神奈川月記9212b

前月目次次月


冠省
コダチ(GSX250S)のパンク疑惑は結局迷宮入りで,空気を補充して見る見る萎むというのでないからバイク屋の兄ちゃんは放っておいて構わないとして加療しなかった。それで最後の2週間というものはコダチと遊びたくとも前輪が気掛かりで堪能できない。コダチの人となりを鮮やかにしておきたかったのに却って不満を残した。残念至極である。
コダチとの蜜月は15箇月・3200km走行で終焉となった。

さてヤマさんの登場。
DJEBEL250は92年12月4日の納車である。会社を休んで行って来た。
第一印象は,で・でかいのひと言だ。なにしろ僕が跨がって両の踵が浮くのである。シート高88cmに僕の脚は遠く及ばずしかも若干股割り状となり停車中ではサスも殆ど沈まない。厚底のスニーカなんかじゃてんで追っつかないのであった。
信号待ちで恐慌を来しそうで不安を呼ぶと同時に,これを盗んで乗ろうなんて誰も思わんなあと変な安心感を誘う。

オフロード車がこうも大きいのはひと重にサスペンションのストロウクを1mmでも長く採りたいからである。脚が伸びてエンジンが持ち上がると路面のギャップに強くなりジャンプ後のフル_ボトムに堪え,岩越えを容易にし渡河さえ夢でなくなる。
それで年年ながくなってきたのだが,もういいかげん限界だろう。そうそうジャイアント馬場が産まれる訳でない。
スズキの車高調整機構の意義がやっと解った。ジェベルでは省略されているが,兄弟機DR−SHEのそれはノブひとつでシート高を5cm下げられる。
たった5cmと侮る勿れ,5cm違えば単純に言って身長170cm以上でないと乗れなかった機体に160cmの人が挑めるようになるのだ。160cm台の人を救えばどんなに市場が拡大するか想像に難くないだろう。

おっかなびっくり走りだしてひと言,加速しねえー。つまりマイナス評価。
勿論コダチの カタパルト発進のようなスタート_ダッシュに及ぶべくもないが,かなり早め早めにシフトアップしないとスピードが乗らない。ブレーキも弱い。尤もこっちは疣疣タイヤのせいという気がする。
またクラッチ_レバを完全に握り締めないとギアが這入らないのは戴けない,指二本掛けが楽なのだが。

スタイリングを除いた部分で気になったのは上の2点だけである。
踵が浮くとは言ってもちょいとお尻をずらせば片足べったり着地する事が判り,渋滞も大して苦にならない。

項目 コダチ ヤマさん
名称 GSX250S KATANA DJEBEL250
型式 GJ76A SJ44A
サイズ(mm) 2,060×685×1,160 2,230×885×1,250
乾燥重量(kg) 160 128
軸間距離(mm) 1,435 1,445
最低地上高(mm) 155 275
シート高(mm) 750 880
最小回転半径(m) 2.9 2.3
キャスタ(mm) 25:40 28:00
トレイル(mm) 99 120
舵角(度) 33 45
燃料容量(L) 17 9
燃費(km/L) 43.5 53.3
総排気量(cc) 248 249
エンジン型式 水冷DOHC4気筒 油冷SOHC単気筒
タイヤサイズ(inch) 17×17 21×18
最高出力(PS/rpm) 40/13,500 29/8,500
最大トルク(kg-m/rpm) 2.7/10,000 2.5/7,000
車輌価格(円) 565,000 439,000

コダチとの比較はそれこそ鮫と馬とを比べるようなもので,まぁ無意味と言えばそれまで。でもやってみたい。詳しくは表を見てちょうだい。

ジェベルのエンジンは油冷単気筒の,カタナと真っ向正反対の造りである。油冷システムは冷却能力においては水冷に劣るが,オイル_パンの無いぶん空冷よりも更にコンパクトなユニットを作れる。
油冷はスズキの御家芸ではあっても専売特許というのではない。空冷でも水冷でもエンジン内に回す潤滑油はクランク_ケイス底に溜めといた奴をポンプで汲み上げてから散布する。そこを専用のサンプを別に宛てがって火の傍から離し,潤滑油の冷めたところでエンジン内に戻してやって潤滑と冷却とを一挙に行なうというのが油冷の骨子である。
DR系ではフレイム_パイプをサンプ代わりに使って非常にうまく空間の節約をしている。
たださほどパワを稼げるものではない。最高出力29馬力は実はコガタナ(GSX250E)と同じ数字だ。でも最高出力は常に車重と込みで考えないといけない。
ここでパワ_ウエイト_レシオを見てみよう。君,スライド用意して。

ジェベルは乾燥重量128kgに対して出力29馬力,1馬力で4.4kgを運ばないといけない。カタナは,あ,4kgちょうどですな。慌てるな。走行に必要なガソリンやオイルを満載すれば,ジェベルは10kg・カタナは20kg増しになるのだ。そうするとジェベル4.7kg・カタナ4.5kgであって,ぐっと差が詰まる。詰まってない?

カタナの排気音は細心の注意を払って低め(低周波という意味)に調整された人工音なのだがジェベルにそんな細工は為されていまい。単気筒だし──複気筒だと干渉し合ってけっこう消音される──油冷とは言い条半分は空冷なのでのほうずにがなり立てる筈だ。
と思ったら拍子抜けするほど静かだった。音質も軽く,ルラララララてな調子。アクセルと開けるとコダチはウヒャヒョローンと歓喜の雄叫びを上げるのに,ヤマさんはルララが少ぅし大きくなる程度である。振動も気になるレヴェルでなかった。

DJEBEL250肝心の乗り心地は如何に。
これがねえ,気持ち良いのよ。陸上強化選手を思わせるコダチの端正な走りに対して,ヤマさんはやっぱり馬のイメイジ(ただし充分に調教済みの)が強い。
長大なFサスとモノリンクRサスのコンビ+スポーク_ウィールはしなやかで,路面の凹凸を伝えない。オンロード最大の難所・工事中の大荒れアスファルト道路にも平気で飛び込んで行ける。軽い車重と大きな舵角は取り回しを格段に易しくし,Uターンも気軽にできる。
フット_レストは兎罠状ギザ歯付き鋳鉄可倒タイプで,充分に広く滑らない。
シートの方は滑りやすい。ブレーキングの度に前へつるりと慣性移動だ。
絶対的な動的性能でコダチに分があるのは明白であるが,ヤマさんに乗るのは何とも楽しい。コダチは憧れのカタナに乗れて_嬉しいというのが主だった。それはそれで愉しみだけれど,ヤマさんのうきうきするような楽しさは初めて体験するものだ。
乗車姿勢は極めて楽だ。コダチも大柄で窮屈という事はなかったが,前傾姿勢のため1時間も乗っていると背中や腰が痛くなった。ヤマさんはそれも無い。上半身が立ち風圧をもろに受けての疲労があっても背骨が軋むのよりはマシである。ゆったり脚を伸ばして座る感じは得難いものだ。

ヤマさんがただのジェベルでなくヤマさんとなる為に差別化をせんければならぬ。
写真を見た段階からやりたい事があった。まずFフォークのブーツ(蛇腹になってるビニールのカヴァ)を取っ払い,ナックル_ガードを外しタンデム_ベルトを抜いてヘッドライト_ガードを除ける。
やる気満満だったがブーツは間近にするとあんがい恰好よくナックル_ガードとライト_ガードは基幹部品に連結しており取り去る事ができない。タンデム_ベルトの除去だけに止どまった。
これでふたり乗りをしたら違法改造に当たる。これとてもシートをばらさないと──ユーザが日常的に外す仕様になっていない──いかんかったんよね。他はルックスの問題だけだがタンデム_ベルトは尻に敷く形になって気持ちが悪く,何が何でも除く必要があったのだ。
シートがすっきりしたところでマーキング,予て用意の日の丸のステッカを貼る,つもりだったんだけどなあ,どうもそぐわない。
実はこれ,コダチに貼る予定だったんだな。だけどどう見てもどっかの莫迦チームに這入っているようで厭になった。強烈すぎるよ,日の丸は。
標準装備のキャリアも無くした方がきれいだ。しかしRフェンダの支持を兼ねているのでオリジナルDRの固定バーを持って来るかしないとうまくない。
でももういきなり使っちゃったし,無くしちゃうよりはその金でオプションのサイド_キャリアを足す方が合理的で有益である。第一に標準装備キャリアの遊び孔を潰し,第二にサイド_ヴュを引き立て,第三にタンデム_ゲストや積み荷を万一の火傷から守る。
左右あるけどマフラのある右側だけで良いや。1箇月点検の時に注文しよう。

クラッチの不具合はレバの遊びを少なくしたら解消した。

300kmばかり走って困ったことには,単気筒の癖に燃費があんまり良ろしくない。2回の計測で24.0km/Lと21.4km/L。
コダチに勝るとは言え──どっちにしろ定地燃費の半分以下だ。わし,そんな阿呆なアクセル_ワークしとるんかしらん──如何せんタンク容量が9Lと小さすぎる。150km毎に給油が必要で,とどのつまりコダチより手間が掛かるのだ。
「ジェベル」を名乗るからには岩山・砂山・沙漠方面のツアラだろ,デザート_バイクらしくないぞ。オプションで増設タンクを用意しろい。

不一

1992年12月16日


前月目次次月


written by nii.n