神奈川月記9209

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冠省
コダチには燃料計が付いておらず,給油のタイミングに気を遣う必要がある。
タンクは17Lの大容量だがリザーヴの3.5Lを含んでおり,予備はフューエル_コックの操作をしないと使えない。走行中ガス欠で不意にスピードが落ちると追突される恐れがあるし,交差点なんかでエンストした日にゃあ間違い無く袋叩きに遭う。ガボガボンと来たとき──1回だけある──ささっと片手でコックを捻れば済むこととは言え,できれば安全に行きたい。
となると数量的に把握するには距離計に頼る外は無く,ここはどうしてもコダチの燃費を知っておかねばならないのだった。

コダチ

満タンから220km走ってまた満タンにすると云うルーティンにおいて電卓を叩くと,購入時20km/Lちょい割りだったのが16km/L強にまで落ちてきた。それでも自動車なんかに比ぶれば驚異的な数字だろうが,250ccの4スト_バイクとしては精彩を欠く。
実燃費はだいたい定地計測の半分くらいになるものだけれど,コダチのそれは50km/hで43.5km/Lである。やっぱり良くない。原付のエポポはさて置き,同排気量のコガタナは25km/Lを軽くマークしていたのだ。
コダチはコガタナに比して圧倒的に高回転型のエンジンである。常用域は8,000から10,000rpmだ。車の流れに乗るには3速で充分,5速・6速は殆どオウヴァドライヴである。1万回転前後を遣うのは意識的にやっているんで,エンジンの性能曲線に拠ればそこが最も燃料消費量の小さく軸トルクが最大になる帯域なのである。
空冷2気筒のコガタナと水冷4気筒のコダチとで燃費を云云するのは単純に過ぎるかもしれない。そもそも馬力が違うし車重も異なる。あ,僕の体重がコガタナの頃より10kg弱ふえてるなあ。
しかし燃費ってのはよく解らないところがあるね。2ストと4ストとで,また250ccと500ccとで,はたまた5000回転と1万回転とでどうして燃費が倍にならないのかしらん。

コダチの最高出力は1万3500回転のとき40馬力である。因みに最大トルクが1万回転で2.7kg-m。馬力とトルクのピークが何故にずれて現われ,そも馬力とトルクとどう違うのかさっぱり解らないがその辺はまぁうまいことなっている。
馬力はマフラを交換するだけで簡単に向上させられるそうだ。カタナのような人気車でスポーツ_タイプのバイクにはいろんなガレージ_メイカからいろんなマフラが山ほど市販されている。音を大きくすることだけが目的の莫迦垂れ暴走族が付ける奴はともかく──あれだけ己の莫迦を表明したがる連中も無いもんだが──ただでさえ購買層の薄い商品に欠陥品や違法(騒音規制)品を売って恨まれては死活問題である。メジャ誌に載るマフラは力作揃いと考えて良い。

優秀なエンジニアとノウハウを抱えたスズキの純正より町工場のアプリケイションのほうが高性能というのはちょっと妙な気がするね。
実のところカタナの40馬力は絞りに絞り出した特性ではない,例に依ってメイカの自主規制が絡んでいる。もともとハイパワのエンジンをあの手この手でデチューンした結果なのだ。また出力と耐久性は表裏一体のものであり,数年を経ずしてお釈迦になるようなパーツを大メイカが付けたがる訳が無い。コストの問題もある,数馬力かせぐのに高価な材料を職人芸で成型したのでは割りに合わないのである。
コダチのマフラはただの鉄板を丸めて黒く塗った物だ。2000kmかそこらの走行でエキパイ部分は無惨に錆びている。抜けば珠散る氷の刃と来なきゃいかんのに抜けば粉散る赤鰯だ。刀が錆びてちゃしようがない。

マフラを換えようかなと思ったら,どう云う訳か数多あるバイク誌が一斉に「マフラ&チャンバ特集」をぶちかましうまい具合にコダチの12箇月点検が近付いた。おお,欲望の街。さっそく検討しよう。
錆を嫌って交換するのだから材質はステンレスかチタンてところが相場だね。クロム_メッキじゃ中途半端だ。
チタンは高価すぎて手が出ないからパス,ステンレスならうまく灼けると虹色から真っ黒へ変色してごっつええ感じになる。運悪しく雨で冷やされると斑になるものの,なに,磨けば何度でもやり直せるのだ。
スズキと言えばヨシムラと決まっている。スズキのレイシングマシンのチューニングで名を馳せたポップ吉村が創始者のパーツメイカで,最近あんまり勝ってないけどチューンナップの王道で定石で常識で安心なブランドである。ここのステンレス製「ドラッグサイクロン」なら文句は無い。
対立候補は大真工業のアルミ_マフラかな。これには大きく「DIC」と刻印があるのだが──Daisin Industry Corporationてなところだろうか──オートバイ関係にはもうひとつDICがある。それは意外にも大日本インキであって何故かヘルメットを作っており,やはり大きく「DIC」と額にロゴが這入る。Dai-nihon Inks Corp.かねえ。
さて,マフラをアルミで作るのは一にも二にも軽量化が目的である。鉄の1/3ほどの重量に収まるが,耐蝕・耐久という点ではそんなに優れる訳でない。知ってのとおりアルミが錆びると黴が生えたようで一段と汚らしいものである。今回の主旨には沿わないから見送ることにする。

早いもので,コダチに乗るようになって1年が経つ。12箇月点検があってまた物入りだけれど,この点検は心待ちにしていた。
と言うのもリアタイヤに木ネジやら鉄片やらガラス粒やらがボゴボゴ刺さったままになっているからだ。自分で抜いても良いのだがタイヤの空気圧とは莫迦にならない物であって,厭がらせに重トラックをパンクさせようと鑿を突き立てた爺いが吹き飛ばされて圧死したと云う事件もある。まあ,コダチの2kg/cm2くらいでそんな悲喜劇は起こらないだろうが,空気圧ゼロのバイクを引き摺って行くのはヘラクレスだって二の足を踏む。
コダチのタイヤは チューブレスでまだ肉厚たっぷりだから放っておいても大丈夫,プロに任せるつもりだった。それにこの間の立ち転けの一件があるしね。
なんて言っていたら,また転けてしまった。それも点検に出さんとした単車屋の真ん前だ。か・恰好わるう。Uターンするんで中央分離帯を乗り切ろうとしたらブロックが高くて前輪が滑り落ち,為す術も無く横転だあ。今度は右側,偉いもんでクランクケイスの他はまたしても無傷であり,ちょうど左右1対の削れができたことになる。ひょっとしてコダチはクリスチャンか。それにしてもお店の人には見られなかったのは幸いだった。

12箇月点検は車検の無い250ccバイクにとって最高度の整備システムである。点検項目は6箇月点検よりぐっと増え,消耗品の交換も多い。ちょいとした洗車サービスも付いて2万5000円余。
6箇月点検に1万円ついやしているから,車検が無くても中型2輪の維持には年間3万5000円程度かかる勘定である。オイルや点火プラグの交換を省略すればもう少し節約できる。これを高いと見るか安いと見るかはオーナ自身の手の掛け方で違うだろうが,僕の場合は文句を言う筋合いでない。

え?あぁマフラね。止めました。
コダチを購った店に訊くと,市販マフラは売ることは売るけど取り付けはしないと。別に市販マフラを付けたら違反という訳じゃないんですよ,全国二輪車用品連合会認定の物ならば。でもそこは純製品しか組み立てない方針であると。
一見無責任のようだが,自分ででけへん奴が恰好つけんでええという態度は実に正しいものなのだった。

不一

1992年9月6日


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コダチ・エポポ・コガタナ
 おれのバイクの名前。順に GSX250S KATANA・PV50 EPO・GSX250E。

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欲望の街
 宇崎竜堂の同名曲から。宇崎ソロだったかDown Town Boogie Woogie BandだったかDown Town Fighting Boogie Woogie Bandだったかは憶えてない。

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written by nii.n