2A3直結差動プッシュプル・7W 2チャンネルステレオ・アンプ

更 新:May. 3,2010:自作木製キャビネットに収容した写真を掲載し、ページのレイアウトを少し変えました
初版 Mar. 3,2010


はじめに

 VP-2000改を知人に譲り2A3差動PPを807に取り替えてしまったため直熱三極管党である直火球としては寂しい思いをしていましたが近づく春の足音に刺激されて(関連性の乖離が大きいかな?)現用のEL34(6CA7)の三結差動プッシュプルアンプを2A3直結差動プッシュプルに改造してしまいました。
 EL34の三結差動プッシュプルアンプは電源トランスや出力トランスを換装して出力を12Wに増強し、とても良く仕上がっていたので改造の必要は無かったのですが直火球としては2A3直結差動の音を聴きたいという衝動に負けてしまいました。EL34は音が良くて使い勝手が良い球なので次の機会にはハイパワーで復活するかもしれません。



アンプの構成

 アンプの構成は、EL34アンプの前段がそのまま使えるので、初段が6DJ8(ECC-88)、ドライバーが7119(E-182CC)、終段が2A3の三段構成で、7119と2A3の間を直結する全段差動方式としました。シャシーやトランスは流用しました。改造の主役は終段を2A3としたことによる電源の仕様変更と直結した傍熱管のドライバーと直熱の終段管とが立ち上がる時間が異なるために生ずるダメージの保護機構の増設です。
 アンプの初段は6DJ8による標準的な差動回路でカソードの共通定電流源は1mAのCRDを2本並列にして-3.2Vに接続しています。プレート供給電圧は+200Vで負荷抵抗は100KΩ、プレート電流1mAの時のグリッドバイアスは-2.5Vです。電圧増幅とドライバーの間はコンデンサーを介した交流結合としました。
 ドライバーは7119による標準的な差動回路でカソードの共通定電流源は5.6mAのCRDを用いています。ドライバーのプレートと終段のグリッドを直結するためのレベルシフトが必要なためドライバーのカソードはCRDを通して-100Vに接続します。プレート供給電圧は100Vで負荷抵抗は36KΩ、プレート電流2.8mAの時のグリッドバイアスは-4.4Vです。7119のグリッドには終段と連動するDCバランス調整回路を入れています。プレート側には終段のバイアスを調整する回路を設けています。7119のプレート電圧は共通電位との電位差を0Vとして2A3のグリッドと直結します。
 終段は2A3でプレート電圧250V、プレート電流52mA、負荷抵抗P-P間5KΩ、バイアスは標準的なA級動作点の-45Vとしました。バイアスはフィラメントに抵抗で中点を出して接続した定電流源LM317Fで発生させます。終段は交流的に高インピーダンスである定電流源を基に差動動作します。差動出力の変換にはEL34アンプの音質改善のために換装したソフトンのRコア出力トランスRX-40-5を継続使用します。
 以上の構成で8Ω負荷に10W近い出力が得られますが仕上がり出力は実効値で7W=7.48V RMSとしました。2A3をフルスイングするためにはグリッドに約31V RMSを与えることが必要です。アンプのゲインはμが30の6DJ8が27倍、μが24の7119は17倍です。この構成で入力130mV RMSでグリッドがフルスイング(=出力7W RMS)となるのでアンプの総合ゲインは54.5倍(34.7db)となります。アンプの仕上がりを入力を300mV RMSで出力を8Ω負荷で7W RMSとすると必要なゲインは24.9倍(27.9db)ですので負帰還は約6.8dbとなります。初段とドライバーの設計については全段直結差動方式6080プッシュプル・モノラルアンプのページにも掲載していますので参照してください。


電源回路の概要

 電源回路はEL34アンプの出力増強のために電源トランスをノグチトランスのPMC-283Mに換装していたためこれを継続使用します。EL34アンプの+Bは+330V/250mAを供給していましたが2A3アンプでは+295V/208mAを供給します。このためEL34アンプで採用していたダイオード整流方式では280Vタップを使用しても出力電圧が高すぎるためドロッパの挿入が必要になりました。トランスを適当なものと交換するか特注する方法もあったのですがそれは避けて真空管式整流回路とし球の内部抵抗でドロップさせることとしました。実際の+Bはドライバー用などを含めると250mA程度必要なので整流管としては5AR4はアウトで5U4GBクラスが必要です。今回は5U4GBより一回り大きい直熱管の5V3Aのコンデンサインプット方式として平滑チョークにはノグチのPMC1030Hを継続使用します。この構成でトランスの320Vタップを使用して+295V/250mAを得ています。平滑チョークコイルの損失は5W近くになるので電源トランス並みに熱くなります。本アンプに採用した5V3Aは5U4GBと変わらない大きさですが最大電流が380mAと一回り大きく掘り出し物でした。
 +200Vは+BからNPNトランジスタを用いて作り、+100Vは+200Vから定電圧ダイオードを用いて作りました。-100Vは電源トランスの80Vタップから定電圧ダイオードを用いて作りました。-3.2Vは6DJ8と7119のヒーターを直流点火する電源から定電圧ダイオードを用いて作りました。
 世の中の全てのアンプ作りについて言えることですが、必要とする電圧と電流を低内部抵抗で安定に供給可能な電源が作れればゴールは間近と言えます。特記すべきこととして差動アンプはA級動作であるためAB級のような電流変動をあまり考慮しなくとも良いことが挙げられます。しかしながら電力消費が一定ですので部品の最大定格に余裕がない場合は発熱と寿命を考慮する必要があります。2A3はEL34よりプレート電流を少なくできたため+Bの供給電流が減り、結果としてアンプ全体の電力損失が減りEL34の時より発熱を少なくすることができました。



2A3直結差動ステレオ・アンプの回路図


2A3直結差動アンプの電源回路図



2A3直結差動アンプ(初版)の中身


2A3直結差動アンプ試聴風景


直結回路の保護

 このアンプでは傍熱管のドライバーのプレートと直熱管の終段のグリッドが直結されています。このままでは直熱管が先に動きだし傍熱管のドライバーが働きだすまで終段のグリッドにドライバーのプレート供給電圧(+100V)がかかります。この結果終段のバイアスを作り出すLM317Fは端子電圧を上昇させ、ついには素子の耐圧を超し破壊に至り2A3のグリッド電流が過大となる危険にさらされます。これを避けるために多くの場合は傍熱形の整流管を使い電源の供給を遅らせます。しかしながら使用球のウオームアップタイムの差や電源スイッチの再投入タイミングなどで危険な状況が生じる可能性が残ります。
 本アンプではドライバーと終段の接続点の電位が共通電位=0Vであることからドライバーが完全に立ち上がるまでの時間(11秒以上)終段のグリッドを0Vに保っていれば危険を回避できることに着目しました。実際には20秒の遅延リレーのブレーク接点を使用して、接点の片方を0V他方を7119のプレートにダイオードを介して接続し設定時間が過ぎたなら接点が開くようにしました。これにより保護中にドライバーのプレート電圧は0Vより上がることはなく2A3は-45Vのバイアスで動作するため保護が終了しても雑音が発生することなく通常動作に移行します。ただし、接点が閉じた状態でドライバーが働き出し信号が入力されると+側がクリップされた音が出ます。が、それはご愛嬌と言うことで目をつぶりました。


製作と音色などについて

 改造結果としてEL34より出力は減りましたが周波数特性と方形波や三角波応答はほとんど変わりませんでした。残留雑音は0.8mV以下で2A3が交流点火であることを考慮すればこんなものかなと思います。
 本改造ではドライバー部分とトランス類ををそのまま使ったためシャーシーの穴あけなどの機械加工はビス穴が増えた程度で済みました。一番大変だったのは電源の再設計と試験作業でした。外見ではEL34アンプの電源回路で使っていた定電圧放電管が定電圧ダイオードとなり光り物が無くなったのは残念ですが、そのスペースを直熱整流管としたため直火球がふえて悦に入ってます。またオムロンの遅延リレー(H3BA-8)も収容できました。
 現在試験的にドライバーを7119より入手が容易な12BH7Aに変更しています。回路定数の変更は不要ですが7119より増幅率が低くて内部抵抗が高く、直線性があまり良くないためプレート供給電圧200Vでは終段のバイアス-50Vをフルスイングするのが限界のようです(7119は-70V=140VPP可)。終段の2A3はVP-2000に付いてきた中国製Hプレートでそれなりの音が出ています。しかしながらVP-2000で発生していたボソボソノイズが残っているのため中国燭光電子やSovtekあたりの一枚プレートの球と交換予定です。
 音に関しては直結方式と出力トランスが寄与している部分が大きいのが現実とは理解しています。がしかし、球にも依存するようにも思えます。EL34もすてきな音でしたが直火球としてはやはり2A3に肩入れしてしまいます。
 弁当箱シャーシーに組んだ裸の状態もそれなりに魅力がありますが直火球アンプとなったのをきっかけに少し見栄えのするキャビネットを作って収容してみました。前面パネルはスモークのアクリルでスイッチを入れるとVUメータが光り浮き出る様にしました。また真空管のフィラメントが光っているのがパネルを透して見えるのもうれしいです。
 丸形のVUメータを角形に交換してゲイン調節ボリュームは左右別々としました。箱は集成材を使い水性ニス仕上げとしました、天板とリアパネルにはパンチングパネルを使用して放熱してます。工作が下手なのでゆがみや無駄穴がありますが遠見には高そうに見えます。


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