「草野球の窓」
第5章
「消化管の科学」
〜(1)消化管の特殊性〜

 我々草野球人のみならず、すべてのスポーツ愛好家・・・・いやすべての動物にとって消化管は重要な器官です。それは動物が生存するために必要な栄養素を吸収する唯一の器官だからです。この章では、胃・小腸・大腸を中心とする消化管に関する情報をシリーズで掲載したいと思います。
 しかし、消化管はわかっているようでありながら、実は学術的に解明されていない点が非常に多い器官です。なぜ解明されていないのか? 火星の表面がテレビでオンエアされ、ヒトの遺伝子情報がほぼ解読されようとしている時代だと言うのにです。まずはこの点から明らかにしなければならないようです。

ミミズと消化管
 突然ですが、ミミズを思い浮かべてみます。ミミズはほとんど身体全部が消化管です。脳も肝臓も腎臓もありません。イソギンチャクなどもそうです。最も下等な動物種では消化管しかないものがほとんどです。つまり「動物の基本形は消化管である」と言えます。動物が高等になるに連れて、肝臓が備わり、腎臓が備わり、ついにはヒトのように立派な脳を持つに至ります。しかし、様々な器官が備わったとしても、消化管の重要性はいささかも揺らぐものではありません。栄養素を吸収する消化管の存在がなければ、それらの器官の意味もなくなるからです。

消化管の“脳力”
 さて、ミミズは脳がないのになぜ生きていけるのでしょうか。それは

「消化管が脳の機能を持っているから」

です。消化管には神経が発達しており、消化・吸収に関するほとんどの反応を脳の助けを借りず、独自で判断し、実行する能力があります。マイスネル神経叢、アウエルバッハ神経叢と呼ばれる神経叢を中心とする消化管の神経網は、すべてを合わせると脳を上回るとさえ言われています。我々は食事の後、「さぁ、消化酵素を出そう」とか、「さぁ、小腸を動かそう」などと考える必要がありません。すべて、消化管が勝手にやってくれます。ミミズが生きていける原理もほぼ同じです。我々が寝る前に何かを食べたとしても、寝てる間にきちんと消化されます。それはひとえに消化管が脳の機能を持っているからなのです。

 糖分を分解する酵素である、スクラーゼやマルターゼなどは消化管から分泌されますが、これには一日の間に周期性があることがわかっています。つまり、食事をした時に最も分泌されるようになっているのです。絶食を続けた場合、5日ほどでこの周期性は消失します。そして以前と違う時間帯に規則的に食事をすると、数日後にはきちんとそれに対応した周期性を示すようになります。このように脳の支配下になくとも、自ら外的要因に対処することができるわけです。

 しかしときには、脳の干渉を受けることもあります。特に不安や悲哀を感じているときは、消化管活動は抑制されることがあります。また逆に消化管が脳に干渉する場合もあります。毒物などを飲んでしまったとき、消化管はそれを察知し、神経を介して脳にある嘔吐中枢を刺激します。その結果嘔吐が起こり、生体の被害を最小限に食い止めることができるわけです。

 このような消化管の独自性を考えると、単なる器官というより、一個の生物と考えた方が理解が早そうです。脳とは独立して自ら判断し行動する一つの生物・・・・これが消化管の特殊性です。我々は消化管という生物に栄養吸収を委託しているわけです。まずはこの特殊性を理解してください。

(初版2000.7.29)

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