神奈川月記9910b

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おれが観始めたのは就職で上京してから,十数年前のことである。松戸の寮でせこラジカセに録ったのが皮切りで都内北区に越してVCRを購い,録り損ねも多多あったがいつも意識してエアチェックに努めていた。長尺でステレオで,たまに鬼籍に入った噺家の大ネタもやってくれる。TBSの『落語特選会』は極めて貴重な録画ソースなのだった。

米朝一門・枝雀一門の番組を初め演芸物が豊富な(らしい)上方に比して首都圏の演芸番組は安っぽいドアチャイムのように貧困貧困。『落語特選会』が殆ど唯一と言って良い状況だったのだ。あぁそれだのに,99年9月14日の放送を最後にとうとう終わってしまったん。30年も続いていたそうであるが,あううううう,どうしたんだ桂プロデューサ。弱っちゃったなあ。こりゃ本当に参ったね。

番組の解説部分のおしまいに進行役の山本アナウンサがお別れの挨拶をしたのであるが,淡く期待していた後続の演芸番組についてはとうとう触れてくれなんだ。しかしながら一筋の光明が。10月からはハイビジョン放送で継続するとテロップに流れたのだ。

おうっ,ハイビジョン? TBSでハイビジョン? どういうこったいと訝んだところ,ハイビジョンにはいつの間にか民放枠が採られていたのである。午後の6時間ほどは日テレもTBSもフジテレ朝テレ東もBS9chに番組を持っている。や,これは知らなんだ。おれの中でハイビジョンはとっくにお亡くなりになっており,まったくのノウ_チェックだったのだ(あなたもそうでしょう)。

にしてもさぁ,選りに選ってハイビジョンかよ。そもハイビジョンてどうやって観るんだ。

ハイビジョンは次世代テレビの本命で情報量は現行NTSCの5倍・9:16の横長画面に走査線が1125本・ノンインタレイス。こりゃもう世界中で段トツの性能,実用域にある高画質テレビで日本は20年すすんでいるのだ。

なーんて言っていたら世界は,わしらテレビはディジタルにするけんねとほざいて皆レイスから降り,とっとと別会場へ行ってしまった。あらっ。ハイビジョンは現行テレビの延長で,アナログなのである。ちょうどスーパーLDだよーんと威張っていたのへDVDが出ちゃったようなものである。20年すすんでいたのが一挙に5年くらい遅れることになったのだ。

ハイビジョンは今も細細と続けられている。本放送なのである。尤もそれはハイビジョンとは言いがたくて,MUSEと呼ばれるデイタ圧縮を施した簡易版なのだった。本物のハイビジョンは情報量が大きすぎてとてもテレビ電波に載らないの。

10年くらい前はハイビジョンLDとかがあって本物も観られたんだけど,受像機がン百万円したのね。誰も買えない。んでMUSEにしてコストダウンできてやっと1万円/in.前後。しかし30型・40型・50型なんてサイズのしかないからまだ誰も買えない。それでMUSEから更にNTSCに落として映すテレビがあって──これはもはやハイビジョンじゃなくてハイビジョン「放送」が映る普通のテレビ──やっと7000円/in.くらい。これは25型クラスからあるんで実売20万円を割れる。でもBS1局で番組がつまらないから誰も買わない。何かもう悲惨の極みですな。

BSはそれなりに普及してNHKの7ch・11ch,WoWoWの5chを観ている人が珍しくない。しかしほぼ全員,モノクロの縞模様が踊ってて9chに何か映りそうなんだけどこりゃ何じゃいなと言いたいところだろう。そこがMUSEのハイビジョンなのである。

行きがかり上ハイビジョン放送を観たくなったとは言え,事実上遺棄されたものにカネを遣いたくない。MUSEの絵も無用なんでMUSE-NTSC変換された画面で充分である。それでM-Nコンヴァータ内蔵のテレビを捜していたのだけれど,テレビを2台おくこたないんで手持ちのを交替させることになる。ってもウチのテレビ(PROFEEL BASIC)は10年選手のくせに現役バリバリなのだな。非常に惜しい。いやきっと新しいテレビのほうがきれいなんだろうけどね,だからって,んじゃキミ引退と告げるに忍びないん。

それから9:16の横長(実は縦短)画面はおれが気に食わないので却下である。テレビについてはもっと莫迦莫迦しい問題があって,おれが持ち上げられないような重量物はフィジカル(物理的・肉体的)に不可なのだ。現用機の19型・20kgは楽勝であるが,カタログに見るM-Nコンヴァータ内蔵テレビが無闇に重くて25型でも50kg近くある。そんなのセッティングできないよ。

ここでハタと思い当たって単体のMUSE-NTSCコンヴァータを捜してみる。ネット検索したらビクターのが引っ掛かった。あるんじゃん。ただテレビ関係はソニーと決めている。そのwebを覗くと,あり,MUSEデコーダ(BSチューナでMUSEハイビジョンを観る機械)しかないではないか。っかしーな,あのソニーが単品コンヴァータを作っていないはずがない。電器屋で紙のカタログを貰ってみると果たして1機種掲載されていた。ねえ。webに載っていないのはソニー的に迂闊だろう。

型番が判ったのでそれでwebサーチを掛ける。1店だけ拾えた。その栄誉を称え,そこの通販を利用しよう。SAU-500MNを1台注文だ。そこにも在庫はなかったものの,2日後には発送された。おれのほうが休日でないと受け取れないので停滞するが,1週間も掛からず入手。

手にするまで意識になかったことには,発送元が倉敷であった。webだなあ。マイナな商品を扱う店はとにかく検索に掛かることを考えるべきだね。

SAU-500MN(下はWoWoWデコーダ)

23×7×23cm3で2.2kg・通常ライン出力ふたつの外ハイビジョン独特の3-1サラウンド出力を持ち,更にMUSEビットストリーム出力まで取り出せる(使わんけど)。

相手になるBSチューナ(SAT-100GRX)はWoWoWが試験放送をやってる頃に買った物で出力端子がどっちゃりあり,検波出力ひとつと,AFC入力が(当然)空いている。おお,高級品を買っといて良かったぜ。しかぁしライン入力は1系統しかなくて,そこはWoWoWのデコーダが使っているのだった。何でえ。

あれこれ試したが結局VCRの第2入力へ直結となった。これではうまくない。BSチューナへ戻してやれればVCRからのコントロウルが利くから──外部BS機器との連動端子がある──タイマ録画のときの電源オン/オフも自動でやれるのだけれど,第2入力端子はただのライン入力である。もしハイビジョンの留守録をやりたければ別口のタイマでオン/オフしてやるか,さもなくばBSチューナ・M-Nコンヴァータ共ども点けっぱなしということになる。これはもう後者に即決。ふたつのタイマの同期を取って別別にセットするなど人間業でない。いつか必ず間違える。

んでまぁ画質なんだけど,こりゃ酷いね。いやハイビジョン本来の画質でなくてNTSCコンヴァートの結果・しかも廉価コンヴァータの絵だということは重重承知だけれど,ゴーストのないこと以外は地上波にも負けている。妙に赤が強くて出演者みな赤鬼である。動画はぎこちない。斜め縞には必ずクロス_カラが入る。装飾的なセット背景はブロック_ノイズが盛大に乗る。とても映画のエアチェックには遣えない。

これ,エイジングで何とかなるかねえ。番組内容は貧弱貧弱ぅ。まー,観ようとしないほうが良ろしい。おれも『落語特選会』が移転しなきゃ観る気なかったし,それで正解だったね。こりゃ高い特選会になるよ。

1999年10月20日


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written by nii.n
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