オホーツク海の忘れられた孤島

Talan Island
& Iony Island

トドと海鳥の楽園
Steller sea lion and seabird paradise

イオニー島取材記

高さ150メートルのピラミッド型の島は、 35年間未調査だった。 2009年夏、 わたしはロシア人鳥類学者5名と共に渡島して、百万羽以上の海鳥やトドを撮影した。

この島はオホーツク海のほぼ中央に位置するため、キツネなどの肉食獣はも ちろん、ワシタカの猛禽類も飛来しない。ここで繁殖する海鳥たちはまったく警戒心 から解放されている。 珍鳥シラヒゲウミスズメやウミガラス、 エトロフウミスズメを手で 触れる程の至近距離で撮影。 わたしは高所恐怖症だが、カメラを構えると、 急峻な岩場の 縁でも恐怖感が飛散して、 ただただ至福の刻をすごし、そのうえ、61歳の誕生日を無数の 海鳥たちとむかえることができた。

イオニー島
撮影の合間

トドと海鳥の楽園

オホーツク海の忘れられた孤島 イオニー島は、サハリンから北へ220キロに位置する、絶海の孤島だ。ロシアで もほとんど知る人はいない、忘れられた島だ。オホーツク海屈指のトドと海鳥の宝庫 でもあるこの島を、世界初となる貴重な写真で紹介しよう

海岸につどう繁殖期のトドたち イオニー島はロシア最大のトドの繁殖地だ。このページ写真に写る海岸の群集地には、繁殖に参加した 個体が集まっていた。大きな身体は雄、スマートなのはハーレムの雌たち、群れの間にのぞく黒い小さな個体は 新生児だ。繁殖に参加できない老齢のものや若い雄たちは、小さな入り江や洞窟に分散していた。 トドはアシカ科の最大種で、雄は体調325センチ、体重は1100キロにもなる。1950年代から1960年代前半には 世界に24万頭~30万頭生息していたが、1991年には9万頭にまで激減してしまった。現在、アメリカ合衆国や ロシアでは絶滅危惧種に指定されたいる。 イオニー島では、1997年の調査では2819頭が確認されている。しかしその調査に参加したロシア人のトド研究者 、アレクセイ・グラチョフは、実際はもっと多いと見積もっている。 「イオニー島のトドは新生児だけで1060頭も確認された。死角でカウントできなかった個体や、海にいる個体 を含めれば、5000頭~7000頭はいただろう」彼は今回の取材にも同行したが、トドの数はそのときと同じ印象だという。 またイオニー島のトドは1970年代から1990年代にかけてやや増加しているという調査結果もある。 背後のけわしい岸壁には、ハシブトウウミガラス、ウミガラス、ミツユビカモメが繁殖している。

トドの巨体が海に飛び込む

絶海の孤島の取材にはリスクがともなう。

もし危険に見舞われたとしても、だれからの助けも期待できない。 だから少しでも風や霧の兆候があれば、海上には出られない。イオニー島 で暮らして1週間目、ようやくトドを海上から撮影するチャンスがめぐってた。 この日は朝から波が静まりかえり、地平線に青空がのぞいていた。この天候状態なら ば、急激に濃霧が発生してゴムボートが方向を見失いこともない。

この状態を少なとも1~2時間は保ってくれるに違いない。 ゴムボートでイオニー島を1周しつつ、それぞれトドの群衆地へ向かい、さらに 周辺の座礁をぬって、岩につどうトドへ近づいた。 トドたちがムックリと巨体をおこし、岩の縁に集まってきた。船外機のモーターを低速回 転させ、ゆっくりと慎重に進む。ついに1頭が海に飛び込んだ。つづいて2頭、3頭と・・・ 腹にズシントとひびく咆哮、生臭い吐息、飛び散る水飛沫、僕は興奮のるつぼにいた。

イオニー島

Seabird

BBC Wildlife誌

BBC Wildlife誌

2010年12月号
PORTFOLIO:イオニー島 by Toshiji Fukuda

イオニー島で撮影した作品はBBC Wildlife誌上に10ページ特集が組まれて、世界の人たちに観ていただいた。