通信用直熱三極管104-Dシングル、ロフチンホワイト型0.25Wモノラル・アンプ-2

直流設計などを改良しました

Oct.31,2010:設計変更して改造し、12Aの試作アンプは新規に作製したため関連する部分を削除しました
Dec. 7,2008:初 版


はじめに

 ジャンク箱の中のNEC製の通信用直熱三極管104-Dが長いこと気になっていました。この球は、手持ちがこの一本だけで骨董的価値も高いため壊したくないこと、フィラメントは点灯するけれど信頼できるデータが少ないため消耗の度合いが不明なので単なるコレクションとして保存するか、セットを組むかで迷っていたものです。また、セットがモノラルにしかならないことも試して見る気にならなかった一つの要因ですが、最近簡単なデータが見つかったのでチェックしてみたところ元気であることが判りましたのでとりあえず音を出してみることにしました。


 電圧増幅におなじみの12AX7の半分を使って104-Dと直結するロフチンホワイト形アンプを試作したら私好みの音が出るのでモノラル・アンプとしてまとめてみることとしました。アンプの外観をクラシックなスタイルとするため電圧増幅に6SF5のメタル管を用い、整流管には傍熱型の6X5-GTを使い。プリ板用ケミコンとカラーコードの抵抗を隠して、A4サイズの板の上に部品を木ネジで留めた「まな板アンプ」にまとめてみました。


104Dとはどんな球?

 アンプに使用したNEC製の104-Dは、その昔、電電公社(現NTT)が電話の中継用に使用していたもので、公社が廃棄したラックの中から40年ほど前(=1970年頃)に救い出した物です。このほかに101やバラストランプも複数あったのですが、当時はジャンク扱いだったので散逸してしまいました。今持っていたら貴重品となったと思うので惜しいことをしました。
 104-Dはウエスタンの104が本家で、ヨーロッパでも通信用として作られました。日本では戦前(戦前が分からない世代が多くなっていると思うので1930年代と補足しておきます)に日本電気が国産化したもので、電話の中継器で使用するためフィラメントをバッテリーで電流駆動するように設計されています。
 この仲間の球の型番の後に"D"が付加されている物は直流1A駆動を表します(例、CZ-504-D)。フィラメントは煌々と輝くトリタンではありません。球のベースはUV(小)でUXとは異なります。
 最初の写真で判るように、外形はテニスボール大で、M字形フィラメントを針金で10回ほど巻いたグリッドと2枚の金属板のプレートで挟んだ、絵に描いたような直熱三極管構造です。球の頭頂の角の脇にNKマークが入っていますので昭和21年から26年の間に製造されたものらしく私と同い年かもしれません。この構造は、オーディオ用として魅力的なキャラクターであることが想像できるものです。
 英国のStandard Valvesのデータシートには、104-D(=410D)は、プレート損失が5W、最大プレート電圧が160V、電圧増幅率μが2.3、内部抵抗が2kΩの低周波出力用途です。プレート電圧が160V、バイアス-30V、プレート電流が29mA、付加抵抗1.9KΩの時0.3Wの出力が得られると記されています。

回路構成

 最初はオーソドックスなCR結合かトランス結合を考えましたが、音質を重視して電圧増幅と出力管を直結するロフチンホワイト方式としました。
 電圧増幅にはクラシカルな外観のメタル管で増幅率が100の6SF5を用い、これと104-Dを直結する構成としました。傍熱管の6SF5と直熱管の104-Dを直結するため電源にはダイオードや直熱整流管を使えないので傍熱型の全波整流管6X5-GTを用いることとしました。

回路設計の概要

 前述の104-Dのデータから動作点を、プレート電圧160V、プレート電流29mA、グリッドバイアス-30Vに決めます。プレート負荷は2KΩですが、手持ちの出力トランス(ノグチのPMF-6W)の都合で二次側8Ω、一次側3KΩ端子を使用し出力は8Ω負荷0.25W RMSとしました。
 バイアスが-30Vの104-Dをフルスイングするためにはグリッドに21V RMS以上を与えることが必要となります。6SF5はμが100、プレート供給電圧300Vで500KΩ負荷の時、ゲインが38db程度得られますので入力262mV RMSで104-Dをフルスイングできます。
 アンプの仕上がり出力を8Ω負荷で0.25W RMS、入力を0.5V RMSとすると必要なゲインは9dbとなります。このアンプの裸のゲインは約15.4dbなので6.4dbの負帰還が可能なことが解ります。
 ロフチンホワイト回路では、前段のプレート電位が次段のバイアスとなるため前段のカソードを負に引っ張るか、次段のカソード電圧を嵩上げすることが必要です。本アンプでは6SF5のカソードを負に引っ張り、104-Dのグリッドを0V相当にして自己バイアス方式とし、直流的にも帰還を与え動作を安定させることとしました。


NEC製104-Dの外形


104-Dシングル、モノラル・アンプの回路図


104-Dシングル、モノラル・アンプの外観


104-Dシングル、モノラル・アンプ(上面)

 6SF5の動作点を、プレート供給電圧300V、負荷抵抗500KΩ、プレート電圧150V、バイアス-1.5Vに決めます。プレート電圧=104-Dのグリッド電圧とし、この電位を104-Dのプレート供給電圧(=通常の+B=プレート電圧+自己バイアス+トランスのドロップ=195V)のマイナス側とします。
 6SF5のプレート電圧が104-Dの基準電圧0Vなのでカソードに−150Vを供給すると相殺できますので別途-150Vの-C電源が必要となります。104-Dを基準にした電源は+Bが195V、-Cが-150Vです。しかしながら、電圧増幅管のカソードがグランドより-150Vの電位があると危険なので-150Vをグランドに落とします。これにより、104-Dの共通電位は+150Vとなり、+Bは345Vとなります。電源トランスは所用電流がDC30mA強なのでノグチトランスのPMC-35Eにがんばってもらいます。
 傍熱管の6SF5と直熱管の104-Dを直結するため電源にはダイオードや直熱整流管を使えないので傍熱型の6X5GTを用い、+B電源電圧が195Vと低いためチョークインプット方式を採用しました。6X5を用いた理由は、本アンプに使用する電源トランスは小型で十分なのですが、多くの市販小型トランスは主回路用と0.8A程度の整流管用の二系統だけなので104-Dに1Aを供給するために主回路用巻線を使うとヒーターカソード間耐圧が90Vの6SF5とは共用できないため6SF5は別巻線の整流管用を使用することとなります。104-Dと整流管とで巻線を共用するためにはカソードとヒーターが分離し、耐圧の高い6X5が最適であったためです。本アンプでも6X5のヒータは104-Dと同じ巻き線を使用しています。
 -C電源の容量は数ミリアンペアだけなので1N4007の半波整流ですが+Bとの電位差が500Vを超えるので感電注意です。104-Dのフィラメントには6.3Vをブリッジ整流して3300uFのケミコンで平滑し、ハムバランサーを通して与えています。
 実際の回路では104-Dの劣化からか、プレート電圧160Vの時、バイアス-35V、プレート電流23mAの動作点となりました。6SF5のバイアスとNFB回路には調整用の半固定抵抗を入れています。
 以上を基に、各部の実際の定数を決めたアンプの回路図外観を上に示します。6SF5のバイアスとNFB回路には調整用の半固定抵抗を入れています。アンプの残留ノイズは1mV以下でした。
改造前のアンプの回路図外観はこちらです。


製作と音色などについて

 本アンプをロフチンホワイト形としたのは、以前作成したインターステージトランス方式2A3PPモノラルアンプのドライバー回路の実験でかなり良い音がする方式であることを体験できたからです。
 このアンプを作るためには104-D用のUV(小)ソケットを安価に調達することが必要でした。一般的な使用状況ではベースのバヨネットピンは引っかけなくても良いのでベーク・ウエーファーのUXソケットに強引に差し込めば実験程度なら使えます(タイトソケットは使えません)。私の場合、ベーク・ウエーファーのUZソケットを分解して104-Dのピンに合わせた穴を開けてコンタクト電極を組み直して改造使用しました。104-Dの電極の先端にはソケットとの接触を良くするため金の玉が付いているのですが残念ながら御利益を放棄してしまいました。
 外観をクラシカルにするため、ベークのウエーファーソケットなどの手持ちの出来るだけ古風な部品を木の板に木ネジで留める「まな板アンプ」構造にして見ました。ただし、6SF5の周りはノイズを拾う心配があることと、形がイマイチな基板用ケミコンやカラーコードの抵抗を隠すために小型の金属箱に組み込みました。
 私は骨董マニアではないのでこの球が使われていた時代の再現にはあまり興味がなくて、ソケットや電線、部品、相棒となる球を時代に合わせるような贅沢はいたしません。現用の球のラインアップが104-Dを引き立たせていると思います。また、ビンテージマニアの方々には怒られそうですがNFBは必要と思っております。
 音色は先入観を差し引いても「すばらしい」の一言につきます。問題はこれとステレオペアが組める相方で、球は手持のUX-12AかUX-71Aあたりでしょうか。キャラクター的にはUX71Aが最も近い感じでフィラメント周りとバイアスを変更すればこのままの回路でも動くと思います。89の三結はとても良い感じの音が出ますのでそれも良いかなと思ったりしています。
 最近、このアンプの相方としてUX12Aを使ったアンプを作製しました。本アンプの回路は同UX12Aアンプの回路と同じにしました。二つのアンプは、0.25Wの非力さを感じさせない、これぞ直熱三極管と言う涙が出るほど素敵な、決して柔らかいだけではない音で、伊藤君子のRIVER OF CRYSTALSやフィリッパ・ジョルダーノのADDIO DEL PASSATOなどの歌声のとりこになっています。


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