子どもころ遠足で日光博物館を初めて訪れた時、係の人の説明を受けながら夢中で動物の展示を見て、日光の豊かな自然を見張った記憶がある。
しかし、一方で、家の裏手の小川に住むフナやタナゴのように、目の前に広がる日光の山々にサルやシカ、クマが野生で生息しているとは、
どうしても信じられなかった。その後も、自分の目で野生動物の姿を確認するまでは、それぞれの動物達の生活を、長い間実感できなかったのである。
しかし、そのために動物達との出会いが、私の心にいつも新鮮な感動を呼び起こすことになり、現在まで変わらぬ情熱を持ち続けられたに違いない。
写真集:日光の野生動物より
私が、日光の野生動物とカメラを持って対峙する時は、野生の息吹と自然環境の空気感を表現する作品を撮りたいと念じ、一瞬一瞬のシャッターに自分 のベストを尽くしてきたが、果たしてどれだけ表現できたか判らない。 また、私の被写体である野生動物は、自然界の微妙なバランスの上に生きているので、私の不注意や不勉強で彼らの生活を脅かすことがないように、 「後日、自分で自分の写真を心楽しく見ることができるように撮影する」ことを撮影信条にしてきた。 私の分身である写真集をまとめるに当たり、本書が一人でも多くの方々の目に触れて、日光の自然を再確認していただき、更に、野生動物が生息できる 豊かな自然環境を次代に伝えるための一助となることを願ってやまない。
アオバズクはの撮影は、日暮れと夜明けのそれぞれ15分~20分が勝負である。 日暮れは、周辺が薄暗くなってからセミの鳴き声が止まるまで、夜明けは、セミが泣き出してから 薄明るくなり、周囲の色が識別できるようになるまでである。 これは、夜行性のアオバズクと、アオバズクの主食である昆虫の活動時間がちょうど重なる時間帯 である。 育雛期間中、この時間帯の親鳥は猛烈な忙しさである。空中で餌を捕まえては給餌に戻り、 間髪を入れずに反転し、再び餌を求めて飛び立つ、私の観察中、雄親と雌親が巣の入口で 激突したことさえある。