2023.05.19
ここの処1ヶ月程血圧が高くなってきて、医師に言われて毎日血圧を測定しているのだが、繰り返し測定でも測定値がかなり変動するので、血圧計に疑念を抱いていろいろ調べてみた。

・・・腕などの周囲をカフで均一に圧迫してから、少しづつ圧力を開放していくと、聴診器で血流が始まる音が聞こえる。この時の圧力が収縮期血圧(最高血圧)で、さらに圧力を下げていくとその音が聞こえなくなる。この時の圧力が拡張期血圧(最低血圧)である。いまだにこのやり方で水銀柱圧力計と聴診器で測定している医師も居るのだが、家庭用の血圧計ではこれを自動化する為に、水銀柱や聴診器の音ではなくて、微小圧力センサーを使って、自動的に計測できるようになっている。測定方法をそのまま踏襲するのであれば、圧力を開放するプロセスは少なくとも数回は脈拍がある間、つまり10秒程度の時間をかける筈であり、実際病院に置いてある血圧計でもそうだったのだが、僕が使っているオムロンのHEM-1020では、圧力開放に1秒もかかっていないのである。

・・・ネットでいろいろ調べてみると、最近日本光電という会社が、ゆっくり加圧しながら測定して、脈動が終わったら素早く減圧する、という方法を開発していた。加圧法というらしい。締め付けないので患者の負担が軽減されるが、ノイズの影響を受けやすいということである。HEM-1020でもこのやり方のようであるが、時々測定が上手くいかない時があるらしく、複雑な加圧減圧プロセスを繰り返している。

・・・そもそも、カフ圧力の小さい時と大きい時には脈動による振動(音)が聞こえなくて、中間位で大きくなるのは、どうしてなんだろうと思って、これも調べてみたが、古くから知られていてあまりにも当たり前と思われているのか、その原理まで解説した文献にはなかなか行きつけないので、考えてみた。血管径拡張の血管内圧依存性がシグモイド型だからだろうと思う。これはまあ実際の破裂対策を施した弾性管(例えば消防用のホース)では普通の事で、内圧が小さい時には内圧を少々変えても管径は変わらないが、内圧を大きくしていくと押し広げられて管径が大きくなる。しかし、無限に大きくなると破裂することになるので、ある程度以上の内圧に対してはもはや管径が大きくならない。管の内部構造と構成繊維がどこまでも変形することがないからである。

・・・血圧測定時では、血管の内部からだけでなく、外部からもカフの圧力がかかるので、この管径を左右する実質的な血管内圧が『血管内から(心臓から)の圧力から血管外からの圧力(カフの圧力)を差し引いた圧力』になる。心臓からの脈動は血管を限界まで大きく拡張したり収縮するほどの圧力振幅ではないので、結局、測定時には、心臓からの平均圧力からカフの圧力を差し引いた圧力を中心として、実質的な血管内圧が脈動によって微小振動することになる。その振動の影響で血管の管径も微小振動する訳であるが、この時、血管拡張の内圧依存性のシグモイド型のどの辺りを中心として実質的な血管内圧が振動しているかによって、管径の振動振幅が変わる。つまり、シグモイド型の真ん中辺りにカフ圧力があると、圧力対管径の依存性が大きい(傾斜が大きい)ために血管径の振動振幅が一番大きい。従って、カフ圧力を変えながら血管径の振動による音を測定していくと、カフ圧力が小さい時には血管が拡張してしまって殆ど振動が無くて、中間で最大となり、カフ圧力が大きい時には血管が収縮してしまって振動が無い。このカフ圧力に対する血管径振動音強度依存性のことをオシロメトリーと呼ぶ。

・・・加圧型測定の場合、オシロメトリーの立ち上がり(カフ圧の小さい処)が拡張期(最低)血圧で、下がってしまう処(カフ圧力の大きい処)が収縮期(最高)血圧である(減圧型測定ではこの逆)が、その測定上の定義(どこの圧力を採用するか?)は便宜上のもので、再現性や診断基準の容易さから決められているらしい。元々は医師が血管径振動を聴診器で音として聞いて判断していて、現在では微小圧力センサーで血管径の振動を検出しているので、その間のデータ整合性も重要である。そもそも、圧力の観点から見ると、血管が完全に拡張しているときも完全に縮小しているときも、カフ圧力値(ある値以下あるいは以上)は広い範囲になるために、測定値が定まらない。一般的には、山型のオシロメトリー曲線の両側で、傾斜(音量の圧力依存性)が一番大きくなるカフ圧を採用するか、曲線の頂点に対して経験的に決められた比率となる両側の点を与えるカフ圧を採用するようであるが、勿論測定器メーカーによってさまざまだろう。

・・・最高血圧が大きいということは、心臓からの平均圧力が大きいことを意味する。また、血管の立場から見れば、測定時のカフ圧力が小さい状態というのが、測定していない時では心臓からの圧力が大きい時に相当するから、最低血圧が小さいということは、血管がそれだけ大きな内圧(心臓からの圧力)まで拡がり続けるということを意味する。つまり、血管が柔軟性を保っていることを意味する。


・・・ところで、実際に1ヶ月も毎日3~4回血圧を測定していると、どんな活動が血圧に影響するのかが経験的に判ってきて面白い。身体を動かして汗をかいて休んだ後というのは、血圧が下がる。これは全身の血管が拡張するからだろう。逆に難しいことを考えたり、議論したりした後には血圧が上がっている。血圧というのは脳の酸素必要量に大きく左右されていることが判る。睡眠後は血圧が下がるから、睡眠というのは要するに脳のお休みなんだろうと思う。そう考えると、最近の睡眠不足と運動不足というのが高血圧の原因なのかもしれない。

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