東京月記8901

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冠省

またまたVCRの話である。御寛恕願ひたい。

SL-HF95D・EDV-5000・EDV-7000と,高級VCRが3台ある。3台あっても仕様が無いので1台は処分したいがなにぶん差別や弾圧を受け安い少数民族(ベータ)だ,幾ら本質的に優れてゐるとは言っても普通の人には薦められない。こりゃ参ったね。

何人かに声を掛けて喰ひ付きを待ってゐたら甘木の友達が95Dか5000番かどちらか買っても良いと言ってくれた。誠に以て難有い。盲亀の浮木,優曇華の。
単体で使ふならEDモウドの5000番で決まりだが,7000番のパートナとしては95Dも5000番も一長一短である。ED・SHB・HB・非HBと全モウドを押さへておく方が有利とも言へるしED通しのダビングにも琥珀のやうな魅力がある。

どちらかと云ふと95Dを御所望と聞き及び,僕自身βIsに未練はあれど一方で売りたがり一方で惜しがっては何だか判らない,7万円と値を付けて──良心的だな──甘木に間に這入って貰ふ。

7000番を動かしてつくづく思ふのは,FEヘッドとシャトル_エディタの有用性だ。これ等を欠くVCRはバック_ギアの無い自動車に等しいのではないか。

各メイカが鎬を削るVHS機と違ひβでFEヘッド装備機と言へば9000番と7000番・3000番の3種だけである。オウディオ雑誌の広告に3000番の中古の出てゐるのを(読者間の売買欄ではない)見付けてしまった。僕の中に陰謀が湧き上がるのを感じる。
5000番を単独では売らないが95Dとセットで買ってくれれば13万にするよと甘木の友人に使嗾を試みた。これなら95Dと5000番とどちらを売り飛ばすか逡巡しなくても済むてえもんだ。

誠に虫の良い慫慂であって此れが通るとは思ってゐなかったのに,豈図らんや甘木に依ると大いに乗り気らしい。本当に意外だ。

13万円と云ふ値は雑誌広告に於ける3000番の評価額である。ソニーの主力VCR2台の価額としてはおいしい値段だらう。88年7月現在のVCR総合カタログに3000番は掲載されてはゐるものの生産終了マークが付いて扱ひが小さい。一応ソニーのお店に当たってみたがやはり入手は不可能,流通末端に展示品が残ってゐるのを捜すしか無ささうだ。

自分で中古品を売り付けといて言ふのも何だが,僕は中古が嫌ひである。取り分けVCRのやうな精緻極まる回転メカで人のお古は厭だ。展示現品も同じ事だな。秋葉原中ひっくり返せば3000番の新古品が見付からないとも限らないがまづは絶望的で,さうなれば7000番を買ふしか無い。7000番のカップリングかぁ。良いなあ,さうすっか。

VCR2台を買ってくれる奇特な御仁は**県などと云ふ誰も知らない所に住んでゐる。草昧未墾の地に行くのは厭だ,クロネコに運ばせよう。受け皿になってゐる近所の酒屋から無事発送した。

一般名詞にまで昇格した「宅急便」は縦横深さの合計が120cm以下の直方体に限られるさうで,梱包したVCRはどちらも僅かながら此れに抵触する。因って余り急がずに配達される「ヤマト便」なる扱ひになった。
2個口で1050円に保険料が1500円,えらく安いと思ふ。保険加入は必須であって,また重量は料金に関係しないやうである。重いのより嵩張るのを気にしてるんだな。


88年全レコードの総売上高の内LPの占める割合は,何と5%だったさうである。5%。対CD比は実に1対19だ。勝負あった所では無い。僕の予想よりずっと(何年も)早い。これでは早過ぎる。
尤も中級カートリジと同じ値段でちゃんとしたCDプレイヤが買へるとならば,誰かて転向するわいなあ。
これでアナログ人口は下限まで達したと言へよう。シェアが5%より下がる事は無いかもしれないが,商売にはなるまい。21世紀まで持つかな。心配だ。


コガタナ(GSX-250E)87年の5月頃バックミラーを盗まれたのに懲りて愛車コガタナを松戸の寮に移して早1年が経つ。この間,様子を見にさへ行ってゐない。87年8月で強制保険が切れてしまったのが最大の原因ではあるものの,松戸まで電車で行って乗る程の用事も時間もある筈も無い。コガタナは脾肉の嘆を託つ内に廃車の手続きを取られる事と相成った。ぐっすん。

この辺の車を見ると,みな練馬ナンバである。納税の絡みもあっていつまでもコガタナを**籍に置くのは得策でない。
花鳥に練馬陸運局に連れて行って貰ひ,ナンバの更新をしようとしたが此れは果たせなかった。廃車手続きの完了した車輛をこちらで新規に登録すると云ふ形でなければ受け付けないと抜かす。しかしですな,廃車申請は現地でなければできないんですぞ。

**に居る知り合ひで一番頼み良いのは風月である。5月の連休に機会を得て遊*した折りにきゃつに因果を含め──**に行ったついでなのか企んで**に行ったのか**に行く為に休みを遣ったのか良く判らん──廃車証明の取得と預金通帳の更新(第一勧銀)とを押し付けた。

所が此れも(風月の)無駄足に終はる。コガタナに就いては未だローンが残ってをり,とならば僕は使用者ではあっても所有者ではない。それでは廃車にできないのださうだ。

ローンを払ひ終はったのは88年の9月で,3年来の借金は消え,コガタナは虫の息である。長期に乗らない事を予想してオイルを換へガスを満タンにしておいたのだが,マシンは動かしてやらないと傷む。来春引っ越せたら──ちと怪しくなって来た──駐輪場をぜひ確保したい。コガタナの再生は諦めたけれど,単車には乗りたいので新たに購入を考へてゐる。現在最良のデザイン,ヤマハSRX-4である。


使用頻度の高いラジカセのラジオが這入らなくなった。とっても困る。切り換へスウィッチのちょっとした接触不良とは思ふが蓋を開けてあちこち触はってみても直らない。とうにヴォリウムにガリが来てしばしば断線してゐたから,もう買ひ替へる。最後のラジカセのつもりだったのに,持たないもんだな。

現用機はアイワ製で「ビートたけしのオールナイトニッポン」専用機として3年前に**で購った物だ。新しく買はうとするラジカセも同じ使途なので要求仕様は自づと決まってくる。

  1. 録再オウトリヴァースであること
  2. タイマ録音できること

これだけ。外部入力端子があればなほ良い。秋葉原へ行って2万円で買ふ。

驚いた事にたった此れだけの条件の機械が無いんだな。4・5軒回ったが,無かった(更にカタログをかっ攫って徹底的に調べても見付からなかった)。たまたま店に無いんぢゃなくて,どうもさう云ふ仕様の製品をどのメイカも作ってないやうだ。3年前は確かにあった──わし買ったもんね──しかし今は無い。こりゃ参ったね。

勿論この条件を満たす機種は幾らもある。とは言へ其れはダブル_カセットであったりCDプレイヤが付いてゐたりする訳で,みな4万円以上する。こんな物いらない。泣きながら家に帰りもう一度バラして,それでも音が出なかったらダブル_カセットを買はうと考へた。

壊れた週のオールナイトは仕様が無いから7000番を動かしてPCMで録ったが,毎週聞き捨てする番組にいちいちVCRを使ひたくない。PCMやβHiFiだとサーチし辛しね。慷慨し悲憤しつつ家のラジカセをひっぱたくと,直ったんだな此れが。おやおや。

どう云ふ加減か接触が回復してラジオが聞こえるやうになり,買ひ替へ計画はお蔵入りとなる。と思って安心したのも束の間,燈台元暗し,**ビルの1階にあるソニーのお店に展示処分品が売りに出されてゐるのを発見してしまった。
ドデカホーン(CFS-DW80; \43,000)とか云ふ奴で,ダブルカセットである。わらわらといろんな物が喰っ付いてをり煩はしい限りだが,先述の機能を満たすラジカセを2万円台で手に入れる最後のチャンスではないかと恐怖に駆られたうとう買ってしまった。

とにかくでかく重く,中学生が喜びさうな代物だ。10cmフルレンジに加へて背面に8cmウーファ(モノラル)が仕込まれてをりロウドホーンを前面に回して100Hzブースト,これをスーパウーファと称してゐる。殴ったろか。

驚いたのは乾電池駆動のタイマが内蔵されてゐる事で──但し電源オンのみ──お陰でアカイ製タイマがお役御免となった。お役御免と言へば大本のアイワ製ラジカセだが,償却も終はってゐる事だし気前よく甘木に上げるとしよう。

音の方はさすがにドデカに分がある。それにしても,なんてかひってかひ,デザインも使ひ勝手もアイワ機のが可愛気があって良いんだよな。部屋ん中にまたしてもソニー機が増えたのも面白くない(AVに限らず使用中の電器の30%!)。俺は粗**か。

ええ,実はドデカを買ふ気になったに就いては今ひとつ理由があるんだな。こいつにはミキシングマイク端子が付いてゐて,別売りの「ドラムパッド(DRP-1; \4,500)」を繋げばリズムセクションに参加できるのだ。要するに至極簡便なリズムボクス(7パーカション・8リズムパタン)である。こりゃ面白さうですな。これを見付けなんだらドデカを買ふ踏ん切りは付かなかったらうて。


もうひとつVCRの話である。これでおしまひの予定なので捨て置いて戴きたい。

95Dと5000番を売っ払って7000番を買ひ(差額は3万5000円であった)きょう届いた。嬉しい嬉しい。同じVCRがふたっつ重なって鎮座ましましてゐる姿は,ちょっと奇異に感じる。

製造番号は1号機が803462,2号機は807084だ。購入日は2箇月半程ずれてゐるのだけれど,この間に3622台作られたのかしらん。ともあれ此れで再生側も録画側もシャトル_エディタを持った訳で,正逆自由自在,恐るべき精度で繋ぎ録りができる(尤もどんぴしゃと繋げる為には些か訓練を積まねばならない)。

考へてみれば95Dと5000番に費やした金で優に9000番が買へてゐたのだが,そんな結果論を唱へてはいけない。その折り折りで最良の選択をしてきたのだ。
VCRを手に入れると必ず2台目が欲しくなるものであり──別に要らないよ等と言ふ奴は文句無くもともと1台も必要なかった人間である──編集機に適した機種なんて使ってみるまで判らんのよ。

不一

1989年1月吉日

二伸

帰省の際にはお世話になり申した。すんまへんな。

家に帰ったのは8箇月振りだが,兄に会ったのは3年振りくらゐで,親族の集まる場に顔を出したのは,うーん,最後から少なくとも5年は経ってゐる。
兄は去年か一昨年か忘れたけれど結婚してまうけた子を連れて来た。2世代のふた親は手放しで盲愛してゐる。

大体このんで帰省するのも兄までであって,僕を初めとする歳若連(20歳台)は餓鬼の頃ならいざ知らずもはや,わし,親戚なんかどーでもええけんね,それよりはよ帰りたいんよね,と白けてをる。久し振りに会ったからって話し何ぞありも合ひもしねーやな。

2日の晩に東京に戻った。新大阪に着くまで座れなかった。

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コガタナ

GSX-250E KATANAのこと。'E'のカタナは'S'のカタナにはタンク形状以外似てやしないんだけどね。

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こんな物いらない

朝日ジャーナルだったかAERAだったか忘れたが,そういう連載記事があったん。今なぜか大橋巨泉の名前を思い出しているがテレビ番組でもあったかな。(02.3/21記)

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鎮座ましましてゐる

林家正蔵(彦六)師匠がよくクチにしたフレイズ。

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written by nii. n