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神奈川月記9703

 インフルエンザやら寒波やらで数週間DJEBEL XC(250ccのオフロウドバイク)に乗らないでいたらバッテリが上がってしまい──インフルエンザ恐るべし──キックも押し掛けも効かないでこりゃ参ったねというネタを書こうと思っていたら,もっと大変な事件が起こってしまった。
 XCはマンション前の歩道にシートカヴァを掛けて迷惑駐輪している。歩道の幅はたっぷり1車線分あり,宅配便のクルマが乗り上げてなお自転車が擦り抜けられるほどの余裕を持つから,通行人の邪魔にはなっていないと思う。1畳強の面積を私物化しておきながら居直るようで何だけど街路樹や電柱の出っ張り・町工場の既得権主張的我儘的作業場化に比して,あ・いや,ごめんなさい。
 歩道は往復4車線の地域幹線道路に沿ったもので,ウチの近所は信号グランプリができるくらいの高インフラ度である。ただ信号機が中途半端な所にあってかつ歩行者軽視の設定なのでシカト横断者が多く,また年中1車線を潰して何かしら掘り返しており,ドライヴァは余りスピードを載せないほうが賢明と言える。ついでながら,インフラとは関係なかろうが,真にオウルドファッションドな暴走族が月に数回ここを通過して行くぞ。
 XCを置いた歩道はマンションへの入り口と,隣接する月極駐車場(マンションの設備ではない)への誘導路のために寸断されて小島のようになっており,ここを守る3mのガードレイルに平行してくっつける恰好で停めていた。ちょうどバイク1台分の好立地に早い者勝ち的我儘的,あ・いや,ほんとにごめんなさい。
 或る朝出がけにふと見ると3mのガードレイルが無くなって!いる。2本の支柱は根元からへし折れて延び,細かいガラスの破片が一面に散乱している。そしてXCはマンション入り口の塀にこんなんなって立てかけてあるのだった。おれはアメコミのグーフィーのように顎が地面まで落ち,眼が3重に飛び出した。何じゃこりゃあ。
 どうも前夜23時頃ピンポイントにこのガードレイルに激突し,ついでにXCを弾き飛ばしたクルマがあったらしい。近所のおばちゃんの話によると,どかーんと凄い音がしたので出てみたら普通乗用車が横転しており,運転していたおっさんが「出してくれ〜」状態でばたばたしていたそうだ。XCは何mも離れて転がった状態で,このバイクは誰のかしらねー気の毒にねーと人人の哀れを誘う有り様。クルマから助け出された運転者は一見外傷なく意識もしっかりしていたが,念のためというふうに救急車で運ばれたということである。
 そう言えば何となく外が騒がしかったかなあという程度で,おれ自身は平和な夜だったん。しかし前述のとおり現場は見通しの良い直進路であり,当夜は晴れ。路肩駐車両があるからそう左端を走ることもないはずだのに一体なにをどうしたら事故れるのだ,それもガードレイルを支柱ごとなぎ倒す運動質量で。ラリってたのか。
 おれ,こういう民事訴訟的事故って関わったことないのね。どうして良いか判らなくて途方に暮れ,いちおう暮れおわったところで取り敢えずバイクの任意保険の事務所に電話してみた。証券番号を申告すると,はあはあ・あなた車両保険に入ってませんねえと冷徹な指摘を受ける。そうなのだ,対人無制限・対物2000万円・自損1500万円・無保険車2億円・搭乗者(タンデムで乗せた人)200万円てな保険は掛けてあるけれども,車両保険は(結果的に)ケチっていたのである。もし加害者がゲルニしたり無保険者だったりで相手の補償が利かなければ,まるっきりぶつけられ損だ。保険屋にとってはありふれた退屈な事件で免責事項だろうが,こう聞いておれの下顎はまたテイブルまで落ちて全身にひびが入り,受話器を置いた衝撃でばらばらになってしまった。
 ばらばらになったまま電話帳を探って警察署に──いくら何でも110番はまずいだろう──問い合わせる。あのぅゆうべ**通で交通事故が無かったでしょうか。あっこれかな,と言うので警察沙汰にはなっていた。バイク壊されちゃったんですが事故った人の連絡先おしえてちょ。それならバイクの登録証を持って署まで来てください,電話ではあなたが被害者本人か確認できませんから。あっくそ,何でおれが出頭せにゃならんのだ。
 しかし外にどうしようもないのでタクシを飛ばし,登録証と免許証番号を提示して事故調書にXCがこんなんなったと確実に織り込んでもらうよう頼んできた。署の滞在時間正味5分,結局相手の身元は明かしてくれないままである。
 甘木によればこれで相手の保険会社からコンタクトがあり補償の談判が始まる。なるほど翌日ファクスが届いた。さあて腹にダイナマイト括っといたほうが良いのかな。

1997年3月2日


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こんなんなって
 どんなんやねん。

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グーフィー
 グーフィーはディズニィだっけ。イメイジは『TOM&JERRY』の幕間のドルーピーに出てたような(気がする)狼やハイエナ。クルマに轢かれたらぺっちゃんこになる奴。

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written by nii. n