泌尿器科医・木村明の日記


前立腺全摘の生存率向上の効果は僅かだったという論文


[木村泌尿器皮膚科公式ブログ](2012年春)

2012年7月19日、N Engl J MedにRadical Prostatectomy versus Observation for Localized Prostate Cancer(2012; 367:203-213)という論文が発表されました。
目的:PSA検査で見つかる限局癌に対する手術は有効なのかを検証する。
対象:44の退役軍人用の医療機関と8の国立がんセンターが試験に参加。
1994年から2002年までに、全摘の適応とされた患者さんが5023人。
ランダム比較試験への参加に同意した人が731人。
くじ引きの結果、根治手術に割り当てられたのが364人、367人が経過観察に割り当てられた。
平均10年のフォローアップ中の死亡率を比較した。
結果:根治手術に割り当てられた364人中171人(47.0%)が死亡していたのに対し、経過観察に割り当てられた367人中183人(49.9%)が死亡していた。
死亡率の有意差はなかった。

ここから私見。
この論文が「【悲報】前立腺癌は手術してもしなくても“死亡率は変わらない”と判明!!!」と伝えられるのはちょっと間違いです。
「47.0%と49.9%とで統計的有意差を出せなかった」、という論文であって、「死亡率は変わらない」ことを証明したわけではありません。


著者たちも、2000人に参加して欲しかったが、740人ぐらいしか参加してもらえそうにないことがわかり、
手術が死亡率を25%減らしてくれていないと有意差は出せない研究だと、フォロー開始時点でわかっていたようです。
なのでこの論文は、昨日のブログで書いたように、
手術しても死亡率は変わらないことを証明した論文ではなく、
手術すれば死亡率が減らせることを統計学的に有意差をもって示すための症例数を、確保できなかった論文、
なのです。
では、何例参加してもらえれば有意差が証明できたか、
明日のブログに続く。
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