文章いろいろ

奇跡

HDDレコーダーが導入されてから、CMというのは「飛ばす」ものになりはてていますが、最近記憶に残っているCMはJACCSカードのやつです。
松田龍平と田畑智子が演じるドラマ仕立てで、「アンモナイトと六法全書」というシリーズ名があるらしいのですが。音楽は山下達郎。考古学の研究生と、弁護士を目指すOLが登場人物で、夢を追うというテーマの、まぁストレートに甘いストーリーです。
第一話を見た時、状況設定とストーリーの細かさの割に、説明にあたる要素が少なくて、「??? 何だ今の話は?」と思わず巻き戻して5-6回見直し、ようやく何となく理解した、という代物でした。すでにこの辺りでうまうまとはめられているような気もしますが。
松田龍平の、「かっこいいと言えなくもないけどぱっと見冴えないインドア派青年」の演じ方が上手です。

落ち込みがちだけど食いしん坊の彼女のために、高級果物店で網目つき巨大メロンを2個も買ってきたりする研究生の彼は、裕福な生活を送っているはずはぜんぜんないと思われ、そういう視点で見ると「おいおい大丈夫なのかこの青年は、いいようにたかられてんじゃないのか」などと考えなくもないのですが、実際のところそういう常識的見解が浮かぶのは見終わってからのことで、見ている時は大真面目に、甘い物語世界に浸っているというのが正直なところであります。

こういう、素直にやさしい光景というのを、皮肉もまじえずに瞬きせずに見つめている心というのも、私の中に確かに存在していて、それは普段決して表には姿を見せません。他人に鼻で笑われると、回復不可能なほどに傷つくことを、私はよく知っているからです。
ただ、こういった物語は、正面切って「追い求める」ものではないと、感じてもいます。誰かが格好をつけて同じようなことを「やってみせた」としても、それにはあまり意味がありません。
研究生の青年が「ジャーン!」とメロンを二つ掲げて見せる姿の微笑ましさは、彼女のことだけを考えているからこそただよう、瞬間的な奇跡であって、その行為や形に意味がある訳ではないのです。
奇跡は、追い求めるものではなく、思いがけず出会うもの。
そして出会ったら、記憶だけを残して消えるはかないものです。

この物語が、せいぜい長くても120秒のはかないものであるために、私は素直に、穏やかな気持ちで見つめ続けることができるのでしょう。
永遠の一瞬というのは、あまりにも使い古された、陳腐な表現ではありますけれど。

       

mixiの2004年7月頃の日記で「乙女の心」というタイトルで書いたもの。

JACCSカードのCMは、今は新しいシリーズになっていまして、ホームページへ飛んでもこのシリーズの映像を見ることはできません。ちょっと残念。

このシリーズの最後のCMは、化石を見つけられずにいた青年が「いつか見つかるかな?」とつぶやくと、女性が「見つかるよ、地球、でっかいもん」と言うので、その言葉に彼が小さな声で、「じゃあ、一緒に探そうか」とつぶやくと、「……女にそういうこと言うと、本気にするよ」と答えられて、あわてて立ち上がって食事の支度に走っていく、というシーンで終わりました。最後まで、何とも微笑ましく、温かい物語でした。苦手な人にとってはそれはもう、拷問のように苦手な物語かも知れませんが。