この記事は2023/11に公開した記事の回路を再設計した修正版です。
エレキギター用のアンプシミュレータをまたもや製作しました。
前作はクリーン・リードの音色にこだわった構成でしたが、
本作は、クリーンでも歪系でも使いやすいサウンドを目指して設計したものです。
アンプシミュレータを作ってみたい方や開発中の方(そんな人いるのかな)の参考になれば嬉しいです。
周波数特性例
レイアウト図
※+9Vを赤、グランドをグレー、バイアス部をオレンジで示しています。
ボリュームポッド部分(Gain500K,Treble10K,Mid500Ω,Bass10KA)はブレッドボード試作時の状態で、トリマーや固定抵抗になっています。
上の図では2N7000によるクリッパー部分をダイオードとして記載していますが、実際の接続はこう。
GとDの足を束ねて1つの穴に。Sどうしを接続して対称に。
ブレッドボード現物画像
ブレッドボードで試作したレイアウトのまま半田付け出来るユニバーサル基盤があります。
https://akizukidenshi.com/catalog/g/gP-04303/
回路図
・キャビネット部分のみのシミュレータではなく、トーンスタックやゲインを含めたアンプシミュレータとする
・アナログ回路、9V電源で動作
・ハーフサイズのブレッドボードにレイアウト、1枚以内に収める
これらは前作と同じです。
前作は、歪段の無いクリーンアンプをイメージし、ゲインを上げた場合はパワー段が荒く飽和するような音を目指しているのですが、
本作は、滑らかに歪み、もう少し歪の粒立ちを立たせたサウンドを目指したものです。
帯域のバランスはフィルターの定数次第という点もあるのですが、回路構成としてクランチが作りやすいようになっています。
ギターの演奏を晒すのは、ウデマエ的に敷居が高いです。超高過ぎです(涙)...
しかし音が無いとイメージ湧かないと思いますので、お聞き苦しいかもしれませんが、簡単なブルースのバッキング、ジャッカジャッカを録音しました。
一旦ギターの生音を録音したものを、アンプシミュをかけて再生したものです。DTMソフトではEQは使用せず、リバーブだけ追加。
アンプシミュのTone、Trebleはちょっと上げ気味で調整。
アンプシミュに名前を付けてないので、前作をType1、本作をType2とします。
クリーンサウンド
Type1
Type2
ちなみにギター生音はこんな感じです。ノイズずいぶん入ってました..。
ゲインアップ
オーバードライブ等は使用せず、アンプシミュのゲインを上げたクランチサウンドです。
Type1
Type2
オーバードライブを追加
アンプシミュの前にBOSS SD1を追加したサウンド。SD1のDriveは下げてブースター的に使用して、歪はアンプシミュ自体で作っています。
Type1
Type2
制作中も切り替えて弾き比べたりはしているのですが、
同じ生音からアンプシミュをかけて、こうして客観的に聴き比べると、弾いている時の印象とは違って感じます。
・入力段&ゲイン
・トーンスタック
・6KHzピーク&8KHzディップフィルター
・700Hzディップフィルター
・シェルビングフィルター
・1.5KHz凸凹フィルター
・4.5KHz凸凹フィルター
・80HzHPF
・200HzHPF&2.5KHzLPF
・出力部
・電源部
周波数特性はかなり急峻かつ複雑なピークディップ特性を持たせていて、
これらをハーフサイズのブレッドボード一枚にギュギュっと詰め込んでいます。
前作Type1で使用していたjFETの入出力バッファやjFETのゲイン段、Tブリッジ回路による中音域ノッチフィルターはType2では使用していません。
本作Type2では、クランチサウンドを念頭にゲイン段をトーンスタックの前に配置しています。
ハイエンド帯域のフィルターの構成を変更して、マイク録りっぽさや粒だち感を調整しています。
ゲイン段のオペアンプはTL072。この箇所は汎用的なオペアンプであれば代替可能です。
その他のオペアンプの箇所は、かなりQが高いフィルターとなっており、4558,4580,2068,2114等では上手く動作しますが、072,082系のオペアンプは発振してしまうため使用出来ません。
700Hzディップフィルター部分のオペアンプは2114が無難。これについては後述します。
ディスクリートの入力バッファは設けず、オペアンプによるゲイン段が入力バッファを兼ねています。
mosFET 2N7000を使用したクリッパーはType1と同様、ヘッドルームはだいぶ広め、オペアンプ自体の飽和レベルより少し低い程度になっています。
オーバードライブと同様の回路ですが、高域にかけてハイ上がりで、低域の落ち具合は若干抑えてあり、ミッドをブーストしないような特性にしています。
外部のペダル、TSやSD1等でミッドレンジをブーストする、といったケースを想定したバランスになっています。
ゲイン段周波数特性実測 Gainツマミ0の場合
ゲインは3kHz付近で最大45dB程度=178倍とそれなりの増幅率ですが、中低域にかけてはゲイン量は少なく、クリップレベルも高いため、
あまり深い歪にはなりません。
82pFのコンデンサーは、ゲインのボリュームの抵抗値との関係でカットオフ周波数が変動します。
ゲインを上げるほど高域がカット(というか高域が上がらない)特性になります。
不要な高域のブーストを抑え、ノイズの軽減にもなります。
6KHzピーク&8KHzディップフィルター/ 700Hzディップフィルタ周波数特性実測
5KHz~8KHz前後の帯域は、クランチサウンドの高域の粒立ち感に影響するように思います。
この帯域をバッサリとカットすると、ラインっぽさが消えて音の輪郭が立ってくる一方で、カットし過ぎるとクランチの歪の粒立ちが無くなってしまいます。
この帯域をどれほど、どのようにカットするかは、なかなか難しい所です。
本機では、なるべく歪の粒立ち感を残した上で、ラインっぽさを軽減するような特性を目指しています。
具体的には、4.5KHz以上をそこそこ急峻にカットをした上で、
6KHz付近は、歪のザクザク感を目当てにクセを持たせて強調、8KHzはライン臭い帯域とみなしてディップ、といった複雑な特性を持たせています。
ここでは、そのうち、6KHzピークと8KHzディップの凸凹フィルターを使用して形成しています。
700Hz付近の急峻なディップですが、これはマイキング時の床の音の反射による干渉をイメージしたものです。
現実のマイキングでは、もう少し低い周波数になるかもしれません。
ギターサウンドの良し悪しとして考えた場合に、このディップの周波数をどこにするかは、なかなか決めずらいですが、
300Hz~700Hzあたりの帯域にする事で、ギターアンプ的なドンシャリ感が演出できるような気がします。
700Hzディップフィルターの回路構成は、グラフィックイコライザーのフェーダーを下げた時と同等の回路構成になります。
インダクタンスをオペアンプとコンデンサで疑似的に再現したもで、
ジャイレータとか疑似インダクタなどと呼ばれる回路です(間違っていたらすみません)。
パッシブ回路に置き換えれば、コンデンサとコイルが直列でグランドに落ちている形なのですが、入力レベルが巨大だった場合は、やはり歪が発生します。
「オペアンプについて」でも記載しましたが、700Hzの巨大な信号を入力すると、JRC4558等のオペアンプでは700Hz以下の複数の周波数の異音が発生します。
それが、JRC2114だとなぜか異音は発生しない。JRC2114の内部回路でなにか都合よくリミッターが入るのかも。
この箇所は4558等でも通常動作はするのですが、JRC2114にしておくのが無難だと思います。
フェンダーアンプ同様の回路構成のトーンスタックを低インピーダンス化したものです。
本作Type2ではパワー段の飽和を再現する回路は設けていないため、トーンをフルテンにしても、歪が増えるという事はありません。
↓全てセンタ-5-5-5とした場合の周波数特性
↓この回路をwww.guitarscience.netのTSCでシミュレート
TSCでシミュレート
シェルビング特性を持たせて帯域のバランスを整え、後段のフィルターが飽和しない程度に内部のレベルを増幅しています。
反転増幅回路のため、信号の位相は反転し、アンプシミュ自体の位相も反転した状態で出力されます。
ゲイン段ではハイ上がりの特性となっていますが、ここで低域側を増幅して全体のバランスをとっています。
周波数特性実測
ラインっぽい帯域を低減し、音に輪郭を与えるフィルターです。
Type1と比べて、4.5KHz以上の帯域のカット量を抑え、先の章の6KHzPeak,8KHzDipのフィルターと合わせて、
クランチの粒立ちが無くならないように調整しています。
しれっと自作のシミュレータの結果を記載していますが、実はこの凸凹フィルター回路の伝達関数、知りません...。
知らないのですが、ではどうやってシミュレーションしているのかというと、
グライコの伝達関数を元にごにょごにょしてでっちあげ、つまりはインチキなのでございます。
しかし、ピーク、ディップ位置は実測どおり、効きの強さはちょっと強く出る感じ程度で、おおむねシミュレーションできてしまっています。
この凸凹フィルター自体、試行錯誤で偶然発見したもので、当初は完全にあてずっぽうの総当たりで定数を試して制作していました。
それを考えると(式はインチキでも)シミュレータで追い込めるのは便利です。
サレンキー型HPFで、80Hz付近にピークを持たせ、それ以下の帯域をカットしています。
次の章の200HzのHPFの特性と重ねて低域の特性を作っています。
↓周波数特性を実測
サレンキー型のLPFとHPFをオペアンプ1段に同居させた回路です。
サレンキー型のLPFとHPFをオペアンプ1段で済ませてしまう、というのは
BASSBREAKER15のキャビシミュ回路で知った方法で早速パクっています。
低域側はここでは200Hz以下をカットし、前章の80Hzにピークを持ったHPFの特性と重なる事で、
トータルとしては200Hz近辺がなだらかにブーストされた特性になります。
Type1では、この特性をjFETのSRPP型の増幅回路の性質を利用して実現していますが、本作では2つのLPFで作っています。
↓周波数特性を実測
LPF単体のシミュレーションでは、2.5KHzのピークはもっと高くなるはずですが、
LPFとHPF同居しているこの回路構成では、Qがだいぶ下がってしまうようです。
本作では、前章のサレンキーLPF,HPFが実質的な出力バッファになります。 この後、パッシブのLPFとマスターゲインを経由して出力します。
グラフでは-20dBまでしか下がらない?ように見えますが、実際は-20dBはツマミ1の箇所で、ツマミ0の場合は-∞になります。
SD1やTS9等と同様の電源回路です。
というわけで、またもやアンプシミュのページ作ってしまいました。
アンプシミュの製作は、部品数がちょっと多い分、少し面倒ですが、
ブレッドボードで基本構成を組んでしまえば、後は定数変更だけでも無限に遊べます(←完成しないんかい!)。
歪モノと違って、完結したギターサウンドそのものを考える、
アンプビルダーとレコーディングエンジニア両方を飛び越える、それがアンプシミュの自作といえましょう!。
これって面白いと思いませんか!?
いうなれば、レオ・フェンダーとヘンリー・ハーシュですよ!。
興味がある人はぜひトライしてみて貰いたいです。
ところで、冒頭のサンプルサウンド、もはや何か差し替えたい気分です。演奏力はどうにもならないですけどね。
貼り付けた本作Type2のサウンドを聴くと、「もう少しモダンなサウンド」のつもりでしたが、完全にオールドロックな帯域感ですね。。