1995年をふりかえる−まちづくり10大ニュース

 1995(H7)年は戦後50年という節目の年にあたり、様々な分野で50年を振り返るという試みが行われた。我々の関係する都市計画の分野においても、この50年間の総括をしっかり行い、まちづくりの教訓を次の50年間に活かすことが求められているといえよう。時代のエポックとなった出来事は何なのか、生き残ったものは何なのか、一時的なブームで終わってしまったものは何なのか。本当は昨年のうちにまとめができれば良かったのであるが、テーマが大きく、簡単には整理できていない。少しづつまとめてみたいと考えているが、その1つの試みとして1995(H7)年の1年間についてまちづくりという視点から振り返ってみたい。独断ではあるが、「まちづくり10大ニュース」として列挙してみる。

【第1位:阪神大震災】

 国内外の10大ニュースでも上位にあげれているが、まちづくりの分野においても、様々な点で阪神大震災が与えた影響は大きい。戦後のまちづくりのエポックともなりうる出来事といえよう。

 まちづくりの優等生といわれた神戸市の光と影、まちづくりの課題を一挙に現実のものとし、多くの教訓を残した。ボランティアの活躍と復興に取り組む地元プランナーたちの真摯な姿は、まちづくりに取り組む我々に大きな示唆を与えている。

【第2位:マルチメディアと都市計画】

 元旦の各新聞の特集ではインターネットが大きく取り上げられた。パソコンが日替わりで進歩し、パソコン通信が日常的なメディアとして活用されだした。都市計画の分野でも、大和市が都市計画マスタープランの案をインターネットに掲載し、意見を募ったり、碧南市がパソコン通信を活用した目安箱を設置するなど、都市計画への市民参加の手段としてパソコン通信が活用されつつある。ニフティサーブに都市計画のフォーラムが開設されたのもその象徴的な現れといえるだろう。

【第3位:万博論議の高まり】

 愛知万博をめぐる賛成派反対派の論議が活発になり、年末には閣議了承によって、愛知万博が国家プロジェクトとして位置づけられた。昨年までは愛知県民の多くが知らなかった愛知万博が大きな話題となった年であるといえるが、愛知県以外の関心はきわめて低い。まちづくりに関する様々な話題が展開されているニフティサーブの都市計画フォーラムに、その意見を求めようとしたが、愛知県民以外からの反応はまるでなかった。これを万博推進派はどう見ているのだろうか。

 ただ、万博論議を通じて環境に対する関心が高まったことは間違いない。この議論をこの地域のまちづくりに活かせることができれば、万博が提起されたことも無駄ではなかったといえるだろう。

【第4位:長良川河口堰運用開始】

 愛知万博とは対照に全国的には大きな話題となったのに、地元ではあまり論議が起こらなかったのが長良川河口堰の問題だ。その運用については、最後までもめたが、結局、社会党の建設大臣によっても国家プロジェクトは変えられなかった。今も環境に与える影響が次々と報告されているが、どうなるのだろうか。

 この問題をきっかけとしてダム行政の民主化をうたったダム事業審議委員会制度が発足し、全国11事業で審議が行われている。村民が集団移転し、廃村となった徳山ダムの行く末も興味深い。

【第5位:首都移転論議】

 国会等移転調査会最終報告が出されたことで、ようやく半信半疑となったといわれる首都移転。選定基準が中部はずしになろうとしたことで、その巻き返しを図ろうとした中部政財界。中部の立地条件にあぐらをかき、「ほっておいても首都は来る」と考えていた某知事。多くの新首都候補を抱える中部であるが、地域エゴだけが目立って、日本全体の視野からみた議論が少ないような気がする。国会的視点から考えれば、当初調査会が出そうとしたように自ずとその候補地は決まってくるはずだ。新しい全総計画や種々の交通基盤プロジェクトと連携した戦略的な首都移転がなければ、東京問題を拡散することになりかねないだろう。

【第6位:都市博中止】

 青島都政の誕生と都市博の中止は地方自治の新しい姿を現しているといえよう。知事選当時は、都市博中止を訴える候補が多くてもせいぜい、縮小程度だろうと考えていたのに、中止しようと思えば中止できるではないか、と選挙の力を改めて思い知らされたといえるのではないだろうか。

 新橋と有明を結び臨海副都心を一望できる新交通ゆりかもめに乗った。都市博中止によって逆に話題性が高まり、その敷地を見物に訪れる人も多いという。広大な敷地をいかに有効に活用するか。バブル時代の名残の巨大ビルが建設されている中で、そのあり方を考えさせる。

【第7位:中部新国際空港始動】

 第7次空整への位置づけにより、中部新国際空港もようやく現実のものになってきた。名古屋空港の一元化問題など残された問題も多いが、万博と違って、その必要性については多くの人々が認めており、この地域の活性化にとって不可欠なものといえるだろう。ただ、あまりに期待しすぎることも禁物だ。中部新空港ができたからといって、地域が発展するものではない。いかにその機能を使いこなすのかが重要になってくるだろう。

【第8位:都市マス論議】

 1992(H4)年の都市計画法の改正によって創設された都市計画マスタープランに関する様々な議論がわき起こった年でもあった。愛知県ではマニュアルを作成し、県下市町村で都市計画マスタープランが作成されたが、全国では様々な試行錯誤により、住民参加による計画策定に取り組まれている。鎌倉市ではワークショップも実施されている。都市計画マスタープランを都市計画の新しい枠組みとして、これまでの都市計画のあり方を変える可能性を持っている。いかに有効に活用するか。自治体の真価が問われる時でもある。

【第9位:都心居住施策の展開】

 都心のあり方をめぐって、都心居住が大きく取り上げられた年でもある。東京問題を中心とした都心居住問題をこの地域でどう考えるか。

【第10位:環境共生と都市計画】

 以前からあげられてきたテーマであるが、環境共生住宅をはじめ、その成果が大きく現れてきた年といえる。次代へのテーマとして忘れられない。

(1996.1.4)

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