善鸞02

2022年02月

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02/01/火
前月から新しいノートということにしたが、『天海』と『少年空海アインシュタイン時空を超える』の入稿前の最終チェックに費やされた。資料は読み込んでいるが、まだどこから書き始めてようかわからなかった。主人公の善鸞は、偉大な親鸞の長男であり、父の名代として東国に派遣されて問題を起こし、義絶されたということになっている。これまでぼくは『空海』『日蓮』『親鸞』を書いてきたが、いずれも無名の父のもとに生まれた。無名の人間が何事かを成すまでに成長するという青春小説の枠組みに少し理屈を加えるといった書き方だったが、今回は父親の方が有名なので、ただの成長物語ではなく、父への憧れと対抗意識から生じる嫌悪感のせめぎ合いといったところが話が展開されることになる。ということは、ふつうの青春小説のように少年時代から書き始めるのではなく、父が何ものであるかを認識した人物として描く必要がある。そこで、京に戻った父と再会するところから始めるべきかと考えていた。親鸞60歳、善鸞30歳くらいかと考えてみる。20歳くらいなら父への憧憬と反発というところから出発するのだろうが、もう成人して大人として生きた人物なので、もう少し距離をとって父親を見ているのではないか。幸いなことに拙著『親鸞』に、父と子が再会するシーンが描かれている。台詞などはそのまま踏襲するという、前作では父親の側から見ていたのを、息子の側から見ていけばいい。そんなところで、昨日、出だしの部分を書いてみた。ようやく作品の執筆が始まったという感じがする。
Footballがあと1試合を残すのみとなった。そろそろFootballに関する思いを払拭して広く世界に目を向けたいと思う。いまぼくが関心をもっていることをいくつか書いて生きたいと思う。コロナの流行から丸2年になった。流行の直前にスペインにいる長男一家が帰ってきて、3人娘のピアノ三重奏を聴かせてくれて感動した。思えばのどかな日々だった。いちばん心が動いたのは、メッセンジャーRNAのワクチンが出来たこと。ぼくもすでに3回接種を受けた。ぼくの知識では、ワクチンというのは弱毒化した病原菌を注入して、軽く感染させて抗体を作るというものだ。だがファイザーとモデルナのワクチンは、合成したメッセンジャーRNAに油脂の衣を着せたものを注入するのだという。RNAというのは、すべての生物の細胞内にあるDNAの逆転写コピーでネガフィルムのようなものだが、コロナのトゲトゲの部分のRNAだけを合成したもので、これが人間の体内に入ると、トゲトゲだけが量産される。爆発的な増えたトゲトゲに対して、人間の免疫システムが抗体を大量生産して、これで本物のウイルスが来た時に抗体で死滅させるというものだ。実に不思議だと思うのは、DNAもRNAもすべての生物に共通だということ。ウイルスは生物ともいえない遺伝情報の切れ端のようなものだが、それでもコロナと呼ばれるような形態をもっている。そのトゲトゲの部分を人間の体内に注入すると、人間の細胞内でトゲトゲが量産されるということだ。ぼくの体内でもそういうことがすでに3回生じたことになる。その副作用でそのつど熱が出たが、それだけのことで抗体が出来たかと思うとすごい発明だと思う。このRNAの合成というのはコロナのために開発されたのではなく、難病治療のための可能性の1つとして試行錯誤されていたものが、急遽コロナに応用されたものらしい。こういう基礎的な研究を外国の医療メーカーは日夜続けているのだろう。ぼくは人気のないモデルナを選んだので即座に予約できたのだが、妻はファイザーを選んだので本日接種ということになった。明日あたり高熱を発するのではと心配している。

02/02/水
昨日、作家で元東京都知事の石原慎太郎さんが亡くなられた。小学校低学年のころに「太陽族」という言葉が流行語になった。散髪やの料金表に「慎太郎刈り」というのが入っていた。実際に『太陽の季節』を読んだのは高校に入ってからだ。とくに優れた作品だとは思わなかったが、ぼくが文壇にデビューすることになる『文藝』の「学生小説コンクール」の選者は安岡章太郎、石原慎太郎、井上光晴の三人で、石原慎太郎さんがぼくの拙い作品を読んである程度の評価をしていただいたということには、感謝している。その後、早稲田で教えていたころ、ぼくの教え子が「すばる新人賞」を受賞した時、石原さんが選者だったので、パーティーに出向いて石原さんに挨拶をした。言葉を交わしたのはその時の一度きりだったように思う。石原さんの作品を系統的に読んだわけではないが、文体が古風で、なじめなかった。エッセーはおもしろかった。明解な論旨があり、すごいことを語っているのに文章は簡潔で、センチメンタルでないところが心地好かった。何よりも自分のビジョンをもっている人だと思った。四人の息子がいるというのはすごいことだ。さて親鸞には男子3人、女子3人の子がいるのだが、深く関わったのは長男の善鸞と、孫の如信だ。親鸞は妻帯したことで世の人々を驚かせたわけだが、これは妻帯することを教えの中心に据えたということで、当時の京都では、比叡山の修行者でも里に妻がいるものは少なくなかった。自分の寺を息子に継がせるという風潮も生じていたので、親鸞が長男を東国に派遣したというのも、特異なことではない。血の通った息子が後継者になるというのは当然でもあり、その意味では東国の人々も善鸞を尊敬し評価したはずだ。親鸞と善鸞の言説にズレが生じたのはむしろ自然で、善鸞の方が現実的でそのために信者も多かったと思われる。親鸞の第一の弟子の性信の横曽根派の人々だけが最後まで親鸞の側について、善鸞と対立を続け、それが義絶につながったのだろうと思われる。小説ではそのあたりを、センチメンタルにならない範囲である程度感性に訴えるような書き方が出来ないかと思っている。

02/03/木
資料を読み込んでいる。善鸞は父の親鸞から義絶された。その義絶については「消息」と呼ばれる弟子への手紙の中に書かれている。これらの「消息」が書かれたのは善鸞が東国に下った直後のある時期に集中している。従って作品の山場もそのあたりに置かれるのだろう。そうするとその時期の鎌倉幕府の政治体制が問題になる。叡尊、忍性、日蓮らの動きも気にかかる。資料を読み込み全体の流れを整理するためにおそらく一ヶ月くらいかかるだろうが、善鸞が東国に出発するまでの経緯については拙著『親鸞』にかなり詳しく書かれている。親鸞の側から見た経緯を善鸞の側から視点を変えて叙述すればいいので、その作業はいますぐにでも取りかかれる。並行して進めることになる。まあ、急がずにのんびり作業を進めたい。それとはべつに、いまぼくが関心をもっているテーマについて書いていきたい。最新の宇宙望遠鏡となるジェイムズ・ウェッブ望遠鏡について。この名前が気に入らない。初代の宇宙望遠鏡は、宇宙の膨張を発見したハッブルの名を冠したものだが、この最新の望遠鏡は官僚の名前だ。アポロ計画を推進した第二代NASA長官とのことだが、実際に予算をつけたのはケネディー大統領のはずで、この官僚にどれほどの政治的パワーがあったのか。確かに人間を月面に送り込んだアポロ計画は、当時としては夢のような計画だったが、それにしても、官僚の名を冠して英雄として称えることには抵抗がある。この最新の望遠鏡は太陽と地球と望遠鏡そのものの三体問題を解決するために第二ラグランジュ点に置かれる。ラグランジュ点は三体問題の複雑さを回避できるポイントで、そのうち太陽、地球、望遠鏡が一直線になる位置で、月の公転軌道の4倍ほどの遠くにある。軌道が安定するだけでなく、つねに地球の陰に入って太陽光を遮断できところにメリットがある。問題はこの望遠鏡で何を見るかということだが、赤外線望遠鏡ということなので、可視光線と電波の中間の領域の電磁波を捉えることになる。ハッブルの発見した宇宙の膨張によって、遠くになる星ほど光が赤色変位する。もともと恒星が発する光は水素ガスの領域で赤い光なので、遠くの星の光は赤外線の領域に到達していて、ふつうの望遠鏡ではとらえられない。地球の大気そのものが赤外線を発しているし、太陽の光があたると望遠鏡そのものが赤外線を発するため、つねに月食状態になる第二ラグランジュ点に置かれているわけで、これで宇宙草創の直後のファーストスター、つまり最も古い恒星の光を捉えようということらしい。そのことによって宇宙草創の謎が解かれるということなのだが、この望遠鏡の打ち上げには膨大な経費がかかっている。疫病に悩んでいる地球の厄災の解決もせずに、こんなものを月の4倍も向こうに打ち上げることには賛否があるだろう。それで宇宙の謎が解けたとして、それが何になるかという問題もあるが、ぼくは興味をもっている。何かがわかる。ぼくはあと10年くらいは生きているつもりで、この望遠鏡の寿命もそれくらいのようだ。ハッブルは地球の周囲を回る人工衛星なので、当初の打ち上げでは焦点がずれていたのを、人間を送り込んで補修するということが実際にあった。今回のウェッブ望遠鏡はあまりに遠いので、人を送り込むことはおろか、燃料の補給もできないので、寿命は10年とされている。何かがわかってほしい。

02/04/金
パンデミックも心配だが、ウクライナの情勢が緊迫してきた。アフガニスタンやミャンマーも困難な状況が続いている。世界は進化ではなく退化の方向に向かっているようだ。アメリカの力が弱まっていて、争乱を鎮圧する中央政権がない。これは戦国時代に近い状態だ。トランプ政権でアメリカは「世界の警察」であることはやめたのだが、経済力が弱まったのと、アメリカ的な正義感がなくなってしまって、バイデン政権になってもどうしようもない状態になっている。世界平和とか、人権の擁護とか、民主主義といったものが、理念としては機能しなくなった時代を、いまわれわれは生きている。困ったことだとは思うが、誰もこのことを真剣に考えていない。地球温暖化を阻止するという理念は、何とも的外れで、それで何事かをなしたような気分になっている人が多いのは、本当の問題から目を逸らされているのではないかと思う。まあ、目を逸らすしかないということもいえるのだろうが。

02/05/土
『少年空海』の挿絵イラストがデータで届いたのでチェック。物理学の話なので、右ねじの法則とか、50年前に学校で習ったことを何とか想い出している。右手の法則というのもあった。3本の指を「宇治の発電所」と憶えるように習ったのだが、これって、関西の人にしかわからないだろう。

02/06/日
『こころって何?』という、精神科医の池田健さんとの対談集のゲラが届いた。池田さんとはメールのやりとりは何年もあるのだが、実際に会ったのは2回くらいか。それでも企画をいただいたのでそれに応じてZOOMで対談を何度かした。よくまとまっているのでわずかに赤字を入れるだけ。あとは「あとがき」を書けばいい。

02/07/月
午前中に会議。一度も発言せず。妻が冬季オリンピックのフィギュア団体を見ていたので時々そちらに出向いて状況を確認する。ペアの頑張りで銅メダル確定。ペアやダンスは個人ではメダルは難しいので、団体でとれてよかった。昨日はジャンプの金メダルを見ていた。札幌、長野と、地元開催でしかメダルをとれていなかった。それにしても月曜日なのにFootballがないのは寂しい。スーパーボウルは来週だ。チーフスが負けたので残念ではあるが、昔応援していたベンガルズが久々に脚光を浴びている。チャンピオンシップのトロフィー贈呈にイッキー・ウッズが登場した。プレーオフの初戦でタッチダウンしたタイトエンドのウゾマーがイッキーシャッフルを披露した。ひどく不格好な踊りみたいなものだが、イッキー・ウッズがやると愛らしくて人気があった。モンタナマジックと呼ばれる逆転負けの試合の相手がベンガルズだった。それ以来のスーパーボウルだ。ということはまだ勝ったことがない。勝たせてやりたいが、相手のラムズには50回大会のMVPのエムボマがいる。ディフェンスがMVPを獲得するのはめったにないことだ。ずっとブロンコスにいたのだが、シーズン途中でラムズに移籍した。ワイドレシーバーのベッカムもブラウンズから途中移籍。スーパーボウルのために人材を掻き集めている。サラリーキャップがあるので、来シーズンは同じ人材は揃わないだろう。それだけにこの試合にかけている。ラムズ有利の予想が多いけれども、ここでベンガルズが勝つと若手ばかりのメンバーなので数年はこのままの戦力が続くのではないか。ベンガルズはオフェンスが目立っているけれども、実はディフェンスも強い。何しろタイタンズのラン攻撃を阻止し、チーフスのパス攻撃にも逆転勝ちした。そして、50メートル以上でも失敗しない新人キッカーがいる。接戦にもちこめればベンガルズにも勝つチャンスはある。

02/08/火
近所の医者で検診。池田健さんとの対談をまとめた本の校正が終わる。あとがきも完了。この出版社は、ぼくの住居から建物が見えている。最寄りのポストがその手前にあるので、ポストに入れるよりも直接もっていった方が早いようなものだけれども、レターパックが添えられていたので、これに入れてポストに投函することにする。

02/09/水
児童文学の短篇というか、5枚の原稿を頼まれていて、締切は来週末だが片づけてしまう。締切のある仕事は当面はこれだけ。今週中に『少年空海』のゲラが出てくる。『天海』のゲラも届いているが、校正者のチェックが入ったものは一ヵ月後ということなのでこれは急ぐことはない。『少年空海』はすぐにチェックを入れて戻す必要があり、すぐにまた再校が届く手筈になっている。ただこの作品は入稿前に編集者の注文が入ってかなり書き直して、その時にタイプミスみたいなものは修正したのでほぼ完成品に近くなっている。『天海』も同様に入稿前にかなり修正した。ただ校正者は歴史小説に詳しい人なので言葉使いなどでチェックが入るものと思われる。とにかく当面の急ぎの仕事はなくなったので、じっくりと『善鸞』に取り組みたいと思う。

02/10/木
SARTRAS分配委員会。とくに発言せず。あとは『善鸞』の資料を読む。善鸞という人物については謎の部分が多く、解釈も真っ向から対立していて、資料を読めば読むほど深みにはまりこんでいく感じだ。まさにミステリーというしかない。この謎を資料だけで読み解くことは不可能で、作者の想像力で自由自在に話を組み立てるしかないだろう。その点では『天海』と同じなのだが、戦国末期については雑誌などの特集がたくさんあって、戦記物を援用することができた。『善鸞』の場合は吾妻鏡くらいしか通史の資料がない。とにかくいまはまだ情報を集めている段階だ。『少年空海』の再校を終わった段階で、決意して作品を書き始めることになるだろう。

02/11/金
『少年空海アインシュタイン時空を超える』の初校ゲラが届く。入稿前にかなり入念にチェックしたので大きな直しはないはずだ。イラストも入っていていい感じになっている。本日は休日なのでメールもあまり来ない。自分の仕事に集中できる。

02/12/土
『少年空海』のゲラ。半分くらいのところまで来た。カーリング女子のデンマーク戦。2点差で負けていて、最後の一投で3点とって大逆転。それと藤井くんが4連勝で王将獲得。スカパーの囲碁将棋チャンネルで中継していたので、大きな画面でのんびり見ていられた。アベマTVの中継だとiPadの電池残量が気にかかる。Footballのことは考えないようにしていたのだが、明後日に迫ってきた。

02/13/日
いよいよSUPERBOWLの前日。ぼくは純粋にFootballが好きなので、どこかのチームを応援しているわけではないのだが、何となくチーフスとカーディナルスを応援していた気がする。カーディナルスがプレーオフ初戦で敗退し、チーフスもカンファ決勝で負けた。少し気持が醒めたかもしれない。それでもベンガルズは30年以上も前の、モンタナマジックで逆転負けを喫した試合を生中継で見ていて、それ以来、ずっとベンガルズのファンではあった。ダルトンというなかなかのQBがいて、プレーオフには出るのだが、必ず初戦で負けていた。ダルトンはベアーズの控えQBとなり、レシーバーのAJグリーンはカーディナルスに移籍して、ベンガルズはすっかり若返った。長く低迷が続いたのでドラフトで若い選手を揃えることができた。一昨年のドラフト全体1位でQBバロー、去年のドラフトではレシーバーのチェイスを採った。これが黄金のホットラインとなって今シーズンの躍進がある。他のレシーバーも堅実なプレーヤーで、RBのミクソンも優秀だ。タイトエンドのウゾマーの足の怪我は治りそうもないが、ミクソンはキャッチもうまいのでセーフティバルブにはなるだろう。ただ戦力的には、ラムズの方が圧倒的に優勢だ。ディフェンスがすごい。生え抜きのドナルドに、シーズン途中でボン・ミラーが加わった。最強のディフェンスだ。3年前のスーパーボウルではブレイディーのいたペイトリオッツを1タッチダウンに抑えて接戦に持ち込んだ。その時のQBはゴフだった。堅実ではあるがロングパスが投げられないゴフでは限界があるということで、ライオンズのスタッフォードとQBの交換をした。オマケとして今年と来年のドラフト一巡指名権をつけて交換した。それだけ今シーズンにかけていたわけで、ボン・ミラーだけでなく、レシーバーのベッカムもシーズン途中で獲得した。ベンガルズのチェイスは今シーズンのオフェンス新人王に選ばれたが、QBでレシーバーが選ばれたのは10年ぶりくらいで、その時に選ばれた新人レシーバーがベッカムだった。いまではあたりまえとなったワンハンドキャッチはベッカムの特技として広まったもの。アクロバティックなキャッチと走力、時にロングパスを投げる裏技もある。ただパスが来ないとすぐにキレるという性格が災いして、ジャイアンツを負われ、今シーズン途中でブラウンズからも放出された。ただラムズに来てからのベッカムは生まれ変わったような活躍だ。ラムズにはクーパー・カップというすごいレシーバーがいるので、ベッカムはナンバー2のレシーバーだ。カップがダブルカバーされるので、ベッカムは自由になることが多く、ロングパスが得意のスタッフォードからすごいパスが飛んでくるようになった。パスさえもらえれば、ベッカムは機嫌よく活躍する。このチームの弱点はRBだが、若手RBが3人いて交替で出てくるので、少しずつでも前進できる。タイトエンドも少し弱いか。結局のところ、スタッフォードのロングパスがクーパー・カップかベッカムに飛んでいくのを、ベンガルズのディフェンスが防げるかというところがポイントなのだが、あのチーフスのパス攻撃を防いで競り勝ったところを見ると、何とかなるのではという気もする。ラムズ優位というのが世評だが、ぼくはベンガルズを応援する。

02/14/月
スーパーボウル。ラムズ有利。ベンガルズに期待。そういうスタンスで見ていた。QBスタッフォードにレシーバーのクーパー・カップとベッカム。ベンガルズのディフェンスがどこまでがんばれるか。開始早々、ベッカムへのパスが通ってラムズ先制。一方的な展開になるかと思われたのだが、その後はベンガルズのディフェンスがよくもちこたえた。ただラムズのドナルド、ボン・ミラーが、予想通りベンガルズのオフェンスを圧倒する。そこで奇策。RBのミクソンがパスを投げてタッチダウン。何とか接戦に持ち込んだ。後半開始早々、バローのロングパスがようやく決まった。ここで流れがベンガルズに傾きなけたのだが、その後はドナルドとボン・ミラーがバローを完全に制圧した。ベンガルズ4点リードで終盤まで来たが、最後にクーパー・カップへのタッチダウンパスが決まって逆転。まだ3点差なので、残り1分半でフィールドゴールが決まるところまで前進できるかが焦点となったが、ドナルドの獅子奮迅の活躍でバローが制圧された。熱戦であり、接戦であった。MVPはクーパー・カップに決まったが、ドナルドとボン・ミラーが試合を決めたといっていい。ベッカムが途中で負傷退場。最後はクーパー・カップに投げるしかない状態で、クーパー・カップが連続して難しいパスをキャッチした。まあ、MVPの活躍だった。ベンガルズは若いチームだ。来年、再来年にチャンスがある。ラムズはベッカムやボン・ミラーはチームを去るだろう。監督が去るという噂もある。さて、Footballのシーズンが終わった。トム・ブレイディーの引退。ロスリスバーガーのように、明らかに衰えが目立っての引退ではなく、ラムズとの準決勝でも驚異的なパスの連続で同点にまで追いついた。ぼくはブレッドソーという超ロングパスのQBが好きでペイトリオッツのファンだった。その先発QBが怪我をして、無名の若者がバックアップQBとして登場し、地味に短いパスを投げてプレーオフを勝ち抜いているうちに、ロングパスも投げられるようになり、スーパーボウル制覇まで一気に到達した。新人2年目のQBの快挙だった。同じく2年目のバローは、もう少しでブレイディーと同じ高みに昇るところだった。去年はブリーズの引退があってセインツの今年は迷走を続けた。来シーズンはバッカニアーズとスティーラーズが同じ状態になる。ロジャースはパッカーズに残るのか。ワトソンはテキサンズに戻るのか。来シーズンの各チームがどのように先発QBを確定するかが注目される。現状でエースQBを確保しているのは、マホームズのチーフス、アレンのビルズ、バローのベンガルズくらいのものだ。去年のドラフト1位のローレンスは最悪だったが、ジャガーズは監督が代わる。イーグルスでウェンツとニック・フォールズを育てた名将が現場に復帰する。しかもビリだったので今年もドラフト1位を指名できる。ベンガルズがレシーバーのチェイスを指名したように、レシーバーを指名することも考えられる。勢力地図が大きく塗り変わるのではないだろうか。

02/15/
昨日のFootballは熱戦だった。残り1分30秒での逆転。だが3点差なのでフィールドゴールで同点となる。その1分30秒を制したのはラムズの攻撃的なディフェンスだった。ディフェンスとは呼ばれているけれども、ディフェンスのラインとエッジと呼ばれるラインバックの外側は、相手のQBを攻撃する。その攻撃を防御するのがオフェンスラインだが、ここが弱かった。といってもラムズのドナルドとミラーは最強のメンバーだ。ただベンガルズは若いチームで、サラリーキャップに余裕がある。ラムズがボン・ミラーをシーズン途中に獲得したように、オフェンスラインの補強も必要だったのではないか。ただディフェンスの攻撃は個人技なのに対し、オフェンスラインの防御はチームプレーなので、補強は難しいのかもしれない。これからのオフシーズンにどれだけ補強できるのか。チーフスも同様にオフェンスラインが弱かった。両チームともQBとレシーバーは揃っているので、オフェンスラインを強化してほしい。まだドラフトは先だが、この時点での来シーズンの予想をしておく。ベンガルズはさらに強くなる。チーフスはサラリーキャップがぎりぎりなので、戦力ダウンの可能性がある。強くなりそうなのはペイトリオッツとビルズ、ベンガルズ、それに前年のドラ1QBトレバー・ローレンスのいるジャガーズが楽しみ。期待されるのはAカンファばかりだが、Nカンファはようやくチーム名が決まったワシントン・コマンダーズ。怪我でフルシーズン出場できなかったフィッツパトリックの復帰が見込まれる。49ナーズも新人QBのランスが来シーズンは最初から先発するだろう。カーディナルズはラムズ同様、有名スターを並べているので来シーズンは戦力ダウンする。新人がどれほど育つか。注目されるのは中堅QBの動向だ。テキサンズを全休したワトソンはどこへ行くのか。ダルトン、ニック・フォールズ、ウォーターブリッジ、マリオタ、ボートルズ、ウィンストン、ガロポロなど。今年は有力な学生QBがいないようなので、トレードやフリーエージェントでのベテランQBの動きがあるはず。QBがいない状態のバッカニアーズ、スティーラーズ、セインツ、テキサンズがどのように補填するのかも注目される。が、しばらくはFootballロスの状態が続くだろう。さて、自分の仕事もちゃんとやっている。先週は池田健さんとの対談『こころって何?』のゲラを見た。これはもう完了。本日、『少年空海』の初校ゲラを宅急便で送り出した。これは来週、再校が戻ってくる。それまでに『天海』の初校を見ておきたい。校正者のチェックが入ったゲラは来月になるらしいが、白ゲラで自分なりの校正を済ませておきたい。

02/16/水
『天海』の白ゲラを読んでいく。去年の3月から書き始めて、年始年末に最後の仕上げをして、さらに編集者から一度戻ってきて修正したものが入稿されている。もはや誤字はないかとも思うのだが、数ページ読んでみると、「取る」を「盗る」にした方がよいかというのが見つかった。こういう漢字遣いの問題はきっちりチェックしないといけないだろう。大作などで読むだけでも大変だが、『少年空海』のような科学知識に関するものではなく、戦国末期の大衆小説みたいな展開なので、気軽に読んでしまうとどんどん読めてしまう。校正者になったつもりで文字そのものをチェックしないといけない。

02/17/木
SARTRAS理事会。紛糾したが議論には参加せず。分配委員会や共通目的事業委員会で議論したことなので、こちらはもうどうでもいいという気分になっている。『天海』の白ゲラに集中する。第二章までが終わった。導入部の明智光秀から、武田信玄、快川和尚、顕如、近衛前久、徳川家康と、有名人が次々に登場する展開は、大衆小説としてはよくできている。この作品の眼目は、エンディングに近いところに登場する金地院崇伝と天海の論争の部分なので、作品の大半は読者サービスのための戦国絵巻のコピーにすぎない。誰もが知っている既知のストーリーに、必ず天海を登場させることで、強引に天海の物語に変換している。天海という人物の個性とモチベーションがしだいに明らかになっていくところもよく描けている。第三章は一転して話は過去に遡る。天海の生い立ちの話。ここだけは戦国絵巻には出てこないオリジナルのストーリーになる。そこが前後の戦国絵巻の中に違和感なく融け込んでいるかがポイントとなる。

02/18/金
深川ギャザリアへ行く。時々このショッピングモールへ行くのは車を動かすため。浜松の仕事場にいると車がないと生活できない。御茶ノ水の集合住宅にいると車で出かけることはない。この集合住宅の敷地内にスーパーマーケットがあるし、散歩のついでにコンビニやドラッグストアに寄ることもある。ここに引っ越した当初、仕事場に移動しようとして車のエンジンがかからないということがあったので、2週間に1度は車を動かすために遠くのスーパーへ行く。『天海』は第三章に入って過去に遡っている。ここがなかなかいい感じに描けている。泥田に埋もれた浮き身観音のエピソードが効いている。この話はたぶん会津龍興寺のホームページで見たのだと思う。NETの発達で小説を書くのが楽になった。天海の生涯をたどるポイントはこの龍興寺と、比叡山延暦寺、足利学校、それに江戸崎不動院、川越喜多院などだが、延暦寺の他は行ったことがない。地図で地形を確認し、ホームページなどで写真を見る。それだけで小説を書いている。ドストエフスキー四部作を書いた時は、いちおう旅行者のツアーでペテルブルクには行ってみた。江川卓さんの著書に掲載されていた地図に従って、ラスコーリニコフが歩いた経路をたどり、下宿、警察署、殺人現場、ソーニャの住居、マルメラードフの住居、センナヤ広場、最後にスブィドリガイロフが歩く経路などを確認した。当時のペテルブルクの地図といったものもNETに出ていた。自分の足で歩いた街というのは忘れられない。長男がブリュッセルに留学していたことがあって何度か訪れた。ヨーロッパの街はなかなかに魅力的だ。古い街並みが残っている。深川ギャザリアへ行く途中に門前仲町がある。このあたりも古い街なのだろうと思う。到るところに運河がある。ぼくが生まれ育った大阪も、運河が多かった。それと大坂城。ぼくが住んでいた岡山町は城郭の内部に宇喜多秀家の邸宅の跡地だ。堺屋太一さんの生まれ育ったところも同じ一郭で、同じ幼稚園だということがわかった。小学校も同じで、何かの縁を感じた。どうしてそういうことになったのか、経緯は忘れてしまったが、堺屋さんのお話を何度か伺って伝記を書いたことがある。その岡山町の家はいまはない。東京に出てきて渋谷から1コ目の神泉に住み、吉祥寺に住み、八王子めじろ台に移った。神泉と吉祥寺は賃貸のマンションで建物はそのまま存在する。めじろ台の家は教会に売却してそのままに建っている。建物に十字架がついてはいるのだが。27年間暮らした世田谷区三宿の家は売却して跡形もなくなってしまった。そのせいか、浜松の仕事場には愛着をもっている。40年前からある建物で老朽化してはいるのだが、こちらの方が先に寿命が来てしまうだろう。

02/19/土
『少年空海』の再校ゲラ届く。まだ『天海』の白ゲラを見ている。本能寺の変あたりまでを見てから『少年空海』に取り組む予定。昨日の夜はカーリングのスイス戦を見ていて少しコーフンした。これは将棋に似た戦略ゲームだと感じた。つねづねFootball(アメリカン)も戦略ゲームだと思っている。将棋、カーリング、Football。まったく異なるゲームだけれども構造が似ている。陣形を作って防御しつつ機を見て攻撃するというところが似ている。ただ将棋とFootballが敵味方が対面しているのに対し、カーリングは同じ方向に向かって交互に石を投げるところが独特だ。ただ赤と黄の石が陣形を作ろうとし、自分の番が来たら相手の陣形を壊したり、隙を衝いたりする。ただ動きというところに大きな違いがある。将棋は手でコマを盤上に置く。手が震えて置くところを間違えるということはまずないだろう。カーリングは遙か彼方に向かって石を投げる。しかも氷の表面の状況が微妙に違っていたり、ブラシで掃いたりもするので、思いどおりのところに置ける時と、失敗する時がある。この成功と失敗の差が明暗を生む。Footballの場合はロングパスを投げて、レシーバーがフリーになっていても、ポロッと落とすことがある。風の影響が絡むこともある。ディフェンスともつれて、それでもボールをキャッチできることもあれば、相手にインターセプトされることもある。そういう微妙な差違で明暗が生じる。今回のスーパーボウルに到るカンファの準決勝あたりから、1つのプレーの成否が勝敗を分ける局面が数多くあって、その1つでも結果が違っていれば、勝敗が逆転していたと思えるくらい、微妙な闘いが続いていた。スイスとの熱戦もまさにそういったもので、勝ったのは運がよかったとしか言いようがない。5勝4敗で一度は敗退を覚悟していたのに、韓国がスウェーデンに負けてぎりぎりで準決勝に進出できたというのもまさに運だ。予選リーグ1位のスイスと2位のスウェーデンが準決勝で敗退したのも運だ。ということは出場のすべてのチームに優勝のチャンスがあったということだろう。今年のスーパーボウルでも、カンファの準決勝に進んだ8チームには、スーパーボウル制覇の可能性があった。それだけ実力が伯仲していた。まあ、その運次第のところを楽しむのがスポーツだろう。ただ今回はドーピングとか、ユニフォームの規定違反とかが絡んで、その点では興をそがれた。違反を指摘され失格になるのも運不運が絡むようではあるが、そこには人為的なものが関わってくる。試合前に全選手を検査するといったことをやらない限り、この問題は解決しないように思える。逆にドーピングフリー、ユニフォームフリーしてもおもしろい。ただジャンプした選手が上昇気流に乗ってどこまでも飛んで行ったら、勝敗の判定が難しくなるだろうが。

02/20/日
『天海』の白ゲラ、本能寺の変の第六章まで読み終えた。これで全体の半分。ここまではパーフェクトだ。直しもまったくない。ここで『少年空海』に移る。出だしの部分、なかなかいい感じになっている。ニュートンのところまで読んだ。ガリレオ、デカルト、ニュートン……。それぞれに個性的な人物が出てきて話が進んでいく。いい感じになっている。

02/21/月
我孫子で講演。ぼくの住んでいる御茶ノ水からは千代田線一本で行ける。約50分。少々早起きをして電車に乗り込むまでが仕事で、あとは電車が運んでくれる。終点なので乗り越す心配もない。90分、話しているうちに、あっという間に時間が経ってしまう。帰ってから、オーファン委員会。裁定制度に関する一般からの問い合わせに皆で合議をするという会だが、今回は1件だけで、事務局が文化庁に問い合わせて対応してくれたので報告を聞くのみ。あとは関連する他のテーマでさまざまなことを語り合う。こういう時期だから顔を合わせて話し合うことができないのが残念だが、NET経由ではあっても雑談の機会があるのは大事なことだと思う。『少年空海』のゲラ。ようやく半分のところまで来た。表紙の案も届いた。ほぼ同時に出る『こころって何?』の表紙の案も来た。『少年空海』が終わると『天海』の白ゲラの後半に取り組む。これを今月中に完了すれば、『善鸞』に取り組むことができる。まだオープニングのプランが決まっていない。少年時代から時間軸に沿って語り始めるか、たとえば鎌倉に着いたところから話を始めて、どこかで回想に入るか。小説は必ずしも時間軸に沿って語る必要はない。『天海』はいきなり明智光秀との対話から始まり、武田信玄、快川和尚、顕如、近衛前久、徳川家康と、主要人物の顔見世をしてから、回想シーンとなって主人公の生い立ちから語り始めることにした。そういうば『少年空海』は空海が死ぬところから始まっている。そういう語り方があってもいいだろう。

02/22/火
プーチンがキエフの東部二州の独立を承認した。よその国の独立を勝手に承認するというのもどういうことかわからないが、コメントを述べるプーチンの顔が演出なのかひきつり気味で、怒りをこらえられない風情に見えた。結局、ロシア国内の国威発揚が目的なのだろう。そのための犠牲となった住民は気の毒としか言いようがないが、親ロシアの反乱軍を支持する人もいるようだし、ソビエト連邦時代に移り住んだロシア人もいるようなので、どちらが正しいとは一概には言えない。西欧の自由と民主主義に憧れる反ロシアの人々も少なくないはずだが、自由と民主主義というのは、貧富の格差を容認し貧しさは自己責任だと断じて福祉政策を怠る政治システムだから、必ずしも「自由」は「バラ色」ではない。それにしてもこのようなかたちで国威発揚を目指さなければならないほど、ロシアの社会主義体制は危機的状況になっているのだろうか。同じような危機は中国の内部でも起こっている気配があり、その危機はさらに大きくなっていくことが予想される。ということは台湾にも同じような危機が迫りつつあるのかもしれない。アメリカは台湾を守らないだろう。九州には台湾資本の半導体工場が誘致されるらしいが、すでに台湾資本はかなり進んでいて、日本人の従業員が台湾で仕事をするケースも増えていくだろう。台湾に危機が迫った時に、邦人救済のために日本の軍隊が進出するということもあるのか。いまの自衛隊のままでは難しいのかもしれない。憲法改正を急がない方がいい。ぼくはもう老人だが、生きているうちに戦争などということが身近に起こらないことは切実に願っている。

02/23/水
『少年空海』の再校ゲラ、完了。けっこう直しが見つかった。物理学の歴史がテーマだが、数式は用いていない。数式なしで相対性理論を説明するのは難しい。「これは高校生ならわかること」ということで口先で語ってきりぬけたのだが、大半の人は高校で習った数学のことなど忘れているだろう。実はぼくも忘れている。微分とか積分とか、結局は公式を丸暗記して切り抜けたので、すっかり忘れてしまった。それでもガウスの複素数平面のおもしろさは忘れていない(高校で複素数平面を習うのは団塊世代までで若い人は知らない)。ガウス平面、要するに横軸に実数、縦軸に虚数をとると、すべての複素数が平面のどこかに位置づけられる。さらに「XのN乗=1」の解が半径1の円周をN等分した座標として表示される。これが何の役に立つのかはわからない。ガウスの墓は17角形をしているらしい。複素数平面では演算によって17角形の座標が特定されるので作図できるということだが、おそらく作図できるというだけで、何の役にも立たないだろう。大学の授業で構造主義を説明する時に、集合の∪(カップ)と∩(キャップ)の記号を黒板に書いたら文学部の学生たちの目が点になった。いまこの文章を書いていて「かっぷ」と「きゃっぷ」を入力したらちゃんと記号に変換された。この記号を使う人がいるのだろう。複素数平面は実用の役には立たないだろうが、そこに表示されるマンデンブロ集合というのがあって、これが神秘的な図像を無限に増殖していく。フラクタルという無限に自己模倣していく図像で、拡大しても縮小しても同じような模様が際限もなく表示される。くりかえすが、それが何の役に立つのかわからないが、「すごい」としか言いようがない。そして人生というものは、「すごい」と感じるものに何回出会えるかで幸福度が算定されるのではないかとぼくは考えている。だとすれば17角形が作図できるというのも「すごい」の一つだと思う。そういう意味では、『少年空海』という作品も、わかってくれる人にとっては「すごい」作品になっているのではと思っている。とはいえ「すごい」ことというのは、毎日1回くらい出会えるのではと思える。この前のオリンピックで高木姉がマススタートで金メダルをとったのも「すごい」このと一つだ。たとえばスノーボードの平野選手の技は度重なる練習で培ったものだから、出来て当たり前みたいなところがあり(実際に3回連続で成功した)「ちょっとすごい」という程度だが、今回2回転んだ高木姉が、4年前は最後まで転ばずに1位でゴールに到達したのは「すごい」としか言いようがない。カーリング女子が予選リーグ1位のスイスに勝ったのも、「ちょっとすごい」感じがした。ああ、スーパーボウルが終わっても冬季オリンピックをやっていたので少し気が紛れた。もう何もなくなったなという気がするが、数年前のペイトリオッツ対イーグルスの試合をビデオで保存してあるのでじっくりと「すごい」を再確認したいと思う。

02/24/木
再校ゲラを発送。ロシア軍がウクライナを攻めているらしい。こういう時はCNNニュースの方が緊張感のあるニュースが届く。各方面から一斉に攻めているところを見ると最初から綿密に計画された侵攻のようだ。オリンピックが終わった直後からパラリンピックが始まるまでの間に短期決戦で決着をつけるという計画が最初からあったのだろう。外交努力をしていると口先だけで語っていた西側の首脳は、わかっていたのか想定外だったのか、結局は無力だった。昨日のニュースではイタリアの主婦がガス代が途方もなく値上がりしたと歎いていた。孫4人がスペインにいるので心配だ。ロシアの天然ガスが途絶えると、ヨーロッパの人々の生活に直接の影響が出る。疫病の流行が収まらないうちに戦争が始まる。日本の首相が何やら能天気すぎる気がする。

02/25/金
眼科検診。飯田橋の手前まで歩いて行く。何年か前に人間ドックで目の検査をするように言われた。自宅の近くの須田町に眼科がオープンしたので初日に行った。新品の機械の使い始めだったのではないかと思う。しかし疫病流行のせいか2年前に閉鎖された。院長が飯田橋に移ったという連絡が来たので去年から飯田橋に行く。少し遠いけれども散歩で小石川後楽園まで行くことがあるので歩ける範囲内だ。時々宴会があるホテルエドモントンの裏。今年もセーフ。高齢者だから危ない領域の気配が迫っているようではあるが、まだ年に一度の検診でいいと言われているので、来年もこの時期に行く。花粉用の目薬を貰う。時々かゆくなるが、今年はまだ大丈夫。鼻アレルギーはいつものことだが、時々目に症状が出る。目はつらい。しかし咳が出るよりはました。咳、目、鼻の順で、鼻は最悪、口で呼吸すれば何とかなる。鼻はいい薬があって常備している。学生のころにデモで毒の水を浴びて症状が悪化して入院したことがある。年をとると症状が軽くなった。時々、目に症状が出るようになった。今年は明日あたりから気温が上がるらしい。浜松の仕事場にいると症状が悪化するので、3月は御茶ノ水でやりすごしたいと思う。

02/26/土
『天海』の白ゲラはあと少し。今月中には終わりそうだ。ロシアの軍隊がキエフに迫っている。政権を倒して親ロシア政権を擁立するということか。ぼくはいわゆる「戦後生まれ」だから、戦争を知らない。朝鮮戦争やプラハの危機みたいなものも子どもだったので知らない。ベトナム戦争や中東の戦争はテレビの画面を通して見た記憶がある。でもヨーロッパの都市が侵略されるのを見るのは初めてではないだろうか。観光旅行で行ったヨーロッパの東はプラハとブダペストくらいでそれより東は知らない。孫4人が暮らしているスペインは西の果てなので直接の影響はないだろうが、ガス代が上がったり、パンの値段が上がったりということはあるだろう。日本も同様で、世界的な天然ガス不足になる。ぼくの御茶ノ水の住居はガスが来ていないが、電気代は上がるかもしれない。ぼくは科学少年なので原発の効用を否定しない。ガスは地下資源だから、石炭ほどではないが二酸化炭素を排出する。風力発電を増強すべきだろう。ソーラー発電は原発よりも弊害がある。美観を損なうと、壊れると有害金属が流出するのではと思われる。ところでロシアではマイニングが盛んだと聞いたことがある。仮想通貨の暗号計算で計算機を稼働させると発熱する。寒くて雪の多いところの方が効率がよいからだ。経済封鎖した時に、暗号資産はどうなるのだろうか。ぼくはあの仮想通貨というものを信用していない。詐偽の一種だと考えている。もっとも紙にプリントされた紙幣を流通させるというのも国家ぐるみの詐偽みたいなものだが。銀行預金というのも、詐偽かもしれない。実際に終戦直後に、「預金引き出し制限」が実施され、「新円切り換え」が断行された。国家ぐるみの詐偽が正当化されることがある。小説家というのは賃労働ではなく、たまに出す本の印税が銀行に振り込まれて生活しているので、危うい人生だと思っている。

02/27/日
昨日の深夜、『天海』の白ゲラ完了。2度のプリントチェック、年末年始の画像でのチェック、さらに担当編集者のチェックの入ったプリントと、何度も読み返したにも関わらず、まだ多くの赤字が入った。それで最後としたい。校正者のチェックが入った本ゲラがやがて届くことになるが、自分のチェックを転記した上で校正者の疑問に応えるだけに留めたい。ロシアはウクライナ軍の抵抗に手間どっているようだ。アメリカ製の対戦者ミサイルが効果を上げているようで、義勇軍も頑張っているのだろう。これはプーチンの誤算だと思われる。世界中の国が協力して金融封鎖に踏み切ったことも誤算ではないか。戦闘が長びくと兵粮の補給で苦労するのは攻めているロシアの方だ。NATOの軍事的な協力はないが、人道的な援助物資はポーランドやルーマニアから送られるはずで、長期戦になればウクライナはもちこたえるかもしれない。ロシア全土で反戦デモが起こっている。だが民衆がいくらがんばっても反革命を起こすためには、兵士の反乱が起こらないと難しい。一方、プーチンはウクライナの兵士たちに反乱を呼びかけている。親ロシアの軍事政権がウクライナを制圧すれば、それで戦争は終わる。プーチンの狙いもそこにあるのだろう。その前にロシアの兵が軍事革命を起こしてプーチンを倒す以外に、落としどころが見つからない。中国がロシアの小麦を買うと言っているようだが、中国が支払った現金では何も買えない。世界の金融システムが封鎖されてしまうとロシアは身動きがとれなくなる。身動きがとれなくなったロシアの最後の支えは食料だから、中国に小麦を売る余裕はないだろう。それでも貴重な食料を売るとすれば、それはプーチンが贅沢をするためだが、贅沢をするためにはヨーロッパからものを買わなければならない。いまプーチン自身が困惑の極みにあるのではないか。ただウクライナの大統領は芸人なので、太田光が政権を執っているようなものだ。軍人の反乱が起こる可能性はある。軍人が政権を執るとミャンマーやアフガンのような状態になる。ウクライナは先進国なので、軍人にも知性があるはずで、いまのところは自由のために戦うというモチベーションが支えになっているのだろう。ぼくはその種の全体主義的なモチベーションは、ある程度は評価したいと思っているが、そうなると戦闘が長びくことになる。パラリンピックが始まってしまう。ロシアの選手は出場するのだろうか。フィギアの世界選手権とか、そういう場所でロシアの選手が排除されることになるのか。逆にロシアの選手が西側に亡命するということも起こるのではないだろうか。いずれにしても、中国の軍部が元気づくような事態にならないようにとは思うものの、これは戦争なので、どうにも困った状況になったものだと思う。

02/28/月
新宿のマッサージ。本日はそれだけ。昨日から『善鸞』の執筆を始めた。まだ何の構想もないが、旧著『親鸞』の最後の方に息子の善鸞は登場していて、親鸞との対話もある。その部分を活かして本作の導入部としたい。ということで、パソコンの中にあった『親鸞』の最終原稿から親鸞と善鸞の対話の部分をコピーして資料としてあった。視点が親鸞から善鸞に変わるのでそれなりの調整が必要だが、帰洛した親鸞を善鸞が訪ねるところから話を始めることとする。二月は短い。今日が月末だ。『善鸞』と題したノートの2冊目が終わる。この2ヵ月間に資料はかなり読んだ。だが善鸞がなぜ父親から義絶されたのか、真相はまったくわからない。義絶ということが実際にあったのかも資料からは読みとれない。正式な義絶状といったものではなく、弟子への手紙に息子を義絶した旨が記されているだけのことのようだ。弟子にそのように伝える必要があったのだろうが、親鸞の本心はわからない。ただ中興の祖の蓮如から見ると、善鸞は明らかに真宗の教えからは外れた存在と見るしかなかった。ただ善鸞の子の如信は父の教えを忠実に伝えていたようで、そのために親鸞の後継者とされている。結局のところ善鸞が何をして義絶されたのかはわからないままなのだが、とりあえず作品を書き始めて、主人公のキャラクターを造形していきたいと思う。書いているうちにキャラクターが見えてくるし、そのうち自分自身が主人公に憑依していくのだろうと思っている。「裏切り者の息子」というイメージではなく、父を超えて新たな領域に進んだヒーローとしてとらえたいと思っている。


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