東京月記8807

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冠省

先の健康診断の結果通知表を見ると,肥満度なる人に依っては大きなお世話項目があった。身長から100cmを引いて0.9を掛けた値で体重を割った百分率である。ローレル指数って奴かな。あたいの場合これが90%であって最低値ながら「標準」を示してゐる。

おーどうした事だベイビ,このおいらが標準だと?  確かに秋から半年で6kg増しだ。どぉこが太ったんだ莫迦野郎と騒いだ所が,それゃ此処でせうと股間を指す野郎が出て来てさぁ大変。さう云ふ話が出ると喜んぢゃって,6kgの配分はどうだ,やはりポコチンと両タマキンで2kg2kg2kgぢゃないか,どうも此の頃歩き難いと思った,こないだ持ち重りがするって誉められたぜ。げらげら笑ってゐると会社の女の子が,何が重いんですかと横から這入って来たりしち。

何のかんの言ってあたしゃ太りましたよ,やっぱり。座ると臍が見えなくなる。臍の深さは即ち皮下脂肪の厚さであって,指の第一関節が埋まってしまふと言ふのは嘘だが爪は隠れる。
しかしながら薄い胸板のすぐ下は未だあばらが浮いてをり,それからまた何となく脂が載ってゐる。おかしな体型だな。
困るのは尻に着いた贅肉だ。拭き残したうんこが汗で溶けて擦り延ばされるらしくて時時かゆくなる。かぶれや痔に進行しては一大事,ビデでも買ふかな。

僕が太ったのとは関係無いけれど,職場を同じくする甘木は僕よりも上背があって僕よりも軽い。先の算術式では推定74%であって,僕のどの期間でもこんな数値は出て来ない筈だ。全く驚異的である。
甘木は未だ20歳そこそこなので元気だが(その頃は僕だって元気だった)歳若くして働き始め終日電磁波を浴び睡眠不足が続いてゐる,今の僕の歳には僕よりもダメイジに喘ぎきっと夭逝するに違ひない。

太ったのも煙草を止めたのも体調の悪いのには影響してゐない。相変はらずの半病人と言ふより2/3病人であって,お医者にも2箇月に1度は診て貰ってゐる。学生の時分は2年に1度だった。隔世の感がある,違ふか。

しかし薬石の効は無く,近頃では時折り結滞が起こる。つまり心臓の鼓動が1拍とか2拍止まるのだ。左胸がひくっとなるので否応無く其れと判るが手首の脈を看れば決定的,突き付けられるやうに欠脈を感じる。これは気持ち悪い。
さすがにびびって診断を仰いだ所が,恐れるには及ばない,気にするなと諭された。結滞なんてのは珍しくも何ともなく,また心臓その物に障害や欠陥がある為に起こるのでもないさうだ。しかし先生,心臓が止まるんですぞ。

トントントン…トントン……トン。内田百間入道の著作によく登場する心臓発作も結滞と称されてゐたけれど,あれとはタイプが全然違ふ。気を付けて観察してみたが肉体的な疲労とも神経衰弱とも明白な関係は探り切れなかった。まぁ精神病の一種だらう。気になるけど気にしない。

それより問題は胸部レントゲンの方である。自然気胸の兆候は無いが,何だか白い斑点が散ってゐる。はて何ぢゃろかい。これが何と,結核に罹って治った跡ださうだ。僕はいつの間にか結核を患ひいつの間にか治ってゐたらしい。痕跡からは罹患時期を断定できぬ。心当たりは,いっぱいあって判らん。


餓鬼供が妙に早起きになってゐる。親達は当初大いに喜んだが真相はかうだった。TBSが早朝4時半からウルトラマン_シリーズ(現在は新マンとA)を再放映してゐるのだ。

昭和も末期の糞餓鬼にも魅力があると見えて──今気が付いたが奴等が産まれる前の番組ではないか──さんざ夜更しをしてまた此れを観る為に早起きをして,何と小学校で居眠りこいてゐるさうである。罪障ここに極まれり。

ウルトラマンはどうでも良いが,深夜に「俺たちは天使だ!」をやってゐてこっちは毎週楽しみに観てゐる,勿論タイムシフトして。昔面白かったドラマはいま観てもやっぱり面白いですな。
ジングルの時に,投げたブーメランに自ら当たって帽子を飛ばされ沖雅也の頭にわっかができる,これは笑へる。もしかしたら此れが為になかなか放映できなかったのぢゃないか。

「浮浪雲」とか「なにわの源蔵」とか「探偵物語」とかも再放送してくれないかしら。是非ともお願ひしたいのは「宇宙戦艦ヤマト」と「どろろ」である。この2本は完全に保存したい。したいなー。

てな事を言ってゐたらテレビ東京が「機動戦士ガンダム」を始めた。嬉しいな。始末に悪い3時間テイプがあるから詰め込まう。やっぱりガンダムが無ければ「機動警察パトレイバー」も無い。
パトレイバーとJOJOが今んとこ僕の中で双璧である。TVでやってくんないかな。

チョモランマ中継には全くそそられなかったので1秒も観なかった。処女峰でなくて登山に何の意味があらう。そして世界最高峰はまう破瓜を受けてゐる。日テレの無駄遣ひには呆れ返って屁も出なかったが,豈図らんや放映中は大変な反響だったさうである。局の電話はじゃんじゃん鳴りっ放しだったらしい。激励の電話?  ううん,野球やれだって。


つい八重洲の地下街を歩いてゐてついカメラのキムラヤに這入ってしまひついカシオのCP-100を買ってしまった。無期延期だった筈のハンディ_コピイ機である。全く僕は堪へ性が無い,何故だ,幼年期に大事件でもあったのかな。

発売から随分経つのに今頃になって派手な宣伝を打ち始めた富士ゼロックスの写楽(しゃらく。同名の写真雑誌がありましたな。あれは写楽(しゃがく)だった。それでどうもさう発音してしまふ)とは当然ながら比較をしたが,値段と維持費と使ひ方を慮るとこっちになる。

操作は簡単で且つ難しい。絵が掠れたり飛んだりするのは僕が未だ骨を掴んでゐない為で,仕上がりは練習次第だと思ふ。転写幅は10mmから40mmの可変,最大面積は80cm^2である。40mm幅の熱転写リボンをだらだら流しながらコピイするので,気の付けようもなく無駄ができる。恐ろしく燃費が悪い。CP-100にして此れだ,葉書を一発でカヴァできる写楽だとどうなるのか。

さて僕が此れで何をするのかと言ふと,ヴィディオ_カセットのタイトル_シールにワープロ文字を転写するのである。え,使用目的自体が無駄だ?  抛っとけ。


ダビング用VCRを入れまひた。VHSには興味が無いのでβしか無いのでソニーしか無いので選択肢が少ないので全く難有いよ此の野郎。

EDよりもむしろβIs SHBが欲しくて,そしてテイプ_スタビライザとディジタル_スキャンの機能を買ってSL-HF95D(\145,000)に決めた。

何のつもりだか知らないが,8bit揮発メモリを使ったディジタル_トリック_プレイに重点を置いてゐる。VHS側にもきっと似たやうなお遊び機能があるんだらうけれど,実に間抜けだ。TVスキャンでもズームアップでもソラリゼイションでもモザイクでも画面分割でも,要するに静止画以外は情報量が減るんぢゃないか。くだらん。

95Dは3台目のVCRで──初代のサンヨー製βは早送り巻き戻しが利かなくなったので退役,ワインダとして残さうと思ってキャビを開けてはみたが手の施しやうが無く(してしまっ)て結局捨てた。修理に出した所でどうせ部品なんぞありゃしない──メインのEDβ EDV-5000と組んで過酷な任務に就く。

とは言ふものの困った事になった。95Dには期待を寄せ過ぎたやうである。些か見飽きた感のある5000番に比して新鮮なこっちに夢中になるかなと考へてゐたのだが,箱から出した時点で勝負あった。5000番の圧勝である。まづルックスで差を付けチューナの実力・録再の質で引き離し既存ソフトの再生で段違ひの風格を見せ付けた。うーん,95Dは非EDの最新最上級機なんだぜ,僕もこんなにプアだとは思はなかった。

聞けば5000番は赤字生産の戦略商品ださうで,S-VHS機が20何万もした当時に19万を切って登場した事から其れは頷ける。EDフォーマットを実現する技術と部品が非EDをも高めてゐるとしか言ひやうが無い。エイジングでどの程度差を詰められるか,心配でも此れに望みを託す。

今は5000番の上に95Dを載っけてゐる。チューナを重ねるのは良くないのだけれど,ダビング時の接続コードを最短にする為にかうした。同時に目に這入るので否応無く比較してしまふが,95Dはごてごてして品が無い。95Dが全てを曝け出してうひょひょと笑ってゐるのに対して5000番は静かに微笑んでゐる,そんな感じ。

他は英字なのにシーリングパネル内の表示は日本語である。これが95Dの微妙な立場を物語ってゐる。何だか5000番の優秀さを改めて証明するやうな恰好になってゐる。これは95Dにとっても僕にとっても不幸な事だ。

日頃から僕がβの性能上の優位性を耳元で説いてゐるせゐで,甘木が編集機としてβを買ふと言ひ出した。VHSユーザだがβを入れたら実質的にβ党員となる。βプロ3000が欲しいと言ってゐたのを,今更ただのβを買ってどうする,EDでなければ将来性は更に無いと僕が焚き付けた所,EDβプロ9000にランクアップしやがった。9000番は30万円近い。

甘木は高卒なので気の毒なくらゐ薄給である。よく考へろ,未だ間に合ふ,7000番も出るんだぞと慌てて抑へに掛かったが頑として応じない。覚悟を決めたのならまぁ良いか。甘木のVHSでパトレイバーのVCRをコピイして貰はうっと。あ,ひょっとして其れが最初からの目的ではなかったのか。え?  何の事でごさいやせう,あっしにはさっぱり。


電子レンジを計画的に衝動買ひし昨日届いて喜んではみたものの,どう使って良いのかよく判らない。取り敢へずレンジグルメ・ランチョンの類と日冷のナゲットなんぞをフリーザにはふり込んである。

レンジ(シャープ:RE-1024;\45,000)の初仕事は手回しよく凍らせといた御飯をお茶漬けにする事,次いでトースト。食パンを焼いて喰ふのは実に15箇月振りである。いや此のトーストのうまい事と言ったら。じーんと痺れた。

マニュアルを読む限り電子レンジのポテンシャルてえのは大変なものだが,ユーザが僕ではスパコンに四則演算だけをやらせるに等しい。高周波が水の分子を振動させると云ふ話だけれど,成程と思ひはしてもどうも不思議だ。カレーライスは気が触れたやうに熱いのに皿は正気である。

金っ気は厳禁であって,強行するとフォークやスプンから火花が出るらしい。逆落雷を見てみたいのは山山,しかしいきなり壊れるのは厭だようん。
一番嬉しいのはお刺身を食べられる事だな(ただしg単位で加熱時間を指定するので,秤が必要)。

何でもかんでもとにかくフリーズしとけば良いのは難有い,フリーザが満杯になってしまったが。僕の冷蔵庫はサンヨーのSR-108Mで,7年前に(大学に這入った年である。7年前だって)3万円くらゐで買った。75Lの2ドアである。

実は僕の買ったのはS-108Mと云ふ型番のもっと小さな1ボクス冷蔵庫だった。伝票上のPの字が汚くて,運筆上'−'に行く時に髭が生えてしまひRに見える。それで運送の係が間違へたんだな。領収書には確かに「SR-108Mの代金として云云」とあったので,わざわざ申告するに及ばないと思って戴いておいた。結果的に新品機種を半額で手に入れた事になる。悪い奴だな。

誠に強力な冷却能力で,最弱冷にしてあるのに奥の方では肉や卵が凍結してしまふ。エアコンを入れる前は中を空にしてドアを開け放ちフルヴォリウムにして向かふに扇風機を置いて,なかなか結構なクーラとしても機能した。莫迦莫迦しいので余りやらなかったが,意外なほど効いたものだ。

だけどレンジ用に調理された商品ってやっぱりまづい。ダイレクトにガスで焼いて喰ふ肉の方が僕の腕でも何ぼかましだ。

不一

1988年7月吉日

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ローレル指数

うーん,「(標準体重(kg))=((身長(cm))-100)×0.9」は「ブローカ式桂変法」というやつで,ローレル指数は「(体重(kg))/(身長(m))3×10」らしいん。因みに「体格指数(BMI)」が「(体重(kg))/(身長(m))2」。176cm・65kgのおれはそれぞれ68.4kg・119.2・20.9で「標準」(02.1/20記)。

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げらげら笑ってゐると

この節,下品ですみません。

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written by nii. n