神奈川月記9201

前月目次次月


冠省
災難はどこに転がってるか判らないてえなぁ,ここんとこを言うん。

ハード_コンタクトレンズのお手入れなるもの,ソフトのそれに比べりゃあ楽ちんなんだろうけれど僕にとっては充分めんどくさい。脱着の手間を厭うのはまぁ反則だから措くとして,毎日コンパウンド入りの洗浄剤で磨き親水性の保存液に漬けておくと云うのはパンツを穿き替えるのより億劫でつまらない作業である。それを譲っても朝あわただしい時にわざわざ手を石鹸で洗って──指の脂は非常に具合が悪い──レンズを嵌めるのは気忙しないし僕は手や顔の濡れるのが大嫌いなのだ。また冬場つめたい水に触わるのは誰に訊いても苦痛である。悲しいかな,熱変形するから湯は使えないのだ。

何とか不精をしたいものだ。ソフト用なら煮沸器があるそうだが当然転用は利かない,と思ったらソフト・ハード兼用のがあると言う。これを入れて機械化しよう。
実はこの器械の存在はオペレイションC発動前から知ってはいた。ただいつ無くしたり厭になったりしてコンタクトを止めちまうか判らなかったんで二の足を踏んでいたのである。しかしどうやら習慣づき,もう良かろうと云う気になった。贔屓の『通販生活』を利用して買ってみる。

動作は単純である。保存液(生理食塩水で良い)とレンズを小さな釜に入れて電熱で煮る,とは言えハード_レンズなら煮沸の必要は無い訳で,これが兼用器たる所以は超音波を発生してレンズを揺さぶるところにある。
ソフト_レンズの含水率の多寡・それからハード用と都合3モウドを有し,おのおの加熱温度が異なると云う事だ。言っちゃ何だがそぐわない,中国製である。中国製の癖に「ソナセプト」などと云う。7万Hzくらい出るのかな。
とにかくこれでレギュラの洗浄と保管に要する手間を一挙に自動化できた。めでたしめでたし。

釜にセットする際はレンズを専用のバスケットに収める。バスケットは瓢箪型で各房がレンズのカーヴに沿って彎曲しており,裏表をきっちり守らないと蓋を閉められない。大抵は濡れた手で扱うから──眼に嵌める時に手を洗うのは変わらないのね──レンズが指に喰っついてしまい,なかなか離れなくていつも難渋する。
始めの内こそ慎重に丁寧に収納していたが,或る日バスケットから食みだしたまま蓋を閉じようとした。つつっとレンズが滑って自然に収まるのを期待したのである。

きちきちっと音がした。

あっと思ったがもう遅い。急いで取り出して見ると,レンズの真ん中に2列クラックが這入っている。遅刻しそうな朝の折りでもあり──僕だって遅刻はなるべく回避したいと望んでおるのだ──さすがにこれを眼に載せる勇気は無く,急遽コガタナ眼鏡を引っ張り出した。眼鏡で出勤するのは実に7箇月振りである。
そのまま1週間はコガタナ眼鏡で通して,誰も何とも言わない。コンタクトに換えたとき周到にダテ眼鏡を用意したにも拘らず複数人に見破られたと言うのに。
何かねえ,俺ってあんまり注意されてないのかしらん。ちょっと寂しくなってしまう。


コダチ(GSX250S)と一所に買った銀色のヘルメットが無くなってしまった。盗まれたのではない。コダチから離れる時はヘルメットを抱えて行くし──シートをいったん取り去らないとヘルメット_ホルダが現われないと云う仕様上の欠陥がある──最後に被ったのは家への帰り道だったから部屋に持ち込んだ筈なのだ。
翌土曜日すっかり支度を済ませていざ乗ろうとするにいつも置いてある玄関口にヘルメットが無かった,忽然と消えていたのである。平日は完全に意識に無くて1週間まるまる放ったらかしだった。慌ててあちこち見て回ったけれども,ま,見付かるわきゃん無い,おおお
たぶんエレヴェイタ_ホールのベンチにちょっと置いとくつもりだったのを忘れてしまい,そのまま誰かが持ち去ったのだろう。管理人が預かっているのかもしれないが,彼は土曜日は半ドンで既に帰宅しておりまた一度敷地内に停めといてお咎めの貼り紙をされた(違反である)事もあって彼とはバイク関係で気まずいのだ,ちょっと確認する気にはなれない。こりゃ参ったね。

到底でてくる物ではないから新しいのを買う他は無い。
無くしたのはアライのオウプン(ジェット)型で非常に軽く,頬パッドもあって誠に座りが良かった。値段は手頃だし同じ物を買い直して間違いは無いのだが,それも業腹である。一時期オフロウド_バイクを研究しており──カタナが発売されなければ迷わずオフ車を買っていた──あの奇怪なシルエットのヘルに馴染みがある,あまつさえ好感を抱いている。
実はコダチの付帯としても僕はオフヘルを所望したのだけれど,それは店のオヤジに一蹴された。似合わんと言うのだ。そうかなあ,でもやってみようっと。

オフヘルのシェイプは好みでもゴーグルは厭だ,是非ヘル本体にシールドが欲しい。そうなるとシールド付きのはほんの数種しか無くリーズナブルな物はひとつだけだからあっさり自動的に決まってしまう。
ショウエイの白い奴だが,オフ用と決まった物でもないようで商品名にも「ツーリング」が織り込んである。まあ本当は全然ちがうんだけど,ダース_ベイダー配下の下級兵士をイメイジすれば一番ちかかろう。
アライのと同じくらいの値段でありながら質感はがっくり落ちる。確かに成型しにくそうな形状でありコストは高く付きそうだ。しかし肝心の被り心地は勝るとも劣らず,案じたように重くもないし視野も妨げられない。フルフェイスだけに呼気でシールドが曇りやすいのだが,それもベンチレイションのお陰で走行中は快適である。
意外なほど効くのが長く張り出した庇だ。夕刻あかく膨れた太陽を直視しないで済む。
難点は,あー,眼鏡を掛けたまま脱着ができないね。ヘルを被ってから眼鏡を掛けるのがひと苦労だ。チン_ガードが邪魔で知恵の輪のように眼鏡を傾け傾けしないと這入らず,また力技で押し込むようなところもあってフレイムへの負担は無視できない。どうもコンタクトでないとうまくないねえ。
これで話が繋がった。やはりコンタクトを作らにゃなるまいよ。


このたび破ったのは右のレンズで,先般スパゲッティ屋を紛失未遂で騒がせたのも右側だ。本来,右は未義であって,不信と裏切りの方位なのである。
コンタクト屋に直接でむいて,右のコンタクトを割っちゃたんですけどと申し述べるに,あなたは前に左右を間違えてらっしゃいましたね。ア,ソンナン記録ニ残スナー。ちょっと調べてみましょう,今度は合ってました。クソ。同じ物をお作りになるんでしたら今日は在庫が無いんですけど,このほど出ました新製品ですとすぐにできますが。ウマイネ,ドウモ。これは酸素透過率が更に良くて,色がブルーですから左右の間違いが無くなりやすくなりますよ。無クナリヤスイテエナァ何ダ,無クナリヤスイテエナァ,あ,じゃあそれにします。

ブツは「HARD/EX」と名付けられ,1枚なんと2万5000円だ。悔しい事に破損保証の期限を半月ばかり過ぎており容赦なく新規購入の扱いになる,こう云うとき天に悪意を感じるね。
右はブルー・左がピンクと云うディヴィド_ボウイ的状況となったが,干渉して紫が見えにくくなると云うような事態は起こらない。物理的にレンズが薄めなのに加えて酸素透過性に優れるぶん脆弱さは増す訳で,よりデリケイトな扱いが必要となった。

家へ帰るとすぐにコンタクトは外してしまって眼鏡を使っている。このあいだ風呂上がりに頭を拭いていたら思いきり眼鏡を踏んづけた。小気味よくぐにゅりと云う感触を得た。
単なるオブジェと化したフレイムは何とか手で実用レヴェルにまで復元したものの焦点の狂いは明らかだ。もう1回やったらオシャカだろう。つまり近近また数万円の出費が控えている訳である。


半年前にワープロを交換した,つまり今たたいているキャノワードN3。交換したのはひと重に前機α5SUPERの不調に因る。
ところでN3はいわゆるノート型でプリンタは装備されていない。当然プリンタも合わせて買わねばならなかったところだが,その時は先送りにしてしまった。何故と言うにまず金を惜しみ,次いでα5の印刷機能が完動であるのを鑑み,そしてBJプリンタと熱転写とどちらにすべきか決められなかったからである。

BJと熱転写との優劣を言えば,パフォーマンスは同等・ラニング_コストでBJの圧勝である。ただしBJはプリンタそのものが高価なので償却を思えば購入後数年間はむしろ割高となる。
心配なのはメンテナンスの保障だ。何しろキヤノン一社の技術だし,今でもBJインクカセットの販売ルートは限られているのだ。将来性がいちばん気になる。
それでも実は内心BJを採るつもりではあった。インクを沸騰させてパイプから射出すると云うようなテクノロジィが僕は好きなのである。一方で独自性を尊び一方で将来性を憂うのは,矛盾してはいないが一種の賭けを伴う。ま,大丈夫だろ。

棚上げしといた半年の間にBJの新製品が出やせんかとすけべ心でいたのに,モディファイはプリンタ一体式のラップトップ_ワープロばかりで単体プリンタの方は変化なかった。
ラインナップの価格差が激しく,N3に付くBJで最廉価のしか買えない。CW-BJ15である。それから予て懸案の自動給紙装置を奮発する。マウスも繋ぐつもりだったけれども,N3の場合つくには付くが実用にはならないと知って諦めた。ゲイムにしか利かないのだ。

もともと囲碁を覚えようとして始めたファミコンなんだけど今や完全に開店休業状態,と言うのは嘘でとっくに捨ててしまっている。なに,最初からファミコンらしいソフト(ドラクエとかマリオとか)には興味も無くて,専ら麻雀ゲイムが刺さりっ放しになっていたのだ。
ある日4人打ち麻雀をやっていると,他の3人はどう考えても結託しておりしかも僕の手牌を覗いている。怒って,てめえらツルんでやがんなーとコントロウラを本体に叩き付け,これで俺は血も出ねえよと嘆じたところ,イカサマの露見をごまかす腹か以降正常な動作をしなくなった。狂人の振りをしているのだ。何と言う卑劣な奴だ,生かしてはおけん。直ちにバラして燃えないごみに混ぜてやった。
天誅は果たしたが麻雀はやりたい。尤もろくに役を知らないし点数の計算ができないから所詮コンピュータが僕の友達。
ファミコンの麻雀ソフトには懲りたのでキャノワード用のを取り寄せる。諸君,昨今はワープロのCPUを用いるゲイムソフトがあるのだよ。あ,知ってた。

不一

1992年1月5日


前月目次次月


るわきゃんない,おおお
 Billy Joelじゃなくて桑田佳祐『My Foreplay Music』の一節。初出時"Foreplay"が前戯のコトとは気付かなかったなあ。

戻る


これで俺は血も出ねえよ
 映画『麻雀放浪記』で鹿賀丈史が確かこう言ってた。

戻る


written by nii.n