2023.02.20

    中島みゆきの『僕は青い鳥』が気になっていて、楽譜も入手できないので、耳コピをしているのだが、難しい。マタイ受難曲のアリア『Erbarme Dich』と似ているなあと思ったのが切っ掛けだったが、それは 12/8 拍子ということとコードが細かく変わっていることによる単なる印象であった。(実際は多分4/4拍子で、3連符が使われているのだろうとは思う。)一応こんな感じ

    ネットで調べてみると、細かくはいろいろなコード解釈があるが、耳では低音のベース音が聞き取りにくいので、wavetone というソフトを使って調べた。基本的には Dm の調で、♭記号が一つなのだが、前奏が C の奇妙な感じの分散和音。これはオブリガートみたいにあちこち出てくるのだが、多分鳥の羽ばたきをイメージしているのだろうと思う。

    歌詞の旋律は A、A'、B、B' の4種類で、1番が A→A'→B→B→B'、2番が A→A'→B→B→B→B' である。普通の歌謡曲ではそれぞれ 4小節構成なのだが、 A と A' は 5小節構成である。歌詞に合わせて旋律を考えたという事だろう。
A「僕は青い鳥、今夜も、誰か捕まえに来るよ、銀の籠を持ち」
A'「僕は青い鳥、誰かの窓辺に歌うよ、銀の籠の中で」

B「幸せを追いかけて、人は変わってゆく」
B「幸せを追いかけて、狩人に変わってゆく」
B'「青い鳥、青い鳥、今夜も迷子」
間奏があって、

A「何が見えますか、そこから、僕の命はただの小さな水鏡」
A'「夢を追いかけて、今夜も、誰か捕まえに来るよ、爪を研いで」
B「幸せになりたくて、人は変わってゆく」
B「幸せを追いかけて、狩人に変わってく」
B「青い鳥、青い鳥、それは自分なのに」
B'「青い鳥、青い鳥、今夜も迷子」。

1番の歌詞に比べて2番で追加されているのが「...それは自分なのに」である。これはメーテルリンクの童話に基づいているのであるが、話の成り行きに深みを与えていて、印象に残る。

    曲の印象としては小節毎に調性が入れ替わっている感じで浮遊感がある。まあ、鳥のイメージである。

    この曲の初演は1979年秋のコンサートツァーだったらしい。その後、これを筆頭とするアルバム『はじめまして』が1984年に完成するのだが、難産だったようで、アルバムの宣伝の為に予定していたコンサートツァー『明日を撃て』をアルバム発売前に敢行することになり、アルバム収録の中の新曲はこの曲だけで、しかもギター弾き語りだったらしい。(アルバムの中の曲としては他に既にシングル曲として発売されていた『ひとり』が歌われた。)

    多分、中島みゆきは『僕は青い鳥』をテーマとしたアルバムを長く構想していたのだろう。アルバム『はじめまして』では、恋愛における男女のエゴイズムが皮肉たっぷりに描かれていて、その「毒性」は「ご乱心の時代」の始まりに相応しい。最後には、「恋人たち」がうつつを抜かしている間に核戦争で世界が破滅する1秒前に到達して、一転、『はじめまして』という曲が登場する。「はじめまして 明日 あんたと一度つきあわせてよ」コンサートツァーのタイトルはこの歌詞に合わせていたのである。このアルバムは極めて演劇的に出来ている。『夜会』の前哨戦のようなものだろう。この『はじめまして』が今回のコンサート『歌会 Vol.1』の最初の曲となっている。さて、「明日」をどう歌うだろうか?

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