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神奈川月記9509

冠省
研修をやるから松戸へ行けと会社から通知が回ってきた。なに,管理能力の向上を図るだと。全く人を見る目が無い,まだおれにやらせる気か。おれに管理させたらどうなるか昨年一昨年と証明してみせたろうが。あれはおれのせいなのだぞ。懲りんやっちゃな,コリンハート
でも断わるのんじゃあくさいから行こか。
2泊3日である。外出禁止の缶詰研修で弱るのは,さても軟禁珠簾,食うものの無いことだ。なるほど食堂があって食事はできるけれどもメニュが無い。入社して1年間寮生活を送ったからこの手の施設で出てくるものには察しが付き,悪いことに的中した。よそ様の土地へ来て不平を言っては相済まぬが,納豆など出されてもおれには食えん。味噌汁に茄子を浮かべられては堪らん。ほっけ以外の魚を食わせてくれい。
さう言へば内田百鬼園翁が上京したてのころ下宿屋の味噌汁の具に涙したとどこかに書いてたなあ。読み返したいが実家に送つてしまつて手元に無い。最近になつて出版された文庫は現代仮名遣ひ表記だからあの世で怒つてゐるだらうなあ。
おれは偏食王であり,可食範囲が狭い。
味覚で言うと酸っぱいのが駄目で,酢および酢のもの全滅である。連なってポン酢・ドレッシング・マヨネーズがアウト。素材で言うと茄子やトマト(どっちもナス科である)が駄目で,トマト直系のケチャップ・ソース・ジュースはご遠慮ねがう。非常に一貫しているな。火の通った根菜は概ね行けるが,食葉のほうは不得手だ。
関東ではトンカツ屋が異様な高密度で軒を並べており,おれは何も掛けないで食べている。レストランでも当店シェフご自慢のソースを避ける。悪い客だ。サラダの類は2重3重にペケであり,野菜サンド・ナポリタン・ハヤシライスなども一蓮托生に対象外となる。ハンバーガや調理パンもいけない。ぜったい大丈夫なはずのお好み焼きにさえこっちでは「赤」「白」載っけて来やがる。広島うまれのこのおれにこんなモノ寄越すか,あのここな偽り者めが。立ち去れい。
ケチャップ・マヨネーズ・ソースを封じられると外食屋はかように無力なのである,封じたのはおれだけどさ。
それでも外食なら嫌いなものを外してオーダすることができるし寮なんかでも残してしまえば済む。決定的に困るのはお呼ばれしたときだ。気の張るおうちで出されたものを,わし嫌いじゃけん下げるようになどと言えるほど増上慢ではない。学生のころ世話になった助教授宅で戴いた韮の酢味噌和えはキツかったん。
子供が偏食するのは(育ての)親のせいと言って構わんだろうな。思春期から疾風怒涛の時代に架けておれは強迫観念でだろうか潔癖症を得て,うちの飯がほとんど食えなくなっていた。尤もそれがために偏食したのではなく,もともと小食だったのが食えるものまで食わなくなったのだから始末が悪い。ひとり暮らしをするようになって食は進んだけれど以前くっていたものを食うようになっただけのことで,けっきょく是正する機会を失ったままだ。成人してから自力で矯正するのは禁煙より難しい。
あれ嫌いこれ嫌いと喚き散らすのは見苦しいな。もう終わろう。エンディングの段落をみっつ考えてみた。筆者の考えに最も近いものはどれか。ひとつ選びなさい。(配点2)

  1. こういうことを言っていると,世界の破滅は近い・食べ物が無くなったらどうするのだ・贅沢いうななどと脅す人が現われる。飢饉ですか。いやいやいや,そしたら食べますよ。代わりのある間は嫌いなものを食べたくないだけだ。
  2. 偏食王は王位に就くのが早く,また退位も早い。長ずるに従って可食範囲が延び,やがて玉座を追われるものだ。おれ未だに暴君。ところがさしもの偏食王も敗れたことがある。おれより強力な奴が居るのだ。世間は広い。甘木はおれの嫌いなものを全て嫌った挙げ句に醤油さえ遠ざけるのである。刺身をワサビだけで食らっているのにびっくらこいて,蕎麦なんかどうするのと問えば,ツユ無しに手繰ってうまいそうだ。合州国に留学していた折りはソイソースを嫌がるポンニチというので変人あつかいされたらしい。修行して出直して参ります。
  3. 譬え何を出されようと食ってみたいもの,と言うか行ってみたい所があるね。薬菜飯店とトニオのイタリアンレストランだ。向こうが見立ててくれるのでメニュはあって無きが如し。おとなしく何でも食うぞ。そして眼と鼻と肩と気管支と肺と頭を治してもらうのだ。

先日テレビでWindows95の特集をやるとあったので観た。この番組,性風俗紹介番組とばかり思ってたんだがな。
しかし企画意図が見えない。レギュラの面面がパソコンに無知なことはすぐに判った。はやりものを取り上げようというのならまだ早すぎる。日本語版の登場は遥か先の話だ。あ・怪しい。
それでもこのレギュラ陣に未知のものを説明せにゃならん解説役の評論家を気の毒に思っていたのであるがこのおっさん,双手を挙げて絶賛の嵐。おれはWarpとの比較評を聞きたかったのに一言半句も触れてくれない。ま・ますます怪しい。
Macに追いつき追い越したような言い方をしていたが,そ・そうかな。NTやOS/2がヴァージョン3を数えてやっと肩を並べたのかなといったところだぞ。初登場の 95で日本語版が出ていないのにそんなこと言っちゃって大丈夫か。レギュラ陣,ひとりも理解してないぞ。
どうも見切り発車くさく,バグ満載が懸念されるWin95である。今のパソコンユーザの大半はWindows以降の参入者だろう。しかもプリインストールマシンを買った人たちだ。OSの書き換えなんてできるのかしら。おれ自身がWarpの導入に四苦八苦したからと言って他の人を見くびってかかることはないのだけれども。
発売当初は大パニックの奪い合いになるんだろうな。だけどマイクロソフトのほうでも電話が10万台必要だろう。問い合わせに応じきれないぞ。これだけ煽ってるんだからユーザサポートちゃんとやれよな。
おれは買わない。早くともヴァージョン2(Windows97か)になるまではね。そのときOS/2が死に体になっていたら考える。
なっていそうだなあ。OS/2は一般誌での扱いが不当に小さい。専門誌でもペプシベータに譬えていやがる。どうもOSの市場競争を健全に導こうという様子がなく,何だか陰謀を感じるのはおれの強迫観念か。
IBMからはPC DOS J7.0/Vの案内が来た。DOSはこれで打ち留めだそうだ。おれはもうWarpに移行して──まぁ,Winアプリばかり遣ってるけどさ──DOSは6.1で十二分の環境である。お疲れさまでしたと申しあげ,OS/2アプリの充実を合わせてお願いする次第である。
OS/2ネイティヴのソフトはWarpに付属してきたボーナス パックのものしか持っていない。これではならじと一太郎 for OS/2を買ってみたら,こりゃださださだった。実勢価格3万6000円はOS/2版ATOK8の代金と考えよう。しかしこのATOKもWin 版より手を抜かれている,辞書を共有できるのはありがたいがな。
愛用WordPerfect for Winのバグ フィクス版が出るそうで,CD-ROMだったから買うことにした。今年1月のヴァージョンナップではまだFD媒体しか無かったのだ。CDに慣れてしまうとFD5枚を差し替えるのもいやいやえん。1600円の料金はCD盤の実費と考えて良いだろう。
やれやれ,まだ当分Windows 3.1を追放できないね。

不一

1995年9月25日


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コリン ハート
 ロックの人。でも正しくはコリイ ハートらしいっす。おれ,ずっと間違えてた。懲りん心(ハート)で意味合いも良かったのに。

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内田百鬼園
 夏目漱石の門弟。おれの中で三大エッセイストのひとり。本当は内田百間なんだけど,「間」は門構に「月」じゃないといけないんでもうひとつの筆名にしました。BTRONなら「月」のほうの「間」出せるんだろうな。

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あのここな
 落語『禁酒番屋』のキイ ワード。それにしても小さん,大丈夫か。(97/04/12記)

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疾風怒涛の時代
 えーと。誰が言ったんだっけ。

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薬菜飯店とトニオのイタリアン レストラン
 前者は筒井康隆・後者は荒木"JOJO"飛呂彦の作品に登場する。『薬菜飯店』はおれの筒井ベスト。トニオのスタンドは筒井のパクリと言われてもしかたないかな。どうでも良いけどこの脚注,説明不要の人にだけ説明しとるよなあ。

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いやいやえん
 昔あったのよ,こういうタイトルの幼児向け小説?が。著者も版元も憶えていない。「いやいや園」という完全フリー思想の幼稚園でくそガキ(確か"しげる")が改心する章がクライマックスだった。あー,思いだせん。

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written by nii. n