働前の習熟期間程度の使用頻度の場合がこの状態に該当するでしょう。また,チウラムの試験はイオンクロマトグラフ(専用カラム使用)で行うことを想定しています。 |
第3段階:HPLC装備 | チウラム分析を主眼とし,HPLCもしくはイオンクロマト分析装置を導入,検査効率の向上を図ります。(全項目試験) 検体数が増加し,検査担当者が十分確保された場合において,85項目の検査を快適に行える環境を確保するため,整備することが望ましい関連機器を追加する段階です。本格稼働に必要な機器数を考慮し,一回の検査に同時に使用する機器については複数整備します。本格的な全項目検査体制をとる場合は,この程度の体制が必要でしょう。 |
第4段階:ICP装備 | 水道公定法に基づく検査体制を確立します。 ICPの導入により,多項目の迅速かつ詳細な検査が可能になります。(その他試験項目)全項目の他,農薬や有機物汚染などにも対応できる検査体制です。原水汚染や不測の事態を含む,あらゆる水質検査に対処できるでしょう。最終的には,この検査体制をめざすものとし,検査室の確保や設備の配置などは,これを前提として設計しておくとよいと考えます。 |
【備考】
水質検査を行うために必要な維持管理費目の算定に必要な費目の例を示します。想像以上に維持費がかかるのがお分かりかと思います。
1)人件費及び諸費
原則で3人以上の試験要員が必要ですが,なかなか専門官を3名も持つのは大変です。
2)動力費(電気代)
導入した施設の稼動電力で計算してください。通常,大物は止めませんのでそのつもりで。
3)試薬類,及び消耗品類
これも検体数で計算しますが,見積もりとった方が楽です。
4)機器分析用キャリアガスなど(運用上必要なガス類)
GC-MS ヘリウムボンベ 8〜12本/年 60,000円/本
窒素ボンベ 1本/年 20,000円/本
液化炭酸 12本/年 10,000円/本
ICP アルゴンボンベ 1本/試験6時間 15,000円/本
原子吸光光計 アルゴンボンベ 12本/年 15,000円/本
5)廃液処理費用
見積もりに頼ってください。
6)メンテナンス契約
分析機器に関しては保守契約を締結し故障時の復旧を委託することが一般的です。契約内容は個々のケースにより様々ですが,昔とった見積もりでは,機器一式あたり1年間180万円(!)でした。実施基本計画策定時には十分考慮しましょう。
7)講習費用等
研修会,研究発表会などに参加して横のつながりをもつことが大切です。ネットなどで情報を収集できる体制も確保しましょう。
【備考】
水質試験設備を本格的に備えるためには,専用の室が必要になります。通常の詰所とことなり,さまざまな機器や試料薬剤の搬入など,水質試験室を設計するための制約事項について整理します。
水質試験室の例
ある程度の規模を有する浄水場であれば標準的なサイズではないかなと。きれいに整理されていて好感が持てます。
(1)確保するスペース
日水協の調査によると,平均的な水質試験施設の床面積は500−1,000m2とのことだったと記憶しております。(詳しくは忘れました...)1−2階に設置されることが多いのですが,これは試料の運搬の都合によるものと考えられます。人肩運搬するには水は結構重いですので,搬入は優先的に行えるようにしておきましょう。
(2)室の構成
水質試験室を構成する個室の備えるべき特徴について整理すると以下のようになります。
項目 | 目的 | 内容 |
共通室 | 準備,予備室 |
●小規模な場合は理化学実験室と併用で結構です。 |
理化学実験室 | 各種試験及び前処理 |
●事務室,管理室,外部との連絡を重視しましょう。理化学実験室は全ての試験室の中心になります。 |
薬品保管庫 | 試薬の長期保管 |
●管理上注意し,理化学試験室の隣に設けて必要なときに必要な試薬を取り出せるようにしましょう。 |
生物試験室 | 生物試験に適した環境の提供 |
●検鏡上問題となる採光や,顕微鏡使用時に困る振動の防止,給排気の確保,滅菌紫外線ランプの設置など,特殊な配慮が必要になりますのでに注意しましょう。 |
機器分析室,ICP室 |
各分析機器に適した環境の提供 |
●検査設備の特性を考慮し,互いに影響を及さないよういくつかの専用室に分割することが理想です。 |
ボンベスペース | ガスボンベ保管 | ●屋外に設けましょう。防爆,取替えの便利を図ることとします。 |
廃液保管場 | 廃液の一時保管 | ●廃液タンクの転倒などの影響を防止するため,理化学試験室の近くに別室を設け設置する場合があります。試料が少ない場合はでっかいポリバケツでもいいですが。 |
通路 | 共通 |
●薬品による事故が起こった際に実験者に薬品がかかる事がある。その為,廊下などに緊急の水シャワーや洗眼蛇口の設置が望ましいことになります。 ●壁は耐薬品塗装を行います。床は防水を完全にし,耐薬品の仕上げとしましょう。 |
空調 | 共通 |
●冷暖房のバランスが部屋ごとに異なるため,個々の部屋に設置することが望ましいと考えられます。 ●分析室全体として換気と給気が必要です。コンタミの影響を排するため,実験台の上にフード換気を設定するとよいでしょう。フードは錆びない塩ビなどの樹脂製がお勧めです。(ステンレスでも酸などによる腐食で錆が出る場合がある。)その他の部屋も,天井換気,床換気及び給気口が必要です。各部屋単独での空調も可能なほうがよいでしょう。 ●可能であれば,新鮮で清浄な空気(HEPA(ヘパ)フィルターなどを使いエアロゾルを除去)を取り入れ,室内が負圧となることを防止します。換気が不十分だと他の部屋へガスが漏出する可能性があります。 ●ドラフトチャンバーは測定項目を吟味して必要な能力のものを選定しましょう。有機溶媒用(換気が強くなっているもの),防曝型ドラフト(重金等の分解において過酸化水素等を使う事となった時は必ず使用),クリーンドラフト(VOCや農薬の前処理や分析に必要)などの種類があります。 |
電源 |
●分析の機器は100Vや200Vや動力までも必要とするものもあり,その数も年々増加する事が考えられます。分電盤も別に予備を用意していた方が良いでしょう。 ●クリーンルームやGC−MSは電源が入った状態で点検以外は止めません。このような施設を設置する場合(本格的なもの)であれば,停電時に停止しないように防護回路を設置する必要があります。この場合,コンピュータを使うものは全てこちらの電源とします。 |
【備考】