VIVA! シューマッハー


 ほんとは、もう少し後に書こうかと思ってたネタなんだけど。
 すごいもの見せられたよ。先週のハンガリーグランプリ。

 一時期、あと二ポイントまで追い上げたシューマッハなんだけど、このごろちょっと元気がなくて、二戦でその差を17ポイントにまで広げられて。今回を含めて今年のF1はあと5戦しかないから、今回もダメだと結構致命的なんだけど、っていうところで迎えたハンガリー。
 予選は、あいにく僕は見ていないんだけど、まあ定番の、フロントをマクラーレンが独占して、紅いシューはそのつぎから。

 スタートから序盤戦は、まあ順当で。一回目のタイヤ交換を終えたところで、ミカ、クルサード、そしてシュー。本来なら、シューマッハをクルサードが押さえている間に、ミカ・ハッキネンがどんどん前に行く、という展開のはずなのに、シューの追い上げがきつくって、クルサードがペースを落とせないのか、1位から3位までのタイム差が5秒くらいから縮まらない。シューはクルサードを抜かすに抜かせない。このコースって、コース上で相手を抜かすのって、すごく難しいんだよね。
 そして、焦れたシューは、順当なピットインよりも10周もはやく、タイヤ交換のためにピットイン。

 あっ、解説がいるかな。
 F1のレースでは、給油とタイヤ交換のためのピットインが認められていて。とくに給油のタイミング(両方同時にできるんだけど)は、レースの重要な戦略になっているんだ。どういうことかというと、ピットインっていうのは、当然クルマを止めなければいけないから、タイム的には不利だよね。とまっているその時間もそうだけど、前後の、コースではないピットロードというところには80kmとか120kmとかの速度制限が(安全のために)もうけられていて、全速力で入って全速力ででる、っていうわけにはいかない。さらに、ガソリン補給のホースには、リミッターがあって、毎秒12リットルっていう速さでしかガソリンを入れられないんだ。つまり、たくさん入れたかったら、長く止まってないとダメってこと。
 でもって、クルマって、軽い方がはやく走れるよね。ガソリンを少なく積めば、軽いからはやく走れるし、ピットインの時間も少なくてすむ。でも、その分余計にピットインをしなくちゃならない。ガソリンをたくさん積めば、ちょっと重いから、ちょっと遅くて、ちょっと長く止まるけど、回数は少なくてすむ。だから、それが戦略。

 今回のレースでは、75周ぐらいのレースだったんだけど、各車、25周くらいで一回目のピットイン。ってことはちょうど1/3だから、あと一回のピットイン、だと思うよね、ふつう。だから、つぎのピットインは50周前後。
 ところが、シューマッハは、41周目くらいで二回目に入ったんだ。それも、ピットイン時間は7秒。この周回から、最後まで走り切るだけのガソリンを入れるとしたら、11秒くらいは必要なはずだから、7秒っていうのは、きっともう一回あるんだ、ピットイン。それはいいんだけど、シューマッハのすごいのは、このあと。この戦略にあわてたマクラーレンは、その二周後にクルサード、5周後くらいにミカをピットインするんだけど、彼らはもうピットインしたくないから、ちょっと長めにガソリンを入れる。そして、その、彼らがガソリンを入れている周に、シューマッハは驚異的なダッシュをして、ピットアウトした彼らよりも、前にでるんだ。つまり、41周目に5秒前を走っていたミカが、46周目、両方とも一回ずつピットインしたあと、でてきたら抜かされてた、っていうこと。
 ここまでは、すごいんだけど、よくあることなんだ。

ほんとにすごいのは、それから。

 この逆転劇のために、相手より給油時間を短くしたシューマッハは、つまり、もう一回給油しなくちゃいけないんだ。やっとの思いで前にでた相手に、今度は20秒の差を付けなくっちゃいけないってこと。

 これをやるんだな。シューマッハーって。わかる? 今まで前にでれなくって給油の時間を削ってやっと抜いた相手を、今度は20秒も差を付けなくっちゃいけないんだよ。それをやったんだ、シューマッハーは。

 後半、ミカの調子が悪くって、どんどんタイムが落ちて、結局6位になっちゃったんだけど、シューの優勝は、これに助けられた幸運では、決してないよ。

 ベネトンで勝ち続けることに興味がなくなって、あえて調子を落としていたフェラーリに移籍して三年。去年は1ポイント差で最終戦だったけど、今年はどうなるのかな。

 たとえ、クルマの差でミカが勝ったとしたって、それでも、世界中のだれもが認めるよ。ドライバーズチャンピォンは、きみのものだって。
 すごいよ、ミハエル・シューマッハー。

 

戻る
last. next.