天海05

2021年7月

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07/01/木
この『天海』のノートも5冊目になった。書き始めてから4ヵ月。その間、『遠き春の日々/ぼくの高校時代』の校正、『尼将軍』の最終仕上げ、作品社のアンソロジーの解説、児童文学30枚などの仕事をしたが、毎日少しずつは『天海』を進めてきた。大学の教員をしていたころに比べれば暇だとはいえ、週に何回から会議がある。ZOOMによる自宅からの参加とはいえ、ZOOMが使えるので会議が増えた感じもする。それでもいいペースで『天海』はここまで進んできた。書き始めのころは、何も考えていなかった。何しろ天海の前半生については資料が皆無だ。会津出身ということはわかっているが、寺に入った経緯も、修行の経緯も何もわからない。それでどうやって小説を書くのかと思いながら、手探りで書き始めたのだが、ファーストシーンは明智光秀との対話ということにした。明智光秀が天海になったという俗説があるので、その俗説に経緯を表して、明智光秀を前半部分の副主人公に設定した。去年の大河ドラマの主人公だったのでイメージが掴みやすいということもあったし、歴史雑誌なども入手していたので、明智光秀の人生については資料がたっぷりある。ということで、しばらくは光秀を追っていけばいいかと思っていたのだが、たまたま成り行きで石山本願寺で全関白近衛前久と酒を飲むことになって、充実した会話が生まれた。書き始める前はまったく考えていなかったのだが、前久を副主人公にすればかなり先までプロットが続いていく。何しろ近衛前久は秀吉を養子にして関白に仕立て上げた人物だからだ。しかも本能寺の直後には家康の浜松城に匿われていたこともある。もちろん本能寺の事件にも何らかのかたちで関わっている。前久は大河ドラマにも何度が出てきた。本郷くんという役者が演じていて、すねた感じがなかなかよかった。『キングダム』でもすねていじけた感じの王子を演じていて、こういうキャラが得意なのだろう。とにかく天海と前久が酒を汲み返すと話がどんどん先に進んでいく。本能寺の直前にも、この二人が酒を酌み交わして、状況分析みたいなものをすることになる。なかなかにおもしろい人物だ。ということで、光秀と前久、それに若き日の家康に主人公を絡ませていけば、プロットがどんどん進んでいく。ということで、100ページ300枚のところまで進んできた。200ページくらいが単行本として最適なのだが、これから秀吉の時代があり、関ヶ原がある。家康が死んでからも天海はまだしばらく生きている。ということで、250〜300ページくらい必要かもしれない。すると完成は年内いっぱいということになるのか。まあ、締切のある仕事ではないので、あせることはないが、並行して「空海/アインシュタイン」という作品も少しずつ先に進めたいと思っている。ところでやたらと会議が多いのはSARTRASという組織に関わっているからで、これは小学校から大学までの遠隔授業で著作物を使用した場合に補償金を支払っていただくというコンセプトで始めたもの。計画の段階では、小学生、中学生が全員iPad等の端末をもっているなどという夢のような話(と当時は感じられた)がもし実現したらという想定のもとに、遠い将来の補償金と考えられていたのだが、思いがけないパンデミックによって、端末の配布は今年の3月に実現してしまった。ということで、すでにすべての教育機関の半分くらいが現時点で登録をすませていて、補償金を払っていただくことになっている。年度末になると補償金の分配作業も始めないといけないが、どのように分配するかということで会議につぐ会議を重ねてきた。ようやく大まかな方針が決まったところだが、実際に分配するとなるといろいろと問題が出てくるだろうし、サンプル調査で明確なデータが集まってくるかも実際に調査報告が集まるまでは具体的な様相が見えてこない。これからも密な会議が続いていくことと思われる。年末まで暇になることはないと思われるのだが、大学で学部長などをやっていたころでもちゃんと小説は書いていたので、それに比べれば多少は楽になっている。『天海』という難しいテーマに挑んでいて大変ではあるが楽しみでもある。まあ、書くことが楽しいので、機嫌よく仕事をしている。今月もがんばって先に進んでいきたい。というところで7月1日の今日、『天海』はいよいよ本能寺に突入する。その前夜、主人公の随風(天海)は近衛前久の邸宅で徹夜で酒を飲む。ただしこの場面で登場させておかないとしばらく出番のない二人の人物をここで出しておきたい。一人は前久の長男の信伊。大した人物ではないのだが、前久が年老いた段階では天海の酒の相手として息子に代行させないといけない。この息子は実際にアル中で体を壊す人物で酒好きで、父親ほど活躍することもなく不幸な人生を送る。何といっても父親が秀吉を養子にして関白を譲ってしまうのだから息子としてはショックだろう。この本能寺前夜の時点では信伊は18歳で内大臣。酒の相手は出来る。もう一人の人物は吉田兼見。当時はまだ兼和という名だったが、秀吉の墓を作った人物だ。天海が家康の墓を作ったのは兼見の先例があるからで、伝統的な吉田神道に代わる新たな神道を天海が創出することになる。天海の業績の最大のものがこの独特の神道で、そこで作られたのが日光東照宮だから、吉田兼見は早い段階で登場させておきたかった。最初はこの四人で飲んでいて、夜半に前久と随風の二人だけになって明け方まで飲み続ける。そして本能寺のドラマが始まる。いよいよこの作品の最大の山場を描くことになる。ところで本日、『遠き春の日々/ぼくの高校時代』の表紙のデザインが届いた。いい感じになっている。この歳になってこんな感じの本が出せるとは思っていなかった。300枚の作品なので、多くの読者に手にとってもらいたいと思っている。

07/02/金
一日中雨。散歩にも行かず。密閉された高層住宅で生活しているので風雨については実感がないのだが、窓からの景色で雨の強さはわかる。六本木ヒルズが見えているか、日比谷ミッドタウンが見えているか、いよいよ雨が激しくなると目の前の大手町のビル群が消えてしまう。本日は日比谷ミッドタウンが見えなくなる程度の雨。とはいえニュースで浜松に警報が出ていると、仕事場の木造家屋が気にかかる。とくに北側の窓が雨漏りしがちなので心配。『天海』は四人の人物が酒を飲みながら雑談をしている。これが嵐の前の静けさ。やがてそのうちの二人が寝てしまい、近衛前久と随風の二人だけの対話になる。そして夜が明けると本能寺、という段取りだ。今週と来週はNETの会議もないのだが、直接会いたいという要望があって来週は人と会う仕事が出来そうだ。まあ、1回目の接種は終わっているので少し安心している。

07/03/土
午前中に雨は止んだが、熱海の伊豆山付近で土石流発生。いま『尼将軍』のゲラを見ているところだが、頼朝が石橋山の合戦で敗れて船で安房に渡り、東国の武将らを麾下に治めて鎌倉に凱旋するまでの間、ヒロインは伊豆山権現にいて、東国の府となる鎌倉の建設のために指示を出していた。伊豆山はぼくにとってもなじみのある場所だ。行ったことはないのだけれど。静岡県全体の降雨量がすごい。浜松にある仕事場がどうなっているか心配だ。豪雨の時に北風が吹くと雨漏りがする。築40年の建物なので全体を補修する気力もないので、応急処置をしてあるだけだ。まあ、多少の雨漏りは我慢するしかない。大谷選手の2打席連続ホームランよりもサヨナラ勝ちとなって二塁からホームへの走塁が素晴らしい。前進守備のライト前ライナー性の打球だったが、大股で走る姿に躍動感があった。藤井二冠が三連勝でタイトル防衛もすごい。将棋は自分ではやらないが、知的な戦略ゲームなので強い人は尊敬する。

07/04/日
終日の雨。雨をついて都議選の投票。集合住宅の1階の駐車場を抜けて、投票所に近い出口まで行って傘をさして外に出る。住宅地の敷地内に容積率を確保するための小さな公園があり、その先の老人施設が投票所。投票してすぐに帰る。『天海』はこれでいいかなというところまで来た。本能寺の前夜の近衛前久と随風(天海)との徹夜の飲み会での会話。会話が終わったところで夜が明ける。洛中に突入してきた軍勢の気配が伝わってくる。作品全体の中央に位置する最大の山場だ。ここまで必要な登場人物は布石として登場させている。武田信玄、快川和尚など、すでに死んだ人物もいるが、光秀、秀吉、黒田官兵衛、石田三成、安国寺恵瓊など、しっかりとキャラクターを描いているので、ここからは一気に既出の人物たちが絡み合っていくことになる。楽しみだが、この布石を活かして作品全体をまとめあげるのはたいへんな作業になる。ここからが楽しみであると同時に苦しみでもあるような、つらい作業になっていく。ここまでは、まったく見当もつかない場所に踏み出したような不安と同時に、何が起こるかわからないというわくわくした感じで進んできたが、作品の後半になると着地ポイントを目指すことになるので、書く楽しみよりもきっちり着地させなければというプレッシャーの方が強くなっていく。

07/05/月
午後には雨が上がったので散歩に行けた。『天海』はいよいよ本能寺だが、ここは集中して書きたいので小休止して、『尼将軍』のゲラを先に片づけることにした。まだ最後の2章が残っている。この作品は吾妻鏡などをもとにして史実を追いながら北条政子の生涯を描いたもので、わかりやすい作品にはなっているのだが、これまで書いた人麻呂や紫式部のようなファンタジー的な仕掛けがない。作者としては残念なところだが、リアリズムの作品は安定している。必要なことはすべて書いてあるのでわかりやすくなっているし、源平合戦から承久の乱までの長い年月を一冊の本にまとめてあるので、一人の人間の生きた軌跡が充分に読者に伝わるだろうと思っている。『天海』の場合はいちおう史実を調べて書いてはいるのだが、いまのところ嘘ばっかり書いている。天海という人物の前半生は資料がないので、どこで何をしていようと自由に描ける。ただこの時代に日記をつけている人もいるので、そこには出てこない。存在感のない怪しい人物として歴史の間で暗躍する人物像を描いている。そこに楽しみもあるが、史実ではないので、全部フィクションという感じになっている。それで小説として大丈夫かとは思うのだが、読者も天海についてはそういうものを望んでいるだろう。残念ながら明智光秀が天海になったという話ではないのだが、冒頭に明智光秀を出してそれなりに読者の関心に沿うような展開にしてある。

07/06/火
『尼将軍』のゲラ完了。これは控えゲラで、そのうち校閲の専門家がチェックした本ゲラが届く。が、こちらとして通読しながら、文章のチェックを終えたので、本ゲラが届いても自分のチェックを書き込み、校閲の疑問に対応するだけでいい。ということでこの作品の作業はほぼ終えたと思われる。長い時間を扱う作品なのですべてをシーンとして表現することができず、簡単な説明ですましたところも多いのだが、全体を通読すればこの時代の歴史の流れが見えるようになっている。ヒロインは最初から一貫したキャラクターとして描かれている。何かの事件を契機として成長していくとか、そういう話ではない。この一貫しているところがこの作品の見せ場となっている。オープニングで一挙にヒロインの個性が見え、それがエンディングまで崩れることがない。とくにエンディングの切れ味がいいのでほっとしている。午後、SARTRASの常務理事が来訪。SARTRASの産みの親の写真家協会の瀬尾さんが退任して、新たな担当者が就任した。不祥事で退任されたのではなく、ノーギャラが頑張っていた瀬尾さんが、組織が軌道に載ったところで潔く身を引かれるということだが、あとに残されたわれわれはやや緊張状態にある。新任の方にがんばっていただきたいということで、励ましの声をかけておいた。

07/07/水
三重県にいる次男は昨日職場の集団接種で1回目のワクチンを受けた。今日も後遺症は出ていないと報告があった。こちらは近くの医院で月に一度の検診。2回目のワクチンに備えて解熱鎮痛の薬をもらった。ぼくの2回目はまだ先だが、1回目も大丈夫だったので2回目も楽観している。

07/08/木
日本文藝家協会で文化庁と会談。課長が替わったので新任の挨拶など。こちらからも要望を伝える。久し振りの文藝家協会。ようやく『天海』に集中できる。本能寺の変。昨日散歩の帰りに駅前の書店で『歴史道』を買う。関ヶ原の戦いの特集。いま書いている本能寺の次の山場は関ヶ原だ。これをどう描くかはまだ何も考えていない。

07/09/金
本日は公用はない。ひたすらパソコンの前で『天海』。ようやく本能寺が動き始めた。最初は近衛前久邸で徹夜で酒を飲んでいるだけだったが、夜が明けると明智軍が本能寺を襲撃する。近衛邸の隣の寺には信長の長男がいて、隣接した二条新御所に移動する。近衛邸も同じブロックにあるので明智軍に取り囲まれてしまう。このあたりからは動きがあっておもしろくなる。

07/10/土
『尼将軍』の初校が届いた。すでにずっと前に控えのゲラが届いていて、一度読み返している。文字校正や文章の修正は済ませてあるので、校閲の人の疑問点に応えながら、自分で修正すべきところは控えの赤字を引き写すだけでいい。それほど時間はかからないので、まだ取りかからない。いま『天海』が重大な局面に差しかかっている。本能寺が終わり、ここでいい具合に章が替わった。ここで一挙に小牧長久手の戦いに話を飛ばしたいのだが、すると清洲会議や賤ヶ岳の話が飛んでしまう。すべてをじっくり描いていると大長篇になってしまうので、どこかで一気に話を飛ばす必要がある。次は一挙に関ヶ原に飛んでもいいと思っているが、これまで布石を打って登場させた人物を絡めながら、スピードアップして話を進めていきたい。

07/11/日
妻が大阪に行ったので今日は一人。まずスーパーとコンビニに行って食料を調達。その直後にものすごい雷鳴とともに豪雨となった。BSが見えない。べつに見なくてもいいのだが。『天海』は小牧長久手の戦いに移った。まだ戦さは始まらない。そこに到るまでの経過をテンポよく語っていく必要がある。明日から緊急事態宣言なので、木曜日のサテライトの講座は中止になるのか。明日には連絡が入るだろう。月末の宇都宮の講座はすでに中止が決まった。明日の日大文芸賞の選考は実施。選考のあとの会食はどうなるのか。

07/12/月
日大文芸賞の選考会。新宿住友ビルの「みのきち」という京都の料理屋でいつも選考する。選考の後は当然、料理を楽しむのだが、緊急事態宣言の初日とあって、ノンアルコールビール。座談が弾むとノンアルコールでも酔ったような感じになってくる。久し振りにリアルな人と会話したので疲れたのだろう。明日は文藝家協会の評議員会と常務理事会がある。明日はリモートで参加する人が多そうだ。

07/13/火
今週はどういうわけかスケジュールがつまっている。本日は文藝家協会評議員会と常務理事会。ZOOMでの参加も可能だが、理事長、副理事長はREALに出席することになっている。何ごともなし。午後早い時間からの会議で、通常の理事会はないのでまだ明るいうちに自宅に帰る。木曜日に三鷹サテライトの講座がある。緊急事態宣言が出ても実施されるとのことで、会議のアキ時間に準備のメモを作る。本日は仕事はこれだけ。

07/14/水
今週は今日だけが公用のない日なのだが、しばらく車を動かしていないのでいつものように深川ギャザリアまでドライブ。昼食のあとティーシャツなどを買う。『天海』少し進む。ゲラは週末から作業を始める。日大文芸賞の選評は昨日送付した。これで一つ仕事が片付いた。「まほろば賞」も候補作を読んで感想をメモしてある。残っているのは歴史時代作家協会賞の選考。期日はまだ先だが、そろそろ読み始めないといけない。

07/15/木
三鷹サテライトで講座。緊急事態宣言下ではあるが受講者が高齢者なので摂取率が高いと想定して実施。ぼくは1回接種だが、感染するような場所には出向いていないし元気そのもの。本日は「一条天皇と紫式部」という演題だが、時間が少し不足した。まだもう1回あるので次回に補足する。『遠き春の日々/ぼくの高校時代』の見本届く。素晴らしい仕上がり。

07/16/金
本日は書協で図書館補償金についての協議。昔、頻繁に書協に通っていた時期があった。そのころは書協は神楽坂の上の古びたビルの中にあった。ぼくは三宿に住んでいたので、半蔵門線で永田町乗り換えで飯田橋に行く、長い坂を登っていった。いま書協は神保町に移っているので、ぼくの毎日の散歩コースだ。10分くらいで帰ってこれる。楽だなあと思いながら炎天下の道を帰ってきた。今週は毎日、外出の用件があったが、公用はこれで終わり。ただし明日は2回目のワクチン接種がある。1回目は遙か彼方の区役所だったが、今回は最寄りの出張所なので楽だ。

07/17/土
2回目のワクチン接種。前回は千代田区役所で遠かったが、今回は近くの万世橋。小人数で落ち着いた雰囲気だった。ただし、前回は無痛だったのに、今回は針が痛点を直撃。刺さっている間ずっと痛かった。これは打ち手の技倆ではなく偶発的なものだから仕方がない。自宅に帰ってゲラを見る。ただ戦争のシーンになってくると、校閲の人の注文が増えてきて、対応に緊張を強いられるようになってきた。あまり進まず。ここを通り過ぎれば少し楽になりそうな期待をもってはいるのだが。幸い来週はヒマなのでゲラに集中したいが、本が届いたので送らないといけない。知り合いの作家や評論家には版元が送ってくれるのだが、個人的な友人には自分で送ることにしている。昨日は文藝家協会の人に手渡した。

07/18/日
ワクチン接種の翌日なので散歩には出ず。前回と同様、注射した腕がやや腫れた感じだったが、午後には痛みも消えた。結局、副反応はまったくないといっていい。副反応がないというのは、抗体がちゃんと作られているか心許ないのだが、とにかく問題が生じなかったのでよかった。『尼将軍』のゲラ、昨日は集中力がなくて進まなかったが、今日は2章のノルマを果たした。残り2章。歴時賞の候補作も1冊読んだ。今回は新人のレベルが高いように感じる。巣ごもりで小説家を目指す書き手が増えているのではないか。これはいいことではあるが、こちらも頑張らないといけないと思う。時代小説の書き手はレベルが高い。どんな時代を書くにしろ調べないと書けないからだ。調べたことを踏まえながら、どれだけ自分のものにして流れるような文体を生み出すということなのだが、どの新人もちゃんとレベル以上のものを書けている。

07/19/月
珍しく自分のスマホが鳴った。SARTRASの人からで創立者の瀬尾太一さんが亡くなったとのこと。瀬尾さんは写真著作権協会の人だが、複製権センターの責任者を務め、そして新たにSARTRASを企画の段階からほぼ一人で作り上げた。構想の段階でぼくは相談を受けて、副理事長になることを約束したのだが、その段階では具体的な手順も、その構想が実現できるかも、まったくの五里霧中であった。それが去年の無償での利用からスタートして、今年は本格的に稼働し、来年には補償金が入るという段階で、肝心の瀬尾さんが亡くなってしまった。この難しい組織の創設のために、命を縮めたと誰もが感じるのではないか。こういう事態をご本人は予期していたのか、常務理事から退いて新たな人にバトンタッチした。従って組織の活動は支障なく続いていくだろうが、ここまでの労苦は並大抵ではなかった。彼は私利私欲のない人で、大きな組織を動かしているのにすべてボランティアだった。まあ、ぼくもボランティアで参加しているのだが、瀬尾さんは働きづめに働いていた。ご冥福を祈る。さて、本日はゲラ1章。残りはあと1章になった。これを明日片づけて、もう一度最初からチェック洩れがないか確認すれば完了ということになる。去年の夏だったか、『紫式部』が完成した直後に、デッドストックが貯まりすぎるのもよくないので、確実に本になりそうなテーマとして『尼将軍』を書くことにしたのだが、その時点では以前に『源頼朝』を書いたので楽に書けると甘く考えていた。しかし北条政子の生涯は、頼朝が死んでからが本番なのだ。しかも次々と謎めいた事件が起こる。これを本1冊に収まるようにコンパクトにまとめるのに苦労をした。まあ、何とかまとまった。途中でその労苦が重荷になってきて、気持が離れかけていたのだが、改めてゲラを読み返してみると、充実した作品になっている。校閲の人にも助けられて文章もかっちりしたものに仕上がった。歴時賞の候補作を読みながら、自分も負けていないと自負をもつことができた。本日は電球を買いにヨドバシカメラに行き、帰りに郵便局によってスマートレターを買った。三重にいる兄や、『遠き春の日』に登場する友人たちに本を送るため。猛暑だ。一昨日に接種を受けた万世橋出張所の前を通って秋葉原駅の方に向かうのだが、出張所の前まで来た時、この猛暑の中で歩けるのはこのあたりが限度かという気がした。帰りは旧万世橋駅下の商業施設の中を通り、郵便局の神田本局にも寄ったので、そのつどエアコンの冷気で体を冷やすことができた。これからは散歩のコースを考えないといけない。神保町の方に行けばスポーツショップや本屋があるので、時々店の冷気で体を冷やしながら散歩した方がいいかもしれない。

07/20/火
『尼将軍』のゲラを発送。これで一つの仕事が片付いた。残っている仕事は歴時賞の候補作を読むこと。これはまだ期間があるので少しずつ前進すればいい。『天海』は一週間ほど放ってあったので、画像で最初から読み返すことにした。『尼将軍』の校閲者は時代物に詳しい人のようで、言葉遣いを直された。確かにいまわれわれが使っている漢語は、英語などを漢語に直した翻訳語で明治になってからのものだ。そういう言葉を中世や近世の登場人物がしゃべるのはおかしい。しかしラノベに近い若い書き手が書く時代ものは、近代語が多用されていて、その方がリーダブルだと受け取られているようだ。今週は公用がないので自分の仕事に集中できる。ただ昨日写真著作権協会の瀬尾さんが亡くなったという報せがあり、まだそのショックが持続している。SARTRASは新しい専任常務理事がすでに活動を始めているので問題はないが、オーファン委員会はぼくが委員長なので対応を考えないといけない。まあ、これも来週のNET会議で皆さんのアイデアを聞いて一緒に考えればいいということにしてある。

07/21/水
今週はなぜか公用がまったくないのでのんびりしている。ようやく『天海』に戻れることができる。ここまで何を書いたか忘れてしまったので最初から画像で読み返している。

07/22/木
猛暑が続く。散歩は危険と判断して部屋に閉じこもっている。昨日から女子サッカーとソフトが始まった。とくに熱中して見るということはないが、スポーツはおもしろいのでテレビは点けている。しばらくは『天海』の読み返しだが、今後の展開として、時間をスッ飛ばして小牧長久手の戦いから一気に関ヶ原というようなことを考えている。そこから先は戦さではなく、政治の話になっていく。どこからか天海の神道についての構想が出て来なければならない。神道についての考察が主要なストーリーに絡む作品というのは、天海を主人公にしたものしかないのではないか。まあ、古代の女帝の話は別としてだが。

07/23/金

オリンピックというものにそれほど興味はなかったが、妻がNETでチケットの抽選に参加していたので、当たったら行ってもいいと思っていたがすべて外れた。それでもいつも近くの靖国通りでマラソンをやるなら見に行こうと思っていたのだが北海道で開催されることになった。もはやオリンピックには無縁かと思っていたが、ブルーインパルスが五輪を描くというので気にしてはいた。開会式の直前くらいにやるのだろうと思っていたが、昼食のあとでテレビのワイドショーを見ていたら、どこかのビルの屋上で空を見上げている人々の姿が映ったので、あわてて窓から外を見たが、何も見えない。と思っていたら微かに飛行機雲のようなものが見えた。やがて6機の編隊が東京駅の上空に近づいてきた。五色の飛行機雲もしっかり見えた。編隊はスカイツリーの方に行ったようで、しばらく視界から消えていたのだが、やがて新宿の方向に現れたと思ったら、目の前で輪を描き始めた。東京駅の上空は青空だったのだが、新宿渋谷の方向にはいちめんに白い雲があって見にくいのだが、とにかく飛行機が輪を描いていることはわかった。残念ながらぼくの住居は高層住宅の中ほどにあるので、五輪を真横から見ることになり、ひしゃげた楕円にしか見えなかったが、とにかく五色の輪が描かれていることは確認できた。その後、編隊は姿を消していたのだが、今度は北から南に東京駅の上空を飛んだので、自宅からはよく見えた。去年も自衛隊病院の上空でのパフォーマンスを自宅から見ていたのだが、今回は五色の飛行機雲だったので、なかなかにうるわしい眺めだった。

07/24/土
猛暑。外出せず。ひたすらパソコンの前にいて、『天海』を読み返す。本能寺の変に向かってのプロットを読み返している。まあ、いい感じではないかと思う。オリンピックの競技が始まった。地上のホッケーなどというものもやっている。いろいろな競技があるものだと思うが、こういうサッカーのようなフィールドとゴールをもつ球技を見ていると、改めて、アメリカン・フットボールという競技の素晴らしさを痛感する。スポーツであると同時に戦略ゲームでもある何ともアメリカ的なゲームだ。

07/25/日
年に一度の下丸子。いつも「まほろば賞」の選考はここの太田区民センターで開かれる。毎年同じメンバーなので慣れている。今回は選考委員の評価が分かれて4作品がほぼ同点で並んだ。投票方法を変えて再度試みたが差はつかなかった。作品のスタイルの美しさ、レベルの高さ、という基準と、描かれている内容のリアルさ、切実さ、という基準のどちらを優先するかという点で意見が分かれるのだと思う。意見の分かれる4人の選者が合議することで公平性が保たれるので、こういう意見の相違は当然のことで、それだけ候補作のレベルが高いということだ。同人誌の作品のレベルは、商業文芸誌を上回っている。野球でも将棋でも、アマチュアがプロを上回るということは、ものすごい新人が現れた場合を除いてはめったにないことだが、商業文芸誌は文学としての指標を失って目新しさだけを求めるようになったので、こういうことになったのだろう。確かに新しさという点では、商業文芸誌の作品には時に奇異な新鮮さを感じることはある。同人誌の書き手は高齢者が多く、一時代前の基準で作品を書いている。安定感はあるが新鮮さには欠ける。しかしいまでも夏目漱石は評価されているし多くの読者を得ているので、伝統を重んじるという姿勢はあっていい。終わってからいつものように居酒屋でしばらく雑談した。ノンアルコールビールだが、アルコールの力がなくても、文学の話は盛り上がる。自宅に帰ってオリンピックのダイジェストを見る。金メダル4つ。おおっ、と思う。あのスケートボードで階段の手すりの上を滑る競技は、わけがわからないし、こんなものが流行っては困るという思いがある。そこへいくと柔道はいい。競技としての基準が確立されていて、以前よりもわかりやすくなった。腕ひしぎ十字固め、などという名称も愉しい。兄妹で同日金メダルというのもなかなかの物語だ。卓球男女ペアの準々決勝の逆転劇も見事だが、卓球はあまりにもボールの動きが速く、そこに回転の要素が加わっているといわれてもわけがわからない。そこへいくとテニスはわかりやすい。卓球はダイジェスト番組ではスロービデオを駆使して解説してほしい。ぼくは時々、大相撲の夜中のビデオ番組をすべてスローで見ることがある。勝敗の結果も知らないで、力士の動きの途中だけを見てこれからの展開と勝負の行方を予想しながら見ていると充分に楽しめる。男子サッカーがメキシコに勝ったので、メキシコのオリンピックのことを思い出した。メキシコの地元開催の3位決定戦で、場内の観客が一斉に日本を応援し始めた。あれはいまだに謎だ。その時の観客たちの応援歌もしっかり記憶している。ブラバオ・ブラビオ・ビンボンバン・ハポン・ハポン・ラララ、というのだが、ハポンというのは日本のこと。まあ、日本人が日本を応援するニッポン・チャチャチャみたいなものだろうとは思うのだが。

07/26/月
オーファン委員会の前に著団連の会議。写真家著作権協会の瀬尾さんが亡くなったので、その対応について話し合う。瀬尾太一さんという人は、SARTRASを創っただけでなく、複製権センターを立ち上げ、そこに人を送り込む著団連を創り、オーファン委員会も創った。瀬尾さんがいなくなるとこれらすべての組織が屋台骨を失った状態になる。しかも実際にリアルな会議が出来ない状況だ。こういう話は小人数の飲み会で決まることもあるのだが、これをすべてZOOMの会議とメールのやりとりだけで対応しないといけない。取り合えず本日は緊急の対応を決めた。あとはパソコンの画像とテレビの画面を見ていた。卓球の男女ペアの試合はずっと見ていた。見ているだけで疲れた。

07/27/火
月に一度、マッサージに通っている。パソコンを打つという座業なので、肩が凝ったり腰に負担がかかったりするので、マッサージでほぐしてもらう。スポーツマッサージと呼ばれる科学的な療法で野球やラグビーの選手が通ってくる。ぼくは役者をやっている姉から紹介してもらった。スポーツ選手や役者ではないぼくのような素人は割引料金にしてもらえる。台風が来るというので心配していたが、出かける時は傘をさす必要のないほどの霧雨、帰る時は快晴になっていた。台風は東北の方に去ったようだ。台風の進路では水害が心配されるが、ぼくにとっては傘を出さなくてすんだのでよかった。老人になったせいか自分のことしか考えなくなってきた。2回目のワクチン接種から1週間以上経過したので、ぼくの体内にも抗体が確立したのではないかと思う。それはありがたいことではあるが、ワクチンを高齢者から打っていくというのはいかがなものかという思いがある。働き盛りの人から打った方が世の中が安定するのではないか。老人施設や自宅にこもっている高齢者は感染の機会は少ないはずで、通勤して仕事をしないといけない人を優先すべきだと思う。

07/28/水
妻の運転で深川ギャザリア。『天海』の読み返しを続けてきたがようやく新たな領域に入ることができる。そもそもこの作品は、天海という謎の人物について自分なりの見解とイメージを示したいと思って構想を練り始めたのだが、天海=明智光秀という通説があることから、光秀との絡みで話を始めた。そうなるとこの時代の主要な人物も総動員する必要が生じて、本能寺の変までに100ページを超えることになった。登場人物のキャラクターはしっかり書き込むことができたので、ここからはアラスジに沿って点描していけばいいかと思うが、家康が死んでからも話は続いていくことになるので、かなり分厚い作品になりそうだ。とにかく日光東照宮で出来るまで、一気に書ききって、長さに関してはそれから考えることにしたい。

07/29/木
本日はどこへも行かず。猛暑が果てもなく続いている。オリンピックはけっこう見ている。柔道がすごい。地元開催ということで、猛練習をしたのだろうなと思う。とくに女子で、全試合で寝技で勝った選手に感動した。寝技って、どうやるのかよくわからないけど、相手が技をかけられずに安全のために腹這いになった状態から相手をひっくりかえして押さえ込むというのは、ものすごい強さだというしかない。これでは相手はどうしたらいいかわからなくなる。サッカーも頑張っているね。

07/30/金
東本願寺の機関誌でインタビュー。ZOOMでインタビューというのは初めてだが、これは便利だと思った。親鸞のことを語ったわけだが、親鸞はけっこう好きなキャラクターなので楽しかった。ただ昨日は自分の書いた『こころにとどく歎異抄』を読み返した。ぼくの脳のキャパには限りがあるから、いまは天海でいっぱいになっている。一度初期化して親鸞のデータを入れないといけない。1時間ほどでインタビューが終わったので、また天海の世界に戻る。今日も猛暑だが、インタビューの最中に雷が鳴り出した。まあ、陽射しがないので、少し楽な感じだ。

07/31/土
毎年7月の最終土曜日は宇都宮で講座をもっていたのだが、2年連続で中止となった。講演のあとはギョーザを送ってもらえるのだが、今年は早々とギョーザが到着した。まあ、いまは『天海』の調子が出ているので、猛暑の宇都宮に行かなくてよかったと思う。疫病の流行が止まらずむしろ爆発的な感染の拡大に向かっているようだ。オリンピックを開催したことで人の気持がゆるんだということもあるだろうが、オリンピックは見ていておもしろいので、中止という選択肢はなかっただろう。ワクチンの不足がここに来て明らかになってきたが、国産できるアストラゼネカで対応するしかない。スペインにいるぼくの長男はすでにアストラゼネカを2回接種している。スペインでは接種の時に解熱剤を渡されて必ず服用せよとの説明書がついていたのだが、息子はよく読まなかったので発熱した。2回目は指示通りに解熱剤を服用したので問題はなかった。その話を聞いていたので、妻もぼくもかかりつけの医師から解熱剤を貰って、2度目の時は最初から服用した。日本でも解熱剤を渡せばいいと思う。ファイザーやモデルナはメッセンジャーRNAに脂質をまとわせたものでそれ自体は無害なものだが、アストラゼネカはチンパンジーの風邪のウイルスに遺伝子を組み込んだもので、軽い風邪にかかった状態になることは避けられないようだ。国産できるのでこれを接種するしかない。さて、オリンピックを見ながら『天海』を進めている。8月は公用も少ないので集中してゴールを目指したい。



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