2009.08.31

    福岡伸一「できそこないの男たち」(光文社新書)を読んだ。この人はサイエンスライターとして実に素晴らしい才能がある。まるで小説を読んでいるかのように楽しませる。学者世界の厳しくも愚かな競争の様子と生物学的な男の宿命とを暗示的に結びつけて読者をぐいぐいと引き込む構成力は大したものである。Y染色体の中の性決定遺伝子の発見とその機能の解明はつい最近のことのようである。本来子宮に到る孔と腎臓に到る孔があったのに、性決定遺伝子がONされると子宮に到る孔(ミュラー管)が袋綴じにされて睾丸が降りてくると共に、出口の無くなった精子の出口として腎臓に到る孔(ウォルフ管)を借用するようになった。これが男性器である。そもそも男は女が遺伝子を交換するために一時的に作られるだけの存在であった。そのために射精には快感が与えられた。ヒトの女は、育児期間が長くなってしまったので、用済みとなった男を利用して餌の確保や子供の世話に使うようになった。やがて男たちは女の為に知恵を競って食料の保存やら芸術やら装飾やらの、いわば余剰を生み出した。しかしやがて男たちは余剰を女に渡していることに満足しなくなって自分達で利用するようになった。これが文明の始まりである。

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