生産緑地がもたらしたもの−全国一律の制度による問題点

1.はじめに

 3大都市圏の特定市における市街化区域内農地の2区分は、地価高騰の中で不足する住宅地を供給させることを意図していた。実際、そのおかげで住宅供給は増加し、住宅問題の解決に一定役だったようにも見える。しかし、名古屋圏において市街化区域内農地の2区分が本当に必要だったのか。東京圏の問題をそのまま名古屋圏にあてはめた結果が様々な問題点を発生させているのではないだろうか。

2.宅地化農地の選択とその後の宅地化の動向

 市街化区域内農地のうち、宅地化農地を選択したものは、東京都の43%に対して愛知県では81%に達した。住宅問題が深刻で市街化区域内農地の宅地化が緊急の課題である東京都の数値が低く、逆にそれほど問題の深刻でない愛知県の方が高いという皮肉な結果になった。これは、東京都ではすでに市街化区域内農地の宅地化が進んでいたことと、地価が高いために宅地並課税の負担が大きくなることから生産緑地を選択したものが多かったのに対して、愛知県では、地価がそれほど高くなく、農業を継続していても宅地並課税の負担が可能であったため、土地の自由度のある宅地化農地を選択したものが多かったと見られている。

 農地の2区分により、宅地化農地の宅地化が急速に進んだ。愛知県についてみると、宅地並課税の対象となった特定市では、市街化区域内農地の転用率(1年間で農地転用された面積の年初の市街化区域内農地面積に対する割合)は1990年の5.1%から1992年の8.0%に急増している。特定市以外の転用率が4.3%から4.2%とほぼ横這いであるのと対象的である。

3.急激な宅地化による問題点

 第1に、貸家の大量供給があげられる。瀬戸市では1992年度に1,115戸の貸家共同建住宅が供給されたが、これは前年比192%という大幅な増加である。住宅メーカーの働きかけにより、同じようなタイプの貸家が、市街化区域内農地の固まっている瀬戸市南部の愛知環状鉄道沿線に大量に建設されたのである。当地区は、農業基盤整備が完了し、一定道路整備がされていたことから、開発の条件が整っていたわけであるが、需要を無視した大量供給が空家を発生させることは当然である。また、その規模は小さいものが多く、良好な住宅供給に結びついてはいない。岩倉市においては、住宅供給が増加したことから人口は増加したものの、20歳代前半が多く、定住人口の増加に結びついているかといえば、疑問である。

 第2に、市街化区域内における緑の減少である。岩倉市の市街化区域内農地の転用率は、1990年の4.9%から1992年には10.2%と倍増している。岩倉市は都市公園の整備水準が低いが、市街化区域内に多くの農地を有しており、それが地域に潤いを与えてきた。しかし、その農地が宅地化することで緑が急激に減少している。

 第3に、都市計画が後手に回っていることである。都市計画マスタープランの作成が義務づけられ、緑の基本計画(従来の緑のマスタープラン)についてもその策定が進められているが、これまで都市公園の種地としての機能を果たしてきた農地が急激に減少したことによって、計画の策定が困難になっている。岩倉市において不足している都市公園を確保するのに望ましい場所を抽出しても、近年宅地化されてしまったものが多い。生産緑地を指定する前に、緑の基本計画を策定し、計画的な指定を行っていれば、将来の公園確保もスムーズに行えたはずだ。

4.地域の実状に応じた都市計画を

 愛知県は大都市圏にありながら、土地にゆとりのあることが魅力となっており、名古屋市周辺においても市街化区域内にかなりの農地が残っていた。名古屋市周辺の都市では、公園の整備水準が低く、問題はあったものの、市街化区域内農地が貴重なオープンスペースとしてゆとりを生み出していた。性急な生産緑地の指定がこのような愛知県のゆとりを奪ってしまうことになりかねない。全国一律の法体系がこのような問題を生みだしているといえるのではないだろうか。生産緑地の指定に関していえば、市町村の判断で2区分を実施するかどうかを判断し、その時期もその他の都市計画との関連の中で実施すべだったのではないだろうか。

(1995.6.2)

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