6CW5 circlotron アンプ






  今まではマッキントッシュタイプのCSP

 Pアンプを組んで来たのですが、同じCSP

 P方式にCIRCLOTRONというのがあ

 ります。しかしこの回路用のトランスは既製

 品では適合する物がないのですが、度々お世

 話になっているARITOさんのご厚意によ

 り、専用トランスが調達出来ましたので6C

 W5で組んでみたところ、一部問題もありま

 したが概ね良い結果が得られました。

 CIRCLOTRONは私にとって未知の回路なので、いきなり本製作に取り掛かるのはリスクが大き

いと思って当初はバラックセットで組みましたが、案の定というか途中で寄生発振に見舞われ、さらには

思いも寄らぬノイズにも遭遇してしまいました。このノイズについては、まだ完全に解決した訳ではない

のですが、それ以外は一応の結果が出たので本製作に取り掛かりました。

 まず回路としては以下のようになりました。




 circlotron回路の動作原理についての詳しい事は、そのうちARITOさんがCSPP解説

ページを作るとの事なので、そちらを参照して頂きたいと思うのですが、簡単にいえばマッキントッシュ

タイプと同じく50%のカソードNFとして動作し、出力信号は同じ巻線上を上下双方の負荷として流れ

ます。回路図を一見すると100%カソード負荷に見えるのですが、負荷の中点が接地されていて、この

接地基準の入力信号によって励振されるので、負荷はプレートとカソードの半々となるのです。

 CSPP回路を理解するためにはマッキントッシュタイプよりも、むしろサークルトロンタイプの方が

CSPPの基本回路に近いので理解し易いのではないかと思いますが、とりあえず入力信号と出力信号

の関係について、実際に回路を考える時に避けて通れないので簡単に説明したいと思います。



 上の図1はサークルトロン出力段の上側の回路だけを抜き出して三極管で描いたものです。そして負荷

巻線の中点を接地しているので、その上下の巻線を別巻線として描いたのが図2です。さらにカソード側

の巻線を交差しないように反転したのが図3です。このように描くとプレートとアースの間に電源と負荷

が直列に入っていて、これを上下に入れ替えても交流的には不変である事が分かると思います。そこで、

この両者を入れ替えて描いたのが図4ですが、通常のプレート負荷回路にKNFが掛かっているだけだと

いう事が理解できると思います。ただ、このKNF巻線はプレート負荷と同じ巻数なので50%のKNF

となる訳です。

 そのような訳でドライブの条件もマッキントッシュタイプと同じで、本機では、やはりブートストラッ

プを掛けてドライブ電圧の嵩上げをしています。それ以外は理解してしまえば難しい動作ではないのです

が、実際に組み立てるとなると、フローティング電源が上下左右と四つも必要となるのが唯一の欠点で、

製作に当たっては従来の立てラグ配線だけでなく、初段と電源回路は平ラグかユニバーサル基板を使った

方が良さそうです。

 その他の注意点としては、初段のFETは倍くらい入手して特性の合った物を選別して下さい。選別の

方法はこちらのページを参考にして下さい。また出力管もDCバランスは付けていますが、組み立て後の

現物合わせでも良いので特性の近いものを選んで下さい。さらに電源の抵抗が要調整となっているのは、

自宅の電灯線電圧が常に高めで休日などは106Vもある為に、規定の100Vの場合の整流後電圧が分

からないので、この抵抗で各地域での電圧に合わせるようにして下さい。6CW5はSG電圧が225V

となっているのですが、フルスイング時には電源電圧が降下しますし、KNFではULや三結と同じよう

に最大SG電圧が高く設定できると思うので、無信号時260Vとなるようにしました。

 一方、もしも回路が不安定になるようでしたら、SGのパラ止め抵抗330Ωを増やしてみて下さい。

当初はこれを入れなかった為に寄生発振に悩まされてしまいました。6CW5CSPPの先輩である上条

さんの作例を見たら、やはり入っていました。諸先輩の作例はよく見なければいけませんね。通常のPP

回路での五極管動作なら、SGは交流的に接地ですから発振する事は無いのですが、ここら辺りの動作も

CSPPを組む上での注意点となるようです。


諸 特 性


 本機は折衷バイアスでカソード

にも抵抗が入っているので、フル

スイング時の電圧降下が大きいの

ですが、15Wの出力を得ること

が出来ました。

 一方の歪率特性は前章のUL接

続アンプに似たカーブで、中出力

でも低歪を保っていますが、低域

特性だけはDCバランスが不十分

だったようです。



無歪出力15.1W THD2.3%1kHz

NFB  11.4dB

DF=10 on-off法1kHz 1V

利得 23.9dB(15.6倍) 1kHz

残留ノイズ 0.40mV


 次に周波数特性で、これは見事といって良いほど高域まで素直に伸びています。こういう特性が出せる

からこそのCSPP方式なのだと思います。本機も負帰還は掛けていますが、通常の負帰還アンプで帯域

を伸ばそうとすると大概は鋭いピークを生じるので、測定器を駆使して補正を掛けなければならないので

すが、これなら補正無しでも問題なさそうです。ただ100kHzを超えた辺りで僅かに盛り上がっているので

おまじない程度の軽い補正を掛けました。

 最終的な高域特性としては、補正後でも10〜200kHz/−3dBの広帯域となっています。




 方形波応答では僅かにオーバーシュートがありますが、リギンクなどのない整った波形で負荷開放でも

乱れはありませんでした。




 ただ周波数特性での盛り上がりを直す為に、微分補正として120Pを追加してみたところ、オーバー

シュートはかなり小さくなり、負荷開放ではまったく見えなくなりました。なお補正の120Pというの

は手持ちがあったので使ったまでで、ここは100Pでも問題ないです。




 最後にクロストーク特性をご覧頂きたいと思います。5kHzより下の領域はほぼ平坦ですが、これは

残留ノイズを測っているようなものですし、それより上の領域でも可聴帯域の20kHzまでは良好な特

性を見せていると思います。



 一方、サークルトロンアンプではフローティング電源の各巻線を一つの電源トランスで纏めようとする

と、巻線間に発生する静電容量によって左右のクロストークが悪化するので、本機では各B巻線間にシー

ルドを入れるという、かなり特殊な対処法を施していますが、当初はシールドの無いトランスを用いてい

た為に、クロストークは1kHzから上昇を始めて高域はさらに急激に悪化するという状態でした。しかし

改良後は上記のとおりで、何ら問題ないレベルに納まっていると思います。


 雑 感

 文頭でのノイズというのは、詳しくは次章で述べますが球がヒートアップするまでの間にジーノイズが

出る現象で、これは10秒程度なので実用上は我慢できない程ではないのですが、微妙に不具合を抱えた

未完のアンプという印象が付きまとってしまいます。また本機のように電源の各巻線間にシールドを入れ

るというのは、通常のトランス屋さんではやってもらえないと思うので(ARITOさんに感謝!です)

この方法でのクロストーク対策は今回一回だけの特殊な対処法でしょう。

 ただ本機は、音質的にも特性的にも充分満足出来るアンプだと思うので、とにかく電源回路だけ何とか

工夫をしてノイズとクロストークの問題をクリアすれば、(とりあえずはミュート回路を入れて、ノイズ

が出ないようにしようと思いますが、)PPアンプとして、サークルトロン方式はトップクラスの魅力的

なアンプになると思います。


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