歴史資産を活かしたまちづくりのとりくみ(名古屋から)

 名古屋の都心に近いところに武家屋敷の城下町の面影を残す白壁(しらかべ)・主税(ちから)・橦木(しゅもく)地区があります。1985年に名古屋市の町並み保存地区に指定されましたが、広い敷地を維持していくことは容易ではなく、徐々にマンションなどに変わりつつありました。

 このような状況の中で空家になっていた住宅を借り受け、人が気楽に立ち寄って自由に話しのできる場をつくろうという市民の取り組みが生まれました。「橦木館」の名が付けられた建物は1996年1月から5年間の期間限定で所有者から借り受け、趣旨に賛同する建築士事務所やギャラリー・喫茶などが店子として入るほか、オープンスペースとして様々な市民活動の場として活用されています。「橦木塾」として、人々が集まり住む、楽しい町にしようと、共に学び、語り合うことを目的とした様々な催しが行われたり、大工などの職人さんから<しごと>の周りを語ってもらったり、秋には文化月間として、日本家屋を舞台とした演劇やお茶会など様々な文化行事も行われています。

 愛知建築士会においても「建築資産をまちづくりに活かす」をテーマとして取り組んでおり、「国際建築トリエンナーレ’97in愛知」ではこの地区を中心にシンポジウムや見学会、展示会など様々な取り組みが行われました。

 さらに、ここでの大学公開講座がきっかけとなって、「21世紀の知の集積」を図る市民塾「白壁アカデミア」が1998年10月に生まれました。ここでは、公開講座と参加型の研究講座を行っており、現在その第2弾として、「近代建築を活かしたまちづくりを学ぶ」をテーマに現地に出向いて視察を行う交流講座などを行う公開講座と「白壁地区周辺のレトロ建築を探る」など6つの研究講座が開催されています。

 また、加藤邸という古いお屋敷を舞台に未来の創造をめざす「自習舎」のとりくみも始まっています。4月には加藤邸を舞台に陶・金属・水などによるインスタレーションの展示会も開催されました。6月には美濃・瀬戸・常滑・萬古の4地域が集う「やきもの交流サミット」も開催されました。古いお屋敷を活用しレストランや手づくりギャラリーを開くところも生まれています。

 市民の取り組みがきっかけとなって、名古屋市では橦木館の建物を名古屋市文化財に指定したり、旧豊田佐助邸の公開活用や名古屋城から徳川園までの一帯(その中間に白壁地区がある)を「文化のみち」と位置づけ、楽しみながら歩いて歴史を感じられるよう整備する構想もたてています。

 大都市名古屋において歴史資産を保存することは容易ではありませんが、市民と行政の取り組みがうまく重なりあうことがその鍵を握っているといえるでしょう。名古屋には見るべきところがないと思われがちですが、一度、名古屋城から徳川園あたりまでを歩いてみて下さい。名古屋にもこんなところがあったんだと、名古屋を見る目が変わってくるはずです。

(1999.8.15)

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