オーストリア・オランダ・ブリュッセル/日本住宅会議海外視察(1994.7.6〜16)

 私の海外視察はこれで4度目となった。最初はとにかく初めてのものばかりで、驚くだけであった。海外視察は、新しい刺激を受けるだけでも大きな糧となるが、できればそこから何かを得ることが重要だろう。これまでは、どちからというと、ウォーターフロント開発や再開発など表に現れたものの成果に関心し、それをいかに日本に取り入れるかという視点でしか見てこなかったような気がする。また、都市のすべてが視察対象となるがゆえに、とにかく何でも見てやろうということで、散漫なものになりがちでもあった。そのため、都市のほんの一部をそれも特定の時期にだけ見て、日本とは違うと一刀両断のもとに判断してしまうおそれもある。

 今回の視察では、ヨーロッパの住宅施策の一端ではあったが、それを体系的に見聞することができ、ものごとの表面だけではなく、その背景となる社会システムや思想を知ることができたという点で、これまでの広く浅くの視察とは違った意味で充実したものとなった。海外視察の重要な視点を教えられたともいえる。

 今回の視察では住宅が中心であり、それについては別途整理したいと考えているので、ここではその他の分野について感じたことをいくつか列挙してみたい。

(1)ウィーンにおける都市の豊かさ

 ヨーロッパの都市では歴史的建造物の保全が重要なテーマとなっており、長い歴史を有するウィーンにおいても歴史的建築物の修復に積極的に取り組んでいる。しかし、それは単に過去の建築物をそのまま保全するだけではない。シュテファン寺院に隣接するハースハウスやオペラ座近くの商業施設などは、随所に斬新なデザインを取り入れながら、それが周辺の歴史的雰囲気と違和感なくとけ込んでいる。過去を翻訳して未来を表現することによって、新たな魅力を創造したといえるだろう。

 ウィーンの7、8月はオペラ座も閉館され、音楽はオフシーズンにあたる。にもかかわらず、まちの様々なところでコンサートが開かれており、まちを歩いていると、偶然、そんな場所に出くわす。ケルントナー通りでは、様々なストリートパフォーマーが演奏を繰り広げ、その音楽にあわせて子ども達が踊っていたりする。まさに、まち中が音楽にあふれているといえるだろう。

 ヨーロッパの昼は長い。夜の9〜10時ごろでも明るく、公園でスポーツに興じる人々が多くいる。仕事が終われば、帰って寝るだけの日本人と違って、生活をまさに楽しんでいる。だからこそ、身近に豊かなレクリエーション空間が整備されているのだろう。都心からわずか10分のところに、ドナウ島やドナウパークが作られている。生活の豊かさが都市空間そのものを豊かにしている。

(2)オランダにおける環境重視の施策

 日本はアジアにおけるイギリスをめざすのではなく、アジアにおけるオランダを目指すべきだということを聞いた。経済大国は中国にまかせておけばよく、日本は小さくとも環境大国をめざすべきだと。日本のすすむ道について、日頃感じていたことが、オランダという言葉で表現されていることから、オランダに高い関心を持っていた。したがって、オランダについては、住宅施策よりも環境施策について興味があったが、実際にオランダを訪れ、様々な話を聞いてみると、環境を重視するがゆえに住宅施策にも力を入れているのだということが実感できる。オランダ人の価値観がそのまま政策に現れているといえるのではないだろうか。

 ハーグの中央駅の正面に広大な公園があるだけでなく、そこには人間の入れない動物のための聖域があったり、集合住宅のすぐ隣が、牛の放牧地であったりする。オランダの自転車利用が多いのは、平坦であることや職住近接、経済性が理由としてあげられているようであるが、もっと根元的なものとしてオランダ人の環境を重視する考え方が背景にあるではないだろうか。そうでなければ、便利な公共交通機関がありながら、若い女性がミニスカート姿で通勤に利用したり、休日のレクリエーションとしてあれだけ自転車が普及するだろうか。歩道と平行して自転車道が確保され、さらに自転車のための信号機まである。オランダ人の価値観が都市空間にも現れている気がする。

(3)ブリュッセルの王立美術館

 海外視察で様々な美術館を訪れるたびにその豊富なコレクションとそれを身近に鑑賞できることに感心していたが、王立美術館は、地下8階まで活用し、地上は歴史的環境との調和を図っているその建築もさることながら、古典から現代美術までにわたる豊富な作品を無料で誰もが自由に鑑賞できるようにしているところがすばらしい。フランダースの犬のネロ少年はお金がないがゆえにルーベンスの作品をみることができなかったが、その悲劇を繰り返すまいというところであろうか。カンパによって運営をまかなっているようであるが、そのカンパ箱に小銭ではなく、紙幣が投入されていることも市民意識の高さを感じた。

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