まちの再発見−「地図」をテーマとしたまちづくり
愛知県文化のまちづくり論文入賞(91.11)

1.はじめに

 はじめて「まち」を訪れた時、いろいろな情報を与えてくれるのが地図だ。駅前の案内図から国土地理院の地形図、観光マップ、市街地のイラストマップなど様々なものがある。

 地図は目的地を探す時だけでなく、地図からいろんなことを空想することもできる。ここから見た景色はきれいだろうとか、ここの小川の水はどんなだろうとか、この建物は周囲から目立つところにあるけどどんだだろうなど。訪れたことのないところでも、地図のおかげでいろんな空想ができる。

 「文化」という時、芸術や音楽、演劇、文学、伝統芸能、歴史的資産等をすぐに思い浮かべるが、様々なことを空想させてくれる地図もまた文化といえるのではないだろうか。

 戸賀の演劇によるまちづくり、飯田の人形劇によるまちづくり、湯布院の映画によるまちづくりなど各地で様々な文化のまちづくりがすすめられているが、地図によるまちづくりというのも考えられるのではないだろうか。

 愛知県では犬山市において国立地図学博物館を誘致する動きがあり、市内各地を「世界の主要都市」に仕立てるという計画づくりをすすめているという。このような動きのある中で「地図」集めと「地図」づくりによるまちづくりを考えてみたい。

2.「地図」集め

 国立地図学博物館では世界各国の地図の収集をあげているが、様々な変わった地図を集めることもおもしろい。「地図」集めによってまちを再発見することもできる。

 例えばまちめぐりのためのイラストマップ。歴史的資産の残るまちなどではまちめぐりのルートを設定しているところが多く、イラストマップが作られている。自分達のまちと比較してみることで新たな発見があるだろう。

 古地図。地図はまちの発展を見る上でも重要だ。城下町絵図などと現在の地図を重ねあわせてみるだけでもいろんな発見がある。また、倉庫に放置されているような少し前の地図と比較するだけでもいろんな違いに気づくだろう。

 都市の鳥瞰図。ニューヨークやシカゴなど建築物に特徴のある都市では個々の建築物の外観のわかる鳥瞰図を作成している。市街地の状況が一目でわかり興味深い。

 その他、地図として活用される以外のものでも地図の描かれた美術品(陶磁器や置物など)や日用品(ハンカチや文房具など)、切手など様々なものあげられる。

 このような学術的意味とは少し異なった地図を集めた「地図の館」みたなものを作ってみてはどうだろうか。

3.「地図」づくり

 路上観察とか建築探偵ということにもつながることであるが、ここではむしろそれを地図としてまとめ、様々な人々にアピールすることでまちの再発見につなげるということに主眼を置いている。

 以下にテーマとなりそうなことについて触れてみたい。

(1)建築マップ

 従来からまち歩きのコースとして、社寺等の歴史的建築物等を巡るコースが設定されている。しかし、まちの魅力を構成するのはそれらばかりでなく、近代建築や現代の建築の中にも魅力的なものは多い。まちの歩きの目印となるような様々な建築物を紹介するのが建築マップだ。具体的には以下のような建築物が対象としてあげれよう。

●歴史的建築物−文化財、社寺、復元されたもの(城など)、古い建物を利用した博物館や喫茶店など)、町並み保全地区 

●近代建築物−文化財、重要建築物として指定されているもの、文献で紹介されているもの(近年、近代建築物に対する関心が高まり、「東海の近代建築(1981 中日新聞本社)」「近代建築ガイドブック[東海・北陸編](1985 鹿島出版会)」等この地域を対象とした文献もまとめられている)

●現代建築物−多くの人々を集める文化・アミューズメント施設、都市景観賞等を授賞したもの(名古屋市などで実施)、コンペ作品、著名建築家の設計したもの等

(2)看板マップ

 まちの中で意外に目につくものが看板である。まちの景観を壊しているような看板が多い中で、歴史的な看板や最新のものに魅力的なものが見られる。

 歴史的なものでは、ろうそくやちょうちんの形をした看板や様々な装飾のある木の看板など、名古屋の都心部でも様々なものを見つけることができる。近代の看板の多くが店名だけを誇示していたのに対して、まちに落ちつきを与えている。このような看板も建物の建替えとともに失われてしまう傾向にあるのが残念だ。

 年の建築物では、景観への配慮から看板についても様々な試みがされている。歴史な看板を継承したもの、建築物と一体となったもの、まちとしての調和を図ったもの、デザイン的に優れたものなど、まちの新しい魅力につながっているものもある。こんな看板がもっと増えてほしいものだ。

(3)彫刻マップ

 最近野外彫刻がまちに見られるようになってきた。歩道整備に伴って設置されるもの、ビルの公開空地の整備とともに設けられるもの、玄関のアプローチに置かれているもの等々。このほかにも、近代建築に見られるテラコッタといわれる焼き物の装飾もとりあげてもいいだろう。

 彫刻によるまちづくりとして自治体が彫刻の設置をしている例は多いが、企業やここの建築主によって様々な試みがなされており、これらをまとめるだけでも魅力ある彫刻のまちが発見できるのではないだろうか。

(4)ミニ世界のまちマップ

 「ミラノ」「サンパウロ」「フィレンツェ」

 毎日何気なく通っていた喫茶店やレストランだが、気をつけてみると私の仕事場の周辺にはこんな世界都市の名前をつけた店が多い。

 そこで思いついたのがミニ世界のまちづくり。店名を世界の街というコンセプトで統一するだけで魅力的なまちができるのではないだろうか。

(5)小説舞台マップ

 小説や映画に自分の住んでいる街が出てきたとき、その作品に愛着を感じるのは私だけではないだろう。

 そんな作品を集めて地図にするのもおもしろいし、新たな魅力づくりにつながるのではないだろうか。

 京都や横浜、神戸、札幌といった特色あるまちに比べて愛知県は舞台になりにくい。しかし、これだけ多くの小説があるのだから、意外にいろんなところに顔を出しているのではないだろうか。

 ちなみに、私がよく読む推理小説の中で探してみただけでも

「蒲郡プリンスホテルも雪江好みの格調の高いホテルだ。三河湾に臨む丘一帯の広大な敷地に、緑あふれるような木々に囲まれた、古風な館−という印象だ。」(三州吉良殺人事件、内田康夫著)

「犬山署を出ると、浅見はソアラの鼻先を明治村の方向へ向けた。」(美濃路殺人事件、内田康夫著)

「近年、この四谷通りと、それにつながる山手通りが、名古屋のファッションストリートとしてにわかに脚光を浴びている。」(名古屋殺人事件、矢島誠著)

というのが目についた。

 こんな小説の舞台をまとめることで、自分達のまちの意外な側面を知ることができるのではないだろうか。

 さらにいろんなテーマに沿ったまち歩きのコースを設定し、実物を見ることもまちの再発見につながるのではないだろうか。

4.参加によるまちづくり

 まちづくりにおいて住民の参加を得ることが重要であることは言うまでもない。しかし、様々な利害関係が輻輳するまちづくりでは、参加が得にくいことも事実だ。

 「地図」集めや「地図」づくりにおいては多くの人々の参加を得ることが重要であり、また誰もが気軽に参加できるものでもある。

 様々なところで見つけてきた「地図」を持ち寄り、個々人が持つ様々な情報によって「地図」づくりを行う。こんな過程をイベントにし、遊び感覚で参加してもらうのだ。

 情報収集ではパソコン通信の活用を考えたい。例えば小説舞台マップづくりでは、どの小説が愛知県を舞台としてとりあげているかをまとめるだけでも大きな問題だ。そんな便利なデータベースがあればいいが。そこでパソコン通信を利用し、愛知県を舞台とする小説に関するデータをどんどん書き込んでもらうのだ。データベースを新しく作ってしまうのである。データを提供してもらう人々は何も愛知県に限る必要はない。むしろ全国的に募ることで愛知県をアピールすることもできるだろう。コンピュータを活用したまちづくりというとキャプテンのように情報提供という面が中心になっているが、参加の手段として考えることが必要となってくるだろう。

5.おわりに

 ここで提案している「地図」をテーマとしたまちづくりは、ある意味では愛知県に限らず、全国どこでも可能である。しかし、愛知県では犬山市における国立地図学博物館誘致の動きがあり、学術的な動きと市民レベルのまちづくりを組み合わせることでさらに魅力あるものとすることが可能だろう。

 「文化のまちづくり」というと何か高尚なものをイメージしてしまうが、遊び感覚で参加できるまちづくり、まちの再発見につながるまちづくりというものをもっと考えてみるべきではないだろうか。

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