伊勢・河崎のまちづくり
建築学会東海支部都市計画委員会春の見学会(2001.4.14)

 伊勢・河崎のまちづくりは、町並み保全の住民運動として有名であり、学生時代から関心を持っていたが、何故かこれまで訪れたことがなかった。むしろ、後発の取り組みともいえる、おはらい町の再生型町並み保存やおかげ横丁の方が話題になったこともあり、そちらの方を先に訪れた。数年前の同じく学会の春の見学会であった。
その後、伊勢市では都市計画マスタープランにおける住民参加やまちづくりブックの取り組みなど、まちづくりの面でも話題を集めている。私自身、現在、桑名市でまちづくりブックの制作に取り組んでいることもあり、伊勢市のまちづくりに興味を持っていた。
今回の見学会では、河崎のまちづくりがテーマであったが、折角の機会であったことから、私は早めに伊勢市に着き、まちづくりブックを片手に町歩きをすることとした。

まちづくりブック伊勢

 まちづくりブックは、「これから参加のまちづくりを力強く押し進めていくための市民の本」として位置づけられている。そのため、まちのみかた、まちのしくみ、まちのなりたち、まちづくり物語、これからのまちを描くの5章から構成されている。最近、いろいろなまちづくりをテーマにした本が作成されている。浦安ではまちづくりを専門とする市民(自ら「専門家市民」と呼んでいる)が、自分たちの仕事を知ってほしいということから、浦安を舞台にまちづくりをわかりやすく解説する本を作ったり、小学生と先生を主人公にまちづくりを考える本が作られたりしている。そのような中で、伊勢のまちづくりブックは、伊勢神宮という独自の資産をベースにまちの魅力を前面に打ち出そうとした本だといえる。そのため、町歩きの参考書としても活用できるものとなっている。

注連縄

 まずは、まちの見方の最初にとりあげられている「注連縄」を探した。まちづくりブックでは河崎の地図が示されているが、伊勢市内はどこにでもある。いろいろな種類の「注連縄」があり、その違いをみるのも楽しい。

最もよくみかけるタイプ

非常に立派な注連縄

店などで見かけるタイプ

豪華な海老つきのものもあった

まちの縁側「世古」

 古い町並みでは露地が魅力的な空間を形成している。伊勢では、このような露地を「世古」と呼ぶらしい。まちづくりブックで紹介されている本町あたりを訪れた。
河崎の世古がプランターや鉢が飛び出すワクワクした空間として紹介されているのに対して、本町の世古は市街地の中にあり、車が入り込んでいるためにそのような風景はみられないと対比して紹介されている。


本町の世古

河崎の世古
プランターが飛び出し子供が遊ぶ

橋でなくなった筋向橋

 まちの七不思議でとりあげられた「橋でなくなった筋向橋」を見にいった。さらに、まちづくりブックの作成の課程でワークショップにより探検隊が歩いたという豊川も歩いてみた。こんな機会でもないと絶対見に行かないところだ。


欄干のみが残る筋向橋

豊川にあった汚濁水路浄化装置

いろいろ見つけた魅力ある空間

 まちを歩く中で、興味深いものをいくつか見つけたが、詳しいことはわからずじまい。まちづくりブックでこれらのことも触れてあれば、もっと街歩きが楽しくなったのではないかと思う。


小西萬金丹

由緒ありそうな洋風建築物


の印象的な家

小学校にも特徴のある樹木が

飲み屋

商店街

宇治山田駅の前にある商店街

ごちゃごちゃした空間


伊勢市駅前の撤退した大型店

「わいらの街にようきてくれました」


伊勢市駅近くの商店街

ここも空き店舗が目立つ

河崎のまちづくり

 午後からは建築学会のメンバーとともに河崎のまちづくりの見学会である。河崎のまちは地元の人が案内してくれた。
まず、宇治山田駅を出発。早速、宇治山田駅についての説明があった。変わった駅舎だと思っていたら、消防署が一緒に作られ、その火の見櫓があったとか。参加者から伊勢市駅との距離が非常に短いことに対する質問がでた。これについては、まちづくりブックに「まちの七不思議」の1つとして紹介されていた。それによると、最初にJRの伊勢市駅(旧山田駅)があり、近鉄が開通した時にそこまで鉄道が引かれたが、近鉄の駅舎が狭かったこと、近くに博覧会会場跡地という広い土地があったこと、どうせつくるなら、JRに負けない立派な駅を作ろうということで、翌年に宇治山田駅が作られたという。JRへの対抗意識がこんな立派な駅を作らせたというところが興味深い。


宇治山田駅、右の登楼が昔の消防署の火の見櫓

勢田川

 河崎のまちづくりは勢田川の河川改修事業への反対運動が発端となる。このあたりの話はまちづくりブックにも「河崎物語」として伊勢河崎の歴史と文化を育てる会会長の西山さんへのインタビューとして記載されている。
川沿いの町なみ保存ということで、小樽運河のようなものを創造していたが、驚いたのは川の臭い。非常にくさいのだ。河川改修が進んでも、川の水質浄化はまだまだといったところ。住みよいまちにするためにも、この点は重要だ。
水害対策から川幅が広げるという当時の河川行政に対し、今ではいろいろ反省がなされているようだ。北新橋のあたりは今工事が行われているが、石垣を残すための工夫も行われている。


河川の拡幅により、右岸の町並みは
なくなり、左岸にも管理道路ができた



景観が大きく変わった勢田川
ここでも鯉のぼりが



近年の河川改修

石垣を残すため石垣と道路の間に
空間
が設けられている


北新橋付近(西山家〜旧小川酒店蔵)

まちかど博物館 

 伊勢市では市民による手づくり博物館がまちかど博物館として登録されており、河崎にも「和具屋」がある。
陶器などを扱う問屋で、間口は狭いが奥が深い。中を入ると足元に荷物を運んだトロッコのレール跡があり、奥まで続いている。随分、奥まであり、途中で少しカーブしているにも驚きだ。2階にも登ることができる。
建物もおもしろいが、ここの名物はむしろ「人」。まちづくりブックにもイラスト入りで登場するおばあちゃんだ。いろいろ話しも聞かせてもらった。昔の商家では女の人も豪快に遊んでいたという話しも面白かった。


和具屋

まちかど博物館の看板

荷物を運んだトロッコのレール跡

ずいぶん奥まで続いている

まちづくりブックにも登場する
和具屋の名物おばあちゃん

酒のラベルのコレクション

歴史的建築物の活用

 伊勢河崎でも、歴史的建築物が喫茶店や居酒屋、美容室などに転用されている。
観光客というよりもむしろ地域の人を対象としているようだ。


喫茶ゆりちゃん(石蔵利用)


パブREIJI(蔵利用)



美容室千代(町屋利用)

喫茶河崎館

伊勢河崎商人館

 1982(S57)年には、蔵を利用した「河崎まちなみ館」が設置された。資料をみていると、昔はもう少し、上流にあったようだ。現在は、まちづくりセンター(仮称:伊勢河崎商人館)として活用するために伊勢市によって復元・改修が行われており、長期期休館中となっている。
建物は旧小川酒店で主屋や離れ、蔵からなち、通りをはさんで、敷地面積約1,960平米という大きなもの。川に面する3棟の南蔵は、黒染めの下見板張りの重厚な外観で、舟運で栄えた河岸の景観を伝えている。この建物は2001(H13)年3月に登録文化財の答申を受けている。
建物は持ち主から市に寄付。土地は市が取得。運営を担う組織として、NPO伊勢河崎まちづくり衆が1999(H11)年11月に設立された。現在は、2002(H14)年度に開館する伊勢河崎商人館の管理・運営計画の作成とともに、河崎かわら版の発行が行われている。
行政がハード整備を行い、その運営をNPOが行うという今日的な取り組みがここでも展開されようとしている。これからの動きに注目していきたい。


改修のために長期休館中の
河崎まちなみ館

河崎商人館構想が進む

登録文化財にも指定

蔵の内部
4月の見学記録がようやくまとまりました。記憶が曖昧になっている部分もあり、間違いがあるかも。やはり見学直後にまとめるのが一番と反省しています。

(2001.7.9)

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