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 Chapter 16 参戦!日本環境教育学会(未定稿)

16−1 朝一番に会場へ


 2004年7月31日,朝8時前。
 私は,大きな発表用ポスターを抱えて,池袋駅西口の改札を出た。

 土曜日の池袋は,土曜出勤の人に混じって,夏休みの旅行に出かける人たちや,運動部の合宿や朝練習に向かう高校生の集団などで,雑然としていた。そんな中,駅を離れ,学会場である立教大に向かう。少しずつ,それらしい(=学会に参加しそうな)雰囲気の人をちらほらと確認しつつ,駅から10分もかからずに会場到着。

 今回はポスター発表を選んだ。口頭発表よりも,多くの人と話の出来るポスターを選んだのは,もちろん,鳥の博物館の観察会事業を宣伝するためでもある。夕方,早めに帰らなければならない用事があるので,朝一番に発表用ポスターを掲出し,午後の質疑応答の時間に備えるのだ。それに,都内での開催で,日帰りで行けるため,多少の大荷物でも苦にならない。これが地方での開催で,2〜3泊の旅行中,ずっと90cm×120cmの大きな厚手の紙を丸めた筒を持ち歩いていたら,フットワークが重くて,やっていられない。

 参加費は前納してあるので,即座に参加受付を済ませて,ポスターを貼りに行く……と思ったら,掲出場所が見つからない。改めて受付で聞いてみたら,発表番号順ではなく,内容別に整理しているとのこと。かえってわかりにくい。最初に分野別にまとめてから番号を振れば済むことなのに。
 しかも,与えられた掲出場所は,ホールの片隅で,階段の陰の薄暗い掲示板。冷房の効きも悪くて,ポスターを貼るだけでひと汗かいた。

 こんな場所で,読んでくれるんだろうか?

16−2 「学会発表」をする意義


 2003年度の観察会事業の成果を発表すると言う目論見は,かなり前からあった。何か成果があったら,学会に出して形を残し,あわよくば誰かに引用してもらえたりすれば,さらに効果が上がる……などと考えて動くのは,そう言う仕事をしている私の習性みたいな部分もあると思う。実際,職場で受け入れていた「サイエンスキャンプ」の状況を,人気度や感想文などの解析を加えてまとめて,科学教育の実践報告として環境教育学会に出したこともあった。これをしなければ,せっかく時間を割いて行ったことが,何も残らない。それに,発表すれば,どんな形であれ,宣伝効果も期待できる。

 今回は,計画,実践,成果が綺麗に出ているので,解析や考察も簡単だし,比較的まとめやすかった。3月末にエントリを済ませ,4月末に講演要旨を書き上げて送付。しかし,ポスターが仕上がったのは,発表の前日。それまで何やっていたんだか……(苦笑)

16−3 発表内容


 さて,肝心の発表内容だが,どんなストーリーをまとめたのかは,ここまでの文章を読んでいる人なら,容易に想像がつくと思う。

 ストーリーの概要は,こんなものである。

 地域の博物館として,環境教育機能を高めるためにデザインし,スタートした,鳥の博物館の観察会事業。「総合学習」や「しらべ学習」等の,学校教育の新たな流れにも準拠するような形で,学校休日の土曜日を中心に展開し,子ども達の野外学習の一翼をも担うように,観察会をデザインした。その結果,参加者の4割が小学生以下,3割がその保護者,と言う参加比率で,特にセミの羽化観察会では,100%親子連れという状況となり,子どもたち(&その親)の環境学習の場の提供,と言う目的を達成した。さらに,博物館入館者の年齢構成も大きく変え,前年度,小中学生の入館者が全入館者数の6%だったものを21%に引き上げると言う効果をもたらした。
 今後も,地域の自然史博物館として,学校教育のみならず,社会教育の拠点として,さらなる取り組みを進めてゆきたい。

 ……ざっとこんな話を,グラフや表を中心に,文字を最小限に抑えて分かりやすくポスター化したものを,掲出したのだ。

 環境教育学会は,教育実践報告の発表は多い。しかし,「やりっぱなし」みたいな印象の報告も多く,「やってみたらこんなんでした〜」と言うストーリー展開のものが多い。我々の発表は,言うなれば,まだ「中間報告」。これから先の計画もあるし,これまでの内容も,十分に検討して計画されたもので,果たされるべくして果たされた成果なのである。この段階で,これまでを振り返って,成果をまとめてデータをフィードバックし,これからの計画に反映させてゆくための「中間発表」が,この学会報告だと言う位置付け。

まだまだ,これから先のほうが長い。

16−4 発表タイム


 ポスター発表は,質疑応答のコアタイムの設定がある。それは,午後1時〜3時。それまでは,ポスターの前で「店番」をしていても,どこかに出かけていても,自由なので,午前中は精力的に,あちこちの口頭発表を聞いて回る。お昼は近所のコンビニで買い込んできて,さっさと済ませ,早めに準備を整えておく。すぐ近くに伊丹市昆虫館の学芸員の方が発表していて,振動を拾う特殊マイクで,虫の足音や芋虫が葉を食べる音などを聞かせる展示を行ったと言う発表。なんと,伊丹からわざわざ,オオゴマダラの幼虫も連れてきている。伊丹市昆虫館は訪問した経験もあるので,その精力的かつユニークな展示は,前々から気になっていた。発表タイム前に,しばし談笑して情報交換。

 さて,いよいよ発表タイム。
 学会によっては,ポスター発表でも座長を設定し,最初に数分間,アピールさせてもらえる時間をくれる所もあるのだが,今回は,座長無し。自助努力あるのみ。
 あらかじめ,配布物を用意していたので,それを話の取っ掛かりに,次々と説明をしてゆく。配布物の中には,博物館のパンフレットや観察会用に作ったパンフレット,教材のほか,私の職場のパンフレットも,さりげなく用意していて,「研究機関の人間が社会教育にも貢献しています!」と言うアピールも少々。とかく,市民生活と乖離しがちな研究機関。下手をすれば,研究者は,怪しい,役に立ちそうも無いことに熱を上げる変人みたいな扱いを受けかねないほど,現在の研究の最前線は,市民の日常生活から,かけ離れた存在になっている。その距離感を少しでも短くしたい,と言う思惑もある。まぁ,私1人の力で動くようなものでもないが,「科学離れ」の行く末を危惧している研究者の,わずかばかりの抵抗である。

 やはり,自然観察会に子ども達がたくさん集まると言うのは,多くの人の興味を引いていた。しかも,市の施設と言う,公共機関での成功例と言うことでも,注目度は高い。野鳥の会の方からも話があった。私も,野鳥の会の探鳥会を担当している身であり,探鳥会参加者の高齢化や,野鳥観察の場に子供の姿がほとんど無いと言う現実は,十分に知っている。野鳥の会では,会員数も,探鳥会参加者も,どんどん減っていると言う深刻な状況でもあり,会の活性化をあれこれと模索中だ。
 野鳥の会での自然解説も手掛けている私が,鳥の博物館で,野鳥の会が実現できていないことを,しっかり成功させているのだから,そのノウハウは,野鳥の会にも還元させるつもりでいる。しかし,実際に聞きに来る人は,既にサンクチュアリの現場などで,あれこれと手を打って,活動している人ばかり。私からノウハウを提供しなくても,子ども達を掴む方法や,環境教育が地域に根を降ろすためのノウハウについては,大体見えている人たちだ。本当にノウハウが必要なのは,会員減少や探鳥会参加人数の減少,会員の高齢化,探鳥会のマンネリ化などに,打つ手無しの状態で,眺めているだけの人たちだが,残念ながら,そういう人は環境教育学会には来ない。

 実はこの日,夕方から我孫子に戻って,「セミの羽化観察会」をすると言う,タイトなスケジュールになっている。質疑応答時間の終わった午後3時には,バタバタと発表を片付け,大急ぎで山手線に乗らなくてはいけない。発表を聞きに来た人に,そのことを言ったら,是非,観察会を見てみたい,と言うことで,夕方からの観察会の紹介をすると言う一幕もあった。

 ともあれ,手応えは十分にあった。
 忙しい1日だった……いや,まだ,これから「夜の部」もある。

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