5月2日(土) [碇シンジ]


今日は土曜日。

そして今日は、アスカと出掛ける約束の日だったんだ。

この前僕が寝坊した日、アスカが僕の代わりに朝ゴハンを作ってくれたお礼って言うことでね。



どこに行こうか、ずっと考えてた。

だって、アスカに聞いたら、


   『シンジが誘ったんだから、自分で考えなさい。

   言っとくけど、このあたしを誘うんだから、つまんないところだったらぶっ飛ばすわよ。』


なんて言うんだもん。

でも、アスカの言うのももっともだよね。

やっぱり僕が決めないと…。



いろいろ悩んだ挙げ句、僕は決めた。

そして今日は、アスカに何にも教えないで一緒に出掛けたんだ。

まずは三駅ばかり電車に乗る。

そうすると、周りはすっかり山ばかりになってくるんだ。


アスカは、


   『なぁに?山にでも登ろうって言うの?

    あ、それでスカートはやめろって言ったんでしょ。ね、あたり?』


なんて言ってたけど、僕はあえて、なんにも言わなかった。

アスカはそんな僕を不満そうに見てたけど、でも、楽しそうにも見えたな。



駅に降りて、僕は目的の場所まで歩いた。

その場所って言うのは…。

貸し自転車屋さん。

そう、僕はサイクリングをしようと思ったんだ。



アスカはどうかなって思ったけど、


   『ふ〜ん、サイクリングねぇ。

     結構いいんじゃない?シンジにしては。』


だって。

でも僕は、やっぱりほっとした。



ふたりでATBタイプの自転車を借りたんだ。

僕は銀色のやつで、アスカはやっぱり赤いやつ。

このあたりってサイクリングコースになってて、みんな結構走ってるんだよね。


僕たちも走った。  ふたりで一緒に。

時々止まって景色を眺めたり、時には草むらで寝転がって休んだりしながら。

競争になっちゃったりもしたっけ。

ちょっとの差で僕が負けちゃったけど、アスカは驚いた顔をして、


   『シンジも結構やるわね。ちょっと見直したわ。』


なんて言ってたな。



夕方近くになって、僕はもうひとつの目的地に向かって自転車を走らせた。

アスカは


   『どこに行くのよぉ。』


って不満そうに言いながらも、付いてきてくれた。

そうして僕らが着いた場所は…。

第3新東京市が一望できる、展望台なんだ。

そう、僕が初めて、ミサトさんに連れてこられたところ。



もう、あの時みたいに兵装ビルが上がってくることはほとんどない。

でも、ここからの景色を、第3新東京市を、アスカと一緒に見てみたかったんだ。


僕もアスカも何も言わずに、夕焼けの中の第3新東京市を眺めていた。

しばらくして、アスカが言ったんだ。


   『あれが、私たちの街なのね。』


って。


僕はただ一言、   『うん。』   って言った。

でも、それで十分だった。

きっと、アスカも同じ気持ちだったと思う。




それから僕たちは自転車を返して帰ったんだけど、帰りの電車の中じゃ

僕もアスカも、ほとんど口を利かなかった。

でも、それでよかったんだ。

だって、アスカの考えていることが、僕にもわかったような気がしたから…。





          5月5日(火) [綾波レイ]


綾波レイです。


今日は5月5日。

『子供の日』という日らしいわ。

布で出来た魚のような変なものがたくさん上がっていると思ったら、そういうことだったのね。

碇くんが教えてくれた。



今日はみんなで集まって、パーティーをした。

『子供の日』のパーティーだそう。

弐号機パイロットは、


   『そんなの子供っぽくってやだな〜。』


って言ってたけど、顔は笑っていた。

葛城三佐は、


   『まぁまぁ、楽しいんだからいいじゃない。』


って言いながら、ビールをたくさん飲んでいた。

そうしたら、赤木博士が葛城三佐を見ながら言ったの。


   『あなたの場合は飲めればなんでもいいんでしょ。』


葛城三佐、そうだったの?



碇くんは鈴原くんや相田くんと一緒に、楽しそうにしていた。

ときどき、弐号機パイロットにいろいろ絡まれていたけど…。

でも、碇くんも笑っていた。



私はどうだったのかしら。

私、途中で自分がよくわからなくなってしまったの。

白い徳利の中に入った飲み物を飲んでから…。

ちょっと変な味がしたけれど、飲み始めたら美味しくて、たくさん飲んでしまった。

そうしたら、とてもいい気もちになったの…。


それからのことは、私、何も覚えていない。



気が付いたら、碇くんの家で寝ていた。

私、どうしてしまったのかしら……?





          5月9日(土) [赤木リツコ]


参ったわね。

なにってレイのことよ。

やっぱりミサトが一緒にいたのがまずかったのかしら。



様子が変だとは思ったのよ。

とろんとした顔をしていたし、頬も少し赤い気がしたし。

目も赤い…って、これはいつものことだったわね。


ちょっと目を離したのがいけなかったのかしら。

よりにもよって、日本酒を飲んで酔っ払っちゃうとはね…。

ミサトなんかに頼った私が馬鹿だったわ。



今日ね、レイを呼んで言っておいたのよ。


   『お酒は20歳になるまで駄目よ。』


って。

そうしたらレイは表情を変えて、


   『赤木博士、何故駄目なんですか?』


って言うのよね。

あの時のレイの顔、私は忘れられないわ。

とても恨めしそうな顔をしていたからね…。



え?どうやって説得したかですって?

簡単なことよ。

私はこう言っただけ。

でも、これ以上効果的な方法は恐らくないわね。

私はこう言ったの。


   『レイ、ミサトみたいになりたいの?』





          5月10日(日) [葛城ミサト]


おっひさしぶりー。ミサトさんでっす。


久しぶりに出てきたと思ったら、なによなによリツコ!

それってどういう意味よ!

そりゃ、レイがお酒を飲んじゃったのは私の責任だけど、

でも少しくらいいいじゃない。ねぇ。



レイもレイよ!

なんでリツコの言葉に納得してんのよぉ。

そう、レイまであたしのことをそういう目で見てたのね。

よーっくわかったわ。



あっ、シンちゃんにアスカ!

アンタ達まで頷いてんじゃないの!


そう、そういう態度を取るならこっちにも考えがあるわ。

なに?小遣いを減らすのはやめてくれ?

ちっちっちっ。甘いわね。


さぁて、ここに取り出します一枚の写真、これはなんでしょう?

『『あっ』』じゃないわよ。ユニゾンで驚いたって駄目よ。

これをみんなに見せたらどうなるのかなぁ?


…ふっ、わかればいいのよ。

じゃあね、シンちゃんは今日、あたしの好きなものを晩ゴハンに作ること。

アスカはあたしの肩を揉むこと。

今日のところはそれでとりあえず許してあげるわ。


そうよぉ。あたしを怒らせると恐いんだから。





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