神奈川月記9906

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将来ロボット史が編まれるとき1999年6月1日が黙殺されるようなことがあってはならない。とうとうパーソナルなロボットが家庭に入る日が来たのだ。それを成し遂げたのがU.S.ロボット社でなくソニーだったのは痛快である。今後とも日本語の処理が蔑ろにされることはないだろう。

発表は同年5月11日だったようだがおれは12日にwebニューズで知り,危うく卒倒しかけた。6月1日からソニーがロボット_ペットを3000台限定で発売するですって。ななな何を言っているの? ロボット? 自律型? ペット? いや,ソニーがそういう研究をしていて商品化する計画のあるのは知ってたよ。でもそれって2000年の話じゃなかったの。
ちょうど1年前にそんな記事をソニーのwebで読んでいたのだ。ペット型のロボットを2000年までにお年玉で買えるくらいの値段で販売すると。
そのときおれは日記にこんなふうに書いた憶えがある。

わーはは,こんなの誰が買うんだ。おれは買うけど。

先年みたプロトタイプ?は頭が小さくて猫っぽかったが,欧米では"Sony's Dog"で通るらしい。尤もソニーは頑固に"Entertainment Robot"と呼んで,犬だの猫だのはひと言も言っていないのだけれど。
商品としての名は aiBo・形名は ERS-110。垂れ耳と長矩な口とを持ったaiBoを見て犬を連想しなければ情緒がおかしい。

発売日が早くなったのは何よりであるが,お値段が凄かった。25万円である。これは本体のみの価格であって,思いのままにポウズを取らせるためのプログラミング_ソフトは別売5万。締めて30万はきつい。どんなお年玉やねん。
ここで巧妙なのは3000台限定・web販売のみ・発売日時指定で半月後・早い者勝ちという売り方である。金策に走るだけの期間があり,夏のボーナスが遣われてしまう前なのだ。
プログラミング_ソフトはどうせfor Windows9xだし,こっちは3000台限定というわけじゃないからひとまず措こう。本体しか要らん。それでも25万円である。うーん,出せない金額じゃあないが出したい金額じゃあない。うーんうーん。しかし何と言ってもロボットである。世界初であるよ。うんうん唸りはしても6割方買う気になっているおれが見えるようだ。端から買うほうに振れている。

あれえ
一夜明けていろんなヒトのweb日記を見渡したが,この発表に言及しているものが殆どない。どうしたんだみんなっ。ロボットだぜ。マグマ大使に始まってハック・アナライザー・フレンダー・ゴンスケ・R2-D2・ユキ・ダニール・キルロイ・ターミネイタ,連綿と続くロボットですよ。っかしいなあ。興奮しているのはおれだけなのか。

とは言うものの25万。高いよねえ。初めは30分で売り切れるだろうと思ったのだけれど,冷静に考えれば案外うれ残るのかもしれん。3000台という数字だって,例えばオートバイで大ヒットと言われる機体でも月に1000台売れる程度なのだ。その日いっぱいはゆっくり買えて,2・3日して売り切れましたとなるのかなあ。
でもでも3000台が全国人口均等にばら撒かれるなら──web販売のみというのがここで効く──単純に言って60台/県である。ひと県に60人くらいの物好きは軽く居るもんねえ。

そこへ当のソニーが非常に強力なビデオ編集機能のデスクトップvaioを持ち出してきた。PCV-Rシリーズである。ぐっ,おれのベータ機がオシャカ寸前なのを見越したかのようなタイミング。ことにR70は20GBのHDDを擁してDV40分・MPEG2 4時間20分の録画ができる。わっわっ。40数万円といったところか。莫迦高い単体DVデッキを買うよりこっちのが良いね。
そこへアスキー出版が月刊ASCII誌・ASCII DOS/V誌でaiBo特集を組み,おらおらと揺さぶりを掛ける。わっわっ。やっぱaiBoすげえなあ・こりゃ買わんとなあ・肉球に触らないとなあ。
そこへパナソニックがミニDVのデッキを20万円ほどで出すと言う。わっわっ。aiBo諦めたら楽勝で買えるではないか。
そこへ……。
元元この夏はワードライタ(MAX文字用X-Yプロッタ)と足踏み式ダイエット器が候補に入っていたのだ。どっちもけっこう高いん。aiBo買うならこれらは延期。

後から振り返って最も幸せなストーリはと言うと,サーヴァ_ビジィでリロウドが利かずやっと入れたと思ったら「Sold Out」になっていた,てなところだろうか。買おうとして買えなかったと。理由が立って手元に25万円のこり,それを実用性の遥かに高いvaioやDVデッキの足しに遣える。入手できなかったaiBoの酸っぱさは後でいくらも表現できるのだ。

正直言って販売前日まで決めかねていた。
さて当日である。受付は9時開始なので出社していてはどんならんでほんまにも。実は発売を聞いて即スケジューラ(職場の公開情報)に6月1日午前年休の予定を入れておいたのだ。

いつもどおりに起きてPCを立ちあげる。テキスト_エディタを起動して,住所・氏名・電話番号などなどおよそ要求されそうな個人情報を書き出しておく。言うまでもなくコピイ&ペイストで入力のスピードを(手間をではない)稼ぐ目的である。それからインタネットに繋いでソニーのwebに行き,彼我の接続に異常のないことを確かめる。ルーチンのweb巡りをして一旦モデムを切る。そうだ,おれはもう買う気満満になっているのだった。買うと決めたら万全を期すぜ。

8時45分くらいから再びダイアルアップ(ウチは56Kbpsモデムである)。何よりaiBo Order頁を開けておく。そうして「新しいブラウザを開」いてそっちを暇潰しの巡回に充て,ちょいちょいOrder頁をつついてみる。58分辺りでもうOrder頁[再読込]の繰り返し。たまに読み込みエラが出て,今まさにソニーがファイルの更新をしていると察せられる。9時1分に至ってまだ「Coming Soon」だ。9時2分になってエラが激しくなったと思ったら或る瞬間するりと入れた。そのwebがすっかり表示される前に「こっちへお入り」的バナーが見えたのですかさずクリック,次次と現われる能書頁・契約条項頁・注意書頁・入力頁をかいくぐりなぎ倒し,おれの速読と慎重さとタイピング速度の兼合いでもって9時9分27秒に[確認]ボタンを押下することができた。9時9分29秒にすかさず「お買い上げ確認書」emailが戻ってくる。OK。おれひょっとしたら第1号ではないか。

やれやれと[戻る]しながら条項に目を通す。こんなのを往路でまともに読んでいては間に合うものも間に合わなくなる。用意しておいたテキストは結局住所の部分しか遣わなかった。念のため[確認]ボタンの付いた「お客様情報確認」頁を「保存」しておこう。

11時頃もう一度アクセスしてみたら,果たして「Sold Out」になっていた。ふわー,2時間で払底かよ。午後から出社して甘木さんに会うなり,買えた?30分で売り切れたらしいねと言われ,も一度仰天する。そのネタ元のPC Watchの記事は,夕刻にはソニーからの情報として20分間で売り切れと改めていた。

20分で3000頭が捌けたか。いやいや,おれの送信時刻が遅いほうとは思えない。最初の5分間は空白に違いなく,実質的には殆ど10分間の勝負だったろう。300頭/分・毎秒5頭のペイスで売れたのではないか。

1999年6月26日


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U.S.ロボット社
 アイザック_アシモフのSF小説に出てくるロボット_メイカ。ここのロボット(陽電子頭脳のヒト型)はかの有名なロボット工学三原則に支配される。

  1. ロボットは人間に危害を加えてはならない。またその危険を看過することによって人間に危害を及ぼしてはならない。
  2. ロボットは人間に与えられた命令に服従しなければならない。ただし与えられた命令が第1条に反する場合はこの限りではない。
  3. ロボットは前掲第1条および第2条に反する恐れのない限り自己を守らねばならない。

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マグマ大使に始まって
 おれはアトムから始まってない。

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ハック・アナライザー・フレンダー・ゴンスケ・R2-D2・ユキ・ダニール・キルロイ・ターミネイタ
 順にキャプテンウルトラ・宇宙戦艦ヤマト・新造人間キャシャーン・ウメ星デンカ・スターウォーズ・セクサロイド・鋼鉄都市・Mr.ROBOT・ターミネイタに出て来るロボたち。ここでマジンガーやパトレイバーの居ないのにお気付きだろうか。人間が乗り込んだり操ったりしないメカ・即ち「自律型」を並べている。また自律型でも生体組織をパーツに使う(特に大脳が残っている)タイプ(009とか)は除く。そりゃそうですな。

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お客様情報確認
情婦確認 この頁のタイトルが「Sony ER(お客様情婦確認)」となっていたのは僭越であろう。確認しちゃいけねえ。

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written by nii. n