神奈川月記9212

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冠省
買ってみました。
ジャスタ1年ぶりの秋葉原はワープロ用のプリンタを買いに来たきりだ。それも冬のボーナスでの買い物である。してみるとこの夏の賞与はいったい何に遣ったのだ,何も買わんのに額面以上なくなっとるぞ。

目標はAMステレオ対応のコンポサイズ_チューナだ。指名買いだからわざわざ秋葉まで出張る事はないのだけれど、もうひとつ布団乾燥機が念頭にあってこうなった,結局そっちのけだったが。お持ち帰りでお持ち帰ったのはソニーのST-S500。
定価(と言うかメイカの設定価格)の2万4800円からして実売2万を割らないでは手ぶら撤退も辞さない──横浜の激安店のほうが確実に安いもんね──そう決めはしたものの現実には陳列されているのも稀で,半径1kmを点線状に走査した挙げ句駅前の量販店で決めた。消費税を入れて2万円ちょうど。もう少し上だった表示額が秋葉原方式で落ちたのである。

メイカ ソニー パイオニア
型番 ST-S500 F-120
サイズ(mm) 430×85×295 420×61×317
重量(kg) 2.8 4.0
消費電力(W) 8 14
SN比; FM(dB) 75 88
SN比; AM(dB) 54 50
選択度; FM(dB) 65 60
選択度; AM(dB) 32 30
感度; FM(dBf) 42.1 37.7

例に依って新旧の比較をしてみよう。ソニーは,何だ,大きくて軽いな。やっ,AMの感度は単位が違って比較でけんではないか。

F-120の16局プリセットに対してS500は誰が聴くんだ30局,持ち重りのする丸型チューニング_ノブを軽く振るとオウト選局開始というタイプである。ルックスへの貢献度は高いとは言え,初期設定が済めば後はボタン1発選局だ,ノブは必ずしも必要でないんだな。
他に10キイが付いてブラック_パネルに大きなインジケイタを持ち,見栄えは非常に良い。
登録する局の周波数の代わりに局名を英数字で表示できる。いちおう入れといたけど,如何せん僅か4文字ではなかなかうまく極まらない。

聴けるレヴェルで受かるAMはNHK第1・同第2・TBS文化ニッポンラジオ日本の在京6局,FMだとNHK・YOKOHAMATOKYOJ-WAVEbay fmNACK5放送大学の7波である。
ただどの局も盛大にノイズが這入り,文化は特にビートが酷い。またNACKとbayはモノラルでないとぜんぜん駄目だ。
ベランダに上げてあるFMトンボアンテナはいつの間にか半壊して前翰がこれもんでぶら下がっている。ちゃんとした物でありさえすれば,こんなもんじゃないだろう。TVアンテナから分配しても行ける筈である。
いずれにしてもF-120より感度が高く,同じヴォリウム位置で音量がずっと大きい,と考えるのは早計で,出力が2割方ふえているのだ。
問題なのは中波だ。ステレオ化で特性が良くなる訳でなく,感度の点ではむしろ落ちる。10点法の感度計に拠ると──8点からフル_スケイル──ラジオ日本の8点が最高で,他は皆6点だった。2点あれば何とかなるみたいだ。

取り敢えずはNHK第1とTBS・文化放送が実用レヴェルにあればOKで,それと言うのもそもそも演芸番組のステレオ化が主眼のチューナ交替なのである。
いまラジオにおける演芸番組と言うと,NHK『ラジオ深夜便』の『演芸特選』(土曜25時頃)・同じく『上方演芸会』(日曜20時)・同じく『真打競演』(日曜22時)・TBSの『サッポロ_ビアホール名人会』(土曜17時半)・文化放送の『菊正辛口名人会』(日曜17時半)などがレギュラにある。志ん朝・米朝クラスもたまぁに出て来て,文化放送はノイズを掻い潜っての録音だけれど,僕の重要なエアチェック_ソースだ。
昔はNHK_FMでも年に1回くらい特番があったし,プロ野球中継の無いシーズンにはラジオ日本で『爛漫ラジオ寄席』をやっていたものだが──何故かスポンサは酒造メイカと決まっている──絶滅したらしい。乞う復活。

新旧チューナ合戦,10年の歳月を経て値段は半減・性能は互角・感度は向上と,こう纏めてみましょう,手早くね。もっと詳しく書くつもりだったがそれどころじゃなくなったのよ。


買ってみました。
オフロード_バイクを衝動買いしてしまった。しかもコダチ(GSX250S)と交代である。何ですとー。こんな買い物の仕方は僕にとって極めて異例の事態である。経過を追ってみよう。

ある夜コダチに乗ろうと充分に暖機運転を施し,跨がって車道へ引き出そうとしたら前輪が妙に粘って抵抗が大きかった。
この感覚には憶えがある。ありゃパンクかしらと覗いて見たがべつだん異状は無い。親指でタイヤをぐっと押してみても,うーん,ちょっと柔らかいようだが何と言う事も無さそうだ。走り出したところが路面の凹凸を大袈裟に伝える感じがあって屡ずりっと流れる。しかし信号待ちの度の目視チェックではへたっている様子が無い。これが11月2日の事である。
どうも不安なので次に乗る前に圧力計で測ってみた。計器は激安店で買っておいて初めて使う物だ。最初前輪に当ててみたのだけれど反応しない,何だ,不良品を掴まされたかなあ。
後輪に移って驚いた。2.20kg/cm2ぴったりだ。と言うことはと言うことはーっ,前輪は空気圧=大気圧。たはっ。それにしてもよくもまぁビートが外れもせずドライヴできたものである。

カタナはチューブレス_タイヤの筈で,その構造上バースト以外のパンクは考えにくい。臭い順に言うと,

  1. バルブの気密が不良。
  2. 異物がストロウ状にタイヤを貫通している。
  3. リムが変形してエッジに隙間がある。

2.でなければもうタイヤかリムを交換するしか打つ手は無い。大変な出費である。しかもタイヤかリムか換えてみるまではどっちが悪か解らないのだ。

たまたま何らかの原因で空気が抜けただけかもしれず,確認の為にもGSで給空してもらった。これで駄目ならもう駄目だ。
GSで2.0kg/cm2にして10kmくらい走って測り直したら果たして1.8kg/cm2,20km後は1.6kg/cm2である。翌週は1.4kg/cm2,明らかなハイ_ペイスだ。最早これまでと観念し,バイク屋に持ち込んだのが11月の22日という訳やね。

ガレイジに居た兄ちゃんに見てもらっている間は店の親爺と世間話である。と言って共通項はバイクしかないのでバイクの話をするのだ。
今度でたジェベルは良いですねえと僕が口にした,これが1万円5万円10万円運命の分かれ道であったのだった。
ジェベルと言うはスズキの新作オフロード_バイクである。何回か前の神奈川月記で理想のオートバイはDR改だと書いた,それが正にこのジェベルなのである。
欲しいなぁと言う僕の言質を取って親爺の商売っ気は全開,さぁ買い換えましょうと迫る。余りの急襲によろけた僕は,もしカタナを下取りに出したら幾らになります?と口走った。高高10万かそこらの金額だろうと思うから,そんなのじゃあ金が無いから無理ですよといなす腹もあったのだ。じゃあ見積もりましょうと電光石火のローン組み替え金額と下取り価格の提示,カタナの1年落ち・3000km走行車はなんとびっくり30万円の値が付くと言う。半額以上だ。僕は徳俵に辛うじて足を残し,で・でも立ち転けを2回したしステッカは剥しちゃったしあちこち錆びてるしとあのここな正直者めがと化してコダチを貶めに掛かる。親爺,コダチのぐるりを4秒で1周し,いや大丈夫大丈夫と断定した。うむー,押し出されてしまった。

この突然の交代劇,コダチを知る人には評判が悪いのだが,僕自身が誰よりも深く意外の念を抱いておるのだ。
ただ商談中の10分たらず店内を絶えず渦巻くゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴの心理音・ドンドンドンドンの心音・Go!Go!Go!Go!と囂しいインナ_ヴォイス,これらに抗することが至難だったのは確かである。もともと僕はオフ車を買うつもりだった。むしろコダチが割り込んで来たのだ。今でも・そしてきっと将来とも一番すきなオン車はカタナである。でも僕はオフ車に乗ってみたいのだ。憧れのカタナに1年余り乗って僕は非常に満足した。コダチに飽いだとか厭になったとか言うんじゃないよ。コダチが潰れるまで乗ってそれからと言うのでは後10年は軽く掛かる。そりゃあコダチを持っておくに_かでない,しかし2台はとうてい維持できんのよ。くそ,わしゃ誰に言い訳しとるのだ。

発注から納車までの2週間,街でカタナを見掛ける度に胸の内がちくりとしコダチに跨がる度に素性の良さに感じ入った。どうもペットを取り換えたような後ろめたさがどこかに残るのは,カタナが余りに生き物然としているからだろう。善い人に巡り逢って幸せに暮らしておくれとやっぱり祈ってしまうのだ。

ジェベルは'DJEBEL'と綴る英単語で「山」の事らしいが,アラビア語源(JABAL)からして特に南西アジアから北アフリカに掛けての山や丘陵を指す。と来れば愛称はこれしかない,「ヤマさん」である。
スズキの4スト_トレイル車DR250Sの新ヴァリエイションであり,兄弟にDR250SHEがある。3車とも同じエンジンで,Sに例の車高調整機構とセル_モータを載せたのがSHEだ。ジェベルは車高調整を省略してギア比と点火時期を変え,思い切りよくツーリング_ユーズに絞った設定を施してある。
元元このジャンルではホンダのXLR250シリーズが長く王者として君臨しており,ヤマハはヤマハでセロー225をリリース,獣道を爆走中だ。スズキはどっちも今一。それじゃあってんで4スト_ツアラ(オフ形態の)を新設し,わしもチャンピオン_タイトルが欲しいってなところではないでしょか。
S・SHEと大きく違う装備は正立サスと巨大なヘッドライト。従来のフロント_サスをひっくり返してアウタ_チューブの方を上に持ってきたのが倒立サスね。剛性が高いというのでここ数年重要な売り装備だったのだけれどレースに使わない限りは硬すぎると不評でまた元に戻りつつある,のかやっぱり倒立が主流になるのか微妙なところだ。たぶん倒立が勝つだろう。
それからライトは夜間走行を意識してカタナと同じ60/55Wの大光量を奢った丸型単眼である。ハンドル周りをとにかく軽くしたいのでオフ車は小型ライトが常識だった。わし,ツアラじゃけん明るい方がええけんねと自己主張している部分である。
フレイムとタンクは白・シートが青のシンプルな配色である。ペンキ屋の門柱みたいな汚らしい「ポップカラー」でなくて良かった。タンクに大きく'DJEBEL'のロゴとその下に小さく'FOR TOURING'わし,ツアラじゃけんねとここでも宣言している。

とまぁ上は雑誌記事を読んでの能書きであって,実車はまだ見ていない。何しろ発売日がほんの一昨日(92年11月30日)だ。うちで第1号ですよなんて親爺は誇らしげだったが,そんなのちっとも嬉しくないやい。
乱筆すまぬ,以下次号。

不一

1992年12月2日


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いまラジオにおける演芸番組
 99年4月現在NHK以外全滅である。

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1万円5万円10万円運命の分かれ道
 グリコ『ガッチリ買いまショー』いとこい師匠の口開け台詞。

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あのここな正直者めが
 落語『禁酒番屋』のサゲ。小さん・小三治・文治・柳好・志の輔がやったのをおれ持ってる。

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written by nii.n