オホーツク海の忘れられた孤島
トドと海鳥の楽園
Steller sea lion and seabird paradise
この島はオホーツク海のほぼ中央に位置するため、キツネなどの肉食獣はも ちろん、ワシタカの猛禽類も飛来しない。ここで繁殖する海鳥たちはまったく警戒心 から解放されている。 珍鳥シラヒゲウミスズメやウミガラス、 エトロフウミスズメを手で 触れる程の至近距離で撮影。 わたしは高所恐怖症だが、カメラを構えると、 急峻な岩場の 縁でも恐怖感が飛散して、 ただただ至福の刻をすごし、そのうえ、61歳の誕生日を無数の 海鳥たちとむかえることができた。
海岸につどう繁殖期のトドたち イオニー島はロシア最大のトドの繁殖地だ。このページ写真に写る海岸の群集地には、繁殖に参加した 個体が集まっていた。大きな身体は雄、スマートなのはハーレムの雌たち、群れの間にのぞく黒い小さな個体は 新生児だ。繁殖に参加できない老齢のものや若い雄たちは、小さな入り江や洞窟に分散していた。 トドはアシカ科の最大種で、雄は体調325センチ、体重は1100キロにもなる。1950年代から1960年代前半には 世界に24万頭~30万頭生息していたが、1991年には9万頭にまで激減してしまった。現在、アメリカ合衆国や ロシアでは絶滅危惧種に指定されたいる。 イオニー島では、1997年の調査では2819頭が確認されている。しかしその調査に参加したロシア人のトド研究者 、アレクセイ・グラチョフは、実際はもっと多いと見積もっている。 「イオニー島のトドは新生児だけで1060頭も確認された。死角でカウントできなかった個体や、海にいる個体 を含めれば、5000頭~7000頭はいただろう」彼は今回の取材にも同行したが、トドの数はそのときと同じ印象だという。 またイオニー島のトドは1970年代から1990年代にかけてやや増加しているという調査結果もある。 背後のけわしい岸壁には、ハシブトウウミガラス、ウミガラス、ミツユビカモメが繁殖している。
もし危険に見舞われたとしても、だれからの助けも期待できない。 だから少しでも風や霧の兆候があれば、海上には出られない。イオニー島 で暮らして1週間目、ようやくトドを海上から撮影するチャンスがめぐってた。 この日は朝から波が静まりかえり、地平線に青空がのぞいていた。この天候状態なら ば、急激に濃霧が発生してゴムボートが方向を見失いこともない。
この状態を少なとも1~2時間は保ってくれるに違いない。 ゴムボートでイオニー島を1周しつつ、それぞれトドの群衆地へ向かい、さらに 周辺の座礁をぬって、岩につどうトドへ近づいた。 トドたちがムックリと巨体をおこし、岩の縁に集まってきた。船外機のモーターを低速回 転させ、ゆっくりと慎重に進む。ついに1頭が海に飛び込んだ。つづいて2頭、3頭と・・・ 腹にズシントとひびく咆哮、生臭い吐息、飛び散る水飛沫、僕は興奮のるつぼにいた。
イオニー島で撮影した作品はBBC Wildlife誌上に10ページ特集が組まれて、世界の人たちに観ていただいた。