知ればこわくない!動物や昆虫の危険

 アウトドアで危険な生き物と言うと,真っ先に思いつくのがハチや毒ヘビでしょう。
 しかし,毒ヘビによる死亡事故は,日本では極めて稀なのです。また,マムシやハブには抗血清が準備されています。毒ヘビにかまれたら命は無い,と思い込んでパニックを起こすほうが,むしろ危険なことです。
 ハチに刺された経験のある人も多いと思います。スズメバチが原因で死亡者の出た事故も,時折ニュースになります。しかし,これも毒ヘビ同様,決して死亡率の高いものではありません。
 また,海の中にも毒を持った生物がたくさんいます。食べると中毒を起こす生き物もいますし,毒や針で被害を受ける生き物もいます。海中の生きものは,出会う機会が少ないだけに,事故件数そのものは多くありませんが,危険を知らずに被害に遭うケースは,陸上の生きものより多い傾向があります。
 動物や昆虫の中には,寄生虫や微生物などの病原体を媒介するものもあります。
 これらの事故はすべて,ごく基本的な予備知識さえあれば回避できます。
 出会う機会の多い陸上の生きものを中心に,最低限必要な情報をまとめました。

☆なお,毒物を用いた犯罪を目的とする利用は,厳禁します。
☆犯罪予防のため,有名な毒物を除き,あえて詳細な記載を避けている部分があります。
☆アウトドアでの安全管理のために,より詳細な情報を必要とされる方は,専門書やリンク先を当たってください。


身近な動物,昆虫の攻撃から身を守る

 身近な自然にいる危険な生き物として,まず思いつくのは,ハチでしょう。
 ハチにもいろいろな習性を持ったものがいます。
 体の丸いハナバチ類などは,こちらから手を出さなければ,まず,刺されるようなことはありません。たとえクマバチのような大きくて怖そうなハチでも,意外におとなしいのです。
 攻撃性の強いハチとしては,まず,スズメバチの仲間。その次ぐらいに,アシナガバチの仲間。ミツバチも,ふつうは巣を刺激しない限り大丈夫ですが,ハナバチに比べると,やや攻撃性があります。

オオスズメバチ。
世界最大,最強のハチで,刺されて死亡した例もあります。
餌の減り始める初秋には,より攻撃的になります。

いちど刺された経験のある人は,2度目には,
さらに強いショック症状を起こすこともあるので,注意を。

 オオスズメバチは大都会では繁殖しない,と言われていましたが,ある程度まとまった林や緑地があれば都会でも生息可能で,東京都心の明治神宮でも繁殖しています。しかし,やはり大都会ではまれな生きものです。このほか,都会地ではコガタスズメバチキイロスズメバチなども多数観察されています。オオスズメバチは比較的肉食性が強く,バーベキューの肉を食べに来た例もあります。コガタスズメバチなどは,花にもしばしば吸蜜に訪れたり,缶ジュースの飲み残しをなめに来たりします。この雑食性によって,都会でも十分な生活力があるため,自然界での天敵であるオオスズメバチの少ない大都会で,勢力を広げています。

ヤブカラシの蜜をなめるコガタスズメバチ。
都会地でもこのような光景がよく見られます。

 スズメバチの毒には,毒蛇の毒に似た成分も入っていて,オオスズメバチは特に体が大きく,注入される毒液量も多いので,とにかく刺されないようにすることが第一。
 落ち着いて観察すれば,彼らは攻撃する前に,威嚇しているのが分かります。
 まず,パトロールしているハチが飛び回ります。
 次に,大あごをカチカチ鳴らしながら威嚇してきます。
 この時点で,ハチをこれ以上刺激しないように,そっと離れれば,助かります。
 もし,飛びながら毒液をかけてくるようなところまで近づいてしまったら,大急ぎで逃げましょう。
 スズメバチは,特に黒いもの,動くものには敏感に反応します。目や頭を攻撃してくることも,しばしばあります。あまり騒がず,さっさと逃げるのがいちばん安全です。

 アシナガバチ類も,身近なハチで,刺された経験をお持ちの方も多いと思います。
 アシナガバチの場合も,基本は巣を刺激しないこと。びっくりするほど身近な場所に巣を作る場合も多いので,巣の存在を気づかずに,ハチを刺激してしまう場合もあります。

フタモンアシナガバチ。
春,越冬した1匹の女王バチが巣作りをする。
この巣のあった場所は公園のベンチの裏側です。

 このほかに,刺す虫と言えば,カ,ブユ,ヌカカ,一部のアブやハエ,ノミ,トコジラミ(ナンキンムシ)などがあります。また,マメハンミョウやアオカミキリモドキのように,体液に皮膚刺激性成分が含まれている虫もいます。これらの虫は,人に近づけないような対策をとるのが,もっとも有効です。あまり大量の虫に襲われるようであれば,逃げるなり,殺虫剤を使う手も考えなくてはいけません。

ヒトスジシマカ。
カの仲間は,おもに暗いときに行動します。
病原体を媒介するカもいるので,要注意。


 ダニも意外と身近にいます。ペット動物や野良猫などを介して吸血性のダニも身近に分布していますし,アレルギーや皮膚炎の原因となる,小型のダニも,ごく普通にいます。皮膚にはニキビダニが常在している場合も多いのですが,これは常在菌と同様,あまり問題になりません。ダニも病原体を運ぶ可能性があります。

 身近な毒虫は,ほかにもあります。
 毒を持った毛虫や蛾です。
 実は,毒を持たない毛虫のほうが多いのですが,毛虫は,なにかと嫌われ者です。
 毛虫については,イラガの仲間,カレハガの仲間,ドクガの仲間を避ければ,だいたいの危険は避けられます。イラガの仲間の毒針毛は強力ですが,成虫は毒を持ちません。ドクガの仲間は毛虫だけでなく,成虫になっても,幼虫時代の毒針毛を持っています。カレハガも,繭に毒針毛が残るので,毛虫がいなくても,繭の抜け殻に残った毒針毛にやられる場合もあります。

イラガの仲間の毛虫は,派手な色で目立ちます。
刺されたときの痛みは,ハチのようです。
でも,危険なのは幼虫のときだけ。

カレハガの仲間は大きな毛虫になります。
小さいうちは,糸を吐いてテントのような巣を作り,集団生活しています。
秋に,大きく育った毛虫が木から降りてくるときが,あぶない。

 「毒虫」の中には,攻撃を仕掛けてくる危険は無いけれど,叩き潰すと飛び出た体液に毒を持っている,と言うものがあります。もともとは鳥などの天敵に食べられることを防ぐための,虫の護身術であると考えられますが,闇雲に虫を叩いたら,かえって毒の被害に遭う,と言う結果を招きます。
 このタイプの危険を持った代表的な虫は,日本ではマメハンミョウの仲間とカミキリモドキの仲間でしょう。いずれも体液にカンタリジンと言う物質を含み,体液が皮膚などにつくと,赤く腫れ,水疱ができることもあります。体液が間違って目に入った場合,より重症となりますので,このようなときは目を洗う等の応急処置をしてから,病院で診てもらいましょう。

マメハンミョウ。ちょっとホタルに似た雰囲気もありますが,
代表的な「毒虫」です。個体数はそれほど多くありません。

(Nao10さんに画像の提供を頂きました)
住宅地の灯火に来たアオカミキリモドキ。
このように,都市部でも時々見かけます。

 このほか,身近な生き物で命にかかわる危険なものと言えば,毒ヘビ。
 南西諸島以外の場所では,日本にいる毒ヘビはマムシヤマカガシぐらいですが,マムシによる死者は,年間10人前後あります。マムシの事故による死亡率は決して高くありませんから,マムシにかまれた人は,これよりはるかに多いわけです。ハブ類による事故は,地域が限られていることもあり,現在,国内での死者は年間1人いるかいないか,と言う状況です。ヤマカガシはマムシやハブ類と比べると,危険でないように見えますが,死亡例もあります。ヤマカガシの場合,毒牙が口の後ろのほうにあるので,かまれても毒液を注入されないで助かる場合もあります。
 ヘビの対策は,とにかく生息場所を脅かさないこと。マムシの場合,湿った藪の中に入るときは要注意です。ハブ類は,昼間は石垣の隙間などで休んでいますから,むやみに手を突っ込んだりしないこと。東京を流れる多摩川でも,中流の河川敷にはマムシが生息しています。意外と身近な場所にいるのです。

 意外な生き物が毒を持っている例もあります。
 ヒキガエルは,体表面に有毒な成分を分泌します。ヒキガエルの分泌物が目に入って激しい炎症を起こした例もあります。ヒキガエルを触ったら,よく手を洗いましょう。また,アマガエルも,体表面に微量の有毒成分を含む分泌液を出しています。南米などには強い神経毒を分泌する「毒ガエル」がいますが,日本にも,弱いながら毒を持つカエルが身近にいることは覚えておいてください。

アマガエルもわずかだが毒がある。
通常は問題になるほどではないが……


 日本には,吸血性のヒルや,サソリの仲間も分布しています。しかし,これらは分布が限られていて,「身近な自然」には,存在しません。ここでは敢えて省略します。
 また,海にもさまざまな「危険な生き物」がいるのですが,これはまた項目を改めて,いずれ紹介することにしましょう。

「不快害虫」という生きもの

 「害虫」と呼ばれるものには,いろいろなものがあります。農作物に被害を与える虫も害虫ですし,刺したり吸血したりする虫も害虫。病気を媒介する虫も害虫です。ところが,こうした被害も無いのに「害虫」と呼ばれる虫がいます。
 …それが,「不快害虫」。
 たとえば,ユスリカが大量に発生すれば,大半の人は不快に思います。しかし,彼らは吸血もしなければ,病原体を運ぶこともありません。ハナアブの幼虫も,汚水に発生する,「尾長うじ」と呼ばれる虫で,気持ち悪いと感じる人が多いのですが,実害はありません。こうした,生活上,不快に感じる虫が「不快害虫」です。
 実はハエやゴキブリなどは,病原体を足につけて運ぶ,と言うことで「衛生害虫」と言われていますが,実際には日本のような清潔な環境のもとでは,「不快害虫」としての問題のほうが大きいのです。
 不快に感じる,感じないは主観的な面が大きいものです。虫について,あまり理解の無い人にとっては,ほとんどの虫が不快感をもたらすものだったりします。いわゆる「益虫」であっても,その姿を見て不快に感じる人にとっては「不快害虫」なのですね。そういった意味では,「不快害虫」は,人間が勝手に「こいつは危ない!」と言う信号を発してしまった虫だと考えてもいいでしょう。自然観察の場面でも,虫に対する,危機感や価値観の違いから,観察者間での意見の食い違いが,しばしば起こります。「安全管理」と言う面から言えば,「不快害虫」は「安全な虫」と考えられますが,過剰に反応する人も,中にはいるのです。無理に価値観を変えてもらう必要はありませんが,せめて,危険でないことぐらいは,理解してもらえると,自然観察ライフも,もう少し楽しくなるのではないかと思いますが……。

チャバネゴキブリ。
ゴキブリはもともと,森林の生きもの。
こうして森の中で生活しているゴキブリを見ると,
他の昆虫に較べ,特にゴキブリだけが「汚い」と言うこともない。
シオヤアブ。
昆虫食性のアブだが,人への被害は無い。
しかし,この姿を見て危険を感じる人も少なくない。


アウトドア初心者のための,危険な昆虫,動物から身を守るための心得

1.わからない生き物には手を出さない
2.最低限,ハチ,毒ヘビ,有毒の毛虫に関する知識と対策を知っておく
3.たとえ気持ちが悪い虫でも,実害の無いものが多いので,過剰に恐れる必要は無い


……以上はあくまでも,日本の「身近な自然」での話。
おもに陸上での安全管理の心得としてお考えください。
海辺や海中の危険な生き物については,もう少し別の予備知識が必要です。
亜熱帯,熱帯地方では,身近な自然環境中に,日本よりはるかに多くの危険な生きものが分布しています。こうした場所に出かけるときは,十分に危険情報を収集してください。

関連情報

☆現在,リンク許可交渉中です。
☆リンクを希望される方はメールにて連絡ください。
 内容を検討の上,リンクさせていただきます。


→「身近な自然にひそむ危険」トップへ
→Home