神奈川月記9910

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おれは字を書くのが嫌いなのである。肉筆で書くのがね。
高校くらいまでは日本語ワープロなんて夢想だにしなかった。あったのはダイモなんつうS-JIS1byte領域的打ち出しテイプであって,お箸の国の人だもの漢字が出なきゃいやーん。
大学に入って英文タイプライタをぱしゃぱしゃ叩くようになり,妙な感想であるが英字圏の人が羨ましい。サークル塔で和文タイプなんて物を見て買うたろかしらんと考えないではなかったが,ほどなく日本語ワープロの存在を知って思いとどまる。尤もそれが数十万円にまで落ちてさえ手が出ない。やがてブラザーがピコワードというプレ_ワープロを売り出して,これが8万8000円。16ピン全角で単漢字変換のみの,まさしく電子和文タイプである。大喜びで即買った。それまでに書き溜めていた詞をぜんぶ印字しなおし手紙はみなこれで打ち,爾来おれの筆跡はメモの走り書き以外ほとんど残らなくなったのだ。どっとはらい。

ピコワードの後はキヤノンのワープロ機を代代愛用していた。しかしながらワープロは事実上B5以上のシートに印刷するものだ。カセットのラベルなんかは肉筆に依らざるを得ない。英数字は画材店に置いてあるインスタント_レタリングで満足できても漢字までは無理である。それが悔しくてしようがなかったん。
常識的アプロウチとしてはラベルが10枚ならべてある市販の汎用A4シートに位置決め印字するのだろうけれど,おれの趣味に合わないので却下。(ビデオ)カセットに付いてくる,メイカのロゴ入りラベルに活字体が載らないとおもしろくない。
しようがないのでハンディ_コピイ機を買ってきた。普通紙に一旦ワープロ印字したの読み取って,ロゴ入りラベルに複写しようと言うのだ。非常にデリケイトな作業である。読み取るのにコピイ機を加速度0で均一に滑らせ,印字するのに同一の速度を再現してやる必要がある。そうして品位は良くないし,感熱リボン浪費しまくりでラニング_コストが頗る悪い。これじゃあなあ。

88年頃にキングジムがテプラというダイモ的ワープロを売り出した。専用カセットを食わせて糊付きのラミネイト_テイプに印字する。裏紙を剥がしたらカセットハーフなんかに貼り付けられるのであるが,それでは勿論ロゴ入りラベルへの直接印字になっていない。とーころが。こいつの本領はインスタント_レタリングを作れる点にあるのだ。転写用のカセットを使うと糊台紙なしのテイプに鏡文字が生乾きで載ることになるから,それをラベル紙に置いて上から擦ると転写される訳である。これは画期的だ。大喜びで即買った。
テプラはヒットしたらしくて派生商品がたくさん出たね。カシオもネームランドという真似っこを出している。ただしそいつは転写テイプがなくて──Tシャツへのアイロン_プリントなんてのはある──ださださだ。
莫迦めがと思っていたら,んー,どうもキングジムも転写に関しては冷淡になったようで,転写テイプの流通量が次第に細くなり並みの量販店に置かれなくなってきた。上級機にテプラプロが出たものの転写については黙殺に等しい。
何たることだ。おれにとってテプラは転写が命であり,一般的な貼り付けラベルの作成はお負けのお負けでしかないのだぞ。

2代目TEPRAと転写文字

2年ほど前に一度テプラを買い替えている。何しろ初号機を10年こき使ったんで随分へたり,印字に精彩なく欠けが出るようになったのだ。
普通に交換を考えるならばキングジムの力の入れ具合からしてテプラプロのほうだった。しかしながらプロを買うと手持ちのテプラ用テイプが無駄になってしまう。またテプラもテプラプロも転写テイプの入手困難度はおんなじだ。先が無いかなと恐れつつ通常テプラの廉価機で継続することにした次第。
新宿で転写テイプの在庫を見つけ,3巻買い込んでおいた。あまり買いだめしておいても本体がクラッシュしたとき今度こそ死蔵品となる。もうプロに移行せざるを得ないだろうからだ。まぁ2年は持つと見た。

就職して間も無い頃「ビジネスショー」みたいなのがあり,社命で見物に行ったことがある(良い時代だったなあ)。まだPCと言えばPC98であった。インタネットなど誰も知らぬ。
おれの目を惹いたのはワークステイションの出力装置としてCAD図を描きだすXYプロッタである。ロボット_アームが鉛筆を握って長い線分を引き真円を描き文字列を筆記する。文字は概ね筆順どおりに鉛筆を動かして書かれていたが運筆の都合で逆順に扁を書いたりする瞬間もあって,見ていて楽しい。

去年MAXが簡易XYプロッタとも言うべき凄い機械を発売しているのを見つけた。ワードライタと言う。製図はできない。テプラ的本体から突き出たアームにシャーペン(ボールペン)を握らせて,主としてネイム_タグを書くための事務用品だ。書き付ける先は数cm四方の名札・標識・伝票の類であるから,本来おれがやりたかったラベル書きにぴったり。精度も期待できる。
しかしながらワードライタの最も驚異的なところは値段なのだった。14万円以上するのである。本物のXYプロッタほどでないにせよ,ちょっと個人で買うレヴェルにない。機能や文字品位はモノを見なくても察しが付く。しかしこの値は不可解である。何でこんなに高いのよ。10万わってれば売れ行きが全然ちがうと思うけどなあ。

過日いよいよテプラの転写テイプが最後の1巻に達した。もはやこれまで,かな。
転写テイプの切れるまで,ひょっとして廉価版が出やしないかなどと淡い期待を抱いておったのだけれど,お約束どおり廉価版なんぞ出やしない。おれがワードライタを知ったときはCD-100という12万円のしかなくて,それをたっけーっと思っていたのに後続したのが更に高価なCD-200だったと言う。彼我の差は主としてJIS第2水準がオプションか内蔵かであって,おれの要求は当然後者のほうである。これが前段で触れた14万5000円なのね。
困ったなあ。でも今更テプラプロで転写テイプ不足に泣きたくないし。でーい,買ってしまえ。

ワードライタで試し書きインタネット検索に掛けてみたが売っていそうな店が引っ掛からない。MAXのwebに販売店リストはあっても自身で直販しておらず,販売店てえのが何故かfarawayな郊外に偏っている。知名度と交通の便を思うと池袋のディスカウント店まで出張らないとダメそうだ。
いつ行くかなあめんどいなあと渋っていたら,甘木がその辺をホウムグラウンドにしていると言うから買って来てもらうことにした。
報酬はCD-200購入(1割引)で得られるポイントカード。おれはそんなの集めてないから惜しくない。その中からオプションの汎用タグプレイト押さえキットも買ってくれるそうなので,随分おれに有利なギヴ&テイクが成立した。
CD-100が展示されていたその店にも200番は置いてなかったそうで,売れていないことを傍証する。翌週入手。

では動かしてみる。

ペン軸保持部取り敢えず位置決めも何もなくA4紙に書かせよう。付属の水性ボールペンをセットして適当に文字列を打ち込み,漢字変換する。59キイのキイボウドはJIS配列なのが英字だけ。カナはアカサタナ…行がQWERT…に振ってあり,オを打ちたきゃ[Q]を5回たたくんでローマ字入力でないと実用にならない。他のキイは文字装飾や四則演算記号などが割り付けれている。
キイトップがゴム_ボタンでレスポンス最悪の部類,正直ちょっとめげた。[変換]が[スペース]の左にあっていらいらする。
[スタート]させると,キューギョギュキュギュキュとモウタ・駆動ベルトがやかましい。ペン先が紙上に落ちるたびダタタンダダダダと板バネを弾くような音が加わる。深夜は気兼ねだなあ。
2mmから10mmまで0.1mm単位に文字角を決められるから,MDの側面ラベルからビデオカセットまで楽にカヴァできる。縦書き・横書き・組み文字・ルビ・肩/下つき等等はひと通り揃っているし最初から心配していない。文字列の丸囲み/角囲み・通番の自動1upまであった。
筆順はまるででたらめで──ヒトの目からすればだよ──むしろ好んで逆方向に運筆するかのようだ。肝心の印字品位であるが,当たり前のボウルペンで書くのであるからして,何か丁寧な丸文字という感じで肉筆くさい。ただし人格は見えない。まるで機械が書いたみたいだ。ってそのとおりだよ。

持てるのはぺんてるのシャーペンとボールペン・ステッドラのフェルトペンで,形名も限られる。それでも専用品じゃないし替え芯だけ買い足していけば良く,消耗品の補充は難しくないだろう。
難点は前述の騒音と,ペンのセットが専用ホルダのねじ込み式で面倒なこと。不細工にもホルダを着けるとペン先にキャップを填められなくなるのだ。ボールペンならまだしもフェルトペンは乾いてしまうから着けっぱなしにできない。いちいち装着して片付けてしないとうまくないね。こいつぁやってらんねえ。ボールペンをキャップせずに常用だな。
それからやっぱり用紙の位置決めは煩わしい。テプラのインスタント_レタリングをちまちま擦るのと比べればだいぶ楽なんだけどね。

トウタルでは,これで14万?てところ。便利でおもしろいけどやっぱり高いなあ。ユーザ登録はがきからして商店・法人を第一に想定しており,個人を諦めている。
でもまぁ代替品がないのは確かだもんね。せいぜい酷使しよう。償却に時間が掛かりそうだけれど。

1999年10月2日


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代代愛用
 「代代」はワープロ機の世代であって,おれの代代ではない。

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written by nii. n