「月の西行」創作ノート3

2007年12月

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12/01
土曜日。かなり以前から異音を発していたDVDプレーヤーが、巨大な音響と共に空転を始めた。ご臨終のようだ。で、三軒茶屋のピカソに買いに行く。わたしの仕事スペースの前にあるこれも壊れかけの古いテレビにつなぐだけなので最新の機能は必要ないが、大昔に買ったビデオCDを見たいので対応しているかを確認する。最近のパソコンはもはやビデオCDは受け付けない。いちばん安い機種だけが対応していたので選択の余地はなかった。5000円でおつりが来る。帰ってテレビに取り付ける。ややこしい機能がないので取り扱い説明書を読むまでもない。機械はやたら進歩する必要はない。昔のままでいい。「西行」オープニングからの書き直しの作業がようやく終わりそうだ。これで新たな領域に行ける。義父母を孝行旅行につれていっていた妻がようやく帰ってきた。忙しかったので妻の不在もほとんど気にかからなかったが、やはり妻がいると安心する。

12/02
日曜日。穏やかな日で、妻と下北沢まで散歩。来週も何やかやと用があるが、「西行」のスピードを一気に上げたい。

12/03
先月は超ハードな日々であったが、今週も毎日公用がある。本日は文藝家協会理事会。他の委員の報告が少なく、わたしの報告はたくさんあって、一人で長時間しゃべりつづけた。わたしは疲れなかったが、聞いていた人は疲れたのではないかと思う。「西行」順調に進んでいる。青墓を去るにあたって遊女たちが少年西行に今様を聞かせるシーン。ここで脇役として活躍することになる吉次が、京の状勢について語る。待賢門院や崇徳天皇、平清盛など、この作品の重要人物が名前だけ登場することになるが、さして長くもない作品なので、このオープニングの段階で重要人物の名前だけでも出しておくのは伏線として意味のあることだ。この小説がどういう方向に進んでいくかが読者に提示されることになる。

12/04
日本点字図書館で大阪ライトハウスと協議。問題はすぐに解決する。「西行」が動き出したが、そうなると状況の確認が必要となる。まだ主人公が京に出ていないので、いまは伏線をはる段階だが、物語が動き出せば急速につじつま合わせが必要になる。清盛、待賢門院、後白河天皇などの個人史と、西行の人生とをすりあわせていくことになる。小説だから多少のフィクションは許されるだろうが、史実を大幅に曲げるわけにはいかない。歴史小説の難しさはそこにある。こちらで用意したストーリーが、史実を確認するとまったく無理ということもあるから、そのつど確認していかなければならない。とにかくいまはいい感じで前進できている。

12/05
文藝家協会で打ち合わせ。昨日も今日も短い打ち合わせなので散歩の延長。自分の仕事に集中できているが、まだ無理はしていない。

12/06
今週もハードな日程だが、本日は休み。散歩に出ただけ。雑文の締切もないので「西行」に集中している。ようやく頭の中が西行になってきた。しかし日蓮の時のような性格が変わってしまうようなことはない。この作品は「恋する西行」というのがテーマだが、その「恋」は限りなく「マザコン」に近いものだ。そういう恋愛の対象がないので、どうも今回は作者が西行になりきってしまうということはないようだ。

12/07
著作権情報センターの「著作権パーティー」。日頃つきあっている著作権関係の人々が一同に会する。いつも会っている人々だが、会議の席が多く、私的な会話を交わすことは少ないので、こういう機会に短い会話を交わすのも面白いが、人が多いのでごく短い会話になってしまう。あいまをぬってチキンパイとパスタとカレーを食べる。酒も飲んだはずだが、こういう席の酒はすぐに蒸発するようで、帰ってすぐに仕事をする。西行が父方の領地に赴き、しかるのちに朝廷に出仕するまでの経緯を手短に語らなければならない。

12/08
土曜日。ハードな一週間が終わり、ようやく週末。というか、あっというまに週末になった感じだ。昨日の宴会で今年の重要な催しは終わった感じがする。来週はもはや公式行事のようなものはないので、仕事に集中できる。「西行」順調。この週末は雑文の今年最後の書きための作業を並行することになるが、もう頭が西行になりきっているので、集中力が途切れることはないだろう。

12/09
日曜日。JVC(日本国際ボランティアセンター)のコンサート。このJVC(日本ビクターではない)は難民救済の基金を集めている団体で、毎年12月にチャリティーコンサートをやる。今年で19回目とのことだが、わたしは確か2回目と3回目の時にメサイアのコーラスに参加したことがある。それから小さいコンサートでわが長男が出演させていただいたこともある。今回は例年のメサイアではなく、クリスマスオラトリオとクリスマスキャロルを演奏するということで、実はクリスマスキャロルの字幕の翻訳をボランティアで頼まれていた。演奏は素晴らしいものであったが、字幕を見ると翻訳とはいえ自分の言葉なのでドキドキした。

12/10
月曜日。今週はハードな日々だが、本日は休み。なぜかあいてしまった空白の一日。仕事に集中。

12/11
教育NPOとの定期協議。その前に不思議な芸術家夫婦関夫妻の個展を見に行く。ほぼ同世代でフランスに長くいた人で、芸術家のようなクラフト作家のような、つまりインテリアにもなる小さな芸術を作る夫婦で、それに生涯をかけている心意気と、わが同世代共通のセンスがあるので、とにかく個展に出かけていった。銀座の文春画廊というので、どうしたのと思ったのだが(去年は世田谷ボロ市だったから)、2階建てになっている画廊の2階では、ボロ市ふうのものも展示されていてなかなかよかった。それから飯田橋で教育NPOと協議。前回提案されたことは、こちらの理事会で報告して承認されているので、何も問題はない。来年に向けて計画を立てているのだが、これは努力目標で、とにかくできる限りのことをするというスタンスでいい。それでも加盟校が増えつつあるので、このNPOの関係者のご努力に敬意を払いたい。

12/12
「夫婦って何?」重版決定。発行から約一カ月。めでたい。西立川の母のところに行く。超多忙のため長らく訪ねていなかった。3人目の孫が生まれたことを報告。帰りは西立川から立川まで、昭和記念公園の中を歩く。一人400円もとられるが、電飾があっていい散歩だった。前夜、第1章が完了した。これからはスピードアップして、ヒロインの登場までは時間をとばしぎみに語っていきたい。

12/13
わたしが主宰するNPO(日本文藝著作権センター)の打ち合わせ。事務担当の女性がご主人の転勤で京都へ行くというので、どうするんだということになったのだが、調査部長兼デザイナーが経理のやりかたを教えてもらっていたので何とかなりそうだ。打ち合わせのあと忘年会。これで今年の仕事(公用)はすべて終わった。

12/14
新規の編集者来訪。ソフトバンククリエイティブという会社。理科系の新書を出しているとのこと。これまでもメールで話し合っている。来年後半の仕事のメニューに理科系の本が一つ入っているのは気分転換にいいだろう。

12/15
土曜。渋谷まで散歩。自動販売機で新幹線の切符を買う。それから紀伊国屋で本一冊。来年NHK衛星のブックレビューに出演するのでお薦めの本を決めないといけない。何を買ったかは放送を見てのお楽しみ。姉の三田和代来て宴会。今週は母も訪ねたし、これで年が越せる。

12/16
日曜。天気がいいので世田谷ボロ市へ行く。ものすごい人出。人手を見に行ったようなもの。行きは徒歩で行ったが帰りは疲れを覚えたころに、ちょうど世田谷区役所前に来て、始発の空いたバスが発車直前。こういう偶然は無理をするなという神のお告げだと感じて乗り込む。

12/17
ウィークデーが始まったが年末なので今週の公用は明日だけ。自分の仕事に集中する。いよいよヒロインが登場する直前になっているのだが、そこに行くまでの手順は慎重にやりたい。主人公の心理が作品の山場になるので、心理の動きが読者に伝わるための最善の準備をする必要がある。

12/18
大衆文学研究賞のパーティー。「団塊老人」などの担当編集者、校條さんが受賞者なので出席。大衆文学とは縁がないのだが、評論家、編集者など知人が多く、楽しい会だった。二次会に誘われたが失礼して夜中は「西行」に取り組む。これで文壇関係の宴会も終了。あとはコーラスの忘年会だけ。来週、文化庁がワーキングチームのスケジュールを入れてきたので、まだ完全に今年が終わったわけではないが、とにかく宴会は終わったので、キリキリと来年に向けて仕事をしないといけない。小説家はフリーターなので、その日暮らしのようなものだから、来年の仕事を依頼してくださる編集者のオファーは断れない。しかし数えてみるととてもできないくらいの仕事を引き受けてしまっている。申し訳ないことだが、やりたい仕事、やれそうな仕事から取りかかるしかない。総理大臣が「そんなこと約束したかなー」といってきりぬける時代である。

12/19
近所の医者に行く。妻が検診で血圧が高いと言われて毎日測っているので、ついでに自分も測ってみたら、こちらの方が高い。とりあえず薬をもらった。お台場で映画を見る。昨日で忘年会も終わった。少し気持ちがリラックスしている。

12/20
もう年末休暇モードに入っている。渋谷まで散歩。渋谷まで往復歩くとやや疲れる。鳥羽院に関するエピソードを早い段階で出していたのだが、いま鳥羽院が勝手にしゃべりだして西行に過去を告白し始めた。すでに人物がオートマチックに動き始めているので成り行きに任せるしかない。ということで、最初に伏線を張った部分はカットしないといけない。それで細かいところを修正することになるが、全体の流れはよくなる。こういう修正はそのつどやっておかないとあとでコントロールできなくなるおそれがある。手間はかかるがやっておいた方がいいだろう。雑用はほとんど終わっているのだが、「文蔵」の連載と年賀状が残っている。

12/21
年賀状の作成。

12/22
妻の年賀状作成。コーラスの忘年会。

12/23
妻と六本木や夜景を見に行く。しかし大群集を見にいったようなもので疲れた。年賀状のプリントまだ半分。

12/24
ようやく年賀状完了。毎年のことだが大仕事だ。姉の三田和代、マネージメントの会社からクリスマスケーキをもらったとのことで、こちらで豆乳鍋を用意していっしょに食べる。クリスマスを老人3人で祝う。さて、年始年末は「西行」になりきってすごす。

12/25
雑用がすべて終わり、これから半月は「西行」に集中できる。

12/26
文化庁小委員会の下に新たに造られたアーカイブ・ワーキング・チームの第1回の会議。いつもは三田会議所とか如水会館などの貸部屋で会議をすることが多いのだが、今回は小人数なので文部科学省の会議室。来年は引っ越しなので三菱ビルに行くのもこれが最後だろう。重要な会議なので何度も発言し疲れた。本日から浜名湖の仕事場に行く予定で、昼頃には出発したかったのだが、荷物を車に乗せてから電車で三菱ビルへ。午後3時に会議が終わったので、丸ビル前の待ち合わせ場所へ。いつも新幹線に乗る時は丸ビルまで妻に送ってもらう。八重洲口は車を寄せる場所がないし、丸の内から行くと新しい地下道で弁当を売っているので便利だ。で、いつもの場所から車に乗り、浜松に向かう。三ヶ日の仕事場に着いたのは午後7時。暗くなっていたが、風がなく、仕事場の中は寒くなかった。掃除をして、軽く飲んで寝るだけ。

12/27
さて、ようやく仕事場にこもってひたすら「西行」に取り組める環境になった。まずは最初から読み返してみる。うまくいっている。鳥羽院のモノローグが長いので、それまでの説明を削っていく。第1章が終わる。ここまでは完璧だ。自信ができた。夕方、鷲津まで買い物。鷲津にあるなじみのイタリアンで食事。夜も仕事を少し。

12/28
妻がヴィスタを使うと時々ルーターがハングする。三宿のルーターはヴァージョンアップしたので問題がなくなった。同じ手順でやってみたのだがどうもうまくいかない。説明書がないせいか。今日、三宿に戻るので説明書を探してみよう。さて本日は早稲田の教養課程のクラスの同窓会。浜松から新幹線で出かける。大阪から来た義父母とすれちがい。ホームで挨拶して新幹線に乗り込む。去年は大隈講堂向かいの早稲田タワーのレストランだったのだが、今回は駿河台下の中華料理。以前にも同窓会の会場にしたことがあるのだが、古ぼけた座敷の感じがわるくなかった。今回久しぶりに集まってみると、すべて洋室になっていた。ビルを建て替えたみたいだ。十数名が集まる。新幹線の中から飲んでいたので、後半は記憶がない。とにかく自宅に帰り着いて、メールをチェックしようとすると、ネットがつながらない。深夜まであれこれと算段したのだがどうしてもつながらない。結局そのままになってしまった。

12/29
ネットのことが気になって朝早く目がさめてしまった。電源を切るなど常套手段では解決せず。ついでに三ヶ日のルーターのヴァージョンアップがなぜできないのかも考えてみたが、こちらはヒントが浮かんだ。時間が来たので自宅を出て新幹線に乗る。二日酔いだがロング缶一本飲んで仮眠。昨日は浜松停車のひかりだったのだが、この日は帰省ラッシュで、こだまの喫煙車の切符しかとれなかった。しかしこだまは乗客の出入りがあるので空席も多く、乗客の多くは眠っていてタバコを吸う人も少なかった。それにしても各駅停車のこだまは、しょっちゅう停車して、その度にのぞみに追い抜かれる。停車時間が異様に長い。妻の車で三ヶ日へ。ルーターのヴァージョンアップ成功。これで少し気分が軽くなった。三宿のルーターについては、モデムの耐用年数の問題もあるので、NTTに問い合わせるしかないか。とにかく仕事をしないといけない。「西行」はこれまでのところのチェックを終えて、先に進んでいる。一定のペースで前進しないといけない。明日は次男が来る。

12/30
天気がよいようでいてパラッと雨が降る。散歩2回。湖岸の散歩は車がまったく遭遇しないので、歩きながら物思いに集中できる。夕方、四日市にいる次男夫婦が到着。義父母もいるのでにぎやかだ。自宅でブリしゃぶを食べる。

12/31
大晦日。浜松駅前の料亭に頼んだおせち料理をとりに行く。ご主人が玄関で迎えてくださる。歴史のある料理屋のようだ。注文のメールを出すと返信があり「空海」の読者だとわかった。心しておせちを味わいたい。さて本日は自宅ですきやき。朝からパソコンに向かっていたので仕事は進んだ。この作品の最大の山場、西行と待賢門院璋子の出会いの場面の直前まで来た。山場の執筆は元日ということになる。
ところで気になっていたアメリカン・フットボールの結果。ネットで調べる。何とタイタンズがコルツに勝っていた。とても無理だと思っていたのだが。これでタイタンズがぎりぎりでフレーオフに進出。面白くなった。アメリカン・カンファレンスはペイトリオッツが新記録の16連勝でダントツだが、わたしはコルツが雪辱すると思う。スティーラーズにもがんばってほしいし、タイタンズがどこまでやれるかも注目。あとの2チーム、チャージャーズとジャガーズはどうでもいい。ナショナル・カンファレンスはカウボーイズしかない。パッカーズも強いけれどもファーブは好きではない。マニングの弟のいるジャインアンツも応援したいが、その他のチームは眼中にない。予想としては希望もこめてコルツとカウボーイズのスーパーボール。勝者はコルツ。2連覇達成だ。でも実際はペイトリオッツが勝ち進むだろう。そうなるとカウボーイズを応援するしかない。ダークホースとしてタイタンズとジャイアンツをひそかに応援している。だめだろうけど。とにかくタイタンズがプレーオフに進出したのは驚きだ。新人の黒人クォーターバックが後半、実力を発揮したのではないか。ただ最終戦で負傷したという情報が入った。復活して活躍を期待をかけたい。
フットボールの話で年をしめくくるのもどうかと思うので、ここで今年の反省でもするか。「日蓮」を書いた。それが一番。「謎の空海」と「ダ・ヴィンチの謎」は去年の仕事。あとは「夫婦って何」だけ。堺屋太一伝と童話と西行が途中まで。どうして3作が途中までになってしまったのか。集中力を欠いていたわけではない。スケジュールのつごうでこういうことになってしまった。やや反省している。しかし来年、やりかけの仕事が残っているというのは、迷いがなくていい。この3作を仕上げることで、年の前半は終わりということになる。後半の仕事も新書が3つ入っている。PHPの連載もあと2回で完成する。これは連載をそのまま単行本にするので手はかからない。しかしこれでは小説がない。西行は評判がよければ続篇を書く用意があるが、先に「親鸞」にかかるべきだろう。これには準備が必要なので、やりかけの仕事を片づけながら資料を読む作業も併行させるしかない。来年も忙しくなる。体調をととのえてあまり無理をしないようにしたい。


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