スペイン・フランス・イタリア・トルコ/地域問題研究所海外視察(1990.9.15〜29)
(バルセロナ・パリ・ローマ・ボローニャ・フィレンチェ・ヴェネチア・ミラノ・イスタンブール)

1.歴史の重み

 ガウディの建築は、写真やビデオだけでは決してその良さがわからない。街とともに見ることによってその良さというものがひしひしと感じてくる。正直言うと、バルセロナを訪れるまでガウディがなぜそれだけもてはやされているのかわからなかった。なんとなく、グロテスクに感じる建築が、実際は街にとけ込んで、バルセロナの街を特徴つけている。直線をきらい、曲線を多用した建築。階段すら、直線でない。サグラダ・ファミリア教会のガウディ作の部分と協会作の部分のなんと印象が異なることか。

 オルセー美術館。日本の美術館にくらべて何と空間の豊富なことか。これが駅の改造により生み出されたとは。かつての駅の構造物を随所に見せながら、大量の美術品をいとも無造作に展示している。美術作品の多さが空間をこのように豊かに感じさせるのだろうか。

 ヨーロッパの都市には色がある。現代の日本では様々な色が混沌としている中で、ヨーロッパの都市には歴史に裏付けられた色がある。特にボローニャの色は強烈である。独特の煉瓦色と山吹色。色を見ただけで、ボローニャだということがわかる。

 ボローニュアの保存・再生はあくまでも忠実だ。いくら便利であることがわかっていても、過去になかったベランダを新たに設けることはない。「ポルチコ」という日本の雁木のような半公共空間も、都市としての利便性を考えれば、一部欠けている部分には新たに設置すればいいように感じるが、決してそんなことはしない。斜めになった塔もそのままだ。

 サンタルチア教会は、保存と再生の好例だ。歴史的建造物と現代建築がマッチしている。くずれた煉瓦をきれいに修復するようなことはせずそのままを見せる。崩れた感じがこんなに調和するなんて。再生のあり方を感じさせられる。

 スペイン広場周辺のマクドナルドは噂に違わず、すごい。1、2階を利用していて、1階にはエントランスと少しのテーブルしかない。マークがないと、マクドナルドとはわからない。2階も広く、装飾は明るい。歴史的風土と現代的空間の調和とはこんなものを言うのだろうか。

2.都市の利便性とは

 ミラノでは日曜日から月曜日の午前中まで店舗が休みで、カメラの電池を買うのに苦労させられた。日本のコンビニエンスストアのような便利なものがなく、買いたい時に買いたいものが買えない。自動販売機も地下鉄の切符とタバコぐらいしかない。ジュースやビールはBARがあるからだろうか。それなのに、銀行のカードは便利だ。24時間金の引き下ろしが自由だ。バルセロナでは、クレッジットカードが自由に使える。スペイン語以外に、英語やフランス語の説明もでる。ミラノやフィレンチェでは、まちなかに外国紙幣の自動両替機もある。国際都市とはこんな都市をいうのだろうか。

 バルセロナの新しい地下鉄は非常に分かりやすい。料金はすべて均一であるし、すべての行き先が表示され、車中では現在どの駅に止まっているのかが電光表示によりわかるようになっている。外国人にも分かりやすい。名古屋の地下鉄の表示がデザインを重視するあまり、わかりにくくなってしまったことと比べると、本当の国際化の意味を考えさせられてしまう。

3.再開発の意味するもの

 日本では今再開発がブームだ。それは低水準の建築物のスクラップによる現代建築の創出だ。ヨーロッパでの再開発は少し違う。もちろん日本型の再開発もあるが、主流となっているのは歴史的な建造物の保存再生だ。歴史の重みが違う。建築構造が違う。でもそれだけではない、開発というものに対する考え方の違いがあるようにも思う。修復などのプロジェクトに多く係わった建築家は、自分自身が新たに作る建築が、同じように再生の道をたどるだろうということを自覚して、設計に臨んでいるという。

4.観光化の意味するもの

 今回の旅ではボローニャを除くとどのまちも観光客がいっぱいだ。そのことは経済を活性化させ、歴史的建造物を活かした再開発を促進する意味もあろう。しかし、このように多くの人が集まることが、都市にマイナスの影響を与えていることも否定できない。第1に、都市の美観である。何故、観光客はこうも多くのゴミを巻き散らかすのだろうか。第2に観光客をねらった商売の悪影響である。ローマの客引きは巧妙な手を使う。イスタンブールでは子供達が巧みな日本語で物をふっかけて売ってくる。

 日本の世界の観光に占める位置というものも考えさせられる。旅なれない日本人が急激な円高により、大挙して海外に出かけ、物価の安さから金を使いまくって来たのだろうか、日本語のうまい売人が多い。東南アジアでみられた「シェンエン(千円)、シェンエン(千円)」の呼び声がこだまする。有名な観光地には日本語のガイドブックがある。日本語の本が多く売られている。ジャポンと気軽に声をかけてくる。どんどん日本の観光消費国として位置が高まっているみたい。しかし、その位置の高さに比例して上手な観光ができているかというと疑問符を投げかけざるを得ない。日本の物価が高すぎることも一因だろう。が、やっぱりブランド物を買いあさる旅は、本当の旅ではないような気がする。

 

最後に、今回の旅で心残りに思ったことを…。

1)ルーブルのピラミッドのライトアップを見のがしたこと

 夜、暗くなるのが遅いのに、あんなに早く(10:30でもうライトアップは終わっていた)終わるなんて思ってもいなかった。体調が悪い中を長時間またせてこんな結果になってすみません。松村さん。

2)トレビソで30分も時間を無駄に費やしてしまったこと

 貴重な時間を有効に使おうと1人で走り回った結果がこれとは。やはり、タウンウォッチングには最低1時間は必要だと最初から主張しよう。

3)バザールで1時間しか時間がなかったこと

 バザールの大きさとその雰囲気を感じている内に時間がきてしまった感じ。いいみやげを探したり、店員とやりとりするにはもっと時間が欲しかった。

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