第1部:資本の生産過程
第7篇:資本の蓄積過程
第22章:剰余価値の資本への転化
古典派経済学は以前から、社会的資本を、固定した作用度を有する固定した大きさのものとして把握することを好んだ。[636]
しかし、
この研究の進むなかで明らかになったように、資本は固定的な大きさのものではなく、社会的富のうちの弾力的な一部分であり、また剰余価値が収入と追加資本とに分割されるにつれて絶えず変動する一部分である。[636]
第22章第3節を参照。
さらに、すでに見たように、機能資本の大きさが与えられていても、その資本に合体される労働力、科学、および土地(これは、経済学的には人間の関与なしに自然に現存するいっさいの労働対象と解すべきである)は、一定の限界内では、資本そのものの大きさにはかかわりのない作用範囲を資本に許すような、資本の弾力的な力能を形成する[636]
第22章第4節を参照
また、この第7篇では、具体的に考察対象となっていないが、資本の「流通過程の諸関係」においては、「同じ資本量ではなはだしく相異なる作用度を生じさせる」。
実際の資本の運動を見誤らせる、この「社会的資本は、固定した作用度をもつ固定した大きさのものである」という「ドグマ」から、旧来の経済学潮流の一部分は、「可変資本は固定した大きさのものである」という説を導き出し、「労働元本」は固定的なものであると結論づけた。
可変資本の素材的実存、すなわち、可変資本が労働者のために代表する生活手段の総量、またはいわゆる労働元本は、社会的富のうちで、自然の鎖に縛られて超えることのできない特殊部分だとでっち上げられた。[637]
社会的富のうちの、固定的で変化することのない生活手段総量とされた、この「労働元本」について、マルクスはつぎのような反証を行なっている。そもそも、この第22章で展開された叙述全体が、マルクスによる反証になっているのであるが。
社会的富のうち、不変資本、すなわち素材的に表現すれば生産手段として機能すべき部分を運動させるためには、一定総量の生きた労働が必要である。この量は技術学的に与えられている。しかし、この労働量を流動させるのに必要な労働者の数は与えられていないし――というのは、個々の労働力の搾取度につれて変動するからである――またこの労働力の価格も与えられていないのであって、ただ、その価格の最低限度が、しかもきわめて弾力的なものが与えられているだけである。[637-8]
「労働元本」の制限性ということについての“経済学的解説”が、いかにナンセンスな「同義反復」に陥っているか、ということの典型例を、マルクスは、H.フォーシット教授の著書『イギリスの労働者の経済状態』【ロンドン、1865年】から引用している【120ページ】。
彼は言う――「一国の流動資本は、その国の労働元本である。それゆえ、それぞれの労働者が受け取る平均的貨幣賃銀を計算するためには、われわれはただ簡単に、この資本を労働者人口数で割りさえすればよい」。[638]
この引用の注で、マルクスは、「固定資本および流動資本」という、資本の流通過程から生じる区分と、資本の生産過程において区分される「不変資本および可変資本」というカテゴリーとの、混同について、古典派経済学以来の傾向を指摘している( 注(67)[639] )。
ただし、「混同」といっても、そもそも「不変資本・可変資本」というカテゴリーを用いたのは、マルクスがはじめてであった( 注(67)[639] )。だから、内実は、資本の運動を、生産過程と流通過程とで、それぞれより正確に分析・考察し、なおかつ、資本の運動を、生産過程と流通過程とにおける全過程で、これまたより正確に分析・考察するには、「固定資本・流動資本」というカテゴリーから、一歩も二歩もふみ込んだ、資本にたいする分析が必要だったというわけだ。
詳細な考察は、「資本の流通過程」を取り扱うことになる第2部(とくに第2部第2篇)において行なわれることが予告されているが、とりあえず、カテゴリーとしての概要を、『社会科学総合辞典』(社会科学辞典編集委員会編、新日本出版社発行、第1版、1992年7月15日)からの引用で紹介すると、つぎの通り【209ページ】。
生産資本は、価値の増殖においてはたす役割からは、不変資本と可変資本とに区分されるが、資本価値の回転の仕方からは、固定資本と流動資本とに区分される。不変資本のうちの機械や建物などの本来的な労働手段に支出された資本部分は、1回の回転期間においては、その全部が生産に参加するのではあるが、その価値を一部分ずつ生産物に移転するので、これを固定資本という。これにたいして、不変資本のうちの原料に支出された資本部分および可変資本として労働力に支出された資本部分は、1回の回転期間において、その価値を全部生産物に移転するので、これを流動資本という。資本家は、固定資本の価値を数回の回転期間にわたって回収するのにたいして、流動資本の価値を1回の回転期間に回収する。