初版 Sep, 1,2008
少し前に製作記録に掲載した2A3差動プッシュプル・7Wモノラルアンプの記事で触れた「ザ・キット屋」さんの2A3プッシュプル・ステレオアンプキット Triode VP-2000(生産終了、以下、VP-2000)の差動化改造が終わりましたので紹介します。 ![]()
30年ぶりにカンバックさせた2A3PPアンプをいじっている間にVP-2000程度の音が出せるようになり、さらに、かなり良い感じに仕上がった差動アンプに変身させてしまいました。このアンプの構成要素はVP-2000と共通するものであり、VP-2000も若干の回路の変更で差動アンプに改造できることを教えてくれました。 |
はじめにVP-2000は、2A3差動プッシュプル・7Wモノラルアンプの記事で触れたように、私のオーディオのメインとなるアンプとして、また、真空管アンプの基準として使用するため入手したものです。入手に当たり、完成品は高価であるし、お仕着せではつまらないため改造の余地があるキットとし、さらに、キット作りの楽しみも一度は体験しようと考えたものです。VP-2000は、6SL7の片方で電圧増幅しもう片方で直結位相反転し、終段を6SN7でドライブする構成です。出力段は出力トランスがPP間5KΩ、プレート電圧250V、プレート電流50mA、固定バイアス-45VのA級動作で8Ω出力が10W×2の標準的なステレオアンプです。なお、VP-2000は生産が終わっているので回路図の掲載は省略し、細かい問題などには触れないこととします。 VP-2000の組み立ては、良くできたドキュメントを頼りにスムーズに進めることができましたが、私のように生かじりの人間は回路図が頭にちらつき、それによりマニュアルの順番を無視してしまうことがあり、後でやり直す羽目に陥りましたのでキット組み立てには向かないかもしれません。完成後はハムバランスとバイアス調整が必要で、少しの慣れを必要としますがテスターと自分の耳とアンプについているプレート電流計で調整することができました。 完成したVP-2000の音は2A3のA級プッシュプルとしては満足できるものでした。ただし、キットに添付のHプレートの無印2A3は中国製らしくバランスを取ると4本ともバイアスが異なり、スピーカに耳を押しつけるとボソボソと小さなノイズを発生していることが一寸気に入りませんでした。 改造について
VP-2000の音はそれなりのものでしたが、大音量でうるさい感じがあり、入力トランス式の2A3PPの音と比べると華やかさに欠けるなどの不満がありました。また、2A3PP差動アンプが好結果だったことにも後押しされて、思い切って差動アンプに改造することとしました。 |
![]() 改造前のVP-2000 ![]() VP-2000改造差動アンプの回路図![]() VP-2000改造電源回路図![]() 改造後のシャーシー内部の様子 |
改造設計など出力ステージ
出力ステージは2A3CをA級動作とし、出力7W RMS、プレート損失は最大定格(15W)以内、負荷はVP-2000搭載のOPTのインピーダンス5KΩ(両プレート間)、動作点はプレート電圧250V、プレート電流60mA×2、バイアス-45.5Vとしました(この値はVP-2000とほぼ同じです)。2A3差動アンプの電源はプレートに300Vを供給できたため、終段はグリッド電位を0Vとしてフィラメント電位を+45Vとする回路構成としましたがVP-2000は+B電源が250Vであるため同じ回路とすることができないので工夫が必要となりました。 ドライバーステージ
バイアス-45Vの2A3をドライバーがフルスイングするためには90V p-p(約32V RMS)以上の出力振幅が要求されます。本アンプではVP-2000と同じ6SN7を用い、動作点は手持ちのCRD(E-562)の関係からプレート電流を2.8mA、プレート抵抗43KΩでプレート電圧が120V、バイアスを-4.3Vとしました。この状態で14.5倍(23.2db)のゲインとなり、電圧スイングも十分得られます。この段のバイアスは-5Vと接続したバランサー回路を通して-2Vのグリッド電位を与えます。この状態でカソード電圧が+2.3Vとなりバイアスは-4.3Vとなります。 電圧増幅ステージ
電圧増幅にはVP-2000と同じ6SL7を用い、動作点は手持ちのCRD(E-102)の関係からプレート電流を0.5mA、プレート抵抗240KΩでプレート電圧が121.6V、バイアス-1.6Vとしました。この状態で57倍(35.1db)のゲインとなります。この結果、電圧増幅とドライバーの二段のゲインは826.5倍(58.3db)となり少し高すぎるようです。なお、このステージはバランス調整を省略していますので出来るだけ両ユニットの特性が揃っている6SL7を選びたいところです。 電源などについて
本アンプの各部で必要な電源をまとめると、全体の+B1は250Vで260mA以上の電流容量。終段のカソード電流供給用-C1は-6.5V/240mA以上、ドライバー段の+B2は電圧241.6V/14mA、2A3のバイアス用アジャスタブル電源-C2は-52Vが左右2系統。ドライバーのCRD電源-C3は-5V/15mAとなりますが、以上を安定化する必要性はありません。 調整方法やその他のこと
定電流源を用いた差動回路の場合、バイアスは球の個性に見合った値に落ち着く性質を持っているので設計値から大きく外れない限りそのままで良く、概ねバランス調整だけで済みます。本アンプの場合、配線のチェック後、OPTのP1とP2の直流抵抗が大差ないことを確認した上で、NFBの経路を外した状態にし、各種調整用半固定抵抗を設計値に合わせ、LM317の定電流回路とCRDの電流が設計値に近くなっていること、6SN7と2A3のバイアス電圧が設計値となっていることをそれぞれチェックしてから全ての球をセットして火を入れて各部の電圧が設計値に近くなっていることを確かめます。 まとめ改造が終わったアンプは期待通りのすっきりとした音で満足しています。使用した球は使い込んでいるのでエージングは特に必要ないようです。差動アンプにバランス調整を設けている場合は、ペアチューブは必須ではありませんが出力管はペアで売られているので歓迎できます。しかしながら、ドライバーの双三極管は同じバルブ内でも特性が揃っていないものが多いのでバランサーは設けた方が良いと思います。無帰還における三角波応答も素直で直線性は良いようです。NFBをかけた後の大まかな周波数特性の測定結果では、低域は10Hz付近までほぼフラットで高域は30KHz付近から減衰が始まるようです。10KHz矩形波に若干のリンギングを生じていましたので帰還抵抗に並列コンデンサを入れています。左右のクロストークはまだ測定していませんが殆ど気になりません。残留雑音は0.6mV以下となっているようです。 気になった点は、6SN7のステージが出力端子で20mV程度の100KHz付近の年老いた私の耳には聞こえない高周波のノイズを発生したことで、この対策としてCRD(E-562)に並列に500pFのマイカコンデンサを入れたら抑制できましたが原因は不明です。 |