「図書館/団塊世代/小説論」創作ノート5

2003年7月〜

7月 3月 4月  5月  6月  8月


07/01
ウトロを出て知床五湖へ。「熊出没中」の表示があって、二湖とか見られなかった。オシンコシンの滝などを見てから、網走刑務所のそばを通ってサマロ湖に。湖と海にはさまれた原生花園をサイクリングした。自転車に乗るのは記憶にもないくらい久しぶりだ。もしかしたら次男とベルギーのブリュージュに行った時以来かもしれない。あの時は、走行スピードが合わず次男に置いてけぼりをくって、淋しくブリュージュの駅に引き返した。そのことは「ウェスカの結婚式」にも書いた。その点、妻はやさしかった。サロマ湖では快晴で、快適なサイクリングであった。本日の宿泊は、層雲峡。

07/02
層雲峡で滝を二つ見てから、旭川経由で美瑛、富良野を巡る。天気はまずまず。旭川の空港で、仕事を一つ片づける。ペンクラブの秦さんに渡す原稿のチェック。単行本を見て自分でタイプしたものだが、読み返してみると、タイプミスはわずかに2カ所。自分の集中力に感動する。
家に帰ってメールを見ると、緊急に「報告書」を送らないといけないことになり、あわてて書く。4日も留守にしていると、世の中はかなり動いてしまう。まあ、休みなく働いているので、4日くらい休ませてもらってもいいだろう。

07/03
文芸家協会にて保護同盟との引継について打ち合わせ。わずかずつ前進している。終わってから小走りでペンクラブへ。貸与権についての会議。言論表現委員長の猪瀬直樹氏の発案で、経済産業省の人に来ていただいて、経過説明を受ける。こちらは出版社側が、隣接権や版面権を要求するのではないかと懸念していたのだが、お役所の方で事前に「指導」をしていただいたようで、出版社と著作者が法律問題で対立することはないようだ。あとは、分け前のパーセンテージだけの問題だが、レンタル店に出るのは推理小説など、売れるものに限られるから、作家の側が強気で要求すればいい。役所の人が帰ってから猪瀬氏に図書館問題について説明する。こちらのプランを伝え、ほぼ合意を得たと思う。

07/04
金春流の桜間真理さんはじめ、関係者の皆さんが来訪。わが姉、三田和代も来て、明後日の打ち合わせ。「葵上」の公演に先立って、三田和代さんが、謡曲を素読みし、その語、わたしが解説をするという段取り。能舞台に上がるので、白足袋を用意せよとのこと。姉は和服で出るらしいが、こちらはズボンに足袋という、へんな格好になる。妻に捜してもらったら、白足袋は出てきた。十年ほど前に、早稲田文学部百周年のイベントで、歌舞伎座で「助六」をやった時、白酒売り(助六の兄)で出演した。ちなみに助六は高橋三千綱。わたしは忘れていたが、その時、足袋だけは自前ということで、買ったのが保存されていたようだ。

07/05
何事もなし。新潮新書の担当者とは来週火曜日に会うことにしたので、作業は中断。図書館関係の機関誌に書く原稿を書いている。本一冊ぶんに書いた内容を10枚に圧縮するのは難しい。

07/06
国立能楽堂で講演。金春流の桜間真理さんの公演の前座で、姉の三田和代が演目を朗読し、こちらが解説をするという段取り。和代さんの朗読はすごいものであった。こちらの解説は時間がきっちり終わったところが取り柄といえようか。まあ、必要なことは話せたと思うが、少し流れがわるかった。時間が短いので、ギャグをはさめなかった。

07/07
児童文学二団体との話し合い。ドリル業者の補償問題について検討。われわれが進めている著作権管理業務について、契約書の試案を見せて検討していただく。必要な話はすべてできたと思う。こうやって一歩ずつ前進するしかない。
中村くんと三宿で飲む。担当編集者で中村くんだけ実名で書くのは、まあ、それだけつきあいが長いということ。大学での講義録を本にした時、一年間、教室に通ってくれた。その時からのつきあいで、仕事がなくとも時々、三宿で飲んでいる。しかし今回は、仕事の依頼があった。この前、仕事を依頼された時は、原稿が完成した途端に中村くんが会社をクビになったので、作品が本にならなかった(急遽、文庫として発刊された「天神菅原道真」)。今回は無事に本が出ることを期待したい。書くのは来年になる。タイトルはもう決まっている。「犬との別れ」。このタイトルを書いただけで、もう涙ぐみそうな気分になってきた。感動的な名作になることは間違いない。

07/08
新潮新書の担当者と自宅で打ち合わせ。3章までを渡してあったが、おおむねそのままでいいとのこと。ただ少し理屈っぽいところがあったので、こちらからの提案で、2章と3章を縮めて、1つの章にまとめることにした。とにかく最初から読み返して、かったるいところはカットし、ユーモアを追加したいと思う。

07/09
本日は、休み。休みというのは、人と会う仕事が何もないということで、自分の仕事はしなければならない。昨日、打ち合わせを終えた「団塊論」、序章と1章のチェック終える。語り口を整える。2章からは縮めながらチェックすることになる。少し集中力が必要だ。久しぶりに三軒茶屋を歩く。何事もなし。明日は書協で打ち合わせだが、何の打ち合わせなのかわからない。来週も書協で会合がある。あまりにもいろんな会合があるので、何が何やらわからなくなっている。とにかく行ってメンバーを見れば何の会かはわかる。

07/10
書協で打ち合わせ。図書館に関しての、著作権者側だけの打ち合わせ。いろいろと難問はあるが、わずかずつでも前進するしかない。書協は神楽坂だが、妻が中央郵便局へ行くというので、桜田門まで乗せていってもらう。有楽町線で飯田橋へ行くのが最短と考えた。溜池から南北線で行く方法もあるし、六本木か青山一丁目から大江戸線に乗る手もあるが。妻が中央郵便局へ行ったのは、長男に書籍を送るため。その中にはわが著作2冊もあるし、孫への絵本などもある。黒ネコでは送れない。スペインは遠い。

07/11
文芸家協会理事会。報告すべき項目がたくさんあって、1時間近く一人でしゃべっていた気がする。その後、いつものように冷えたウナギを食べる。やれやれ。

07/12
国立能楽堂で能を観る。先週も同じところで能を観た。先週は仕事がらみ。今日の切符は前から買ってあったもので、まさか連続で能を観ることになるとは思っていなかった。また能の解説をすることになっているので、本日の解説の人は参考になった。

07/14
昨日の日曜と本日の月曜は、休み。休みというのは外に出る仕事がないということで、自分の仕事をしなければならない。気に掛かることがあったので、「桓武天皇」の冒頭部を少し書いていた。本日から「団塊論」に集中する。ここからエンディングまでは一気に行きたい。「アインシュタインの謎」を20日で書いたことを思えば、半月で書けるはずだ。ただし、外に出る仕事がけっこうあると思うので、気持ちの切り替えが必要。夜中は集中力を持続させなければならない。

07/15
書協。ガイドラインの協議。昨年の教育機関との協議で、学習者によるコピーを権利制限に加えることに合意した。しかし無制限というわけではないので、権利者側でガイドラインを作ることになっている。このガイドラインで、現在教育現場で行われているコピーやパソコンによるプリントの多くが違法であることを示せる。現場の先生方に、自分たちは違法行為をしているのだという認識をもっていただく。その上で、著作権の利用についての簡便なシステムを構築するための協議に入りたい。だがその前に、出版社や新聞社を説得しないといけない。本日の協議は、そのための布石である。この説得には時間がかかるし、実際にシステムを構築するためには難題が山積している。一歩ずつ進むしかない。
現在、わたしは、さまざまなプランと困難をかかえこんでいる。主なものは、図書館問題、貸本屋問題、ブックオフ問題、教育機関の問題、営利目的の教育機関の問題、保護同盟との合併の問題、福祉目的利用の問題、教科書準拠ドリルの問題、デジタル出版の問題……、こうやって数え上げていくと無限に項目が続きそうだが、実際に1つの問題を解決しても新たな問題が生じるだろう。いまここに数えた問題は現在進行形で進んでいるもので、早急に何とかしなければならない問題である。
しかしその前に、自分の仕事をしなければならない。「図書館論」の再校を数時間で仕上げる。宅急便で送る。もう図書館のことは忘れたい。来週、会議があるので忘れるわけにもいかないのだが。「団塊論」はこれまでの3章までを書き直す作業に手間取っているが、ここを突破すればピッチが上がるはずだ。涼しい日が続いているのがありがたい。

07/16
定例の保護同盟との会議。いつも文化庁の各部署の担当者3人に来ていただいている。隔週の水曜日に開かれるこの会議を、2月から続けている。文化庁の皆さんにもお世話になったし、こういう設定を指示していただいた著作権課長にも感謝したい。ようやく保護同盟との譲渡契約が見えてきた。委託者への契約書の配布も目前だ。来月には解散のための保護同盟の臨時総会も準備されている。これで1つの山を越えることになるが、実は、譲渡を受けて事業をスタートする10月からが本当の山場になる。が、まあ、動き出してしまえば職員の皆さんに頑張ってもらうしかない。こちらの仕事は、ホームページの原稿を書くことくらいだ。

07/17
本日は休み。自分の仕事、かなり進んだ。ようやく2章と3章を1つにまとめることができた。せっかく書いた原稿の量が減ってしまったが、読みやすくなった。わたしの欠点は、時としてものすごく理屈っぽくなることで、つねに反省している。大学の先生をしていたので、かなり理屈っぽいことを言ってもついてくる学生たちがいたし、教場では、学生たちが退屈していれば、ギャグでほぐすこともできた。そのコツをつかんだつもりでいたが、大学を辞めて2年以上になるので、理屈がからまわりしている面があるかもしれない。気が付いたので、理屈を排除した。ていねいに論理的に語るよりも、独断と偏見を簡潔に語る方が、読み物としては面白いものになる。

07/18
日本漫画家協会で会議。ちばてつや氏、里中満智子さん、文芸家協会側は流通問題の中沢けい、それに顧問の柳原弁護士。4時間、ぶっとおしで議論した。充実した話し合いだったし、いろいろ面白い話も聴けて、楽しかった。

07/20
昨日は男声合唱団の飲み会で、やや宿酔ぎみ。「団塊」は順調に進んでいる。このままペースを上げてゴールに向かいたい。来週は図書館の会議が1つあるだけで、比較的ヒマ。自分の仕事に集中したい。

07/21
「団塊」4章まで進んだ。1章は導入部、2章で経済問題、3章は今後の経済的展開、4章は老後の哲学という展開で、5章は家族について考える。その先の項目もいちおう考えているが、筆のおもむくままに自由に展開したい。最後は明るくしめくくる。それだけは決めてある。来週と再来週は少しヒマになるので、この本を一気に書き上げたい。
三田和代さん来て、能の打ち合わせ。今回は「生田敦盛」話は単純で朗読では盛り上がりのポイントがない。まあ、そういう台本だから仕方がない。

07/22
図書館関係者との協議。福祉関係の利用について、図書館側でガイドラインを作ってもらうことにしていたが、こちらの希望通りのガイドラインができた。図書館協会および大学図書館協会と一括して契約を結べば事務処理も簡素化できる。1つの山を越えた気がする。それで本日は論争せずにまとめたかったのだが、補償金問題についてもひとこと言っておく必要があったので、少しこちらの構想を話したら、大議論になりかけた。時間切れで終わったのだが、後味がよくない。まあ、いずれ議論は再燃するので、覚悟しなければならない。ビタ一文払わないという図書館の姿勢には疑問を感じる。世の中の大きな動きの中では、図書館も姿勢を変えざるをえないだろう。

07/23
本日は休み。今週はもう公用はないので、自分の仕事に集中できる。「団塊論」も5章の終盤。そろそろ折り返しポイントだ。ここからはピッチを上げたい。

07/26
今週は久々に公用の少ない週。仕事ははかどっている。本日は母の米寿の祝いを兼ねた誕生祝い。誕生日は少し先だが、本日は立川の花火があるので、この日に祝いをすることになった。四人兄弟であるが、東京にいるのは女優の姉とわたしだけ。長女の姉と兄も呼ぼうというプランもあったのだが、実現せず。母のいる老人向け施設の部屋に集合して、施設の夕食を運んできて部屋で食事。花火の日は食事もふだんより豪華で、飲み物もついている。ビールを飲んでいい気持ちになってから、屋上に上がって花火を見ていたが、風が強くて寒く、パラパラと雨が落ちてきたので、母の部屋の前の廊下に場所を移して、最後まで花火を見る。ここで花火を見るのは三年ぶり。三年前は長男の嫁さんのエレーナがいた。一昨年は、めじろ台合唱団の練習と重なったので、食事だけして花火は見なかった。昨年はエレーナと孫が来ていたので、花火の日ではない時に来た。母は元気だった。

07/27
「団塊論」は6章の後半。この章は夫婦論で、「夫婦の掟」(講談社)や「中年って何」(光文社)で書いたことと重複するのだが、コンパクトにまとめて採録する。要するに、定年後の夫が、いかに妻に嫌われないようにして生き抜くかというもの。これは夫の側からの視点なので、妻の側からの視点を追加しないといけない。女性の場合は更年期のウツ病が心配なので、夫に絶望せずに、元気を出して生きよう、といったメッセージを伝えたい(無理か?)。

07/28
本日も涼しい。6月の末に一度、書斎のエアコンを動かしただけで、ついに7月は一度も動かさないことになりそうだ。わたしは6畳の和室のタタミ2畳ぶんのスペースだけで仕事をしている。窓があるがその先には塀があるだけで見晴らしは何もない。見晴らしはないが立地は丘の斜面にあるので、窓から涼しい風が入ってくる。夜は寒いので窓を閉める。
昨夜、寝る間際に「桓武天皇」を少しいじっていたら、かなり書いた。井上内親王に迫られるシーンの前に、永遠のヒロインの明信(女の子)を登場させておきたい。男まさりの気の強い女だが美人だから許されるというタイプ(パターン化されている)。最初の方に出てくるだけで、それからはまったく出てこず、終わりの方になってまた出てくる。主人公にとって初恋の女性であり、永遠にアイドルである。明信以外の女性には魅力を感じない、という設定にしておく。桓武天皇には数十人の妻がいたと伝えられるが、それは永遠の女性を求め続ける遍歴の故であるということにしておきたい。そうでないとただのスケベオヤジになる。この明信のイメージをピュアに描けるかどうかがこの作品のカギになる。本日も前日の作業の続きをやっていた。これから「団塊論」の一日のノルマを果たしたい。本日中に6章を終えたい。

07/29
産経新聞記者来訪。2年ほど前にも来ていただいた女性。著作権問題についてフォローしてもらっている。2年前よりも問題が具体化している。それにつれてわたしの仕事が驚異的に忙しくなっているわけだが。状況を報告する。直作権問題は、著作権というものが問題であるということを、世の中の多くの人々に認識していただくことが、何よりの解決につながるので、マスコミのお世話になることになる。今後もいろいろと問題は多く、その意味では話題は豊富なので、宣伝活動を兼ねて情報を提供していきたい。
自分の仕事。夕方、ようやく6章が完成。半分を少し越えたという実感をもつ。草稿完成までにあと半月はかかるだろうが、8月の後半には次の仕事に行けるように頑張りたい。

07/30
昨日、スペインにいる長男から手紙が届いた。スマートメディアに孫の写真が大量に入っていた。だんだんデブになる。はっきり言って、わたしに似ているので気の毒だ。というか、やっぱり長男の赤ん坊の頃にそっくりだ。女の子だし、スペインで生活しているのだから、母親に似てほしいのだが。

07/31
文化庁法制問題小委員会。今回は各種の報告があった。わたしは貸与権問題の担当なので、1人5分のところ、10分くらい報告した。この程度の超過は許されるだろう。午前中の会議なので一日がながい。朝からの会議の時は、妻が車で送ってくれる。満員電車に乗って痴漢に間違われないようにという配慮だろう。妻はそのまま三越へ行くというので、虎ノ門から三越まで電車に乗って、妻の車に乗せてもらう。
ついに梅雨明けしないまま7月が終わった。涼しかった。書斎のクーラーを一度も動かさなかった。仕事も順調に進んでいる。ありがたいことだ。東北地方は冷害のおそれがあるということだが。


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