神奈川月記9106b

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冠省
オペレイションCの続続続報である。
コンタクトは飽くまでも医療器具なので定期的に検診を受ける必要がある。厚生省あたりから何らかの指導があるんだか無いんだか*******は装着開始から1週間後・1箇月後・以降3箇月毎と定め,遵守してゐる。この診察は無料である。先日は1箇月目に当たるそれへ行ってきた。

黒目に異状の無いのは何よりだったが,このレンズについての不満は燻ってゐる。即ち輪郭がシャープでない・電燈が滲む・左右で見え方が違ふ。
購入から1箇月は調整期間と云ふ事で,こんなんあかんでと文句を垂れると只で作り直して貰へる事になってゐる。購入から6箇月は破損保証と云ふ事で,こんなんなったでと泣きを入れると3000円で作り直して貰へる事になってゐる。ただし紛失保証ではないので破片を持って行かないと駄目だ。この辺お札の交換に似てなくもないネ。
僕の買ったレンズはHOYA社製の,その名もキラーズぢゃなかった「ピンキー」である(笑)。ハードに限れば外に「オーピー_アスフェリック」「キャンパス」がある。後2者は非酸素透過性の安物で「オーピー」は透過型の普及版だ。「ピンキー」は最高級品なのである。高い筈だ。

1箇月目の検診は調整期間の最終日でもある。これを逃すと最悪の場合レンズを正規の値段で作り直しと云ふ事になってしまふ。ナニ,さうなったら叩き割って破損保証に持ち込めば良い,でも全く同じ物を作るだけの保証かもしれないではないか。右記の不満を申し立ててみなければ収まらん。

結果から言ふと,交換は適はなかった。

ハードレンズの直径は6mmで,角膜よりも(何故か)小振りにできてゐる。また角膜に接してゐるのではなくて涙の海に氷山の如く浮かんでゐる。
それで瞬きをするとどうなるか。瞬いて瞼が上に開いて行く時はレンズも一所に持ち上げる。開き切った途端に今度は重力の影響を受けてレンズは角膜の下端まで滑り落ちる。この繰り返しである。目玉を素早く動かした際も慣性と重力とで同様の現象が起こる。コンマ何秒かで数mmの移動をする訳で,サブリミナル的に矯正率の違った光景を知覚してゐるのである。
ソフトレンズは角膜をすっぽり覆ってしかも貼り付いてゐるのでそんな不具合は生じ得ない。言はばハードの副作用なのだ。街灯の滲みや斜視矯正の甘さもハードの癖なのださうで,慣れる外は無いが慣れる人は居ないとの事だ。あのな,さう云ふ事ぁさき言へー!

視力そのものは1.2の好成績である。視力と云ふのは要するに眼の分解能の度数であって,互ひに離れた2点(または線分)を識別できる最小視角の逆数を採ったものだ。具体的には,5mの距離から1.5mm離れた2点(視角が1分)を読み取れたら視力1.0である。充分な照明の下に静止した記号を用ゐて測るのが普通なので,現実のごちゃごちゃした世界とはあんまり関係が,うーん,無いと言へば無い。
ついでながらジオプトリの意味も判ったから書いとかう。ジオプトリはディオプトリとも言って厭味っぽく発音すればダイアプタルだな,"diopter"と綴る。英語らしい。その意味する所は,眼鏡レンズの焦点距離の逆数である。光学関係は逆数がお好きね。
右から僕のコガタナ眼鏡の−7.0Dとは焦点距離が14.3mmであると云ふ事実を指してゐたのだった。

レンズの脱着も随分うまくなった。以前は3日かかってゐたのが今は3分だ。
ただ上達につれて扱ひがラフになってをり,そのうち落としたり流したり(水洗ひ中)左右を間違へたりするのではないかと──レンズには何の刻印も無いので一度まちがへると肉眼では区別できない──恐れてはゐる。破損なら交換に走るが,紛失だと多分,作り直しはしないだらう。


カセットはもう買はないと決めてより2年に垂とす。なんとすぐゎてまらきりまんじゃろ。しかるに漸増とどまり無ければ,収納キャビの追加も止むを得ぬ事と思ひ侍りぬ。固よりカメラのドイにて値1000円のキャビを見付け候ふに,嵩張るも厭はず駆け寄りて購ふ姿いとらうたげなりと人の言ふなり。

対訳。

カセット_テイプはもう買はないと決めてから間も無く2年が経たうとしてゐる。サントス・グヮテマラ・キリマンジャロはコーヒーの産地である事よなあ。さうであっても少しづつ増えていくのが止まらないので,収納箱を足すのも止めるのを止められなかった。カメラのドイで1000円の箱を見付けた所,嵩張るのも嫌はないで駆け寄って買った姿は,まるで宴会のやうだと人の意見に従った。

45点。

3分割の引出に45巻収容できるお馴染みのキャビが6箱の時に生テイプを買ふのを止めてしまったにも関はらず尚じりじりと増え続け,たうとう8箱目に突入した。あれは普段はだいたい2000円くらゐなんだけど,そこで買ふのは阿呆である。辛抱強く待てば必ずバーゲンに掛かる。たまぁに800円まで下がる事もあるが1000円なら買ひだ。

増分は専ら落語の市販カセットと,あと人様からの貰ひ物が少少である。
エアチェックはとっくにVCRやPCMに移行してゐるし落語ソフトの購入もそろそろ頭打ちだ。そんなこんなでペイスダウンは必至とは言へ,まだ成長は見込まれる。
十数年かかって300巻強と云ふのは,少ない方ではないかと思ふ。それと言ふのも僕が重ね録りばかりやってきたからだ。精選凝縮ライブラリかもしれないが,お陰で珍品・ゲテ物・後追ひで価値の出た物などもずいぶん失ってゐる。

自分の著作物にはうるさいが,他人の著作権には鈍感である。正直言ってなるべく金を掛けずにコピイしたい。未だ大した経済力ではないのだ。高性能な「記録機」(レコーダ)に拘泥するのも無理からぬ話と鬼神も落涙に堪へないであらう。
レコーダと言ふからには重ね録りができなければならない。1回だけ書き込みのできる(ワンス_ライト)CDがあるらしいが,そんなのはシャツの4番目のボタンと一所であっても無くっても良い物だ。

現在ぼくの所有するオウヴァライトの媒体と言ふと,まづカセット,それからヴィディオ・フロッピイ,これだけか。市井に目を転ずればマイクロカセットやDAT・パソコンのハードディスクも勘定に入れられる。みんな磁気記録だ。
留守電のヴォイス_メモリなんかの半導体(IC)もお仲間だが,あれは電源を落とせば御破算になる。パケイジ_ソフトには使へない。

DATは相変はらず売れてないらしい。据ゑ置き型がやっと8万円台まで来たとは言ひ条,一般大衆にはまだまだ浸透しないだらう。ブレイク_ポイントはやはり598だ。尤もVCRもCD/LDコンパチも6万円台で足踏みを続けてをり,DATの低廉化もその辺りが限界ではないかと云ふ気はする。

ところで今のDATはCDのコピイマシンでしかない。コピイマシンなら既にカセットが熟成の域に達し,しかも普及し捲ってゐる。DATなぞ植木等ぢゃあないがお呼びでない。
オウディオ機器の命は一にも二にも音質であるが,こと普及に関しては二の次である事が判ってゐる。まづ操作性と値段,それからデザイン・ネイミングが鍵を握る。カセットだって市場を制した後に改善を重ねてここまで進化してきたのだ。
DATは確かにカセットより劣化は少ないし付帯機能も遥かに多い。しかし操作性は変はらない。カーDATも無(いに等し)ければソフトも無い(に等しい)。ミニコンポにもラジカセにも載ってない。まづマニアを落とさうと云ふので一般にはろくにPRもしてゐない。多分DATなんて(言葉も)聞いた事が無い人の方が多いんぢゃないだらうか。そんな物が売れる訳が無い。

PCMを持たずFMがきれいに這入るやうな環境だったら僕の事だからきっと買ひ込んで誉めちぎってゐたらうね。ところがはやってゐる歌は糞や滓ばかりで手間暇かけてエアチェック_テイプを作るだけの魅力に乏しく,CDのコピイにしても僕の欲しいのは植木等やら桂文楽やら太田裕美やらで誰も買ひやしないものばかりだ。だから自分でCDを買ふしかない。現実には僕にとってもDATは無用の長物だ。
だが何よりも買ひ控へを促しめるのは,DATはディジタル録音の決定版たり得るのかと云ふ演繹的疑惑である。

案の定新フォーマットが発表された。かう云ふのを言ひ出すのはまたソニーかと思ひきやフィリップスだった。これは意外,でもなくてカセットもCDもオリジナルはフィリップスである。そして今度のフォーマットは,何と,カセットテイプを使った,固定ヘッドのdcc(dIGITAL cOMPACT cASSET)だ!

固定ヘッドでリニア_スキャンのディジタル録音には,商品化されてはゐないがS−DATがある。現行のDATは回転ヘッドでヘリカル_スキャンのR−DATである。そのどちらも蹴っ飛ばしてdccを実用化するだけの意義があるのか。
dccは現行アナログ_カセットのタイプIIをそのまま流用するのである。更にテイプ速度も同じにし,加へてオウト_リヴァースの往復録再にする。お負けにカセットハーフも同寸法にしてしまふ(ハーフそのものはシャター付きの新設計)。
と云ふ事はテイプ_メイカは専用テイプの開発が要らず,デッキ_メイカはヘッドさへ付け換へれば走行メカも支持メカも新たに起こさないで済む。往復走行だからヘッドの遊んでゐる側へついでにアナログ用のギャップを刻んでおけば,今までに録り溜めたカセットを再生できるのだ。これはもうカセットの正当な後継者と言へる。大ヒットは約束されたも同然である。dccは間違ひ無くDATに引導を渡すだらう。

しかしながらカセットと同じ面積でディジタル録音できるものだらうか。
その疑念は尤もであって,それが簡単にできるくらゐなら初めからやってゐる。実際カセットのレギュレイションではDATの1/4の情報量(4bit)がやっとである。当然さまざまな圧縮が必要であるが,その辺は,まぁ,うまくやってある(勉強してねえでやんの)。

さてdccに呼応するかのやうにHi8のPCMにもモディファイが加へられ,8bitから16bitへジャンプアップ,DATに拮抗する特性を得る事になりさうだ。
dccにはカセットの莫大な資産が,Hi8にはS−VHS並みの映像がバックに付いてゐる。商品化は早ければ来年の春だ。諸君,どうやらDATはエルカセットの二の舞ひである。決して手を出してはならない。

一応の結論が出て良かった良かったと思ったら,さうも行かない。
dccもHi8もDATもカセットもヒモである。前にも書いたがVA媒体の最終勝利者は予め判ってゐる。それは録再可能なディジタルLDだ。つまりサラである。
ヒモの利点は記録時間を長く取れる事である。反面ききたい所が離れてゐると巻き戻しや早送りに時間が掛かる。一方サラは記録時間よりもアクセス_スピードがポイントである。ある程度の記録時間を確保できたら──最低1時間──ヒモよりもサラの方が操作性に優れ,従って覇権を握りやすい。

今度はソニーだ。光磁気ディスクに依る74分の音声録再『ミニディスク』システムを発表した。
こちらも圧縮型の量子化である。レーザ_ピックアップの非接触方式で外観は3.5in.FDそっくり・大きさはCDの半分程度,CDとの互換性は全く無い。

気の早い話だが,ポスト_カセットはdccとミニディスクの一騎打ちになりさうである。スペックは互角・記録時間でdcc・アクセス時間でミニディスクと云ふ事にならうか。DATは蚊帳の外になるだらう。
単純に比較すればミニディスクに分があるのだけれど,dccがカセットとの上位互換性を持つのは何よりの武器になる。また予定通りならdccが半年ばかり先行して発売されるのも強みだ。
もうひとつ,言ひ出しっぺがソニーだと他のメイカがそっぽを向くのではないかと云ふ懸念。ソニーのフォーマット乱立癖に惑はされ泣かされた人は多い。βとPCMでソニーを(否応なく)支持する僕も今度ばっかりはdccを選択したいね。

不一

1991年6月26日


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