<旧車シリーズ 206>


SUZUKI FRONTE 800 (C10)


 スズライトフロンテで軽乗用車の世界に確固たる地位を築きつつあったスズキが、成長市場にある小型大衆車クラスに打って出たのが、1965年に登場したフロンテ800である。
 フロンテの名こそ残しているものの、この800のデザインは全く別物で、モノコックボディ+曲面ガラスの骨格上に描かれたボディラインは極めて近代的なテイストだった。が、それ以上に注目を集めたのはその独創的なメカニズムで、スズライトフロンテで実績のあるFF駆動方式をこのクラスとして初めて投入、ボンネット高を抑えるためにエンジンを30度傾斜させて縦置きに搭載している。そのエンジンは日本初の空冷2サイクル3気筒で、オイル潤滑にはスズキ・セルミックスと呼ぶ自動混合方式を採用、785ccの排気量から41psの最高出力を発生した。トランスミッションはフルシンクロの4速コラムシフトである。さらに、サスペンションはダブルウィッシュボーン/トレーリングアームにそれぞれトーションバーを組み合わせた4輪独立懸架式を誇った。
 こうした豪華メカニズムの搭載により、東京店頭渡し価格は54万円とされ、当時の1500ccクラスの標準車にも匹敵するものとなって
いた。

 空力的にも洗練された美しいスタイルが特徴的なこのフロンテ800ですが、高めのプライスも災いしたのか、弟分のフロンテ360ほど大きなセールスにはつながらなかったようです。残存車も少なく、私はナンバー付きの現役車には未だにお目にかかったことがありません。
 資料によるとフロンテ800は地元の浜松界隈でタクシーとして多く活用されていたそうです。超スタイリッシュなタクシーとして抜群の存在感を誇ったに違いありませんが、いかんせん2ドアでは、営業上不都合が多かったでしょうね。

推定年式:1966
撮影時期:1988年7月
撮影場所:富山県小矢部市 日本自動車博物館にて