東京月記8806

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冠省

賞与の季節である。さうよ。当然ながら遣ひ道は決まってゐる。100万円あれば僕の欲しい物は大体揃ってしまふのだが如何せんそんなにはくれない三四郎,優先順位を付けねばならない。

まづCデッキ・Vデッキ・ハンディ_コピイ機・電話,次いで電子レンジ・皿洗ひ機・自転車・BS,後は,えと,えと,何だい,もう終はりかな。

この夏はとにかく最初のブロックの実現だ。次ブロックの方が大切な気がせいでもないけれど,そこはほれ,生活破綻者の性である。え,性生活の破綻者?  違ふよ,消費生活さあ。
冬のボーナスは多分引越しに費やされると思ふ。この頁の物欲が全て満たされるのは早くとも来年の夏であらう。

第一ブロックの購買だけでも試算では大きく足が出る。質を落とすか(僕はハイエンド_ユーザではなく,品質と価格とがほぼ連動する健全な消費世界の人間である)無理して買ふかの二者択一,と言ふのは嘘で,例に依って妥協点を探る。

VCRで映像を残すと云ふのは意外に楽しいのだった。今のところ残しておきたい番組(映画が主だが)は初心に帰って胸どきどきの一発勝負で録ってゐる。FMエアチェックなら頭半拍が欠けても尻のフェイドアウトが1秒早くても許したもんぢゃあないが,絵がメインになると其の辺は妙に寛大になりますな。
EDβでCF・解説まで録ってダビングすれば完璧版も作れようが高が映画,さうまでするこたぁあんめえよ。

ダビングに因る劣化に目を瞑っても完璧版に仕上げたいのはまた始まったかの演芸番組だ。古典落語の蒐集(活字ないし音声)は飽和状態に近くて新ネタを入手する事は非常に稀,もはや演者違ひ・テイク違ひでしかライブラリが太らない。それは映像で残しても同じ事ではあるけれど,落語には仕種ネタが多いから有効なパッケイジではあるのだ。
でもイメイジが固定される分かなり精良なネタでなければ繰り返しの鑑賞には堪へられぬ。退屈なソフトを作っても仕様が無いんでね。まぁTVオンエアはヴィディオに,ラジオオンエアはカセットに落とすのを原則としたい。

VCRを追加するのは必至だが,Cデッキはどうしようかね。長きに渡ってこき使った銘機TC-K555Esは交換したい。こいつは既に後輩に──言ひ方が難しいね。入社年度が若いし実際歳下でもあるのだけれど(20歳である)自社の社員ではない。かう云ふ関係では何と呼ぶべきか──1万円で売り飛ばす事で合意してゐる。正味3年半の稼動期間は僕のオウディオ_ライフで文句無く最長であり,ヘッドが磨り減ってうっすら筋が見える程だ。騙して売り付けるのには良い潮時であらう。

次期リファレンス候補はナカミチのCR-30(\108,000)である。ソニーのTC-K555ESX(\105,000)の方がハイCPとは思ふが──今現在CP最優先でコンポを選ぶとCD・カセット・チューナ・DAT・アンプ・VCR・BS,何とスピーカに至るまでソニーの独壇場になる。ちょっと前ならケンウッドだったのに──調整の完璧さと初期特性の持続性を信じてこっちを採る。
上級機のCR-40(\138,000)はキャリブレイションがちっと細かいだけであって,これより高性能を望むなら20数万円出してCR-70やDRAGON(まあだ売ってる)辺りを入手しなければ嘘だ。

実の所カセット_テイプはもう増やしたくない。音質に厳しくありたい録音にはPCMシステムがあるし,比較的ラフに録っても良いソース(落語なんかさうだね。噺が明瞭に聞こえれば充分だ,モノーラル音源も多いし)ならβハイファイで良いのではないか。
βハイファイはスペック上カセットを凌駕してをり,同時に録音すればPCM音声と1本のテイプの同一記録面積に併存できる。CPを考慮すると録再システムをヴィディオ_カセットに任せちゃふのが一番ぢゃないかなあ。ヴィディオ_テイプはカセットより安いんだ。それにワウフラや防塵機構・ドロップ_アウト・ハードの価格──部品点数と扱ふ信号帯域を思へばVCRは割安である──どれを採ってもVCR有利と出る。

幾らスペックで勝ってゐようとVCRは走行系の敏捷性に於いてカセットの敵ではない。僕はFMエアチェッカ上がりなので,録音機のレスポンスには病的に高水準を要求する。くだらんDJの喋りとイントロとの間隙を突いて正に間髪を入れず録音スタートするのに,もたもたされてたまるか。シパッと始まんなきゃ始まんないよ。この点は回転ヘッドではどうしてもクリアできない。DATも固定ヘッドのS-DATが出てこそ本物である。現行R-DATには手を出さないこと。

PCMプロセッサに2台のVCRを繋げば相互にディジタル_コピイができる。今はPCMで丸録りした番組から気に入った曲だけをカセットに落としてゐるが,この手法はカセット to カセット時代からのステップアップでもあり名残りでもある。

もし受け側としてVCRが実用になるならコピイ_ノイズやダビング劣化は事実上無くなるのだ。ポウズを解除してテイプ走行が安定するまでに1秒掛からなければ見込みがある。ここん所を確認しとかにゃカセットを捨てるに捨てられん。やってみよ。

僕のVCRは廉価版EDβ(EDV-5000)である。発売前から唾を付けておいた。第1ロットの製品てのは試作品とは言はんが其れに近いものがあるので,配線が汚かったり割と適当なパーツで間に合はせたりしてゐる事が多い。恐らくいま出回ってゐる物の方が優秀だらう。回路も少しくらゐ違ふかもしれない,予告無しの改良と云ふ奴だ。
ちゃうど甘木のカセットアルバム+新曲(仮録)を編集する都合があったので,これを肴に4分程度の録再を繰り返してみる。VCRにとっては酷なテストか。

おや,思ったより使へるねえ。OK,カセットは止めだ。CR-30は中止,しかして直ちにカセットを全廃する訳には行かんから──300巻近いソフトがある,半分以上落語だけど555のヘッド周りをリファインして取っとかう。払ひ下げる予定だった後輩には平蜘蛛となって詫びを入れる。
**ビルの1階にあるソニーの店に498のVCR(SL-F102) があったからあれを2台買って,1台はTVとカップリング,今1台はEDβとのコンビネイションで映像系と音響系を断絶させよう。

所がこれでGOサインを出さうとした矢先に,わぉ何てこったい,オリーブ,メインのEDの調子が悪くなっちまった。人物などの輪郭に向かって左から右にスピード線のやうな黒いノイズが付く。これはトラッキングずれだ。コントロウラで補正し切れず自己録再でもPCMでも正しくトレイスできない。録ったばかりのゴジラとキングギドラが泣いてゐる。やっぱりVCRにカセット並の機動を求めてはいかんか。ったくちょっと苛めただけなのに,だらしねえ。お負けにSL-F102はβハイファイぢゃなかった。あぶねーなあ,もう少しで買っちゃふ所だったぜ。

仕様が無いから最寄りのソニー_サーヴィス_ステイションへずっずずるとEDVを持ち込む(13kgを1時間強抱へて歩いたら両腕がだわだわ,珈琲カップが震へて持てなくなった)。
そもそも発売されてから1年経ってゐないので当然保証期間中である。翌週取りに行くと,何とヘッドを交換してあった。EDVのやうな高級機でもカセット扱ひするとヘッドがいかれてしまふのか。それゃ無いぜ,ベイビ。困ったなあ,また計画練り直しだ。

頭を冷やしてハンディ_コピイ(以下HC)機の方を考へる。HCはワープロの補完器具として導入したい。本機にもオプションでイメイジ_リーダ(41cm2で3万4000円)が用意されてゐるが,汎用性に於いてHCに分があるに決まってゐる。
必須条件は普通紙に転写できる事だ。余り金を出したくないからカシオのCP-100(80cm2で4万5000円)が良いとこだらう。手で写すのは面倒臭いけど,ちょっとメモりたい情報って結構あるよね。本屋や図書館で使ったら怒られるかしら。

555のヘッド交換とブラシュアップには1万6000円掛かった。でも新規購入に比べたら安いもんだ,VCRの方にちったあ予算を回せる。

追加購入のVCRを決めたよん。
折りも折りEDβの新作が出るのだが──EDV-7000(\220,000)。ジョグダイアルは外されてゐるけれどシャトル編集機能とFEヘッドを持つ。良いな良いな──ED通しでダビングする事は無いと見て(それに越した事も無いがね),βIsモウド(4.00cm/sec)での録再とディジタル_スキャン(2時間テイプを4・5分で観られる)を主眼にSL-HF95D(\145,000)を選ぶ。非EDの最新版でEDからのフィードバックもあり,旧型番の値崩れ品よりもCPは高い。

βプロ3000がもうちょっと安くなれば良いんだが(19万を割らない)生産終了の筈だしカタログでも扱ひが小さくなってゐる。新古品の入手は既に難しいだらう。

いよいよソニーもVHSを販売する。対欧州の輸出品は日立製品にソニーブランドを冠した物だが,国内向けは自分で作ったのかな。自社生産に依る国内販売は秋以降だと聞いてゐた,日立製かもしれんなあ。2機種のうち片っぽは何と再生専用機である。これでレンタル_ヴィディオから借りて来てβにダビングしてねと言ふつもりかしら。きりきりと画質・音質を追及するのでなければVHSを買ふのが無難には違ひ無い。あれば便利だなあと云ふ機能もVHSの方が充実してゐる。

VCRの普及率は5割を超えてゐると思ふが,EDやSVHが必要なソフトってあるの? 第一観てゐるTV(モニタ)がせこい。僕がβに執着してゐるのは,βを始めてしまったからだ。βだVHSだと騒いでみても,所詮ディジタルVCRが出るまでのお祭りよ。衛星放送の本放送化と有料化とどっちが早いかって所だな。でもパオパオチャンネルの「ピッカピカ_ウォッシュ」ではEDβが威力を発揮,水平解像度500本の画像がリアルな縦線を,莫迦野郎。

ハンディ_コピイ機を手に入れるつもりで秋葉原をうろうろしてついでに電子レンジを見てゐたら我慢できなくなって買ってしまった。HCは無期延期ね。トースタ機能があって3万円台なら欲しいと思ってゐたのだけれど,それ程の値引きぢゃあない。機種はシャープ(RE-1024, \45,000)である。アース工事はせにゃならん筈だが,電子レンジの売れ具合ひから鑑みて,みんな無視(あるいは無知)してゐるんぢゃないかと思ふ。水道管に接地すりゃ良いか。

電子レンジで僕が何をするかと言ふと,実の所フリーズしといた御飯を戻す事くらゐしか考へてゐない。電子レンジで炊飯する為のコッヘル(ハリオ製)にも興味がある。あとはやっぱりトーストだな,もう2年以上食パンを喰ってゐない。レンジグルメには期待できないとしても何でも凍らせときゃあいつでもレンジで再生できる,結構な器械だ。

美味しんぼでは大変な悪者扱ひだが,何処がいかんと言ふのだ。
グルメ物でどう考へても異常なのは,偏食が認められないこと・登場人物の味覚が完全に一致すること・化学調味料の類が一切否定される事だ。山岡士郎は美食の蘊蓄と技術を駆使して皆に迷惑を掛けてゐる割には社員食堂の定食をうまさうに喰ふ。社員食堂の味とは,=(イクォル)化学調味料の味である,矛盾してゐるではないか。今の世の中,自然食を目指すのは暇と金に飽かせた嫌味であり不可能事である。普通の人に昆布や鰹節の味が解るとは思へない。

美味しんぼ最大の功績は調理・味覚に関する語彙を質的にも量的にも飛躍的に高めた点にあらう。農薬や捕鯨の問題等かなりシビアな告発も繰り返し行なってゐるのだが,こちらは殆ど顧みられないやうだ。みんな余り詳しく知りたくないらしい。

不一

1988年6月吉日

追伸

後藤久美子の下敷きが手に這入ったので進呈する。ゴクミを嫌ひな人は結構ゐるから君が其の口なら誰かに上げても良いけれど,今後ゴクミが薬師丸ひろ子よりも上手に沢口靖子よりも大切に育てられた場合この下敷きにはかなりのプレミアムの付く事が予想される。好事家は1万円でも買ふだらう。しかし「ゴクミのパソコン・日立のパソコン」と云ふコピイは劣悪だな。そもそも人選にしてからが安易に過ぎる。日電が由貴・富士通が南野で日立が後藤では何の工夫も無いではないか。ギャラの高い割にインパクトは却って弱く,可愛い素人を遣ふ方がよっぽどましだ。誰が決めたんだか,全く頭が悪い。

新しいワードパル(Word Pal 220;\189,000. こいつは良いぞ。20万以下なら文句無く最優秀機だ。買ひ替への予定に入れた)のイメイジ_キャラはかくちかこで,僕は知らない。こっちの方が人気はあるが,僕はゴクミのが良いな。

前回言ひ訳しといた情報処理試験,何だか知らないが受かったらしい。新聞発表を見た人が教へてくれた。受験番号は照合してゐないが,****などと云ふ名前がふたりゐるとは思へない。恐らく僕であらう(違ってたら笑ふな)。1回目には落ちておいて,難しい時に合格する。これが天才の証左である。褒賞金の1万円をくれとわめいたら,それは3箇月も先の事ださうだ。1万円は会社がくれるが認定証は通産省が寄越す。発行に其のくらゐ掛かるらしいんだな。

僕が取ったのは二種のぺえぺえであってランクとしては最低だけれど,以前書いたやうな理由で取得率は低い。未だ持ってなかったのと僕は言はれたが,それは僕が持ってゐてもゐなくても不思議でない程度に優秀で教条家で理論派だからだ。

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くれない三四郎

吉田竜男『紅三四郎』。カラー柔道着ですな。

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まあだ売ってる

さすがにもう売ってない。webではCDプレイヤ/DACに「DRAGON」が冠してあるが[リンク],元元は20何万円の機能満載超絶技巧徹底補正の超弩級カセット_デッキの名前だったのだ。(02.2/3記)

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パオパオチャンネル

テレ朝だったと思うが月-金夕方帯でやっていたこども番組,と思わせて幼児の母親に変な恰好やゲイムをさせて遊ぶ俗悪番組。売れる前の大竹まこと・ウッチャンナンチャンらが司会進行していた。『ピッカピカ_ウォッシュ』は,「みんなの歌」をPopにした「ピッカピカ音楽館」という楽曲コーナでのヒット曲でロリコン垂涎,もう放映できない。(02.2/3記)

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written by nii. n