文章いろいろ

何故人は冬眠できないのでしょう。

私が世界の独裁者になったら、冬の社会的活動を通常の20%に抑えて、人間に冬眠を導入します。寒いのが苦手で、この時期の作業はいつもの数十倍くらい辛く感じます。

というわけで、冬の外出は地獄です。しかし、何故か私の周囲には冬に活発になる人々が多く、私もどちらかといえば冬の方が忙しくなります。
きっと、みんなと私は違う猿から進化したんだね、と言い合っても何の解決にもなりません。 やむなく、寒い寒い北風がふきすさぶ中、私は泣きながらおうちを出て、仕事先やら外出先やらへとことこ歩いていく羽目になる訳です。

で、「さむいーさむいー特に耳がさむいー凍えてちぎれそーだ」と連発していたら、業を煮やした軽鴨の君が、「じゃあ耳あてを買いましょう」と言いだし、連れだって町田の丸井に行ったです。
その日丸井はクリアランスセールだかで、冬物バーゲンをやっていましたが、耳あてはなかなか見つからず、ようやく見つけたのは婦人装飾品売場の隅っこ、帽子とスカーフに挟まれて、ちんまりならんだ、ふかふかの毛玉たちでし た。
白いの、赤いの、ちょこまかとあったのですが、なかなかこれと思えるようなものは見つからず、「もう面倒だから 帰ろうかなぁ」と思った時。

「これ! これにしよう!」
と、いつになく熱心に軽鴨の君が言い出しました。

この方は私よりはるかに物欲薄く、経済観念の厳しい人なのですが、時々何だかわからない購買欲に突き動かされます。
一緒に食材を買い出しに行くときも、目を離すといつのまにか、杏仁豆腐の素だの干し柿だの酒饅頭だの、を買い物かごの中に入れていたりするのですが、このとき彼の君の心をとらえたのは甘いものではなく、とある耳あてでした。

いわゆるこの冬世間を席巻した、「アニマル柄」という奴。豹柄のふかふかした耳あてです。しかも骨組みの部分は 一切見えず、全て豹柄のふかふかで隠されています。
「……はぁ?」
「気に入らないの?」
「だって、普段の私の来ているおよーふくとは、あまりにもそぐわないように思いますが」
「いいじゃない、あったかいよこれ。だって、ネコ柄じゃないの」

……三秒の沈黙。

「あの、これ、どうみても、豹柄であって猫の柄ではないと思うんですが……」
「ええっ! そんなはずはない。どう見ても、猫柄だよ。猫柄の耳あて、可愛いじゃない。猫が手で耳を押さえてくれてる みたいだし」
「いやだからこれは猫柄ではない……」
という押し問答が数分続き、結局私はレジにこの「猫柄耳あて」を差し出したのでした。

でどうなったかというと、寒さには全てのセンスが敗北する私は、全然着ている服と合わないにも関わらず、耳あてのあったかさと軽鴨の君の愛?に負けて、毎日この耳あてをつけているのでした。
そしてさらに言えば、この耳あては今も我々の間では「ねこがらの耳あて」ということになっており、おまけにそれが省略されて「ねこみみ」という名称になり、「寒いからねこみみをつけていきなさい」などという萌え発言もどきが飛び交っております。

ちなみに、その後誰に訊いても、この耳あてを「猫柄」と言う人はいませんでしたとさ。めでたしめでたし。

       

猫耳、というタイトルはあまりにもべたなのでやめました。

耳あては、今も愛用しています。その後、白とダークグレイの斑模様の通称「ぴよ柄」(うちで世話しているヒヨドリの腹の辺りの羽毛の色に似てるから)の耳あても買い、重宝しています。でも軽鴨の君は、相変わらず「猫耳」と呼んでいます……。