☆桃兎の小説コーナー☆
(07.11.13更新)

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 レスは日記でしております〜。

 


 ドラゴンマウンテン 
  第8話
 宝物は秘密の場所へ(上)
  
*18禁注意!


     1

 ドラゴンマウンテンの麓の町、チーク。
 十一月も半ばに入り、冬がすぐそこまで近づいてきていて日に日に風が冷たくなってい
く。
 もう暫くすれば白い綺麗な雪が山を覆い、町を訪れる人の数も減っていく事だろう。
「あうぅ、七時か…、お布団から出たくないよぉ…」
 寝起きのマリンは、風でカタカタ鳴る窓をちらりと見て布団にもぐりこむ。
 いつもは早起きなマリンだが、寒い朝はどうにも苦手だ。
「マリン、起きているかマリン?」
 ノックと共に、聞きなれた低い声が寝室の向こうの部屋のドアから聞こえてくる。
「…がんとぉ?」
 布団にくるまったままもそもそと起き上がり、寝室のドアを開けさらに廊下側のドアを あける。
 目の前には赤いレンジャー服を着た、大柄な銀髪の男が立っていた。
「全く、またくるまっていたのか。お前は芋虫か」
 長くおろしたままの黒髪に、寝ぼけまなこで布団にくるまって立っているマリンを見て、
銀髪の男―ガントはため息をついた。
「馬鹿な事してないで、さっさと着替えて飯食って来い。…約束したろうが」
 約束と聞いて、マリンはピンとなる。
「今日は一日稽古をつけてやる、そう言っただろう。忘れたのか?」
 ガントはマリンのくしゃくしゃの頭を撫で、困った顔をした。


 二人は『今昔亭』のレンジャーの一員で、色んな人からのドラゴンマウンテンに関する
依頼をこなすのが仕事だ。
 ドラゴンマウンテンはその名の通り、ドラゴンが沢山すんでいる特殊な山だ。
 ドラゴン以外にも、強いモンスターもいれば迷いの森まであるという冒険者や学者、唯
の登山好きにまで人気が高い山で、レンジャー達はそれらの人達を相手に生計を立ててい
るのだ。
 冒険者達への道案内から護衛、貴重品の採取まで、その仕事内容は幅広く、山に用のあ
る者は必ずと言っていいほどレンジャー達を雇う。だが、過酷な山であるが故に必要なス
キルも多く、レンジャーの数は十人と決して多くはない。
 特に秋は忙しい季節で、厳しい冬が来る前にと『今昔亭』に駆け込む者も多い。
 秋はレンジャーにとって稼ぎ時であり、休みの取れない時期でもあるのだ。


 そして今日は、その秋の時期の貴重な休みの日だった。
「うわぅ! 待ってて、すぐに着替えてくるからっ!!」
 マリンは慌てて部屋の奥へ戻っていく。
(折角二人揃ってのお休みの日なんだもん! そうだよ、無駄にできないっ!!)
 くるまっていたお布団の殻を脱ぎ、衣装箪笥からピンク色の冬用ワンピースのレンジャ
ー服とTシャツを取り出す。
 手早く着替えると、髪を一つにまとめ、魔石の髪飾りで止める。
 短いソックスを履き、ブーツを履いて、所要時間は五分ジャストだ。
「顔洗ってご飯食べてくるからっ、待ってて!」
 ドアから勢いよく飛び出し、廊下で待つガントにそう告げて階段を駆け下りていくマリ
ン。
「ロビーにいるからな」
 駆け下りるマリンにそう言って、ガントもゆっくりと階段を下りていった。



「おう、おはようさん、マリン。今日は遅いんだな」
 レンジャー最年長のモースが、食堂に入ってくるマリンに声をかける。
「おはようございます! 今日は休みだからちょっと長く寝てたの。寒かったし」
 しかめっ面で椅子を引き、モースの隣にちょこんと座る。
 他のレンジャーはもう殆ど朝食を済ませたのだろう、テーブルの上の料理は少ない。
「おや、遅かったねマリン。すぐに料理作り足してあげるからまってな」
「おはよう女将さん、ありがとう! スープ飲んで待ってる〜」
 大鍋からスープをすくいカップに入れると、良い香りがふんわりとマリンを包む。
 ほんわかした顔でスープをすするマリンをみて、モースも笑顔になる。
「マリンはよく食うからな、はっはっは!」
 モースの大きな笑い声が食堂に響く。
「モースさんはこれから仕事?」
「あぁ、日帰りの依頼だ。ちょっと森まで植物採取だ」
 レンジャー達にとって、日帰りの依頼は珍しい。
 大概依頼者は三合目〜五合目くらいに用があるので、一度出かけたら三日か五日はかか
ってしまう。依頼によっては半月かかる場合もあるという事もあって、ここ一ヶ月顔を
あわせていない、というレンジャーもいるくらいだ。
「マリンは休みだろ? 今日は何するんだ?」
 モースが遠くにあるのおかずを一杯皿にのせて、マリンに手渡す。
「今日はね、ガントが稽古つけてくれるんだ! 最近忙しくて朝の稽古すらできなかった
し ……」
 モースから貰ったハムとチーズをパンにのせ、もぐもぐ食べながら答えるマリン。
 忙しい時期は、レンジャー同士が朝こうやって会うことも難しい。
 泊まりの依頼のせいですれ違いになるのだ。
「そうか、ならしっかり稽古つけてもらえよ。そして俺が引退する頃には俺の代わりにな
ってくれ!」
 笑顔でマリンの肩をばしばし叩くモースに、マリンは目を見開く。
「えぇ!? い、引退しちゃうの!?」
「まだまだ現役のつもりだがな! さすがに体がな、四十四にもなるときつくなってきて
な」
 苦笑するモースをマリンはちらりと見る。
 がっちりとしたガタイと輝く瞳は、頼もしいレンジャーそのものだが、確かに最近は上
の方の依頼をこなす事が少なくなっている事をマリンは知っていた。
 モースはレンジャー暦二十年のベテランで、山への知識は誰よりも豊富だ。
 最盛期には一人で六合目まで行っていたという話もある。
「そっか…、大変だねモースさん」
 あっという間にパンを食べつくし、再びスープを飲むマリン。
「まぁ引退になっても、マリンがいるから心配して無いさ! マリンと同じ年のリオンも
いる。だがもう五、六年は頑張るぞ?」
 ニッと笑うモースにつられてマリンも笑う。
「まぁ、無理しないで後輩の指導を頼むよ。はいマリン、鶏と野菜の炒め物だよ」
 女将さんが台所から出てきて、マリン用に作った皿を差し出す。
「おおおおおおおおお! おいしそう! いっただきまーすっ!」
 マリンは目を輝かせながらパクパクと食べていく。
「良い食いっぷりだなぁ!」
「全くだよ。あぁマリン、食べたら少し片付け手伝ってくれるかい? マリンが最後だか
らね」
「了解〜!」
 マリンは元気よく返事して、再び食べる事に夢中になる。
 女将の料理はおいしいのだ。
「ご馳走様、女将。もう少ししたら山に行く」
「気をつけてね」
 モースは元気なマリンを見て頷き、食堂を後にした。


「おう、ガント」
「あ、モースさん」
 モースがロビーに向かうと、そこには眉間にしわを寄せノートを広げるガントがいた。
「珍しいな、勉強か?」
「そんな所です」
 難しい顔で口を一文字に結んで頷くガントに、モースは噴出す。
「ぶはっ、にあわねぇなぁ。お前は魔物相手に暴れてる方が様になってるからな」
「…自分でもそうは思いますが」
 うな垂れるガントを覗き込み、横に座るモース。
 ノートを覗き込みながら、モースは小さな声でガントに話しかけた。

「で、マリンはどうなんだ?」
「!? ど、どうって……」
 突然の質問に少し照れた様に驚くガント。
「俺が見る限り、レンジャーとして確実に強くなっていると思うんだが。どうかな」
「そ、それは確かに。知識も力も、来たときよりは大分…」
「お前も大分良くなったよ。色んな意味でな」
「モースさん…」
「お前が来たばっかりの時は、唯強いだけの馬鹿だった。今じゃしっかり後輩も育ててい
るし、山に対する知識も中々のもんだ。女将もお前を信頼しているしな」
 ガントは小さく頷く。
「精神的にも大分強くなったようだしな。その点、マリンはまだまだ女の子だ。甘い部分
もある。だがな、俺はマリンにはがちがちのレンジャーにはなって欲しくなかったりもす
るんだ。わかるか?」
 モースは少し困った顔で頭をかいた。
「なんだかなぁ、どうしてもマリンを見ていると死んだ娘を思い出してな。いかんな」
「娘……ですか」
 
 モースは戦争に巻き込まれてグランディオーソに流れて来た戦士だった。
 家族はみな、戦争で失ったのだという。
 自分に残ったのは力だけ。だがもう何処の誰にも仕える気は無かった。
 そして最後にたどり着いたのがドラゴンマウンテンだった。
 自分の好きな遺跡に関われる仕事という事もあり、レンジャーになったのが二十四の
時。
 そしてその日から、ずっと一人のまま、『今昔亭』の皆を家族にして生きてきたのだっ
た。

 モースは少し昔を思い出したような顔をしていたが、すぐにいつものやさしい顔に戻り
話を続けた。
「依頼人の中には悪いやつだっている。マリンはそれを疑ったりしない。それはマリンの
悪い所でもあるが、良いところでもある。そんなマリンを最後に守ってやれるのは、ガン
ト、お前だけだ。そのために、マリンを自分の女にしたんだろう?」
 ニヤリと笑うモースに、顔を赤くして固まるガント。
「さっきも言ったがな、俺はマリンを娘の様に思って接してきた。大事な大事な娘だ。わ
かるか? 分かったらしっかり守ってやれよ」
 拳を出すモースにガントは真剣な表情で拳をあわせる。
「ガントー、待たせてごめーん! 稽古つけてー!」
 廊下から聞こえてくる元気な声に、二人は顔を上げる。
「モースさん、行って来ます」
 真剣な表情のガントを見て深く頷き、裏口に消えていく二人を見送るモース。
「マリンが娘なら、お前は息子だ」
 小さく呟き、笑うモース。
「さて、一仕事しにいこうかな」
 むんと立ち上がり、モースは階段を上っていくのだった。

     2

「ほらっ、左が甘いッ! 何度も言わせるな!!」
 『今昔亭』の裏庭から響く低い怒声。
 繰り出されるガントの拳を、ぎりぎりでかわすマリンの姿がそこにはあった。
 軽快なステップのガントにマリンも必死に攻撃するが、なかなか当たらない。
 あんなに大きな体のガントにまだ数発しか当てておらず、マリンは必死だ。
 稽古を始めて三時間、マリンはずっと動き続けていた。
「よし、休め」
 マリンの拳をぱしっと受け止め、ガントは動きを止める。
 息が上がっているマリンは、小さく礼をして、その場に倒れこむ。
「あーーーー、つかれたーーーー」
「何を言ってるんだ。お前は無駄な動きが多いんだ」
 稽古をつけるときのガントは鬼のように厳しい。
 容赦なく攻め、容赦なくかわし、容赦なく動き続ける。
 それでもまだ手加減されている事が分かっているから、マリンは少し悔しかった。
「うー、鬼。ガントの鬼」
 倒れたまんまのマリンにタオルを放り投げ、ガントは冷たく言い放つ。
「俺なんぞまだ優しいほうだ。モンスターは待ってはくれんぞ? ほら、汗を拭け」
 タオルに顔を埋めながら、マリンは深呼吸する。
「…、悔しいなぁもう」
 その場で足をばたばたさせて、枯れた芝生の上を転がるマリン。
「水飲んでちゃんと補給しろよ? でないと…、!?」
 ガントは急に振り返り、一点を見つめる。その目はモンスターを察知した目だった。
「が、ガント!?」
 慌ててマリンも起き上がり、その方向を見つめる。
 その方向から勢い良く凄い速さで飛んでくる小さな光。
 それは真っ直ぐマリンを狙って飛んできていた。
「きゃっ!!?」
 マリンにぶつかる寸前で、バシッっとガントがそれを片手で受け止める。

「きゅきゅきゅ……」

 ガントの手の中で、光が小さく啼いた。
「…、コイツは」
 ガントの表情から緊張感が抜ける。

 ガントの掌で目を回していたのは、見覚えのあるフェアリードラゴン。
 気絶しているドラゴンの小さな足には、魔法の指輪がきらりと輝いている。
 ドラゴンフェスティバルの時に仲良しになった、あのドラゴンだった。

「ナイトじゃない! 大丈夫!?」
 マリンの声に気がついたのか、小さなドラゴンはガラスのような羽根を広げマリンの肩
に飛び乗ると泣きそうな目でちらりとガントを睨んだ。
「きゅ〜……」
「悪かった、そう睨むな。あんな速度で飛んでくるからだろうが」
「きゅきゅきゅー、きゅーきゅきゅー!」
 ガントに何か文句を言った後、再び空中を舞い、マリンに何か伝えようと話すナイト。
「あんなに急いで、一体どうしたの? うぅ、さすがに竜の言葉なんてわかんないよー」
 上位のドラゴンなら人の言葉を話すことができるのだが、フェアリードラゴンのような
小さなドラゴンは通常話したりは出来ない。
 なにやら嬉しそうな事だけは分かるが、なんだか全然分からなくて二人は首を傾げる。

『マリン・ローラントだな?』

「!!!?」
 突然聞こえてきた低い威厳のある声に、二人は驚き身構える。
「な、ナイト? しゃべった…?」
 ナイトは首を振り、自分じゃないとアピールしている。
 だがその表情はとても嬉しそうなままだった。

『私はカヒュラだ。そのドラゴンを通して喋っているのだよ』

「カヒュラ!!??」
 マリンは驚いて大きな声で叫んでしまう。 
 ドラゴンフェスティバルの主催者であり、この山の四天王と言われるあのカヒュラが、
自分に向かって話しているというのだ。

『久しぶりだな。そこにいるのはガントレット・アゲンスタだな?』
「そうだ」
『驚かせてしまったようだな! まぁ良い。今日は知らせに来たのだよ』
「…? 知らせ?」
 マリンが首を傾げると、ナイトが嬉しそうに薄いガラスのような翼を広げる。
『忘れたのか? お前の望んだ研究所が完成したのだよ。』
「うわああああああああああ! ホント!?」
『あぁ、本当だとも。良い研究所を作らせたつもりだ』
 自信たっぷりにカヒュラは話す。
『それでだな。移動する為の手段を授けねばと思ってな』  

 マリンが頼んだ研究所の場所は、ドラゴンマウンテンの五合目の洞窟の奥深くで、しか
も今は崩れてしまって普通には行くことが出来ない場所だった。
 今のマリンの力では一人で五合目、更には洞窟を越える事は不可能に近い。

『少し、体に跡が残るが、かまわぬか?』
「え…?」
『魔力の無いお前では、移動の魔法でというのも無理だろう。そこでだな』
 マリンの左手が、突然光に包まれる。
 焼けるような感覚が手の甲にじりじりと走り、マリンはのけぞる。
 針で刺すような痛みに悶えるマリンを、後ろからガントが抱きとめる。
「…いっ! カヒュ…ラっ!?」
『研究用に魔力も必要だろうと思ってな、月の魔力を利用して一定の魔力を溜めておける
ような装置を幾つか研究所に作らせておいた。それを遠隔で使って移動するのだよ』
 光がパァンと散って、手には熱い感覚だけが残る。
「はぁっ…、手に、ドラゴンの形…?」
 マリンが手を見ると、左の手の甲にはドラゴンの形の刻印が赤く刻まれていた。
『呪文を唱え魔方陣を描けば、移動できるだろう。一日一往復分だけだがな』
「本当!? …す、すごいよカヒュラ…。って、ドラゴンに…刻印授けられちゃった」
 そうそうない事態に、マリンは驚き左手を眺める。
『何をしたいのかは大体予想がついたからな、それ用に作らせておいた。行って思う存分
楽しむが良い』
 明るく笑うカヒュラの声を聞いて、マリンは改めて嬉しさで一杯になった。
「どうしよ! ガント! …楽しめって! うわぁあ!」
 喜ぶマリンを見て、ガントの表情も緩む。
「あ、でもねカヒュラ、今、稽古中なの、すぐには行けないよ…」
「行ってくれば良いだろう? また帰ってきたら少しやれば良い。待っていてやるから」
 しょんぼりするマリンの頭にぽんと手を載せ、ガントはさらりと答える。
「ほ、ホント!?」
 マリンは再びぱぁっと明るくなり、興奮を抑えきれないのかぴょんぴょんと飛び跳ねる。
『何を言うガントレット、二人で行けば良いだろう? マリンに掴まって一緒に魔方陣を
くぐれば、問題なく移動できるはずだ』
「うそっ!? そんな事できるの!? やったぁ! 一緒に行こうよ! ガント!!」
 マリンはガントの腕に飛びつき、嬉しそうにガントを見上げる。
『そうだ、行って来い、誰の邪魔も入らんしな』
「なっ!?」
 いたずらっぽく話すカヒュラに、ガントは少し赤くなる。
『詳しい仕様は、研究所に置いておいた本を読んで理解してくれ。ではな。優秀な魔法使
いよ。さらばだ』
「あ、ありがとうございました、カヒュラ!」
 マリンはナイトに向かってぺこりと頭を下げる。
 声は余韻を残しながら、すっと消えていった。
「ナイトもありがとね、伝言ご苦労様」
 嬉しそうなナイトに、マリンは頬を寄せる。
「そうと決まったら、行く準備しなきゃ! 持って行きたいものあるんだ! ガントも来
て! 荷物持って欲しいの!」
 ガントの手を引き、マリンは『今昔亭』に入っていく。
 ナイトもひらりとマリンを追って『今昔亭』に入っていった。

     3

「えっと、これと、これと……」
 初めて入るマリンの部屋に少し戸惑いながら、ガントは袋に詰められていくアイテムや
本を、じっと見ていた。
「こんなに本を持っていたのか」
 マリンの部屋の壁には大きな本棚があって、そこには難しい文字の本がずらりと並んで
いた。その何冊かを選りすぐって、マリンは次々に袋に詰めていく。
 その中の一冊に見覚えのある本があった。
「これは……レイシーから貰った本か」
 古ぼけた革の表紙の魔術書を手に取り、ガントはぱらぱらとめくる。
 もちろん中身はさっぱりだ。
 だが、マリンは相当読んでいたのか、あちこちに赤い線が引いてあったり、しおりが挟
んである。
「そうそう、それがキモなのよ。んふふー。入れといて〜」
 ついには大きな袋二つが本で埋まり、もう一袋はアイテムで一杯になった。
「よーし、運ぶぞー! って、…ごめんね、重いの持たせて…」
 申し訳なさそうにするマリンにガント首を振る。
「こんなもの、山に行く事を考えたらましな方だ。さ、下に降りるぞ」
 ドアを開け、袋を二つ両手に持って、すたすたと進むガント。
(…いや、アレ相当重いんだけど)
 ガントの腕の筋肉がぐっと盛り上がっているのを見て、マリンはガントの力の強さに脱
帽する。
「ほら、お前も早く来い、アイテム重いのか?」
「あぁ、いくいく!!」
 マリンは部屋に鍵をかけて、慌てて後を追う。

「あ、女将さん、ちょっとガントと出かけてくるー。夕方には帰るからー!」
 カウンターにいる女将に一声かけて、マリンは裏口から出て行く。
「そうなのかい? 気をつけてねー。…て、あんな荷物もってどこ行く気だい?」
 女将は首を傾げ、不思議そうにマリン達を見送った。


「さて、誰も見てないよね??」
 マリンは周りを警戒してよしと頷く。
「何を警戒してるんだ?」
「だって、折角の秘密の研究所だよ? 誰にも知られたく無いじゃない? って、女将さ
ん達には作ってもらうって前に話しちゃったけど…。場所とか移動手段とか秘密にした
いの!」
 嬉しそうに、いたずらっぽく笑うマリン。
「…、俺は良いのか?」
「ガントは良いに決まってるじゃない! 二人で手に入れたも同然なんだから! さ、肩
に掴、まって? あ、荷物も持ってね?」
 そう言うとマリンは空中に魔方陣を描く。
「よしよし、こうかな?!」
 何か小声で呪文を唱えると、左手の刻印が反応し魔方陣はマリン達を包み込み一瞬光を
放つ。
 引っ張られるような不思議な感覚に、ガントは眉根を寄せる。
 そして、その魔方陣に吸い込まれるようにギュンと二人と一匹は消えていった。


「…って、うわあああああああああ!!?」


 光を通ってそっと目を開けたマリンが見たのは、予想を超える大きな物だった。
 以前ポイズンドラゴンが居たその位置にどんと立つのは、漆喰で塗られた白い二階建て
の建物だ。
 広くはない円形の土地の半分が建物で埋まっていて、なんだか不思議な感じだ。
「ちょっと待て、カヒュラ、えらい気合入れて作ったな」
「うん…、ちょっとビックリした」
「きゅう」
 マリンが建物に近づくと、左手の刻印が反応して、中央の扉がキィと開く。
 中に入ると、土地に沿って建てられたせいか半円の部屋が目の前に広がった。
 半円の右半分は吹き抜けの空間で様々な装置が設置してあり、天井はガラスかなにかで
覆われていて日の光が入る様になっていた。
「ちょ、ちょっと、すご、すごいってカヒュラ…」
 左半分は水場と小さな台所のようなものがあって、奥には二階への階段が見える。
 マリンは二階が気になって螺旋の階段をゆっくりのぼる。
「…二階まであるとはな」
 荷物を運び込んだガントがマリンについて階段を上がる。
「うわぁ、これって徹夜できる仕様!?」
 マリンの後ろから2階をひょいと覗くと、そこには広くて大きなベットが設置してあっ た。
「うはーん! 至れり尽くせりだー!! カヒュラありがとー!!」
 大きなベットに飛び乗り、ごろごろと転がり全力で喜ぶマリン。
 だがそれを見てたんたんと階段を下りるガント。
「きゅ?」
 どうしたの? とガントを覗き込むナイトに、困った顔でガントは俯く。
「…、カヒュラめ、確かに誰も邪魔はされないがな、マリンだけの研究所にわざわざあん
な…。嫌がらせかっ!」
 顔を赤くするガントに、ナイトは目を細めて肩をぽんと叩く。
「きゅきゅ」
「なんだ、お前もそう思うか?」
「きゅ。きゅきゅきゅ」
「全くだ。おせっかいもいいとこだ」
「きゅきゅきゅー」
「何故俺が来る事前提なんだ。全く……!」
 拳を握り、しゃがみ込むガントに後ろからマリンがひょいと覗き込む。
「何ナイトと話してるの? ガントー」
「なっ!?」
「うわぁ、びっくりした、そんな驚かないでよ」
「いや、そのだな」
 照れて目線をそらすガントにマリンがひょいと覗き込む。
「なぁに、ガント?」
「いや、これから俺をココに連れてくるのはやめろ」
 ガントは真剣な顔で、マリンの肩を掴む。
「…どうして? 手伝って欲しかったんだけどな…」 
 悲しそうにするマリンに、ガントは困惑する。
「や、手伝ってやるのはかまわんのだがな、その…」
「その?」
 首を傾げ更に近づくマリンに、一呼吸置いて目をそらしながら小さく告げる。

「…、こんな陸の孤島に二人きりだぞ?」
「……!?」

 ようやく気付いたのか、マリンは顔を真っ赤にして顔をそらす。
「あああぅ、ええと、その…っ!!」
「あぁあ、流石に俺も限界がだな」
「うえええぇ!? やっマジなのっ!!?」
 そうこう言う間に塞がれるマリンの唇。
「んっ…!」
「止めるなら全力で止めてくれ、魔法でもなんでも使え、俺はマリンが欲しい」
 ガントはマリンに赤い魔石を握らせる。
 だがその間もキスは止むことなく続けられる。
 ガントはもう止まらなくなっていた。


「んぁっ!!?」
 螺旋階段に押し倒され、マリンは逃げ場をなくす。
「ガントっ…!? ひゃんっ!!?」
 ガントはマリンの耳を軽く噛み、その唇を首筋に這わす。
 初めての感覚に、マリンの心臓が激しく鼓動する。
 ガントの体が熱くて、マリンの目の前が霞む。
『魔法でもなんでも使え』
(そ、そう言われてもっ…!!)
 魔石を握り締め、目をぎゅっとつむるマリン。
 魔法を使おうと思えば出来なくは無い。
 小さな火球を放つだけでも、この至近距離ならガントに火傷を負わすことだってできる。
 呪文を唱えるには、たった数秒あればいいのだから。
 だが、マリンは唱えるつもりは無かった。
 こんなにも求められている事に、驚き、少し怖いながらも嬉しく感じていた。
 そして確実に、自分も体が熱くなっているのを感じていた。
「…、いいのか?」
 荒い息のまま、少しだけ離れるガント。
「…、う、うん、えとでもね、…初めてだから…無茶しないで…?」
 マリンの手から転げ落ちる赤い魔石。
 それを見てガントは立ち上がった。
「きゃっ!!?」
 急に宙に浮かんでマリンは驚く。
「こんな所でするわけにはいかんだろ?」
 ガントは片手でマリンを抱き上げ、階段を上がっていった。

「…きゅ」
 取り残された小さなドラゴンは、顔を真っ赤にしながら耳をふさいで窓際に移動した。



 カーテンの閉められた薄暗い部屋。
 大きなベッドにそっと降ろされ、横たわるマリンにガントが覆いかぶさる。
「ココまで来たら泣いても止めてやらんからな」
 真っ赤になるマリンに一言告げて、少しずつマリンの服を脱がせてゆく。
 ピンク色のレンジャー服を脱がされ、胸の辺りで切られたTシャツに手をかける。
「…んっ!!」
 稽古の時にいつも触れる手とは明らかに違うその手が、マリンの胸に触れる。
 胸を覆う下着もあっという間にはずされ、マリンの小さな胸がガントの目の前に露にな
る。
「や、やっぱ、あのはずかしいよぉ…っ!!」
「見られるのが嫌か?」
 ガントは胸に顔を寄せ、唇を這わす。
「ひゃっ…!? や、あの、おっきくないしっ…!!」
「大きさなんか別に気にしない。あんなもん、大きけりゃ良いって訳じゃない」
 ふにふにとマリンの胸を指で遊ぶように動かしながら、ガントは答える。
「で、でも…ふああああっ!?」
 突然胸の先を弄られ、マリンは目を思いっきりつぶる。
「演技はするなよ?」
「何、それ…?」
「…いや、なんでもない忘れろ。そのままでいい」
 胸に繰り返しキスをし、ガントは下に手を伸ばした。
「…!」
 誰にも触れられた事の無い場所に迫る大きな手に、軽く震えるマリン。
 するすると脱がされていく白い下着の下から、薄く毛に覆われた恥丘が覗く。
「が、がんとぉ、私だけ裸は…やだ」
 顔を手で覆って小さく呟くマリンに、ガントは「それもそうか」と自ら脱ぎ始める。
 上半身裸の状態のガントなら、風呂あがりの時などに何度も見ているので見慣れている
筈だったが、至近距離で見ると全然違うように見えた。
 大きくて分厚い体に圧倒され、マリンは何処を見て良いか分からず目をそらす。
 ズボンに手をかけたとき、ガントの動きがぴたりと止まる。
「…、これ見るの、初めてか?」
「そ、そりゃそうだよ!?」
「見ないほうがいいかもな、お世辞にも綺麗と言える形状のモンじゃねぇからな」
「そ、そうな…の?」
 ガントはマリンの細い手を掴み、そっと股間に当てさせる。
「……!? な、なううあうう!!?」
 びくびくと動く熱いものに驚き、マリンは思わず手を引っ込める。
 だがその逃げる手をもう一度掴み、次はしっかりと握らせる。
「コレが俺のだ。わかるか?」
「う、うん、こ、こんな動くんだ……」
 恐いながらも好奇心で、それがどんなものなのか見たくなってマリンはじっと手元を見
つめる。
 マリンの手をのけて、ガントは着ているものすべてを脱ぎ捨てる。
「…!!」
 ガントの股間にそそり立つものを見て、マリンは思わず固まる。
「こ、こんなおっきい…くなるの…!?」
 この前メディに吹き込まれた情報と違いすぎて驚くマリン。
 大きさだけじゃない。形も想像とは違う。もっと棒みたいにストンとした形だと思って
いたのだ。情報と合っていたのは、反り返っている事くらいだろうか。
 血管を浮き上がらせてびくびくと動くガントのモノは、マリンの目にグロテスクに映っ
た。
「そうでもねぇよ。まぁ、目の前にお前が居るから…少し違うか」
 そう言うと、マリンの割れ目に沿って指を這わせる。
「やっ、えと、あううう!!」
「さすがに初めてじゃ濡れないか。マリン、足曲げろ」
「やだ! 全部見えちゃうじゃない!!」
「俺は見せたぞ」
「…うぅうう、こ、こう……??」
 恥ずかしさで顔を真っ赤にしたマリンが、遠慮がちに足を曲げる。
「きゃぁあ!!?」
 両足首を右手で掴み上に上げると、ガントは顔を埋めた。
「ちょ、やだ、きたないって!!」
 マリンの声など無視するかのように、割れ目の淵に沿って舌を這わすガント。
 入り口を濡らすように這う舌が、マリンの体をひくつかせる。
「ひううう! 舐めないでぇ!?」
「濡らさないと、痛いだけだ」
 そういうとガントはそっと指を膣に差し込んだ。
「あっ、あっ、や…っ!!」
 熱を持ったマリンの中は、怯えるようにひくついていた。
 ガントの指が中を探るたびに、くちゅ、くちゅといやらしい音がする。
「力をぬけ、もう一本入れる」
「む、無理…っ、ひああぁ!?」
 押し広げるようにマリンの入り口を弄るガント。
 マリンは恥ずかしさと下腹部の違和感で呼吸がどんどん荒くなる。
 徐々に慣れてきたのか、感じているのか、すこしずつ潤っていく自分にも驚く。
 くちゅくちゅという音と荒い吐息だけが部屋に響く。
「ん、そろそろ入れるぞ」
「う…うん」
 マリンの心臓は破裂しそうに脈打っていた。
 胸が苦しくて、上手く息が出来ない。
 指の代わりにあてがわれたガントのモノが、するりと滑り込む。
「あああああああああっ!?」
 指なんかとは全然違う感覚に、マリンは身を縮める。
「大丈夫だっ、…んっ、力を抜いてくれ」
 マリンの頭を撫で、おでこにキスをする。
「がんとぉ、裂けちゃうよぉ……」
 涙目で頭を振るマリンだったが、ガントは抜いてはくれなかった。
 足首から手を離されると、足が自然に開いてベッドに降りた。
 足を全開で開く事がこんなにも恥ずかしいとは、マリンは思ってもいなかった。
「まだ、先しか入ってない、大丈夫だ、まぁ、多少痛いだろうが…何て言うか、耐えろ」
 狭く締め付けられる感覚に耐えているのはガントもだった。
 片手で自分を支えながら、もう片方の手でマリンの胸を弄る。
 硬くなった乳首を弄るたびに、マリンは小さく喘ぐ。
「深くいくぞ、こら、力抜けってば」
 しがみつくマリンを撫でながら、キスをする。
 舌を絡ませる深いキスに、マリンも恐る恐る答える。
「やだ、ガント…変な味…」
「お前のだよ。いくぞ」

「んあぁああああああああああっ!!」

 悲鳴にも似たような声で、叫ぶマリン。
 一気に奥までねじ込まれたモノとマリンの間から、赤い雫が流れる。
「ひう、がんとぉ、がんとぉ…」
「…大丈夫か? …できれば動きたいんだが」
 しがみつくマリンを撫で、息を荒くしながらマリンに問う。
「す、好きに…してぇ…、んう。ちゃんと…全部…入った?」
「いや、流石に全部はっ、いかないか。無理するな、今は……」
 ずるぅと肉棒を引き抜くと、愛液に混じって赤い血が絡み付いている。
「血、でてぅ…。んあっ!!」
 ゆっくりと腰を動かし、マリンの中をじりじりと進む。
「ひゃうっ、あうっ、おっきいっ、んあぅ!」
 少しずつ早くなっていく腰の動きに、マリンは何も出来ずただガントにしがみつく。
(んう? …汗?)
 気がついたら普段汗などめったに流さないガントが汗だくになり、マリンの体を濡らし
ていた。
「あぅ、がんとびしょびしょだよぉ、やっと、汗、かかせられたぁ」
 ほにゃっと笑うマリンに、ガントが眉間に皺を寄せながら笑う。
「そりゃ、こんなにされたら、なっ…!」
 ぐちゅ、くちゅと音を立てながらぎちぎちに膨らんだ肉棒でマリンの中を探る。
 ひくひくしながらガントを締め付けるマリンの膣は、暖かくて気持ちが良い。
 何度もイきそうになるのを耐えながら、その感触を楽しむように、大きく、浅く繰り返
す。
「あんんっ!!?」
 急にマリンが身を反らせる。
「ん、ココか?」
「ひああぁっ、やらっ、なにっ?!」
 感じ始めたのか、マリンがびくびくと震える。
「分かったから、そんなに締める…な、ふっ!」
 きゅうきゅうと締め付けられ、ガントの肉棒がぐっと膨らむ。
「マリン、離せっ、中に出ちまう…」
「んぅっ、離…す…?」
 マリンが手を離した隙に、ガントはぐっと一気にモノを引き抜く。
「ひあああああああああっ!?」
 一気に引き抜かれる感覚に、マリンはのけぞる。
「……っ!!」
 びゅくっ、びゅくっとマリンのお腹の上で脈打ち白濁を放つ肉棒を、マリンはじっと見
つめていた。
「…はぁっ、でてるよぉ、がんとの…」
「すまんな、イかせ、られなくて」
 お腹の上に溜まった白い水溜りを見ながら、マリンは首を振る。
「いったことないもん、別に…ふあああああああっ!?」
 抜かれたモノの代わりに、指が差し込まれる。
「ひうっ!!?」
「ココだ。さっきお前が感じてた所だ。ココを弄れば、ほら」
「あう、あう、変な…かんじぃ…、ひぅ」
「痛く無いなら、イかせてやっても良いんだが、どうする?」
「ちょっと痛いけど…でも、どうなっちゃう…のぉ…?!」
 マリンの上に出した精液をふき取り、ガントはマリンを抱きかかえる。
「ひゃぁああああああっ!!」
 マリンの快楽に揺さぶられる顔を見て、ガントの口の端がニィと上がる。
 自然と弄る指の動きが激しくなり、マリンの中で大きく動く。
「良い顔しやがって、好きに啼けばいい」
 じゅぷぅと大きく音を立て、差し込んだ二本の指を激しく動かす。
「はうっ、は、や、やだ、やだやだやだ、なんかくるうううぅう!!」
「俺がいる、大丈夫だ、怯えるこたぁねぇよ。イけ」

「あっあっあっ、いああああああああああああああああああっううううう!!」

 全身をピンと伸ばし、びくびくとマリンは震える。
 目を閉じ、口は半分開いたまま「あう、あうっ」と小さく声を漏らす。
「イけた…な」
 ひくつく膣から指を引き抜き、血と愛液でぐしょぐしょになったその指を布で拭う。
 ガントのモノは再び起き上がろうとしていたが、ガントはぐっとそれを押さえる。
「……気を失ったか」
 ぐったりとしたマリンを撫で、ガントは唇を重ねた。  

     4

「……!!?」
 マリンが気がつくと、大きなベッドの上だった。
「っ!?」
 下腹部にまだなにか刺さったままのような違和感に身悶えながら、ゆっくり体を起こす。
 ガントがしてくれたのか、服は元通りに着せられていた。
「が、ガン…ト……!?」
 ベッドから立ち上がろうとしてマリンは派手に床に落ちる。
「大丈夫か?!」
 大きな音を聞きつけて慌てて下から上がってきたガントに抱き起こされ、マリンはいて
てと笑って恥ずかしそうに俯く。
「な、なんか違和感で上手く歩けない」
「あぁ、やっぱりきつかったか、すまない」
「いや、あの、それは…良いけど…、えと、1階まで降ろしてくれる?」
「了解、お姫様」
 ひょいとマリンを抱き上げ、ガントは螺旋の階段を下っていった。

「きゅ、きゅ?」
 心配そうに飛んできたナイトに、マリンは真っ赤になる。
「あぁあ! ナイト、ごめんね、わ、忘れてた……」
 ナイトは大きく首を振り、少し顔色の良くないマリンに擦り寄る。
「大丈夫だよぉ、心配しないで」
「きゅー」
 ぱたぱたと空を飛び、入り口付近の机の上に着地する。
「あ、ガントあれ!」
 ナイトの足元に分厚い竜の紋章の入った本が置いてある。
 おそらく、あれがカヒュラの言っていた仕様書だろう。
 マリンを抱いたまま机に向かい、椅子に腰掛ける。
 ガントの膝に座ったままぱらぱらとページをめくる。
 仕様書には、ココに関するの詳しい事がぎっちりと書いてあった。

 壁際にある水晶球大小2つが、月からの魔力を溜めるためのものである事。
 入り口はマリンにしか開閉出来ない事。
 ただし、合言葉を設定すれば、他の人も出入り出来る様になる事。
 天井が透けているのは、月の魔力を取り込むためのものだという事。
 昼間の日差しが強い時は、天井の透明度が自然と下がる事。

 などなど、詳しい事が沢山書いてある。
 ただ最後に、『ベッドは二人で自由に使え』と一言添えてあった。
「か、カヒュラ!!?」
「…やっぱりわざとか、あのドラゴンめ」
 ガントは乾いた笑いを浮かべる。
「…、あ、ガント、今何時!? 夕方には帰るっていったんだけど…!」
「心配するな。まだ二時だ。お前が寝てたのはホンの一時間ほどだ。」
「そっかー。よかったー。…って、はぅぅ」
 思い出してまた真っ赤になるマリンに、ガントも目を反らす。
「か、帰ってからそんな顔するなよ?」
「わかってるよぉ、ば、ばれちゃうもんね」
「まぁそれもあるが…」
「?」
「そんな顔されると、耐えられなくなる」
「んあっ!?」
 マリンのお尻を軽く押す硬いものに、マリンは真っ赤になる。  
「え、えっ!?」
「降りてくれたら、自然とおさまる」
「わ、わかったっ!!」
 マリンは慌てて隣の椅子に移動した。

「所で、そろそろ聞いても良いか」
「ん? なぁに?」
 真っ赤になって照れるマリンに、ガントは問いかける。
「何の目的でコレを作ってもらったんだ? 何を研究する気だ?」
「ガント、耳かして?」
「ん?」
「ごにょごにょごにょ」
 内緒話をする二人を見て、ナイトは首を傾げる。

「…出来るのかそんな事」

 ガントは驚いて目を見開く。
「うん、出来る。こんな立派な施設があれば、問題ないよ」
「何の為に…作るんだ?」
「…が…大好きだったからかな」
「そうか。まぁ、俺も出来る事を手伝おう」
「うん、頼りにしてるね」
 拳を突き合わせ、頷きあう二人。
「…でも今日の稽古、出来ないかも」
 思い出したかのように涙目でふるえるマリンに、ガントは苦笑する。
「出来なくてもかまわないさ。俺の…せいだからな」
「きゅー」
「てめ、俺をつつくなっ!」
 ナイトにつつかれ、つつき返すガントを見てマリンはぷぷっと笑う。
「ガント、持って来た本を書棚にしまうの、手伝ってくれる?」
「あぁ、お前は座ってろ。そこから指示してくれ。俺がする」
「じゃぁ、この青い背表紙のを…」

 二人は持ってきた荷物を片付け始める。
 アイテムの設置など、細かい事はマリンが担当した。
 ナイトも頑張って手伝ったおかげか、三時ごろには荷物が片付いた。

「ふー、コレで何時でも始められそう!」
「なんか分からんが、難しそうだな」
 複雑な装置を見て、ガントは眉間に皺を寄せる。
「うん、相当厄介だね。燃えてきた」
 マリンは何時に無く真剣な眼差しで装置を見つめる。
「きゅーきゅー」
 ナイトが壁にかけてある時計を指し、マリンを引っ張る。
「あ、そろそろ帰る時間か! ガント、出るよ?」
「あぁ、分かった。その前にだ」
 ガントは二階に上がり、何かを抱えて降りてくる。
「コレ、洗って干しておかないと…なぁ?」
「…!!」
「俺が洗っておくから、外で物干し竿でも作っててくれ」
「わ、わかった!」
 真っ赤になりながらマリンは外へ出ると、建物の中にあった棒を使って適当に竿を作る。
「ナイト、ココは結界の中だから、雨の心配も無くて良いねぇ」
「きゅー」

 上を見上げると空が見えるが、丁度研究所の屋根のあたりで強力な結界がはってあるの
だ。雨も通さない、ゾーインを苦しめ続けた強力な結界が、今度はマリン達を守る結界と
なって頭上で煌く。

「ゾーイン……」
 あれからずっとお守りのように胸のポケットにしまってある宝物。
 その大きな竜の牙を握り締め、誇り高きポイズンドラゴンに思いを馳せる。
「おーい、干すぞ?」
 研究所の中から大きなシーツを持ってきて、パンッと豪快に干すガント。
「あうう、一気に現実に…」
 涙目で笑うマリンの肩を、ナイトがぽんと叩いた。


「ただいまー」
 裏口からそっと『今昔亭』に帰ってきた二人を迎えたのは、真っ青になった女将さんだ
った。
「待ってたよ! 大変なんだよ!!」
「どうかしたんですか!? 女将さん!!」
 ただならぬ様子にマリンは女将さんに駆け寄る。
「三時ごろに森でね、レンジャー用の緊急の信号弾が放たれたらしいんだよ!」
「何色ですか、女将」
 ガントも鋭い目つきになり女将に尋ねる。
「…緑…らしいんだけどね。他のレンジャーには見えそうに無い低い位置で光ったらしく
てね」
「緑…モースさんか!!」
「嘘…!!」
「マリン、お前はここに居ろ、俺が行ってくる」
「ダメ! 私も行く!!」
「ガント、二人で行ってきてくれないかい? モースほどのレンジャーが緊急の信号を使
ったんだよ? 一人じゃ対応できないかもしれないんだよ?!」
「マリン…!!」
 ガントはマリンの体が心配でならなかった。
 だがマリンは深く頷き、大丈夫だと拳を握ってみせる。
「…、五分だ。五分で用意しろ」
「了解」
 拳を突き合わせ、二人は階段を駆け上がる。
「…あぁ、一体何があったんだい」
 女将はソファーに崩れるように座りこんだ。

 レンジャーが出かけるときに必ず一人一つ持つ、緊急用の色付き信号弾。
 危険が迫って助けが要るときに、空に放つ約束になっている大事なアイテムだ。
 モースが向かったのは、迷いの森。
 迷いの森で人を探すのは、レンジャーにとっても難しい事だ。
 アレイスがいれば八〇%の確率で見つかるかもしれないが、今アレイスはクロフォードと
一緒に四合目に居るはずだ。
 どんなに急いでも一日はかかる。待ってはいられなかった。

「女将さん! 食料、何か下さい!」
 降りてきたマリンが女将に叫ぶ。
「あぁそうだね、ちょっと待ってて!!」
 女将は台所に駆けていき、手近にある食料をまとめる。

「マリン、本当に大丈夫か?」
 少し遅れてきたガントがマリンに問いかける。
「…足技は使えなさそうだけど、心配しないで」
 マリンは魔石を握り締め、ガントに見せる。
「…頼むぞ。今日は月がほとんど無い新月の状態だ。変身は…出来ないだろうからな」
「うん。でも変身なんかしなくても、ガントは強いから。信じてる」
 ガントはマリンを抱き寄せ唇を重ねる。
 熱い信頼のキスだった。
 ほんの数秒唇を重ね、すっと離れる二人。
「モースさんを、助けに行こう」
 ガントの低い声に、マリンは深く頷く。
「はい、食料だよ! 夜の森は危険だから…気をつけてね! 死ぬんじゃないよ!!」

「「了解!!」」

 秋は日暮れが早い。
 外はもう暗くなっていく一方だ。
 ガントとマリンは勢い良く『今昔亭』を出て行き、山へ向かって全力で走る。
「あぁ山の神様、皆をお守りください…!」
 女将は悲痛な表情で、山の神に祈りをささげるのだった。         




つづく

   
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